ビバリーヒルズ
「おい、なんと贅沢な造りなんだ・・」建築家の相原は専門分野なので建物のすみずみまで確認して言った。
「すべてが贅沢づくしか!!」と同乗の前島も感慨深げに窓からの景色を眺める。
有名な医者であった前島は日本でもかなりの贅沢を経験していたがはるかに桁が違うようだ。
「なんやわけがわからんけども、とにかくはやつらを信じて一時休憩や、考えるんはその後にしょうや」
「そういうことやな」
5台のリムジンが直径50mほどの大きなロータリーに停車した。
このロータリーを中心として周りに20軒ほどの大豪邸が放射状に配置されていた。
各人に一軒づつの大豪邸が振り当てられ、門の前にはすらっと足の伸びた秘書の女性が歓迎の意を表するためにそれぞれ迎えに出ていた。
9人全員がリムジンを降りて同乗していた衛兵の説明を受ける。
「みなさん、ここが今からみなさんの家になります。これからはみなさんは行動は自由です」
「本当に行動は自由なのか?」
「無罪放免か?」
「はい、先ほども申したように最恵国待遇ですよ。しかし今晩の宮殿での歓迎パーティーには必ず来てください。おっと本間さん、違うパーティーと間違わないように、あなたは激しいパーティーがお好きなようですから。それではまた夕刻にお会いしましょう」
衛兵が言うようにめいめいは用意された家に車で送られ、出迎えに来ていた美女を伴って部屋に入っていった。
ヒペリオンのビバリーヒルズとはよくいったもので、すべての家の庭はきれいに芝生が敷き詰められスプリンクラーが水を撒いている。
10000坪はゆうにある広大な敷地の中にはプールも完備された白亜の大豪邸であった。
それぞれの車庫からはベンツやジャガー、ポルシェなどの先端部が垣間見える。
時間は午後の1時くらいであろうか、遠くには先程の国王との会見が行われた宮殿の高い塔が見える。
南国の風が心地よく玄関を入っていく本間の顔に当たっていた。
「あれだけ暴れ回って、しかも30名ほどの若い兵士を死なせたオレをこんな大豪邸に住まわせるのか・・・」本間はまだ信じられないような顔で芝生をまたいだ。
「ミスター本間、わたしがこれから24時間のお世話をさせていただきます!」
美形の足がすらっとしたチャーミングな女性が流暢な日本語でそういった。
「ほう、日本語が達者なんやな。名前を聞いとこか?」
「イオといいます、よろしく」
「全員にアンタみたいな日本語の堪能な美形の女の子がついとるんか?」
「ハイそう聞いております」
「そうか、ほなあんじょうよろしく頼むな!それはそうと、外に電話をかけたいんや、他のメンバーの番号はわかるか?」
「今到着された9名の方はすべて専用回線で繋がりますので、お名前の下のボタンを押して下さい。ただ会話の内容は全てチェックされていますのであまり秘密計画はなさらないようにとの事です」
「チェッ、やけに念がいったことやなあ、まあ正直に言うところが素直でよろしい」
「それより先にお風呂はいかがですか?かなり汗で汚れているようですから」
「おう、くそ暑い営倉の中で5日間シャワーも浴びずやったからな、一汗流そうか」
中庭の熱帯植物の中にある広いジャグジー・バスに浸かりながら、本間は大阪からここへ来た道中をゆっくり回想していた。
まるですべてが夢のようであった。
見上げる青空には真っ白なの新月が見えてその周りを回るように3羽のかもめがゆっくりと孤を描いて飛んでいた。
いつもなら今頃は三角公園で連中と将棋を指している時間である。
「ご一緒、してもよろしいですか?」
とイオが一糸まとわぬ姿でワイングラスを2つ持ってジャグジーに入ってきた。
ひきしまった小柄なボデーには不釣り合いなほどの大きな健康的乳房が目の前にある。
「ああ、かまへん好きにしてくれ」
本間はあまり女性には興味がなかったが、彼女のすばらしいボディーは女嫌いの彼をしても気持ちをそそるには十分であった。
「横に座ってよろしいかしら?」
返事を待たずにイオは本間の厚い胸にもたれかかりワイングラスをわたす。
本間はそんなことはおかまいなしで真っ青な青空をぼんやりながめながら、7年前の南イエメンの戦闘を思い出していた。
「ああ、あの時のお月さんとおんなじやなあ......」
南イエメンで死んでいった部下たちの顔を、ひとりひとり回想しながら、
「みんな、オレの人生は一体なんだったんだろう?あの時みんなと一緒に、地雷でふっとんでいたほうがどれだけ苦しまずに済んだろう。スマン、オレだけ生き残って・・・」と5年前の激しかった戦闘を回想する。
いきなり爆発した思いで、本間は腕の中のイオを抱いて隣のベッドルームに連れて行った。
さすがに女ぎらいの本間もイオの魅力が引き金となって一匹の雄と化したのち、ゆっくりと気をやった。
あまりの激しさにイオはとっくに本間にもたれるようにして失神していた。
横にあった葉巻に火をつけた本間はしばらくそのままの状態でまどろんだ後、ある作戦が閃いた。
「おやすみな、べっぴんさん」とイオの上にガウンを羽織ってやった後、本間は応接ルームに戻り棚から高級なバーボンを取り出してグラスに注いだ。
バーボンを一気に飲み干して電話機の横に座って十兵衛に連絡をとる準備にかかった。
「十兵衛はどこやったかな?たしか首都の『ホテル・ウラノスに宿泊』とおっさんは言うとったな」
盗聴されてるとわかっている電話をホテル・ウラノスにかけて十兵衛の部屋につないでもらった。
以外にも十兵衛にはあっさり繋がり逆に拍子抜けしたくらいである。
「あ、テリー!生きていたんやな!みんな心配していたんやで」
「ジュウ、壁や。ホタル」
壁とは「壁に耳あり」のことで盗聴されてるという意味、ホタルは、符丁で会話をしようという傭兵時代のサインである。
その後1時間ほど、本間は十兵衛と新たな作戦について符丁で綿密な打ち合せをした時、ガウンをまとったイオが体をゆっくり近付いてきて言った。
「ミスターホンマ、誰と相談してたの?さっそく謀反の計画はダメよ」
「ああ、ウラノスに行った200名の安否の確認や、心配せんでもええ!」
「そんなことより晩餐会までまだ時間はたっぷりあるあるから第2ラウンドにしましょう」甘えるように体を寄せて囁くイオ。
「ああ、元気な姉ちゃんやな!全く!」そういうと本間はもう一度イオを抱えてベッドルームに入っていった。
「第2ラウンドの後は7時から宮殿でパーティーがあるから2人で一緒に行きましょうね」