旅立ち
「お父さん…お母さん…」
女性がつぶやく。
私は幸せ者だった。
結婚が早かったものの子宝に恵まれず、
ようやく両親の元へ生まれた女の子が私。
兄弟を作ろうと頑張ってくれたみたいだけど、
結局それが叶わなかった彼らは
私に最大限の愛を与えてくれた。
本当に幸せな人生だったと思う。
それが壊れたのはあの春。
そして壊してしまったのは、きっと私。
2人の期待を背負うのは全く苦ではなかった。
習い事もなんだかんだ楽しくできていたし、
希望通りの進学もできた。
でも上手くいってたのはそこまで。
私は就職浪人をした。
遊んでいたわけじゃない。
面接だって100社近く受けた。
それでもダメだった。
悪い事は重なるもので、
父親の不倫が発覚、なかなかできなかったはずの子供が、不倫相手との間にでき父になった。
母親はショックで抜け殻状態、クモの巣が張る部屋でぼんやりと独り言を言う人形になった。
私はとりあえずバイトを続けていたけど、
母親の世話と、世間からの目と、長引く就職活動でいっぱいいっぱいだった。
眼下で何台もの車が行き交う。
ビル風が吹き上がる屋上。
私は今、ここから飛び立つ。
今まではずっと向かい風だったくせに、
今は追い風が吹いている。
「今までごめん」
1歩踏み出そう。
「何やってんだ!!!」
突然腕を引っ張られ、屋上へ引き戻される。
その力強さに、こんな時なのに、暖かい。
「生きろ!!生きるんだよ!!!!」
「…ありがとう」
大きな拍手が湧き上がる。
「以上新婦のお手紙でした。
続いては親戚一同を代表いたしまして、
新郎のお父様からご挨拶です。」
「えー本日はお越しいただき誠にありがとうございます。
私事ですが定年後暇潰しに警備員をやってまして、ある日勤務先のビルの屋上から飛び降りようとした美女をたまたま助けたんですが…、それが新婦のめいちゃんと言うことなんです。そっからめいちゃんがうちに土下座し…いやいやお礼に来てくれて、一目惚れしたのがうちのボウズでございます。えぇ、はい。」
私は本当に幸せ者だ。
これからも、幸せな人生にしてみせる。
以前の私が壊れたのはあの瞬間。
そして新しい幸せを作るのは私たち。
今までうつとか三途の川とか暗い話ばかりだったので、ハッピーエンドを書いてみました。
分かりにくいかとは思いますが、
自殺しようとした女性が結婚式で両親あての手紙を読みながら過去を回想しているお話です。
私も早く結婚したーい笑