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吸血鬼の罠~暗黒騎士エリゴス降臨

ある天気の良い日、街中をサキュが一人で歩いていた。先日のゴシック調のドレスではなく白い、いかにも清楚な感じのワンピースを着ていた。どうやら買い物に来ているようだ。

「こんにちは、おじさん!」

「やあ、サキュちゃん。今日はリンゴとサクランボがお勧めだよ!」

「本当?じゃあ両方貰うね!」

「本当かい。なら特別、可愛いサキュちゃんには特別メロンをオマケするよ!」

「わ、本当?ありがとう。」

「おーーい。サキュちゃん。うちの魚もお勧めだよ!」

「サキュちゃん!うちのお肉も安いぞー。」

「あはは。」

どうも先日の彼女とは印象が違う。先日はどこか物静かな印象を受けたが今の彼女は明るい元気な女の子と言った感じである。市場の皆に可愛がられていて、皆のアイドル的存在だ。結局皆に色々な物をオマケしてもらい持てない程の荷物になった!

「うううむ。これは流石に持てないな?」

「サキュ様!」

困っていたサキュの元にウルフがやってきた。

「あ、ウルフ。丁度良かった。荷物半分持ってくれる?」

「サキュ様。いつも言っていますが街に出るときは声をかけてください。一人で外出はなるべく控えて下さい。」

「分ってるよ。それよりウルフ。今日は魚料理でいい?」

「は?」

「もう、夕ご飯だよお。」

「・・・・・・・」

なんだか普通の可愛い女の子だ。二人は荷物を分けて、帰宅した。

「婆や、ただいま!」

「おお、サキュ、おかえり。」

「ただいま!今日は色々オマケしてもらったんだよ。豪華な夕食期待してて!」

「へえ、それは楽しみじゃな。だがその前に二人とも、祭壇に来てくれるかの?」

「!!!」

祭壇、サキュの屋敷の中の部屋の一つである。闇を裁く際は必ずこの部屋に集まる。

「サキュはその前に私の部屋に。」

「うん!」

婆やとサキュは二人で奥の部屋に入って行った。ウルフは先に祭壇で待機だ。そして数分後、サキュと婆やが来た。

「さあ、始めるわよ。」

先程のサキュの姿はもう無かった。ゴスロリドレスを身にまとい、先日のサキュがそこにはいた。

「サキュ様、あのう、夕ご飯の件ですが。」

「ウルフ、黙りなさい。」

「はい。」

ウルフはわざとおどけて見せたがやはりサキュは別人のようになっていた。婆やがこの秘密を知っているようだが今はまだ謎だ。

「ウルフ、婆や。今回はここね。」

サキュが地図を指差した。

「ああ、私のクリスタルがこの地の巨大屋敷に激しく反応しているのじゃ。」

「へえ、また罪人でもいるのかね?」

「ウルフ!」

「あ、サキュ様失礼しました。」

ウルフはいつもチャラチャラした性格だ。そのため夜のサキュには度々怒られていた。最も昼のサキュは天真爛漫なため、ウルフは良い世話係になっていた。根はしっかりした奴なのだ。

「で、ウルフ。現場はどうだったの?」

「ええ、どうも屋敷には頻繁に使用人の女が募集されているみたいですね。今回もおそらくその者達からの信号ではないかと?」

「婆やは?」

「ううむ。その可能性は高いな、だが今回は妙なんじゃよ。」

「妙?」

「うむ、頻繁にクリスタルが反応しているのは確かなんじゃが毎回色が違う。」

「どういう事?」

「恐らく毎回違う人間が信号を発信しているのじゃな。」

「何故かしら?」

「ああ、サキュ様。もう一つ報告が!」

「何、ウルフ?」

「ええ、その巨大屋敷なんですがね。使用人を募集しては居るんですが辞めて行く者はいないんですよ。」

「妙ね?」

「ですよね?そんなに沢山雇う必要は無いですよね?」

「サキュ。今回はちと厄介な事になりそうじゃぞ?」

「そうね、普通じゃ無いみたい。」

「どうしますか?毎回違う相手からの信号じゃ特定も出来ないですし::」

「婆や。」

「サキュ、危険じゃが潜入してみるか?」

「そうね。悪が特定出来ないんじゃ手が出せない。かといって毎日反応しているのに見過ごす訳にもいかないわ。」

「具体的にどうやって潜入するんです?」

「使用人募集してるんだから私が募集を見たって言えば良いのよ。ウルフ、あなたもよ。」

「ええ、でも男は募集してなかったですよ?」

「平気よ。二人で来たって言えば。タダで働くって言えば大抵男手は必要だから雇ってくれるわよ?」

「じゃあそれで行きましょう!」

「婆や、行ってくるね。」

「ああ、あ、サキュ。今回もこれを!」

婆やはそう言うとサキュの額に触った。

「これで良し。効果はリセットしなければ一週間じゃ。」

「ありがとう。」

婆やは今何をしたのか?婆やは最初の予想通り不思議な術を使える。サキュに施したのは肉体を強化するものだ。具体的にはほとんど普通の人間であるサキュに、身を守る為の能力を授けるのだ。力は5つ。アクア、ウイング、シルファ、シールド。簡単に説明するとアクアは水中など酸素が無い場所での活動。ウイングは飛空能力。シルファは行動速度のアップ。シールドは先日サキュが使用したガラスのような銃弾を防いだあれだ。

一見すると素晴らしい術だが万能ではない。制約があるのだ。期限が決まっている。そして使える術は一つだけである。一度選んだ能力を使用すると、他の能力は術者にリセットして貰わない限り使えない。つまり婆やは同行しないのでサキュはよく考えて能力を選ぶ必要があるのだ。また、当然だがそんな人間離れした能力、体力の消耗が著しい為、長時間は使えない。更に、能力を使う為に、サキュ自身ある代償を払わなければならない。そんな訳で決して便利な能力ではないのだ。

屋敷を出たサキュとウルフはクリスタルの指した場所へ向かった。

 サキュの街から北西に数百キロ。移動には馬車が使われた。約二日で、目的地のあるフール山脈に到着した。ここは人里からはだいぶ離れた場所で、この山の上に、ひっそりと豪邸が建っていた。ウルフの話ではこの屋敷から反応が出ていたらしい。入り口には確かに使用人募集の紙が貼られていた。

「ここね、ウルフ。」

「ええ、いやあしかし馬車ってのはどうしてこう遅いんですかね。自分で走った方が早いですよ。」

「ふん、悪かったわね。私が足を引っ張ったみたいで。」

「あ、いやサキュ様、俺はそんなつもりで言った訳では!」

「まあ良いわ。行くわよ。」

サキュは玄関のチャイムを鳴らした。すると中から使用人らしき老人が一人出てきた。

「どなたかな?」

「初めまして。私サキュダークネスと申します。こちらがウルフ。そちらにある使用人募集の紙を見て、来たのですが?」

「ほう、こんな山の奥地にわざわざ御苦労さまです。直ぐにご主人様を呼ぶのでとりあえず屋敷に入ってくだされ。」

二人はとりあえず屋敷に入れて貰えた。

「ウルフ、屋敷に入った使用人は一人も出てこなかったのよね?」

「ええ、数日間で約10名、入ったきり誰も出てきてないです。ふもとの村の住人に聞いた話ではこの一年で300人以上の者が使用人としてこの屋敷に赴いたらしいです。ですが一人も戻ってきてない。道はふもとと屋敷を繋ぐ道、一本しかないのにです。」

「何かあるわね。」

「間違いなく。」

応接間に案内された二人は、椅子に座り主人を待った。そして少しするとドアが開き、40歳位だろうか・・・紳士的な男性が部屋に入ってきた。

「!!!!」

その瞬間部屋の空気が一気に冷たく、そして重くなった!

「これはこれは、良く来て下さいました。」

主人は優しげで紳士的に接してきた。しかしそれに反してとても禍々しいオーラが出ていた。これは恐らく普通の人間には分らないのだろう。二人にだから気がついたのだ!

「私がこの屋敷の主、グレイブヤードと申します。皆はグレイブと呼んでいます。」

「初めまして。サキュダークネスです。こっちはウルフです。」

「二人はご存じかもしれませんが、この屋敷では沢山の使用人を募集してます。しかし皆、こんな辺境な場所では働きたくないのか、直ぐに辞めてしまうのです。ですから常に人手不足なんですよ。」

「:::では、我々を雇ってくれるのですか?」

「ええ、是非お願いしたいですが、詳しい話もありますし今日はもうすぐ日も沈む。今夜は泊まっていただいて明日、詳しく話しましょう。」

「お気使い感謝します。」

「では私はこの後仕事があるので失礼させてもらいます。何かあればマッドに申しつけて下さい。」

マッドと言うのは先程の老人のことだ。

「では。」

グレイブは部屋を出て行った。

「サキュ様、感じましたか?」

「ええ、あのオーラ、間違いなく彼は人間じゃないわね。」

「ではやはり人間になり済ました悪魔?」

「別に珍しい事では無いけどね。あなただってそうでしょ?」

「ですがあの感じ、おそらく負の悪魔でしょう。」

負とは人間に対して害がある事を示している。

「恐らく今までに来た使用人の人達はもうこの世にはいないわ。」

「なるほど、毎回違う信号が届いたと言うのは・・・」

「多分グレイブに殺される時に発したものだと思う。」

「サキュ様。こうしては居られません。直ぐに行動しましょう!」

「いえ、少し待って。グレイブが悪魔だとしてもあくまでまだ私達の推測にすぎないわ。」

「ですが。」

「それに気がついた?あいつずっと私を意識していたわ。ふもとで聞いた話では使用人のほとんどは女性だったって話しだし。奴は私を狙っている。」

「なおさら危険です!」

「私に考えがあるの。」

サキュはウルフに何かを伝えた。

夜になった。屋敷の地下にグレイブがいた。

「へへへ。あのサキュとかいう女。何とも旨そうだ。健康的かつ繊細な血が流れているに違いない。」

グレイブはワイングラスでワインを飲んでいた。いや、ワインではない。なんとそれは血液だった。それも人間の血液だ!

「助けて。誰か助けて!」

地下の牢に一人の娘が囚われていた。

「ああ、うるさい。ここは地下。騒いだって誰も来やしない。静にするんだ。」

「ううう。」

「マッド。居るか?」

「はい。グレイブ様。」

後ろからマッドが現れた。

「例の二人はどうした?」

「はい、風呂に入り別々の部屋で就寝しました。」

「そうか、ではそろそろ行くか。」

「左様で、ところでこの娘は今夜の食事にするのでは?」

「ひっ!」

「ふん、予定変更だ。今夜はあのサキュと言う女の血を頂く。おい、良かったな娘、命が一日伸びたぞ。」

「::::::」

二人は地下を出てサキュ達のいる部屋に向かった。

「グレイブ様。」

「何だ?」

「あの男の方は私が頂いてもよろしいですかな?」

「ああ、構わん、好きにしろ。」

「ありがとうございます。では!」

マッドはウルフの部屋に行った。そしてグレイブはサキュの部屋に到着した。

「ふふふ、寝ている。馬鹿な女だな。自分からこの屋敷に来るなんて。」

グレイブはサキュの目の前に来た。

「では、貴様の生き血、頂くぞ。」

グレイブはそう言うと勢い良くサキュに襲いかかった!その瞬間!

「うわ。何だ!」

突然部屋の電気が点いた!そして目の前に居たはずのサキュが消えていた!

「馬鹿な?」

「馬鹿はあなたよ、私の血を狙うなんて。」

振り向くとそこにはサキュとサキュをお姫様抱っこしたウルフがいた。

「男。貴様何故ここに!」

「グレイブ様―!」

そこに慌ててマッドが駆け付けた。

「いない。男が部屋に居ません!」

「ふ、間抜けが。俺はここにいるぜ。」

「あっ。何故ここに!」

「馬鹿め。俺とサキュ様は一心同体。常に床を一緒にして::」

「ウルフ。黙りなさい。」

「う。」

「グレイブ、あなたが普通の人間でない事はバレているわ。正体を見せなさい。」

「むう。お嬢さん方。感が鋭いみたいですね。だが、こんな事は初めてではない。たまに私の正体に気が付き退治しに来た英雄気取りもいた。だがそんな時は死んでお引き取り願っているがね!」

グレイブはそう言うと突然体が膨張した。そしてそう、丁度以前サキュが悪魔を呼んだ時の様な空間になった。風が吹き、雷が起こった。ウルフはサキュを抱き、家の外に飛び出した。

「ち、サキュ様。あいつやはり悪魔でしたね。」

「そうね。ここで迎え撃つわ。」

「了解。」

程なくしてグレイブとマッドが追いかけてきた。グレイブはタキシードの様な服を身にまとい、マントを付けて手にはステッキを持っていた。そして周りには黒い影が多数飛んでいた。コウモリの群れだ!

「やはり、奴はヴァンパイアね。」

「吸血鬼ですか。サキュ様、間違っても血を吸われないで下さいよ!」

「当たり前よ、気持悪い。」

サキュは目の前に闇を作り、髑髏のステッキを取りだした。

「あ、サキュ様。相手は不死と言われる吸血鬼。恐らくゴルゴンの石化は効果が薄いかと!」

「大丈夫よ、いいからあなたはマッドの方を頼むわ。あの老人も悪魔よ!」

「お任せあれ!」

ウルフはマッドに向かって行った。

「冥界に住む闇の住人よ、我の声に応えその姿を現したまえ!」

サキュも悪魔を召喚した。

「エリゴス!。」

サキュが召喚したのは騎士の姿をした悪魔、エリゴスだった。悪魔には見えない壮観ないでたちでまたがる馬に悪魔の羽根が生えているのでそれで何とか悪魔と判断できるくらいだ。彼自身は地獄の一流の騎士である。

「これはこれはサキュ殿。久しいですね。」

「エリゴス。出てきて早速で悪いんだけど今回の相手は人間じゃないわ!」

「なんと。では同族同士の戦。」

「うん。あいつ。ヴァンパイアのグレイブ。勝てる?」

「ふ、笑止。騎士たる私があのような輩に負けるわけがない。では、吸血鬼、参る。」

エリゴスと馬は凄い速さでグレイブに迫った。

「うおい!貴様エリゴスか!。何故悪魔が人間を助ける!」

カキーンという音と共にエリゴスの剣がグレイブのステッキにぶつかった。グレイブは勢いで後ろに吹き飛んだ!

「いててて。何なんだ一体。」

「吸血鬼。貴様に恨みは無い。だが、我が主、サキュ殿が敵と認めた以上、貴様を生かしておく訳にはいかんな。」

「ち、反則だろ。俺はただの吸血鬼。不死とは言えあんたみたいな騎士とまともに張り合えねえよ!」

「エリゴス。あいつはもう何百という命を自分の快楽の為に奪ってるわ。情け無用よ!」

「おおお、怖いお嬢さんだ。先にあんたに死んでもらうか?」

グレイブはしもべのコウモリでサキュを襲った!

「サキュ殿危ない!」

「1000匹のコウモリから逃げられるか?」

「この数、シールドで防ぐのは無理ね::」

サキュは今回使う能力をシルファにした。襲いかかるコウモリを素早く避けた。

「何だあの速度は。あの女本当に人間か?」

「エリゴス。私は平気、早くそいつを!」

「了解、と言う訳だ。貴様、死んでくれ。」

エリゴスは再度攻撃した。

「うおおお!」

たまらずグレイブは空中に逃げた。しかしそれはエリゴスに対しては逃げたうちには入らなかった。

「お前、我が悪馬が空を飛べると知らぬ訳でもあるまい?」

遂にエリゴスの剣がグレイブを貫いた!そしてそのまま壁に槍を突き刺した。

「ぐええ!」

「サキュ殿。その場に伏せて下さい!」

「え?」

サキュは言われた通りにした。

「コウモリ共め、散れ!」

エリゴスは持っていた剣で真空の刃を飛ばした!

「きききき!」

コウモリ達はたまらず森へ逃げて行った。

「ふう。ありがと、エリゴス。」

「何、ご無事で何より。」

「あ、ウルフは大丈夫かな?」

その頃、ウルフはマッドと対峙していた。マッドもやはり人間ではなかった。

「やれやれ。お前さん達二人を招いたせいでとんだ事になったわい。」

マッドはゾンビ人間だった。

「ゾンビか。所詮人間の死にぞこない。俺の爪で成仏させてやるよ。」

ウルフは右手を巨大な爪に変えた。

「ほほ、お前さん狼人間かね?」

「ウェアウルフと言って貰おうか?。」

「しかし一部しか変形出来ない所を見るとお前さん雑種か?」

「さあね。お前を倒すならこの爪一本で十分だがな!」

ウルフの鋭い攻撃が当った。しかしマッドは平然としていた。効いてないようだ。

「私はゾンビ、命など既に無い。そしてグレイブ様により吸血鬼の力も授かった。お前にわしを倒せるかな?」

ゾンビとは思えない素早い動きで今度はマッドがウルフを攻撃した。

「うおっ」

マッドは口から硫酸を吐いた。寸前ウルフは避けた!

「あぶねえ。爺さんちょっと待て、タンマ!。俺は本当はあんたを殺そうとは思って無いんだぜ?」

「何を今更、命乞いか?」

「違う!ゾンビってさ、この世に無念を残した人間が成仏できなくて留まるんだよな?」

「そうだ。それがどうした?」

「爺さん。何かこの世に未練があるんだろ?」

「そ、それは::」

マッドが急に静かになった。

「何があった?」

「ち、お前に話した所でどうこうなる訳でもない。だが、お前のくだらない詮索のせいで殺す気も失せたわい。」

「爺さん。」

「しかしだ、私を吸血鬼に変え、寿命を延ばしてくれたグレイブ様への義理もある。簡単に引き下がる訳にもいかんのだ。本当にお前さんがわしを思っていてくれるなら、力でそれを示せ!」

「つまり、あんたに勝てば良いんだな?」

「そうじゃ。」

「んじゃ、見せてやるよ。今夜は満月だ!」

そう言うとウルフは大きな声を出した。

「おおおおおおおおおおおおおお!」

「お、おお。こ、これは、見事じゃ!」

ウルフは一部では無く体全体を狼化した。身長6メートル位はある。見事なウェアウルフだ!

「どうだい爺さん。これが俺の真の姿だ。この姿の俺と、戦う気はあるかい?」

「いや、勝負は見えている。わしの負けじゃ。」

「よし、じゃあ一緒に来てもらおう。」

ウルフは直ぐに元の姿に戻った。マッドもそれに応え、人間の姿になった。

 二人はサキュの所に合流した。

「あ、あなたマッド?」

サキュは珍しく驚いた。戦っていたはずの二人が戦闘態勢を解いて歩いて来たのだ。

「おっとサキュ様。こいつはもう敵じゃあないぜ?」

「ごほごほ、マッド、貴様俺を裏切るのか?」

「グレイブ様。そんなつもりは毛頭ありません。ですが、我々はむやみに人を殺め過ぎました。裁きを受けるべきです。」

「ちくしょうが!」

「エリゴス。」

「サキュ殿。こちらの老人はまだ裁くべきではないかと。」

エリゴスはマッドの近くに寄り、マジマジと顔を見た。何かつぶやいた様にも見えたが聞こえなかった。

「そう。」

「サキュ様。ゾンビってのは必ずこの世に未練が残った奴がなるもんだ。ましてこの爺さんは自分の罪を認めている。」

「ウルフ・・・」

「良いわ、マッド。あなたは一度私達の屋敷に来てもらう。その後の裁きは婆やに決めて貰いましょう。ウルフ、それで良いかしら?」

「サキュ様、ありがとうございます。爺さん、やったな。まだチャンスあるぜ!」

「ううう。ありがとうですじゃ。」

「で、サキュ殿、こいつはどうする?剣で貫いたまではいいが、不死だから死なないぞ?」

「げほ、そうさ、私は不死だ。」

「ウルフ、吸血鬼が嫌いなもの。知ってるかしら?」

「確か、にんにくと十字架では?」

「そうね、でもそれは迷信よ。」

「そうなんですか?」

「でしょ?グレイブ。」

「け、それが何だ!」

「でも、太陽の光はどうかしらね?」

「うぐ、そ、それは。」

「他にも方法はあるけれど、あなたを裁くにはそれが一番だと思う。エリゴス、悪いけど夜明けまで居てくれる?」

「構いませんよ。その方がこちらも都合が良い。」

「ありがとう。」

 そして、数時間後、夜が明けた。

「うがああああ、ちくしょう、溶ける、体が溶ける!」

槍に刺されたグレイブは太陽の光を浴び、溶けていった。

「間もなくだな。サキュ殿、準備を。」

「分った!」

サキュはステッキで円を描き、冥界の扉を開いた。エリゴスは溶け行くグレイブを見つめながら話しだした。

「悪魔と言うのは本来実態を持たない。大抵の場合、地上に長く留まれる悪魔は雑種であるか::」

エリゴスはウルフを見た。そしてまたグレイブを見た。

「または悪意を持つ人間に憑依している場合がほとんどだ。」

間もなくグレイブは完全に溶けた。そこから一匹のコウモリが現れた。エリゴスは素早くそいつを捕まえた。

「ふん、実態を持たねば吸血鬼とはこんな者か。」

「色々ありがと、エリゴス。」

「ああ、また何かあれば呼んで下され。こいつは報酬として貰って行く!」

エリゴスはコウモリになったグレイブを持ち、冥界へ帰っていった。

「マッド、屋敷に生き残っている者はいるの?」

「はい。地下に一人。更にその下の階に9人の女性がいます。」

「サキュ様、ではおそらく先日来た者達は無事だったんでしょう!」

「ウルフ、その者達を解放するわ。マッド、案内しなさい!」

「分りました。」

サキュ達は囚われた娘達を解放した。

そしてふもとの村までウルフに送らせた。娘達にマッドと会わせる訳にはいかないのでサキュはマッドと屋敷に残った。二人は少し外を歩いた。外には沢山の墓が建てられていた。恐らくマッドが犠牲者の為に建てたのだろう。

「ねえ、マッド。あなたにまだ理由を聞いて無かったわね?」

「成仏しない理由ですかな?」

「そう、まあ、別に無理に話す事も無いけど」

「娘が、可愛い孫娘がいたんじゃ。」

「孫娘?」

「ああ、もう記憶があまり無いんじゃがな。それは可愛かった。それがある日突然、無残な姿で殺されていた・・・・」

「・・・・・・」

「わしは絶望して自分の体に油をかぶり、火を付けて自殺したんじゃ。だが、未練が残ったんじゃろうな。死してなお、ゾンビとして蘇ってしまったのじゃ。しかし不安定な体で何度も崩れかけた。そんなある日、グレイブに会ったんじゃ。そして彼に忠誠を誓い吸血鬼になった。」

「あなたをこの世に留めているのは復讐かしら?」

「ああ、そうだった。」

「そうだった?」

「ああ、わしはある日気がついた。娘を殺したのはグレイブだったんじゃよ。」

「え!」

「しかしもう手遅れ。吸血鬼として忠誠を誓っていたわしは、奴に決して逆らう事はできなかった。奴が死んで、今初めてこの事を話せるようになったんじゃ。」

「でも、恨みを晴らせたのならもうあなたは成仏できるのよね?なぜまだこの世界に?」

「あの時エリゴス様が私に言ったのじゃ。お前の無念はサキュ殿により晴らされた。恩には恩で応えてみてはどうだ?と。」

「そうだったの。」

「はい、あの方は全てお見通しだったみたいで。なので、もし許しがでればあなたの屋敷で働かせてもらいたい。」

「そうね、私は歓迎するわ。後は頑固な婆や次第ね。さて、私達もそろそろ行きましょうか。解放した娘を送ったウルフと合流しましょう。」

「はい。」

こうして、マッドはサキュ達と共に、ダークネス家に同行することになった。


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