大好きなお兄ちゃんへ(3)
友達のカミングアウトを聞いて書きました。
悩んでいる方には不愉快かもしれませんが、あらかじめご了承ください。
あの後すぐにお兄ちゃんが救急車を呼び、お母さんは点滴を打っただけで家に帰ってきた。
「優輝、すぐ居間に来なさい。」
「…はい。」
お父さんがお兄ちゃんと居間に入っていく。
私は隣の部屋でこっそりと、聞き耳を立てていた。
「優輝…もう一度考え直してみてくれないか?
お父さんもお母さんもお前のために東京の大学だって行かせてやっただろう。」
「それは…すごく感謝してるよ」
「なら…」
「ごめん、もう男として生きるのに耐えられない。
あかりが生まれてからは特にそう思った。
性転換した人と出会うほど、自分も本当の性になりたいと思ったんだ。」
ショックだった。
そんな昔から、悩み続けていたなんて。
「オカマの仲間入りしたいだなんて…」
「違うよお父さん。それは性を誇張してるだけで、俺がなりたいのはあかりやお母さんみたいな、普通の女性なんだ。」
お兄ちゃんが…私に??
「お前がやろうとしていることは無責任なんじゃないか?
お父さんが突然お父さんを辞めたいって言ったら困るだろう。」
「…お父さんは自分がなりたくて父親になったんでしょう?
僕は男になりたくなんかなかった。女に生まれたかった!」
「お前にはこの家を継ぐ責任がある!!」
「ただのサラリーマン家庭の何を継ぐの?
俺は何の責任があってこれからも男として生きていかないといけないの?!」
「この野郎っ!!」
お兄ちゃんっ…!!
そう思った時。
「もうやめてあげて。」
「!! お母さん…」
弱々しくも、意志のあるお母さんの声が入ってきた。
「あなた、乱暴はやめて。
優輝、救急車を呼んでくれてありがとう。」
「まだ寝てないと…」
「大丈夫よ。
お母さんね、優輝が生まれてきた時のこと、病院で思い出してたの。
たとえ男の子でも女の子でも、元気に生まれてくれればいいって。
お母さんが貧乏で進学できなかったから、子供の人生の可能性は狭めたくないって。」
「お前それとこれとは…」
「同じよ。自分のなりたいものになればいい。
優輝には長男ていう期待と、お兄ちゃんっていう役を背負わせてしまったから。」
「お母さん…」
「女の子に産んであげられなくてごめんね。」
そう言って、お母さんは泣いていた。
______________________数年後_____________________
窓から東京郊外の景色が見える。
私は今大学で脳科学について研究している。
男性が多い中での人間関係や研究結果に悩むこともあるけど、なかなか充実してるといえるだろう。
だってやりたいことができているし、それに…
「あかりー!!」
「あ、お姉ちゃん!遅い!」
私には何でも話せる人生の先輩であり、
男性の心も女性の心もわかる兄姉がいるから。