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感情を失った男の異世界物語  作者: 浦島 桃太郎
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あの頃の自分

まだまだ初心者にもなれないレベルの小説ですが、少しづつレベルアップしていきたいです。

よろしくお願いします。

今でも、目蓋を閉じると、その時その場所に戻ったかのように、当時の事を思い出す。


あれは俺が友達と喧嘩した時。


母さんのご飯を残そうとした時だった……。



「お母さんから聞いたぞ。

お前友達と喧嘩したんだってな」



「……うん」



「そうかそうか。

辛いか?辛いよな?」



父さんが俺の背中をバシバシと叩く。



「痛い、痛いよお父さん!」



「おお、すまんすまん。

お詫びに咲夜にどんな辛く悲し事があっても、どんな困難でも乗り越えられる、特別な魔法を1つ教えてやろう」



「え?!ホント?!

その魔法使えばヨシ君とも仲直り出来る?!」



「おう、出来るとも!」



「お父さん……あまり変な事を咲夜に教えないでくださいよ?」



母さんが父さんに向かって、呆れたようにそう言う。


それに対して父さんは口角を吊り上げ、任せろと言わんばかりに、母さんに笑顔を見せる。



「それじゃあ咲夜……よく聞けよ……。

他言無用だからなぁ?」



「他言無用って?」



「他の人に教えちゃ駄目だぞって事だ」



「うん!わかった!!」



「よし!いい子だ!」



父さんは俺の頭をぐりぐりと撫でる。



「じゃあいくぞ?

お父さんのマネをするんだぞ?

せーの、ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」



父さんは大きく口を開き、大声で笑い始めた。



「ほら、咲夜もほら!」



「え?が、ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」



「よし、いいぞ!

もう一回だ。

ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」



「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」



「よし、オッケーだ!

流石我が息子!!」



「え?これで終わりなの?」



「なんだ咲夜?お父さんが信用出来ないのか?」



「え?あ、違う……けど……」



俺が口篭ると、父さんが俺の頭に手を乗せ、優しく微笑んだ。



「いいか咲夜。

“笑顔“はな、どんなに辛くても、どんなに悲しくても、どんなに疲れていても、全てを吹き飛ばしてくれるんだ。

もし咲夜が今後、嫌だなぁーとか、辛いなぁーって時は絶対に“笑顔“を思い出すんだぞ」



「うん!わかった!」



「そうだ!その笑顔だ!!

いい笑顔だぞ咲夜ーーー!!」



「えへへ」



「可愛すぎか!!

母さん!母さん!うちの息子は天使かなにかか?!」



「もう、落ち着きなさいよ。

全く親バカなんだから……」



「くそ、なんで今手元にカメラがないんだ!!

今の笑顔を撮り逃すなんて!!

父親失格だぁ……」



父さんは両手で頭を押さえ、項垂れる。



「全くもう……。

それより咲夜?咲夜の大好きなハンバーグ、まだ残ってるけど食べないの?」



「やっぱり食べる!!

笑ったらお腹空いちゃった」



「そう、じゃあたんとお食べ」



「うん!!」



さっきまで喧嘩の事ばかり考え、好物であるハンバーグすら喉を通らなかったが、今は何故か、モヤモヤしていた心も晴れ、胃もご飯を欲するようになっていた。



「そうだぞ咲夜、食え食え!!

笑うには元気が必要だ!

元気を出すには、お腹一杯食べるのが大事だからな!!」



「うん!!」



それから俺は、ものの数分でご飯を食べ終わり、フォークを置くと、両手を合わせる。



「ごちそうさまでした」



「違う……違うぞ咲夜!

もっと元気を出せ!

笑顔は元気を必要とするんだ!

普段から元気を出すんだ!」



父さんはそう言うと、大きく息を吸い込む。



「うまかった!!ご馳走さん!!」



「うまかた!!ごちそうさん!!」



俺も先程と同様、父さんの後に続く。



「お父さん!!だらしない言葉を咲夜に教えないでください!!」



「おっと、すまんすまん。

咲夜、今のはお父さん流だ!

自分流で元気に言ってみろ!」



「え?えっと……」



俺が周りを見渡しながら、戸惑うように悩んでいると、父さんが助言をくれる。



「別に悩む事じゃないさ。

自分の言いたい事。

感じた事を言えばいいんだぞ」



「うん!じゃあ……。

ハンバーグ美味しかった!!

ごちそうさまでした!!

お母さん大好き!!」



「あらやだ、この子妖精かしら?

お父さん、お父さん?うちの子妖精じゃない?」



「お母さんは親バカだな」



「ああ!しまった!

なんでこういう時に限ってビデオ撮ってないのかしら!!

こんなの母親失格よ……」



「もうお母さんは放っておいて……。

咲夜ぁ!!

お父さんは?お父さんは大好きじゃないのかぁ!!」



「お父さんは僕のヒーローだもん!!

大好きに決まってるでしょ!!」



「俺も大好きだぁぁぁあ!!咲夜ぁあ!!」



父さんが俺を抱き上げ、グルグルと回る。



「お父さんは咲夜のヒーローだ!!

咲夜がお父さんを必要としなくなるまで絶対に死なんぞぉおおおお!!」



「お父さん大好きぃ!!」



「母さん!!ビデオ!!ビデオはまだかぁ!!!

永久保存!永久保存版だぞ!!!」



「咲夜?お母さん大好きは?」



「お母さん大好き!!」



「よし!撮った!撮ったわ!!

これは永久保存版ね!!」



「ちょっと待て!お父さん大好きはどうした?!撮ったのか?ちゃんと撮ったのか?!」



「嫌よ、自分で撮ってください」



「くそぉおおおおお!!

咲夜、ちょっと待っててくれ!!

今カメラ撮って来るから!!」



父さんは俺を地面に降ろし、そう言うと、自分の部屋へと走って行った。


母さんは口を手で塞ぎながら笑い、俺もつられるようにケラケラと笑う。


毎日がどんちゃん騒ぎで、毎日がお祭りのように思えた日々。


そんな毎日がいつも待ち遠しく、家族でいる時が、どんな出来事より一層色彩を放ち、輝いていた。


そして……それから僅か、1ヶ月後の事だった……。





父さんが死んだのは……。





父さんがこの世の理から外れた日。


俺と母さんはいつも通り、楽しく父さんの帰りを待っていた。



「お父さん遅いわね?

先に食べてちゃう?」



「嫌だ!お父さん待つ!!」



「あらあら、お父さんが聞いたら、また喜ぶわね~」



その時だった。


俺の性格、色彩、感情……。


全てを失わせる、悪魔の音が部屋に鳴り響いたのは。



「電話ね……。

お父さんからかしら?」



母さんが受話器を取る。



「はい、もしもし……」



母さんは数秒、話しに聞き入っているのか、動きが止まる。


その後、受話器を元の位置に置くと、糸を切られた操り人形のように、母さんはその場に崩れた。



「嘘……嘘……!!

お父さん……そんな……」



「お母さん?」



何も知らない俺が、顔を手で覆っている、母さんに近寄る。


すると母さんは、俺の背中に手を回し、力強く抱きしめた。



「痛い!痛いよ、お母さん!」



「ごめん、咲夜。

ごめんね咲夜……」



当時の俺はまだ子供。


この時は、謝りながらも強く抱きしめるのをやめない母さんの、意味がわからなかったが、今思えば、我慢してたんじゃないかと思う。


父さんが死した今、俺を守るのは母さんだけ。


弱い所を見せれば俺が不安がる。


それだけは避けようとしたのだろう。


本当は、声が枯れるまで泣き叫びたかったと思う。



「……咲夜」



それから数分後、俺の耳元で口を開いた。



「何?お母さん?」



「お父さんね?仕事場で倒れたんだって……」



「え?!お父さん大丈夫なの?!」



「…………過労死だって」



「過労死って?」



「たくさん、たくさん、お仕事して、疲れて死んじゃうってこと」



「ウソだ!!」



俺は母さんをつき飛ばした。



「お父さん言ってたもん!!

どんな辛くても悲しくても疲れても、笑えば全部無くなるって!!

お父さんいつも笑ってたから、疲れてないもん!!」



「咲夜……」



俺は爪が食い込むほど拳を握り締め、産まれて初めて、母さんに怒りをぶつけた。



「お父さんはヒーローだもん!!

ヒーローは約束を守るまで絶対に死なないもん!!

お父さん言ってた!!

僕がお父さんを必要としなくなるまで僕を守るって!!

約束したんだ!!

だからお父さんは死なないんだ!!」



「咲夜」



母さんは少し低い声で俺の名前を呼ぶと、ゆっくりと立ち上がる。



「いい加減にしなさい咲夜。

死んだ人間は戻らない。

生き返りもしないのよ」



「やだやだやだ!!

違う違う!!

それじゃあお父さんの言った事は嘘って事になっちゃうじゃん!!

だってあの時、お父さんの魔法のおかげでヨシ君と仲直り出来たんだもん!!

お父さんは嘘つきじゃないもん!!

お母さんが嘘つきだ!!」



「咲夜!!」



初めて聞いた母さんの怒鳴り声。


俺は驚き、たじろぐ。



「お父さんのところ行きましょ」



母さんはそう言うと、玄関へと1人歩いて行く。



「……やだ」



「え?」



「やだ!僕行かない!!

お父さん帰って来るの待つ!!」



「咲夜!!」



俺は母さんの怒鳴り声を後ろに、階段を駆け上がり、自分の部屋に入ると鍵を閉める。



「開けなさい咲夜!!」



「やだ!!」



「お父さんが悲しむでしょ!

2人で、頑張ってくれたお父さんを見送ってあげましょう」



「お父さんは帰って来る!!!」



「…………咲夜」



母さんの声が、突然、か細く小さくなる。



「お母さん、お父さんの見送りに行って来るね……」



その数秒後、聞こえたのは、ギシギシと階段が軋む音。


普段、聞き慣れた音でさえ、何故か煩く聞こえ、まるで俺を責め立てているようだった。



「お母さんは嘘つきだ。

お父さんが本当の事を言ってるんだ。

僕は騙されない……」



俺はそれから数ヶ月の間、部屋に篭り続けた。


小学4年生の暑い夏の日の出来事だった……。

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