第一話
力のある者と力のない者。この世界ではそれが全ての偏差値であり基準だ。
この世界での力とは俗に言う魔法を使えるかどうかということ。
魔法が使えて始めて”人間”としての扱いを受ける。そして力のない者は人間として扱われず奴隷として過ごす。
この物語はとある一人の奴隷だった少年の話である。
その少年の名はジェイス。親はなく、孤児院に引き取られ物心が付いた頃には人としての感情を失っていた少年だ。
現在この少年はとある一国の暗殺部隊の少年兵として過ごしている。
その暗殺部隊とは奴隷で形成された集団だ。彼等に人権はない。道具とは消費するものであるのが必然である。だから彼等奴隷が死んでしまおうと誰も悲しまない。
そしてそれが当たり前として過ごしてきた彼等はそれが不自然だとも思わない。
捨て駒として主の命令に忠実に従う。それが唯一植え付けられた感情なのだから。
そして今日。彼等はある一国に攻め入り王族の暗殺を企てていた。
時刻は深夜。満月の光が寝静まった街を不気味に照らす。
「任務の確認だが、目的はこの国の王族の暗殺。国からの援護は来ない」
黒い服に黒い布で顔を隠した男が言う。援護は来ないと言うことは裏を返せば失敗しても雇い主達に痛手はないということだ。
国にとって奴隷とは消費する道具でしかない。そのような者達に誰が救いの手を差し伸べようか。
「任務の失敗は死。それ以上も以下もない。そろそろ時間だ……。行くぞ」
黒い影の集団が散る。任務に成功すれば環境を良く出来ると信じたいのだ。
だがもし失敗すれば、彼等に光はない。雇い主達に玩具のように扱われる死すら許されない拷問の日々が続くだろう。
部隊から数人が別れ行動を移した。用意していたダイナマイトを扉に設置して着火する。
数秒後には作戦開始の花火が打ち上がる。それが作戦開始の合図なのだ。
息を飲み身を潜めて覚悟を決める。そしてダイナマイトに火が灯り、壮大な爆発が扉を破壊した。
「敵襲だぁぁッ!」
ゾロゾロと破壊した扉の向こうから武装した戦士達が現れる。
それを確認した暗殺者達は囮と本隊に分けて行動を開始した。