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Trinity Knight's Soul  作者: 螢蓮
Episode.0 「いつもどおりの朝」
4/5

生まれ出るものは

「――――…………すごい人ねぇ」



「そりゃあ建国百年記念式典ですから、皆楽しみにしてるんですよ」



 王城テラス。眼下に広がる街の風景に興奮したように頬を僅かに上気させながら、黄色がかったドレスを纏った聖王国エイル第一皇女アリアナ=アル=エイルはそばに控える騎士(ダリル)に話しかける。ふわりとウェーブがかった腰までの長さの金の髪を指先でくるくると弄りながら頬を緩める。



「ねえダリル」



「……なんでしょう?」



「今日、なのよね?」



 今朝から何度も繰り返してきた確認の問いである。ダリルはそれを見て苦笑しながら頷く。こちらも同じ答えだ。



「~~~~~~……っっ!!」



 頬が緩むのを抑え切れていないのを感じながらアリアナは心のそこからわきあがる歓喜の情を感じる。初めて目を合わせたときに電流のように感じた感情を思い出しながらそのときを待つ。





                 ■―――――――――■



「父上」



「どうした?」




 アクサナが喜びに悶えているその後方。エイル第二皇女アリエラ=アル=エイルは不思議そうに首を傾げる。姉とは違うストレートの銀髪を頭頂部で結った彼女は白銀の胸当てと手甲・具足を身に付けており、ドレスを纏った華のようなアリアナとは違い戦乙女(天使)のような凛とした雰囲気を放っている。



「なぜ姉上はあんなにも嬉しそうなのですか?」



「ああ……それはもう少ししたら解るよ。楽しみにしておくといい」



 きっと驚く。と悪戯小僧のような笑みを浮かべる男はアリエラの父上、という言葉の通り聖王国エイル現国王アルス=アル=エイルである。立派に蓄えられた白髭を揺らして微笑む様は好々爺、といった雰囲気ではあるが、100年祭に関しての一切の問題ごとをそつなく乗り越え、横領などの不正を行った貴族を断罪し、国の運営を今までどおり行いながら子供たちや妻への気遣いも忘れないという歴代でもっとも優れていると国民が認めるほどの傑物である。



「はぁ……」



 父の言葉に腑に落ちないものを感じながらもアリエラは大人しく引き下がる。100年祭開始まであと数刻。




                 ■―――――――――■




「なあトール」


「なんだよ」


「なんで俺ここに呼ばれたんだよ」


「……さあ」



 王城内、謁見の間に程近い近衛騎士が普段控えている一室にアレンとトールは数人の騎士とともに控えていた。正規の騎士であり、いくつもの武勲を打ち立てているトールはまだしも、未だ正騎士ですらない自分がここに呼ばれていることにアレンは居心地が悪く身が縮こまる思いだった。



「トール、アレン……時間だ。行くぞ」



「「はい」」



 先輩騎士からの呼びかけに間をいれずに返事をし、胸中にある不安を頭の片隅に追いやる。式典で何をする、もしくはされるのかは騎士――アレンは見習いではあるが――には知らされていないので当然ではあるのだが。



――謁見の間を過ぎ、少し長い廊下を抜け、テラスへと出る。




                  ■―――――――――■



「……ぁ――――や、め……」



 王城謁見の間、王城の中でも高い階層にある部屋の中心で、一人の初老の男が頭を抑えて蹲っている。深い緑の瞳に少し生え際が交代した緑の髪を後ろに流した男は何かに抵抗するように腕をふりまわすが、むなしく空をかくだけだ。当然謁見の間も含め王城には警備の騎士が複数人交代で巡回しているが、まるで男が見えていないかのように謁見の間を通り過ぎていってしまう。やがて力尽きるように倒れた男はそれまでの苦悶の表情がうそのように感情を感じさせない無機質な表情になるとすっと立ち上がる。




「……100年だ」



 ぽつり、とそう零した男は謁見の間を後にし、テラスへと続く廊下を歩いていく。


 ――男が一歩踏み出すごとに男の姿は変質していく。

 森を思わせる深い緑の瞳は血のような紅に。

 少しだらしなくなってきていた身体は、内部から無理やり押し広げられたようにごきり、ごきりと音を鳴らしながら大きくなり、それに耐えられなかった衣服は破れ始めると共に黒い炎に包まれたと思うと灰も残さずに消えてしまう。体の拡張は二メートルを越えたあたりでとまり、あとに残ったのは揺らめく炎のような黒い人型の影のようなものだった。おおよそ人間と判断できる要素は、輪郭と爛々と輝く血の瞳だけである。

 ちらり、と窓の外に意識を向けたソレの瞳には、祭を楽しむ民衆の姿が映っていた。


女神(エイディア)の月、第一(リヒト)の日。一年の始まりを告げる日は同時に建国100年を祝う日でもある。王都の町並みは普段とは違い豪華絢爛であり、この日だけはほぼすべての王国民が記念すべき日を祝おうと動いている。

中央通りにはこの日のために用意したとっておきの品を並べる出店が所狭しと並んでおり、10メートル近くはある女神の銅像が佇んでいる中央噴水広場は、数千数万の希望の中から抽選で選ばれた店がゆったりと間隔をあけて開かれているが、100年祭を楽しもうと押しかけた人々で埋め尽くされているためあまり意味をなしていないようだ。




「…………」



 影は思う。生まれ出でたこの場所はかつて悲哀に満ちていた、と。

 影は考える。ただの瘴気であった自分だが、今は(意識)があり、さまざまな知識があり、さらには記憶まである。それはなぜか。それはなんなのか。

 影は肩を震わせる。憤怒か歓喜か、たどり着いた答えは――――

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