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未来へ借金

 ネットで借金をさせてくれる会社を探していて、奇妙なサイトを見つけた。その消費者金融の会社は、こんな謳い文句を掲げていたのだ。

 

 『あなた自身は借金を返す必要はありません。わたくし共は、あなたの未来から借金を返してもらいます。

 ですから、お気軽にご相談ください』

 

 まぁ、正直、かなり胡散臭そうだと思ったし、それ以前に頭の上にクッションマークが浮かびもした。

 “よく分からない。‘未来から借金を返してもらう’ってのはどういう意味だ? 借金を未来に返すってのは当り前じゃないか”

 それでも俺は物は試しだと思って問い合わせのメールを送ってみた。

 実を言うと、どうしても金が必要だったのに、銀行の審査に落ちちまって借金ができなくて困っていたんだ。

 そんな胡散臭そうなところでも、十日で一割借金が増えるとかってふざけた金利の違法金融会社よりはマシだろうと思ったんだ。

 

 「まぁ、簡単に言ってしまえば、あなたの子供やお孫さんに借金を返してもらう…… というのが、当社の方針なのですよ」

 

 と、俺はその会社の担当者から受話器越しに言われた。

 メールのやり取りを何回か繰り返して、それじゃ効率が悪いってんで、電話で直接話そうという事になったんだがな。

 「いや、ちょっと待ってくださいよ」と、そう言われて俺は返した。

 「俺には子供も孫もいませんよ? それに、子供に借金を背負わせるって可能なんですか?」

 それを聞くと、「フフン」てな感じの間の後でその担当はこう言った。

 「それが大丈夫なんですよ。表立っては言えませんがね。幼い子供に借金を背負わせるなんてのは無理ですが、まだ生まれてもいない子供に借金を背負わせちゃいけないなんて法律はありませんから。

 ほら、あなたも知っているでしょう? そもそもこの日本という国そのものが、子供や孫に借金を背負わせているんです。個人がやっても何も問題はありませんよ」

 そう説明されて、俺は首を傾げた。

 「いや、でも、そもそも俺に子供が生まれる保証なんてどこにもないじゃないですか。会社としてそれで良いんですか?」

 すると、担当は不思議な事を言う。

 「あ~、それは大丈夫です。こちらでアクセスして確かめました。お客様は、お子様をお儲けになられますよ。もっとも、今のところは、ですが」

 は?

 と、それを聞いて俺は思う。

 “アクセスして確かめたって、一体、何処に?”

 よく分からなかったが、俺の送ったデータで何かしら調べたのだと解釈した。

 「それでどうなされますか? 弊社としてはお客様に資金援助をする準備は整っていますが」

 それから担当はそう尋ねて来た。

 「んー……」

 担当の説明に納得した訳じゃなかったんだが、俺は藁にも縋る思いでその質問に「分かりました。お願いします」と、そう答えてしまった。金利は年に2%とかなり現実的な額だったし、他に当てなんてなかったからだ。

 ただ、いよいよ契約を結ぼうって段階になって、担当はこんな不思議な忠告を俺にして来たのだった。

 「あ、一応警告しておきますが、当社のプランは飽くまで“子供や孫が借金を返す”という前提でお金をお貸しします。その前提が崩れた時、その借金は全てあなたが支払う事になりますので、予めご了承ください」

 何の事やらよく分からなかったが、俺は「分かった」とそう答えた。

 

 その会社は銀行の審査に落ちた俺に、気前良く金を貸してくれた。

 しかも、本当に返済を催促されない。いや、そもそも俺自身の名義にはなっていないから当たり前なんだが、それでも俺には信じられなかった。

 実を言うと、もう切実に金が必要って訳じゃなかったんだが、俺は試しに追加で金を貸してくれと言ってみた。すると、気前よく金を貸してくれる。しかも、やはり俺は返さくて良いのだという。

 こうなって来ると、つい頼りがちになるのが人情だ。俺は金が減って来たり、何か欲しい物がある度にその会社を利用した。そうして、いつの間にか借金は500万円ほどに膨らんでいた。

 と言っても、年に2%程度だし。そもそも俺は返さくて言いわけだけど。

 だから俺は安心し切っていた。子供や孫が返さなくちゃいけないって言っても、養育費ってのはかなりかかるものだ。それを考えるのなら、これくらい別に構わないだろうって思っていたんだ。

 ところがだ。ある日、担当からこんな電話がかかってきたのだった。

 「お客様。あなたのお子様が借金を返せなくなりました。就きましては、当初のお約束通り、お客様に全ての借金を返していただきたく存じます」

 俺はその言葉に目を丸くした。

 「いや、ちょっと待ってくれ。確か、俺は借金を返さくて良いって、話じゃなかったのか?」

 「ですから、それはあなたの“子供や孫”が借金を返せる前提の話です。つまり、あなたの子供や孫が借金を返せない状態になってしまったという事ですが」

 「どうして?」

 俺がそう尋ねると担当は冷たく淡々とこう言った。

 「簡単な話ですよ。あなたがした借金が負担になって生活苦に陥り、破綻に追いやられてしまったのです。お可哀想な話でございます」

 「破綻? いや、でも、借金たって、たかが2%だろう? 破綻に追いやられるほどじゃ……」

 それに担当はこう返した。

 「何を仰っているのです? たかが2%でも何十年も経てば、借金は膨らんでかなりの額になってしまいます。将来世代の子供や孫に自分の借金を返させるというのはそういう話でございますよ」

 それを聞いて愕然となっている俺に向けて、更に担当は言った。

 

 「将来世代に負担を強いれば、自ずからそれは衰退を招きます。そうすれば、借金は返し難くなって更に苦しくなる。はっきり言って悪循環ですな。

 本来ならば、自分達が蓄積して来た資産によって、将来世代に投資をし、発展を促すのが常道のはず。

 やれやれ、この社会は、一体どうなってしまうのでしょう?」

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