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家族のお話  作者: めいこ
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最期の審判

家族をテーマに書きたいと思います。


大きく穏やかな川に架かる橋の上で、

1組の男女が話をしています。


どうやら女性は橋を渡るのをためらっている様子。


家族はどのような審判を下したのか。

一組の男女が、橋の上で話をしている。


「さて、まずお名前からお伺いしましょう。」

「佐藤トキヨと申します。」


「佐藤さんですね、失礼ですがお歳は幾つですか?」

「1930年、下町生まれ下町育ちよ。」


「それはそれは、さぞ多くの事を見てこられたでしょう。」

「そうよ、私は戦争も経験したの。」


女性が橋の下を流れる川を見下ろして話し始める。


「あの夏の事は今でも覚えているわ。


疎開先からめちゃくちゃになった故郷へ帰ってきた。

本当に苦しい生活だった。

それでも当時15歳だった私は希望を持っていた。

戦地から父が帰還するという手紙もきていたし、

貧しくても家族で力を合わせれば生きていけると思っていたの。



でも甘い考えだった。



戦地から帰った父は、もう人間の姿をしていなかった。

母は私と幼い弟妹を養う為に昼も夜も働いていた。

私は弟たちの世話はもちろん、父の世話もしなければならなかった。


学校にも行かずにね。


弟たちが大きくなって父の世話をしてくれるようになると、

私も働くようになったわ。

自分が行けなかった分、弟たちには学校へ行って勉強してほしい、その一心だった。


周りの友達はお嫁に行って家庭を作っていた。

女は早くお嫁に行って母となり、一生を終えるような時代だったの。


私にはそれができなかった。


縁談を進めてくれるような親戚や知り合いは、

みんな空襲や戦争で亡くなってしまった。

生きるのに必死だから、恋愛結婚なんて考える暇もなかった。


もし当時の私にお見合い話が来ていても、

父の姿やうちの経済状況を知ればお断りされたでしょう。


その後父が亡くなり、母は少し楽になった。

弟は縁あって多摩の農家に婿養子に行き、

妹も勤め先の工場で出会った男性の家に嫁いだわ。


2人が幸せになってくれて、私も幸せだった。


私?私は母の世話をしなければならなかったもの。

長女だし、嫁に行くには遅すぎた。


母のお葬式には兄弟とその家族全員がそろってね。

お母さんも安らかに休めるはずよ。




ねぇ、そういえば私はどうなったの?」



「……大変申し上げにくいのですが、貴女のお葬式はありませんでした。」

「なかった……?弟や妹がいたでしょう?」

「彼らがしないことを選んだのですよ。」

「そんなはずない!!!!」


女性が動揺して大声を出す。

男性は動じない。


「貴女は自宅で持病の発作を起こした後、

自力で救急車を呼びました。


そこで本来なら延命措置を受けることができました。



しかしそれを、ご弟妹が断ったのです。」



「そんな…どうして…。」



「彼らには家族があるからです。


自分の老後の為の貯金を、姉の介護や葬式には使えない。

世話をしてくれる子供に、これ以上負担をかけられない。

可愛い孫にランドセルを買ってあげたい。

理由は様々ですね。」


「でも!!私はみんなの為に生きたのよ!!」




「それも過去の話。



もう貴女は亡くなっています。」



女性が泣き崩れる。

だが涙が頬を伝う度、老婆の姿は若返る。


「家族……。私の家族は……。」


「あちらです。」



「!!!」




橋の先で軍服をきた男性と、色の白い女性が微笑んでいる。


「父ちゃん…!母ちゃん…!」



すっかり少女の姿に戻った彼女が橋を駆けていく。

上手く成仏してくれて良かった。



極楽へ渡るか、認められずに彷徨うか。

最期の審判は家族にかかっている。

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