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精霊使いと賢者の遺産  作者: 夜空琉星
第2章 雷狼と風の忍び
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第2章 3話 昔馴染み

 宙翔の目の前には先ほどまで戦っていた巨大なイノシシ型の精霊が倒れており、そして炎姫を「(あね)さん」と呼びこちらにニカッと笑いかける精霊がいた。


 その精霊は髪色が黄色で、癖っ毛なその髪はだいたい肩から鎖骨までくらいの長さで襟足の部分がより長くなっている。

 服装も黄色を基調とした軽装で、彼女のニカッとした笑みも相まって活発で元気な印象を与える。

 そして何より目を引くのが、炎姫とは形が違うが彼女にもついている三角耳と尻尾だ。

 

 「知り合いなの?」

 

 「うむ。こやつは雷亜(らいあ)(わらわ)の昔馴染みの雷属性の狼の精霊じゃ」

 

 「そうだったのか。俺は空閑宙翔(くがひろと)。さっきは危ないところを助けてくれてありがとう」

 

 宙翔が歩み寄り握手しようと右手を差し出すと、雷亜がこちらに向かって走り出した。

 

 「姐さーん!」

 

 そして右手を差し出した宙翔を素通りして、炎姫に抱きついた。

 

 「どうしたのじゃ!?」

 

 炎姫は突然抱きつかれたことに驚き、宙翔はあいさつをスルーされたことに驚きキョトンとしてしまう。

 

 「急に姐さんの気配が消えたから、あたし心配だったんですよ。そこらじゅうを駆けずり回って、ようやく姐さんの気配を見つけたらと思ったら」

 

 雷亜は尻尾を高く上げぶんぶんと振りながら早口でまくし立てると、炎姫への抱擁を解き宙翔に視線を向ける。というか睨みつけている。

 

 「どうかした?」

 

 特に睨まれるようなことをした覚えのない宙翔は、小首をかしげて雷亜に問う。

 すると雷亜は、ビシッと宙翔を指さした。

 

 「姐さん、どうしてまた人間と一緒にいるんですか? しかも契約までして!」

 

 「妾は主様に救われたのじゃ。じゃからこの魂は主様と共にあると決めたのじゃ」

 

 さらっと当然のように言う炎姫に、雷亜は呆れと心配が混ざったような表情を見せた。

 

 「共にあると決めたって。姐さんあの時のこともう忘れたんですか?」

 

 「!?」

 

 雷亜の言葉に炎姫の顔が驚きに歪む。

 

 「あの時の悲しみに暮れた姐さんの顔、あたし今でも忘れられないですよ」

 

 「雷亜よさぬか」

 

 雷亜の影になって宙翔からは炎姫の表情をうかがい知れないが、今までに聞いたことのない低い声で炎姫は雷亜を制する。

 

 「あのとき嫌というほど実感したじゃないですか。あたしたちと人間では生きている時間が違うって。きっとその人間とだって」

 

 しかし炎姫の声が聞こえないのか、それともよほど心配だったのか雷亜の言葉は止まらない。

 

 「雷亜!!」

 

 声を荒げて名前を呼ばれ、雷亜は肩をビクッと震わせ口をつぐむ。

 

 「妾はよさぬかと言っておるのじゃ」

 

 「すみません」

 

 雷亜の尻尾は垂れ下がり、シュンとした表情になって炎姫に謝罪した。

 宙翔には炎姫の過去はわからないが、そのことについて触れてはならないということだけはわかった。

 

 「わかればよいのじゃ」

 

 そして雷亜に謝られ、ようやく炎姫の声音にいつもの丸みが戻った。


 「それで、ただ妾を探すためだけに森の中を走り回っておったわけじゃないじゃろ」


 機嫌が直った炎姫に問われ、雷亜は幾分か調子を取り戻して答え始める。


 「はい。それとは別に気になることがあって調べていたんです。その時に偶然姐さんの気配を感じて駆けつけたってわけです」


 「調べていたこととはなんじゃ?」


 「姐さん、《魔獣(まじゅう)》と戦って何か気づきませんでしたか?」


 「魔獣?」


 聞きなれない単語に宙翔は疑問符を浮かべた。先ほどまで戦っていた精霊とは違うのだろうか。


 「あのように理性を失い狂暴化した精霊を《魔獣》と呼ぶのじゃよ」


 宙翔の問いに炎姫は簡潔に答えた。


 「言われてみれば一度にあんなにたくさんの魔獣が現れること、それにあそこまで理性を失って攻撃をしてくるのは不自然だと思ったのう」


 宙翔は今までに魔獣を見たことがなかったのだが、確かにあの凶暴性は異常だと思った。


 「そうなんです。ここ数日のうちに魔獣の出現数が増えて、凶暴性が増しているんですよ。森の下位精霊たちにも被害が出ていて、それでその原因を調べていたってわけです」


 「そうじゃったのか。それならその魔獣に追われておった、訳ありそうな少年たちが何やら情報を持っておるやもしれぬな」


 炎姫の言葉を受けて宙翔たちの視線が後方に向けられる。

 よく見るとシャルロットが二人を介抱しているようだった。


 「とりあえず、詳しい話はシャルたちのところに戻ってからにしない?」


 いつまでもここで立ち話をしているわけにもいかないので宙翔が提案すると、精霊たちが頷いてくれたので宙翔たちはシャルロットたちの方へと歩き出した。


***



 「宙翔さん、炎姫様お怪我はありませんか?」


 宙翔たちが戻ってくると、シャルロットが二人を気遣ってくれる。


 「うん、俺たちは大丈夫。シャルたちは?」


 「私も大丈夫です。こちらの二人は応急処置ですが、手当てをしました。ですが彼女の方はすぐにでもちゃんとしたところで怪我の具合を診てもらった方がいいかと」


 二人ともシャルロットの手当てによって包帯を巻かれ、止血が施されていた。


 二人の様子を見ると少女の方は気を失っており、少年は彼女を庇うように寄り添っていた。


 「すぐ近くに俺たちの里があります。そこでならちゃんとした治療をしてもらえますから」


 「それなら急いでその里に行った方がよさそうだね」

 

 「あの、すみません。そちらの方は?」

 

 シャルロットは、炎姫の後ろに視線を移すと遠慮がちに尋ねた。

 

 「こやつは雷亜といって妾の昔馴染みの精霊じゃ」


 「はじめまして、私はシャルロット・シールーダと申します」


 「あたしは雷亜だ」


 宙翔の時のように挨拶をスルーすることはなかったが、それでも雷亜の反応はかなり素っ気ないものだった。


 雷亜にそんな反応をされつつも、シャルロットは慈愛に満ちた笑みを返す。


 「雷亜様ですか。よろしくお願いしますね」


 雷亜の素っ気ない態度にもシャルロットが慈愛に満ちた優しい笑みで答えるものだから、雷亜は一瞬驚いたような表情を見せた。


 「ふ、ふん」


 そして雷亜は頬を赤らめそっぽを向いてしまう。

 シャルロットの笑みは、たとえ人間に対して良いイメージを持っていないだろう雷亜でも、その毒気を抜いてしまうようだった。


 「もしよければ君たちの名前も聞いていいかな?」


 宙翔は少年たちのもとに歩み寄り膝を折り目線を合わせると、優しく問いかける。


 「俺は風間半蔵(かざまはんぞう)。こっちが風倉一花(かざくらいちか)だ」


 名前を教えてくれた半蔵に対して、雷亜は宙翔とは対照的にやや高圧的に問う。


 「おい、人間。あのでかい魔獣はどこにいたんだ?」


 「この森の奥でですけど、どうしてそんなことを?」


 「雷亜は魔獣について調べておったのじゃ」


 「とりあえず、風倉さんの怪我の具合も心配だし、雷亜の調べていた魔獣とか風間くんたちが追われていた理由とか、話は二人の里に向かいながらってことにしよう」


 宙翔は魔獣との戦闘に入る前の一瞬しか一花の怪我の状態を見ていないが、それでも出血の酷さは見てとれた。


 なので、すぐにでも半蔵の言うちゃんとした治療をしてもらえるところに連れて行ってあげたいと思ったのだ。


 「ちなみに二人の里ってなんていうところなの?」


 宙翔は半蔵の姓を聞いたときにもしやと思ったが、一応聞いておくことにした。


 「俺たちの里は、風間(かざま)(さと)っていうところです」


 そして宙翔の予想は的中し、そこは宙翔たちが《賢者の遺産》を求めて目指していた場所だった。


***


 風間の里に向かう前に半蔵が他の班員と合流したいということだったので、まずはその合流地点に向かうことにした。

 幸いにもその合流地点は風間の里へ向かう道中にあるようだった。


 「空閑さん、さっきはすみませんでした。魔獣を二人のところまで引き連れて行ってしまって」


 合流地点に向かう途中、一花を背負いながら半蔵は宙翔に謝罪した。

 どうやら自分のせいで無関係な宙翔たちを巻き込んでしまったことをひどく後悔しているようだった。


 「別に気にしてないから大丈夫だよ。それで、風間くんたちがどうして魔獣に追われていたのか聞いてもいいかな?」


 宙翔に問われた半蔵はしばらく考え込むが、意を決したような表情になり話し始めた。


 「本当は任務の内容は口外したらいけないんですが、こんな状況だし話します」


 宙翔は半蔵の思いを感じ取ると、真剣な表情でうなずき先を促す。


 「三日ほど前から以前と比べて凶暴性の増した魔獣が増え、近隣の町や村で被害が激増しました。魔獣の撃退と凶暴性と数が増えた原因を探るため森の中を探索していたとき、さっきの魔獣の集団に遭遇したんです。そしてあのでかい魔獣との交戦中に一花が怪我をして、他の班員たちともはぐれてしまって」


 半蔵の話を聞いてシャルロットは息を呑んだ。


 「そんなことが・・・・・・」


 「はぐれた時のために事前に決めていた合流地点に向かおうとしたところに、空閑さんたちに出会(でくわ)したというわけです」


 「大変でしたね」


 シャルロットの労わるような表情と言葉に、半蔵は危うく緊張の糸が切れそうになるが何とかこらえる。

 仲間と合流し里に帰るまでは気を緩めてはならないと思ったからだ。


 「それでお前たちは魔獣の異変についてどれくらい掴めてるんだ?」


 雷亜に問われ半蔵は気持ちを切り替える。


 「俺たちは新たな《霊脈泉(れいみゃくせん)》ができたことが原因じゃないかって考えてます」


 新しく登場した聞きなれない言葉に、宙翔は頭に疑問符を浮かべた。

 

 「霊脈泉?」


 「霊脈泉とは《霊脈(れいみゃく)》から霊力が漏れ出て溜まっている場所のことです」


 「?」


 半蔵に説明されるが、宙翔にはいまいちピンときていないようだった。


 「主様にはもっと根本から説明する必要があるのう」


 「ごめん、お願い」


 宙翔は内心不甲斐ないと思いつつ、炎姫の提案に素直にうなずく。

 炎姫はそんな宙翔を責めるようなことはなく、優しい先生のような眼差しを向ける。


 「そもそも霊脈とは、地属性の神格精霊(しんかくせいれい)(さま)を起点に大地に血管のように張り巡らされておる霊力の通り道のことじゃ。この霊脈に流れておる膨大で濃密な霊力の恩恵で大地が肥えて植物がよく育つ。それらを食べる草食の動物も、その動物を食べる肉食動物もよく育つ」


 「つまり霊脈、元を正せば地属性の神格精霊のおかげで生態系が保たれてるってわけか。それでその霊脈と魔獣にはどんな関係が?」


 宙翔がきちんと理解できているのがうれしいのか、笑顔でうなずきながら炎姫は説明を続ける。


 「地殻変動、人間による採掘作業など、様々な原因によって地中にある霊脈に流れる霊力が地表に漏れ出てしまった場所がこの世界にはいくつかあって、そんな霊脈から霊力が漏れ出し溜まっている場所を霊脈泉と言うのじゃ。霊脈から漏れ出している霊力はその膨大さと濃密さゆえ、それを浴びた動植物や精霊に多大な影響を与えるのじゃ。植物は万能薬である《霊薬草(れいやくそう)》に鉱石は《霊応石(れいおうせき)》へと変化させ、動物は精霊へと昇華させる。そして」


 「精霊は魔獣になると」


 「さすがは妾の主様。理解が早くて助かるのう」


 「ありがとう」


 炎姫は宙翔の腕に自分の腕を絡め、とびっきりの笑顔で宙翔を褒める。


 「姐さん・・・・・・」


 デレデレな炎姫とそれを素直に受け止める宙翔を見て、雷亜はジト目でその光景を眺める。そして複雑そうな表情を見せたが、炎姫があまりにもゆるんだ表情を見せるものだから雷亜の不機嫌さが増しているようだった。


 「一応捕捉しとくけど、ただ霊脈泉の霊力を浴びただけでは魔獣にならないからな。自身の霊力を増大させるために霊脈泉で霊力を浴びて吸収するのはむしろ有効な手段だ。厄介なのは自身の許容量を超える霊力を浴びると我を失い暴走して魔獣化してしまうことだ」


 炎姫の説明を雷亜が若干イラついた様子で捕捉する。

 雷亜が不機嫌になりつつもきちんと補足してくれるのを見て、根はやさしい精霊なのだろうと宙翔は感じていた。


 「それで新たな霊脈泉っていうのは見つかったのか?」


 「いや、それはまだ」


 雷亜の問いに半蔵はかぶりを振って答える。


 「チッ、そうか」


 露骨にがっかりしたような表情を見せる雷亜に、半蔵は慌てて言葉をつぎたす。


 「でも魔獣の被害状況からある程度候補が絞られてます。そして俺たちがあの巨大な魔獣に襲われることを考えると、おそらくあの森のどこかに霊脈泉があるんだと」


 「そうか」


 今度は欲しい情報得られたのか、満足そうに雷亜はうなずいた。


 「姐さん、あたしはここで別れてもう少し調べてみます」


 「うむ、あれほどの数と凶暴性を持つ魔獣が現れたことを考えると、新しい霊脈泉ができておったら相当な規模のもののはずじゃ。見つけたら近づかず、すぐに妾に報告するのじゃぞ」


 「わかりました」


 「無理はしないように気をつけるのじゃよ」


 「はい!」


 雷亜は炎姫の言葉がよほどうれしかったのか、先ほどより明るくワントーン高い声で返事をすると、ニカッと笑って見せる。


 宙翔は雷亜が炎姫の言葉に元気になったりシュンとしたり、自分と接するときには不機嫌さを見せたりとコロコロと表情を変え尻尾を振る姿を見て、犬のようで可愛らしい精霊だなと思った。


 「おい、人間」


 そんなことを考えている宙翔に、雷亜は鋭い視線を向けてビシッと指を突き付けた。


 「俺?」


 雷亜は宙翔のことも半蔵のことも「人間」と呼ぶためどちらのことを言っているのかわからず、宙翔は自分のことを指さしながら首を傾げる。


 「姐さんに変な事したら承知しないからな!」


 そう言い切ると、雷亜の身体から霊力が溢れ出す。

 雷亜の全身を包む霊力がバチバチっと黄色に瞬き、その()霊力が(いかずち)となり全身に稲妻が走る。


 そして雷を纏った雷亜は黄色の閃光となり、あっという間に森の奥へと走り去っていった。


 「主様すまんの」


 申し訳なさそうな表情を見せる炎姫に宙翔は首を横に振る。


 「いや、気にしてないよ。それより炎姫は好かれてるんだね」


 宙翔の言葉に炎姫は優しく微笑む。


 「妾にはもったいないくらい良くできた友じゃよ」


 はにかみながら照れたように言う炎姫に、宙翔は安心したような気持になる。


 炎姫と出会ったころは笑みを見せてもどこか寂しさをはらんでいたが、今は純粋な嬉しさや楽しさといった無邪気な表情を見せてくれる機会が増えてくれて、宙翔はとてもうれしいのだ。


 「みなさん、さっき話した合流地点に着きました」


 そうこうしているうちに一行は最初の目的地に到着した。

 そこは特に目印になるようなものがない、ただの森の中というのが宙翔の印象だった。

 宙翔たちは周囲を見回し、半蔵の仲間がいないか探す。


 「半蔵さんのお仲間は見当たりませんね」


 シャルロットの言う通り、見渡す限り木々ばかりで人の気配は感じられなかった。


 それでも周りに視線を巡らせていると、木漏れ日の中にキラリと光るものがあった。


 「風間くん、あれ」


 宙翔が指さしたところにみんなで向かうと、木に何か突き刺さっていた。

 近づいていくとそれは小刀のような見た目で、柄のところに何か紙が結ばれていた。

 半蔵はその小刀のようなものを引き抜くと、紙をはずし広げた。


 半蔵が言うにはその小刀のようなものは半蔵たちが使う《くない》型の擬似霊具(ぎじれいぐ)らしかった。


 「仲間からの伝言のようですね」


 半蔵は広げた紙に視線を落とすと、書かれている文字を目で追う。

 宙翔が覗き込んで見ると、そこには意味のあるとは思えない文字が羅列されていた。


 きっと半蔵たちが使っている暗号文か何かなのだろうと思うのだが、宙翔には書かれている内容はさっぱりわからなかった。

 もっともここで宙翔に理解されるようなら暗号文の意味はないのだが。


 「どうやらあっちにも負傷者がいるみたいで、先に里に向かったようですね。負傷した仲間も命に別条がないと書かれています」


 宙翔たちはその人たちに会ったことは無いが、この場所に姿がないことで心配していたので半蔵の話を聞いて胸を撫で下ろした。


 「そっか。風倉さんの容体も心配だし、俺たちも早く風間くんたちの里に向かおう」


 「はい」


 半蔵は紙と、くない型の疑似霊具を懐にしまうと頷いた。

 そして宙翔たちは半蔵を先頭に風間の里へと向かった。

みなさん、お久しぶりです。

約1ヶ月ぶりの更新となります。


私ごとですが仕事の関係で執筆時間が取れず、投稿間隔に空きができてみなさんにはお待たせする形になってしまいすみません。


現在少しずつですが、9月から毎週更新に戻せるよう準備を進めておりますので、もう少しお待ちいただけたら嬉しいです。


次回は9月3日更新予定ですので、よろしくお願いします。

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