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遥かなるモブの理想郷  作者: サコロク
3/6

さよなら灰色の生活、くたばれクソッタレの日常

学校に着いた俺(プラスつきまとって来た涼太)は、校門に入ると校舎には向かわずそのまま体育館へ向かった。そもそも校舎には入る必要というか、入ってはいけないと要項に書いてあったはずだ。

新入生に関しては直接体育館の新入生の席へということだったので、他の新入生が入っていくのを見計らってそれに紛れつつ入っていく。

張り出していた紙によると俺が一年間過ごすことになるクラスは一年四組となっており、右側の前から2ブロック目の地帯がそのクラスの席がある場所だった。

在校生に当たる先輩たちはぼちぼちという感じで、どうやらここの校風は少し緩いらしい。遅れて来たなら遅刻扱い程度で別段責められるわけでもないのだろう。

とにかく俺は自分のクラスの場所まで歩いて行き自分の席を探す。一応席順は名前順らしく、俺はあかさたなでは少し遅い ”も” に当たるので少し後ろの位置になるはずだった。

大体の検討をつけながら席を探していると、椅子の上に置かれた紙に俺の名前が書かれている席を見つけた。そこは、列の中央ではなく反対側の一番端で俺にとっては最高の席だった。なぜか? そんなの他のクラスメイトに挟まれなくて済むからに決まっている。なんだかんだ新生活始まって最初からついてるぞ……

大人しく席に着き式が始まるまで寝たふりをしておこうと思ったのだが……


「おっ、颯太も四組か!!」


この声は……うん、きっと空耳だろう。最近あんまり寝付けなくて寝不足なので幻聴が聞こえたのかもしれない。


「おーい颯太?」


なんだか雑音が耳に入って俺の眠りを妨げようとしている。俺の睡眠を邪魔する奴は誰だ!!

うっすらと瞼を開き声の聞こえてくる前方を確認する。そこにいたのは……


「颯太ー、無視すんなよー」


涼太だった。うん、分かってたよ。分かってたけど俺には受け入れがたい現実だった。

こいつと高校生活の一年目を過ごさないといけないという精神的な疲労がどっと積み重なって、俺は今更になって自分の運の無さを再認識した。先程、最高の始まりだと言った発言は撤回しよう。史上最悪の始まりだ!!


「うるさいぞ、静かに座ってろ……」

「おいおい連れねーぞ? 親友だろ?」

「親友? 俺の聞き間違いか?」

「いいや、あってる」

「そうであるなら、その発言を俺は大いに否定しよう」


だって俺はこいつのことを友達と思っているわけではないし、はっきり言ってしまえばこいつだって俺にとってはモブの一人でしかなくて、ただ家が近くの同じ中学に行っていたただの顔を知っている程度の人間んでしかない。

そもそも ”親友” の定義とは? 親しい仲の友達? 俺とこいつが親しい? 冗談じゃない。俺とこいつは ”同族” なだけであって ”親友” などと大それたものなんかでは決してない。冷たく突き放すようだがそれが現実だ。


「……ま、それならそれでもいいさ。思いなんて人それぞれだろ? 俺は少なくともお前を友達だと思ってるし親友だとも思ってる」

「……」

「とりあえず一緒のクラスでよかったぜ! 一年間よろしくな颯太!」


なんでこいつはこんなにメンタルが強いんだ? 俺は結構ひどいことを言ったはずなのだが……

そこから一方的に話しかけてくる涼太に適当な相槌をうちながら話を流しているうちに、体育館の中もだいぶ騒がしくなってきた。在校生の席も九割がた埋まっておりその後ろにある保護者ようの席は満員で席に座れない親すらいる始末だ。

肝心の新入生たちに関しては、人がいない席が見渡す限りないというくらいに埋まっている。人が多すぎて、正直吐きそうだ。


「……おっと、そろそろ始まるみたいだな」

「ああ……やっと解放される……」

「ん? 何か言ったか?」

「なにも……」


俺は一度服を整え直して姿勢を整える。

おもむろに前方にいる涼太を見てみると、まあだらしなさとかっこよさを履き違えたような姿勢でそういうのにやり慣れていないのが見え見えだ。

俺の隣にも知らない男子生徒が座っているがどうせ関わりを持つことはこの三年間で指で数えれる程度しかないだろう。

席は男子と女子二つに分けられており、前が男子ブロック、後ろが女子ブロックとなっていて後ろからは騒々しい女子の声が聞こえてきている。人数の比率は大体男子が六、女子が四といったところだろう。普通の高校に比べたら女子の比率が少し高いといったところだろうか。それにしてもうるさい、耳が痛くなってくる……


『間も無く開会いたしますので、生徒の皆さんは席に着いてください……』


この学校の教師であろう人物のアナウンスによって会場が静まり返っていく。

シーンとしていく会場に誰かの足音だけが響いていた。聞こえてくるのは前方、ステージ脇の部分だ。

同じリズムパターンが音楽みたいで耳に心地よく響いてくる。静寂の中に響く甲高い靴の音は、水面に一滴の水滴が落とされた時のように心に浸透してきた。

そして、ステージ脇から出てきたのは……


「「「おぉーーーー!!」」」


なぜか男子生徒たちが感嘆の声を上げ始める。それもそのはずだ、出てきたのは……


「皆さんおはようございます、今日という日を迎えられたことを私は嬉しく思います」


そう、出てきたのは世に言う ”絶世の美女” というやつだったからだ。

完璧なプロポーションに、透き通るような白髪。遠目から見てもわかるそれはまさに ”美人” そのものである。

というわけで、新入生の男子はおろか女子までも、いや最早在校生ですら騒ぎ立てている始末だった。本当にうるさいのでやめてほしいのだが……というか先生たちですらその美貌に釘付けにされている様だ。


「皆さんお静かに、さすがにこのままでは式が進まないので、ね?」


ちょっと可愛らしく言う感じがまた聴衆を扇動し余計に大騒ぎになってしまう、がここで彼女がスッと手をかざすと体育館の中が一気に静まった。その行動を見る限り ”静と動” の区別がしっかりできる人なのだろうと分かる。


「……改めて、私はこの桐ヶ丘高校の生徒会長の ”日下部 雅” と申します。新入生の皆さんご入学心よりお喜び申し上げます。皆さんの入学を心待ちにしておりました」


テンプレ通りの言葉にも関わらず、日下部先輩が言うとなぜか物凄くしっくりとくる何かがあった。多分あの人、容姿だけではなくその他のスペックも相当高い……俺の第六感がそう告げている。


「この学校は皆さんが輝ける生活を送れることを保証します。皆さんの物語は皆さん自身で紡いでいくものです。この学校はそれに相応しい環境が揃っていると私自身が体感して分かっているつもりです。ですから ”輝いて” ください、この三年間を皆さん自身の色に染めて心より願って、短いですが私からの言葉とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました……」


深々とお辞儀をした後、日下部先輩は綺麗な足取りで帰っていった。だが俺としては…… ”天敵” になるかもしれない存在だ!

自分色に輝け? やめてくれ、あの人に言われると常人の何十倍もの破壊力がある。正直今ですらこの会場の熱にやられてしまいそうでしんどいのに、あんなことを言われると本気で休学してしまいそうになるぞ!

まあともかく、日下部先輩が去っていったことによって少しは熱が冷めたらしい、会場がまた静寂に満ち式が進められていく。

基本的ここの入学式はクラス数が多いため全員の名前を読み上げて生徒を立たせるということはない。妥協した、というか読み上げてみたら馬鹿みたいに時間がかかってしまうからというのが学校の判断だろう。

そこからは何事もなく式が進み、無事に全てのプログラムが終了する頃には昼前だった。

終わった後は各クラスへ移動となるのだが、前にいた涼太に関しては頭が完全に舟を漕いでいた。殴って起こしてやろうかとも考えたが、それこそ無駄なエネルギーなのでやめておくことにする。

担任の教師らしき人が現れ一組から順番に生徒たちを引き連れ体育館を去っていく。約五分後に俺たちのクラスも移動を開始した。涼太も周りの騒音に気づいたのかハッとした様に起き上がる。

俺たちの担任の姿はハッキリとは確認できなかったが、一瞬チラッと長い髪が見えたので女性の先生なのだろう。それはそれで俺としては面倒になりそうで嫌なのだが……

ともかく移動を開始した俺たちは先導されるがままに校舎内を移動していく。校舎内は予想以上に清掃が行き届いており、清潔感のある校舎で俺としても嬉しい。

しばらく廊下を歩いたり、階段を上ったりとを繰り返した後、ある教室の前で歩くのが止まった。


「……はーい、ここが一年四組の教室です! 席は名前順になっているので教室に入ったら自分の名前のある席に座ってくださいねー!」


明るい感じの女性の声が廊下に響いた。姿は見えなくても、結構後ろにいた俺にまで聞こえてくるので声を張ってくれているのだろう。それにしても、どっかで聞いたような……まあ、いいか。

とりあえず言われた通りに教室に入り自分の席を探す。教室の左前方から縦に名前順となっているようで、俺の席は大体窓側の席の近くになることが予想される。山口や山本などや行の名前が多くな限り、名前順となれば俺の席は基本的には廊下側の一番近くになる。

そして、幸運なことにこのクラスにはや行以降の苗字の生徒が一人しかいないようで俺の席は廊下側の一番後ろから一つ前、山川君という生徒の前になった。俺よりも先に席を見つけていたであろう山川君を見てみたが……何というか、俺と同じ匂いを感じる人物だ。いわゆる ”モブ” って感じが醸し出されている。まあ当分関わることはないだろうからそこまで気にすることでもないのだが。

とにかく席に着いた俺は、まず机の上に配布されていた数種類のプリント、資料に目を通してみる。ある程度目を通してみるが、お約束のようなパンフレット、入学に際する挨拶、とそんな感じだ。

別段面白いわけでもないが、何もやることもないのは確かなのでクラスメイトが全員席に着くまではそれを眺めておく。と、プリントをパラパラと見ているとその中の一つに、担任からの挨拶というのがあった。

それを読んでみると、簡単な挨拶とともにクラス目標などが熱く書かれており、俺が大嫌いな自己啓発本ど同じ匂いがしたのでサラサラと流していく。そして最後に、担任の名前が書かれていた。


「朝比奈、雪絵? ……あれ、これってどっかで聞いたことが……」


頭の中の記憶の引き出しを開いてみるがなぜか思い出せない。何かに引っかかっているのは分かるのだが何故だろう、俺自身が思い出したくないと思っているのかもしれない。とにかく、聞いたことがあるようなその名前については思い出すことを諦める。

そうしているうちに席を探し回っていたクラスメイト達いなくなり先生が教卓に立つ。艶のあるロングストレートの黒髪にスカートにシャツと一般的な服装だが、その容姿は普通に ”美人” 、その雰囲気も明るくて社交的という感じがする。まあ、モテる女という形容がいかにも似合う女性である。

すると、先ほど同様に一部の男子生徒が猿のように騒ぎ始める。全くこいつらは揃いにも揃ってアホなのかと思ってしまう……


「はい、静かに! 今日から一年間皆の担任になる朝比奈雪絵です。雪絵先生で構いませんのでこれから楽しい高校生活にしていきましょうね!」


エネルギーたくさん使います宣言をどうも。だが、あいにくと俺はそれに参加しなのでよろしく!! でもどっかで聞いたことのある声なんだよな……

と、挨拶を終えた雪絵先生が先ほどの日下部先輩の様に手を振ると……まあ扇動された猿達が騒ぎ始めるわけだ。シット!! ここは動物園じゃないぞ!!


「では、皆さんにも自己紹介をお願いしますね。では名前順に相川さんから……」


はい、始まりました地獄の自己アピールタイム!! 肉食系男子の皆さんのお待ちかねのタイムですよ……俺は望んでないけどな!! 現に今呼ばれた相川さんって女子も困っているわけだし……

まあそんなわけで一人当たり三十秒程度の自己アピールタイムが進んでいき、か行に入って少ししたところである一人の女子が立ち上がった瞬間、またもや猿達が騒ぎ始める。あーもう、やかましい!!

立ち上がった女子はを見てみると……後ろからで顔は見えないがプロポーションは普通の女子に比べれば上だろう。髪も朝比奈先生と変わらないというかそれよりも艶があるかもしれない。だがなぜだろう、どこかしら俺と似た空気を持っている、そんな感じがした。


「……如月 葉月です。よろしくお願いします……」


如月さんはボソッとそれだけ言うとサッと座ってしまった。まるで誰も寄せ付けないかの様に……

その姿の騒いでいた猿達も思わず黙ってしまう。なんか俺としては気分が良いのだが、うん超いい感じ!

だがクラスはちょっと空気が悪くなってしまう。というか現在進行形で非常に気まずい。


「あ、あの如月さん? 何かもうちょっと?」

「もうちょっと、とは?」

「その入りたい部活とか、趣味とか?」

「あいにくですが、私はこの高校生活を人生の通過点の一つ程度にしか考えていませんので、高校卒業の資格さえ取れればあとのことはどうでもいいです。馴れ合うつもりも毛頭ありません……」

「それは……」


……なにあの子、めっちゃカッコいいんですけど!! いや、俺が望んでる生活の具体的なやつ全部言っちゃったじゃん!! クラスの空気はギスギスし始めてるけど、俺は最高に気分が良いのだが!?

そう言われた先生はタジタジしていかにもという感じで困っている。とは言っても誰も助け舟を出せる空気でもないわけで……


「じゃ、じゃあ次の人……」


なんとか先生が話を進めたが空気は、まあ最悪だね。もちろん俺以外にとっては、だが……

その後はさっきの如月さんの時の空気が嘘の様にスムーズかつ、猿達がキーキー喚きだし俺にとっては最悪な時間が始まったのだった。

まあ、最悪なことはそれだけではないのであって、自己アピールの順番ももう間も無く俺の番だった。

そして……前の宮本君の自己アピールが終わりとうとう俺の番が来た。

さあ、俺が言うことはすでに決まっているわけだが……どうしたものか、あれほどまでの見事なモブ宣言を見せつけられては俺のモブ精神にも火がつくというものだ。そう、珍しく俺はやる気になっていた。無駄なことだと分かっていてもなぜかやる気がみなぎっている。


「じゃあ次、森山君……」

「はい……」


見せてやろう、これが本当のモブ……ザ・モブ男だ!!


「森山 颯太です。よろ……」

「「森崎 颯太!!??」」

「うわっ!?」


なんだよ!? 一体なんなんだよ!? 名前だけ言うつもりだったのに、おまけでよろしくも言おうとしたら……完全に言い損だよっ!!

俺のモブ紹介を邪魔したやつは……

と、周りを見渡すと立っている生徒が一人と、驚いて口をあんぐりと開けている教師が一人いた。


「えっと……なんですか?」

「あなたの名前は森山 颯太君で間違いないの、よね?」


先に口を開いたのは朝比奈先生だった。なぜかは分からないが俺の顔をまじまじ見ている。


「ええ、そうですけど。何か?」

「何かって……本当に分からないの!?」

「……いや全然」


俺がそう言った瞬間、朝比奈先生は盛大なため息とともに教卓に倒れ伏せた。


「まさかそうだったなんて……やっぱりこの名簿、名前間違ってるじゃないの!」


一人でキレ出す朝比奈先生……ナニコレ? 情緒不安定なの?

いやいや、いきなりキレられても意味わかんないんですけど!?


「名簿もそうだけど気づかないなんて……私よ私!! ヒナ姉!! まさか忘れたの!?」

「ヒナ姉? ……」


さあ、ここで記憶の引き出しを漁る時間。俺の頭の中の検索バーにヒナ姉で検索。関連するリンクがいくつか出て来たぞ……ヒナ姉、ふむふむこれは……

…………従姉妹のヒナ姉さんのことだったーーーー!!

ヤバイよ、完全に忘れてたよ! 親がいない間いつも俺の面倒見てくれてた、俺の育ての親ならぬ ”育ての姉” だったヒナ姉さんじゃないか!

どこかで聞いたことがある声、見たことある感じがした原因はそこにあったのか……って感心してる場合ではない。

ヒナ姉さんの方をチラッと見てみると……オコだね、これは完全にオコですねー。さあ、どうしたものか。

逃げる様に視線を横にずらすと、もう一人立っていた生徒と目が合う。


「……え? 如月さん?」

「森山 颯太…………やっと見つけたわ」

「はっ?」

「どうやら、私のことも覚えていない様ね?」


はいここでまたもや記憶の引き出しを漁ります。検索バーに如月 葉月で検索。関連する関連するリンクは…………ない。いや、マジでないよ!?

えっ!? 俺と如月さんに接点なんてマジでないよね!? これはあれですか、例の ”人違い” と言うやつですか……


「あの……人違い、じゃ?」

「いいえ、間違いないわ。そのつまらなそうな顔……ぶつかった時と全く一緒だから」


うわー、こいつ琴音並みにグサグサくる言葉を……ってちょっと待て、ぶつかった? 今ぶつかったって言ったのあのアマ?

検索するワードを変更、 ”ぶつかった” で検索。関連するリンクは……一つだけヒット。あー、やっぱりそうだわ、あの時だわ……

覚えているだろうか、あの春休みの一件を。俺が死にかけることになった一件を……

あの時はポニーテールにしていて分からなかったが、間違いなくあの女だ。それにしてもなんで俺の名前を……とまあそれよりも今はこの現状をどうにかしないといけないわけだが。


「あー、あの時はすいませんでした」

「まったく……まさか逃げ出すとは思いもしなかったわ」

「いや、急いでたんで……」

「それにしても……」

「あのー、まだ山川君の自己紹介が残ってるんでとりあえず進めませんか?」


と、強引に話を切って俺は着席しできる限り二人の方を見ない様にする。すると納得してくれたのか如月さんは大人しく着席した。そう如月さんは着席してくれたのだが……


「森山くーん、ちょーと後で先生の所に来てくれるかなー」


ヒィー!!……ヤバイぞ、あのぎこちない笑顔を振りまいているときのヒナ姉さんは恐ろしい。覚悟はしておいた方がいいだろう……

怯える俺をよそに山川君はあっさりと自己紹介を終わらせ、これで全員の自己アピールが終わったことになる。だが、クラスの全員はそんかことよりも俺とヒナ姉さんの関係、そして俺と如月さんのことについてもどうやら興味津々らしい……はぁー、憂鬱だ。


「……では、自己紹介も終わったことですし。次にクラス委員を決めたいんですが……これに関しては実はもう決まっています。皆さん机の中を見てみてください……」


机の中? とりあえずのぞいてみるが何も……なんだこれプリント?

表紙を取り出して見てみると……可愛らしいイラスト付きで ”アタリ” と書いている。意味が分からんぞ?


「もしプリントが入っている生徒がいたら手を上げてください……」


俺はめんどくさげにプリントを片手に手を上げた。

すると左前方に方で同じ様に誰かが手を上げていた 。あれ、あそこら辺の席の奴って……


「えーと、森山君と……如月さんね。じゃああなた達二人がクラス委員と言うことで、半年間よろしくね?」

「「はっ!!??」」


おお、被ったな。これがいわゆるシンクロ……って言ってる場合じゃねーよ!! なんだよクラス委員って!?

問いただそうと俺が立ち上がろうとしたその瞬間、


「待ってください! 私はクラス委員なんて嫌です!」


先に如月さんの方が立ち上がってそう言い放った。いいぞいいぞ! もっと言ってやれー!


「残念ながら決定事項なので……あと森山君に関しては拒否権はありませんから」


あ、俺は強制なのね……いや、そんなのありかよー!! もう俺のモブ生活完全にオワタじゃん……


「では私には拒否権があると言うことですね? なら……」

「ごめんなさい、申し訳ないんだけどこれは私が決めたわけじゃなくて生徒会が決めてることなの。だからもし抗議をしたいのなら生徒会に行ってくれる?」

「ぐっ!」


ふふ、敗北した様だな。ヒナ姉さんに勝つなんて百年……何もせずに負けた俺が言えたことではないな。


「ごめんね? 受けてもらえるかしら?」

「……ま、まあいいです。半年間やらせていただきます」

「そう! 良かったわー、あそこにいるもう一人の心優しいクラス委員が助けてくれるはずだから、存分に頼ってあげてね?」


ヒナ姉さん、いつからそんなに冷酷な人間に……顔は笑ってても目が笑ってないよ?

まあ、もう俺にはどうにもならないわけで、抵抗するだけ無駄なエネルギーを使うからもう何も言わない。


「……さ、これで一応午前中の予定は終わりですのでお昼ご飯は新しいお友達と仲良く食べるなどして楽しく過ごしてくださいね? それとクラス委員の二人は申し訳ありませんが、お昼の前に私の所へ……」


さあ、地獄の時間の始まりだ。今から俺……多分死にます。



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