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第五話



 世の中の諸君、おはよう。

 俺の名前は佐倉サクラ。漢字で書くと佐倉櫻。平仮名だとさくらさくら。やっぱり冗談みたいな名前だが、これが俺の名前である。

 俺の名前を決めるときに、いったい両親にどんな心理が働いたのか……それは俺の預かり知らぬところである。子供は自分の名前を選べないのです。

 いやまあ、確かにインパクトの強い名前だが、特に不満を感じたことはない。苗字や名前単体ではおかしな点はないし、読みにくい漢字を使っているわけでもないし。


 清々しい朝。俺はいつものように玄関の鍵を開けると、家の中へ入っていく。


 ところで諸君には幼馴染がいるだろうか。

 小さな頃から一緒にいる、あるいは付き合いがある相手。

 俺には二人ほど、その『幼馴染カテゴリー』に分類される人間がいる。男と女、一人ずつだ。


 玄関から入ってすぐにある、二階へ続く階段をゆっくりと登っていく。


 で、である。

 ゲームやアニメ、漫画なんかである『学校の登校日に、異性の幼馴染みが毎朝、自分の部屋まで起こしに来てくれる』シチュエーション。

 実際ありえると思うだろうか。

 いや確かに世界は広い。もしかしてもしかすると、奇跡的な確率で、実際にそういうことをしている奴らもいるのかもしれない。

 でも考えてみてほしい。特に異性の幼馴染みが実際にいるという人は、特に。

 今までその子が、自分のことを、わざわざ部屋まで起こしに来てくれたことがあったのかどうかを。

 恐らくはないだろう。


 階段を登り切った俺は、短い廊下を歩き、一番奥にある部屋の前に立った。


 しかし希望は捨ててはいけない。

 今からだって遅くはない。

 その幼馴染みの子を、明日の朝にでも起こしに行ってみるといい。突然家に行って、部屋まで押しかけて、「おはよう!」って全力の笑顔で言ってやるといい。

 きっと相手はこう思うはず。「自分のことをわざわざ起こしに来てくれるなんて、なんて優しいんだ! 好き!」って。

 そんな光景が世界にあふれるようになったら、きっと平和が訪れるだろう。


 ノックをするのも馬鹿馬鹿しいので、俺は勢いよくドアを開ける。


「あ、ちなみに当局は上記のことを実践された際に起こりうるすべての状況において、一切の責任を負いませんので悪しから……」


 部屋の中には、生まれたての天使がいた。

 ごめん間違えた。

 部屋の中には、俺の幼馴染みであり、恋人である鴻アヤがいた。当然である。ここはアヤの部屋だし。

 この時間、いつもならアヤはベットでぐーすかと寝てるのだが、今日は起きている。てかベットから降りてる。そして着替えの途中だったのか、上半身には衣服を何も着用していなかった。

 ばっちり、俺と目が合う。


「な、な……な……!」

「うーん……」

「おま、ちょっ……何見て……!」

「いやぁ……」

「だから…! 少しは目を逸らすとか……っ!」

「そろそろうちのまな板、新しいの買わないとなぁ」

「どういう意味だゴルァァァァァァ!!!!」


 緑色の何かが俺に向かって飛んできた。正確に言うとアヤが投げ飛ばしてきた。それは俺の顔面に直撃するが、ダメージはほぼない。ただの縫いぐるみなので当然なのだが。

 その縫いぐるみを手に取って眺めてみる。前から思っていたが、この縫いぐるみはなんだ?

 熊? コアラ? 犬? 猫? アザラシ?

 でもそいつらの皮膚って緑色じゃないよなあ……?


「いいからまずはドアを閉めろ! 着替え中なんだよ見りゃわかんだろーが!」

「いや今更隠さなくても。もう隅々まで見た仲じゃないか」

「見せた記憶ないんですけど?! え、まさか覗いたりしてねえだろうな?!」

「そういう犯罪行為はしてません」

「犯罪行為じゃなかったらしてるって言ってる! 怖ェ!!」

「脳内でだったら何度も脱がしてるし」

「怖ェ!! そしてキメェ!!」

「大丈夫、そのときは俺も全裸だから」

「全然大丈夫じゃねえんですけど!?」


 アヤが朝からうるさいので、俺は渋々扉を閉めた。いいじゃんか別に減るものじゃないし、俺は朝から目の保養になって今日一日何があっても乗り越えられる気がして超ハッピー。

 しかしまな板はマジで買おうかな。ちゃんとリスペクトしないとダメだと思う。まな板。


 ……さて、これで大体察してくれただろうか。

 幼馴染みが毎朝起こしにくるというシチュエーション。これで想像されるのは、女の子が男の子を起こしに来る、というものだろう。

 だが俺たちはその逆。男が、女を起こしに来るというものをやっている。ずっと何年も続けてる。

 だから世の中の、幼馴染みを持つ人たちに言いたい。

 諦めるな。

 諦めなければ、きっとできる。きっと叶う!

 幼馴染み、最高!


「朝から何ブツブツ言ってんだ……?」


 部屋の扉がゆっくりと開き、中から顔を出したアヤが小さくそう聞いてきた。

 もう着替えは終わったようで、ちゃんと制服を着てる。見た目は立派な女子中学生だ。


「バカやろう高校生だよ!!」


 えぇ……見えねえ……。


「いいのかよお前自分の彼女に向ってそれは! 自分は中学生を好きになりましたって言ってるようなもんだぞ!」

「お前だったら別に小学生でも可」

「許されねえよバカ!」


 朝から顔を真っ赤にして怒っている俺の彼女。見た目中学生。いや高校の制服着てるんだけどね?


「制服に着られてる感があるんだよな。小学生が卒業して、最初に中学の制服を着たのを見た時に感じるあれ」

「もう1年以上見てるだろーが私の制服姿。まだ見慣れてねーのかよ」

「眩しすぎて直視できなくて」

「あ? なんでだよ?」

「背伸びしてる感が出てて大変よろしい」


 腕を組みながら頷く俺を、部屋から出てきたアヤが蹴り飛ばしてきた。が、全然痛くはない。それはアヤが優しくて手加減してるわけではなく、ただ単に、絶望的なほどに、アヤが非力なだけである。


「いつかぜってー大きくなってやる……」

「揉んでやろうか?」

「どこをだよ!?」

「いや胸の話では?」

「身長だよ!」

「え? おっぱい?」

「一字も合ってねーしお前もう黙れよッ!!」


 まあ会話を楽しむのもこのあたりにしておこう。今日は平日であって普通に学校がある。こんなところでのんびりしていたんじゃ、遅刻待ったなしである。

 俺たちは一階に降りる。アヤはそのまま洗面台へ向かい、俺はキッチンへ足を向けた。

 今日の朝は何にするか。昨日アヤにリクエストを聞いたら「ピザ」とはほざきやがったが、朝からそんなの作る気もないし食べさせる気もない。ご飯とみそ汁、あとおかず一品ぐらいでいいか。


 キッチンへ向かう途中、リビングが目に入る。そこのテーブルに突っ伏している女の人を発見。

 珍しいこともあるなーと思いつつ、一応挨拶をしようと俺はその人に近づいた。


「おはようございます、リサさん」


 俺の声に反応して、うー、とか、あー、とか言ってもぞもぞするその人。近くのソファーには女性ものスーツが投げるように脱ぎ捨てられており、本人はすごく楽そうなジャージを着ていた。

 これは昨日、仕事から帰ってきてスーツ脱ぎ捨ててお風呂入って、そのままここで寝たなこの人…。

 むくり、とテーブルから体を起こすリサさん。髪がボサボサな上に目が座ってる。完全に寝起きであった。


「ああ、うん、おはよーサクラくん」

「こんなところで寝たら疲れ取れないでしょうに。さっさと部屋に行ってください」

「えー、やだめんどくさーい」

「いや、いい大人が高校生を困らせないでくださいよ。昨日も帰り遅かったんでしょ。ちゃんと体休めてください」

「やー、仕事だよ仕事ー。別に飲んだり遊んでるしてるわけじゃないよー」

「いやそこを疑ってるわけではなく」


 この人は鴻リサさん。お察しの通り、アヤの母親である。

 何の仕事をしているんかなんて詳しく聞いたことはないが、帰る時間が遅くなることも多く、たまにこうして自分の部屋に行かずに家のどこかで寝てたりすることがあった。

 一番驚いたのは廊下に突っ伏して寝てた時だな。玄関から入った瞬間倒れてる人を見つけた状況を想像してほしい。思わず叫びそうになったわ。


「食べるものはいつも通り作って置いておくんで、起きたら適当に食べてください」

「あー、いつもありがとねー。私ってさー、ほら、料理するとなんか食べた人倒れちゃうし?」

「知ってますからわざわざ宣言しなくていいです」

「サクラくんは料理のできない女は嫌いですかー?」

「そもそも同級生の母親とか攻略対象外ですごめんなさい」

「だよねー。ふふ、知ってたよー」


 眠そうながらも楽しそうに笑うリサさん。いつもどこか掴みどころのない人だが、寝起きの所為がいつもよりも性能が上がってる気がする。

 リサさんはゆっくりと立ち上がり、俺の前までゆらゆらと歩いてきた。


「でさー、サクラくん」


 俺の前でぴたりと止まる。


「思い出したー?」


 リサさんは、いつも俺に会うとこう聞いてくる。思い出したか、と。

 だから俺はいつもの通りに返してやる。


「だから何度も言ってます。思い出してません」

「そっかー。うん、そうみたいだね」


 リサさんは小さく笑う。それはまるで、大人が子どもに向かって「しょうがない子ね」って思っているような、そんな微笑みだった。いやまさに状況的にはその通りなのだが。

 でも俺の答えも、正確には違う。


 思い出してない、わけではない。


 そもそも『何も忘れてない』


 だから、思い出すものなんてない。


「それじゃ私寝るよー。おやすみなさいねー」

「はい、おやすみなさい」


 そう言ってリサさんは部屋を出て行った。おそらく自分の部屋に行き、本格的に眠るためだろう。

 しかし考えてみれば、自分の娘の朝食を準備を、友達の同級生、しかも男子に任せっきりにするというのは親としてどうなんだ?

 いや、こっちが勝手にやってることって言えばそれまでなのだが…。


 ま、いいか。とにかくご飯。朝ごはんを作りましょう。

 俺はいつも通りに、鴻家のキッチンに置きっぱなしにしてるラジオの電源を入れた。








 朝食を済ませた俺たちは、二人並んで学校へ向かっていた。

 ちなみに手は繋いでいない。この前繋ごうとしたらアヤから手を引っぱたかれた。なんでも恥ずかしいらしい。

 付き合ってるんだから手を繋ぐぐらい当たり前だと思うんだが、よくわからん。


「いやお前やっぱおかしいよ。絶対おかしくなってるよ」


 隣のアヤが疲れたように言ってきた。すごく心外なので反論する。


「恋人がいちゃつくのはごく自然のことだろ?」

「いやそういうことじゃねえよ。昔のお前って逆に、手を繋ぐなんて恥ずかしいことできるか、って感じだったじゃん」

「クールぶってたんだ」

「クールぶってたんだ?!」

「いいかよく聞け。好きな女がいて、その女が隣にいてだな。手を繋ぎたくないなんて考える雄はいない」

「雄とか言うな生々しい!!」

「でも恥ずかしいよな。それに、がっついてるなんて思われたくないとか思うよな?」


 俺はそこで一呼吸おく。


「クソくらえだ」

「は?」

「恥ずかしいのを我慢する程度のことで、お前を手を繋げるっていうなら俺は手を繋ぐ。他のことなんて知るか」

「…………」


 アヤは黙ったまま顔を赤くしている。うん、かわいい。かわいい湯でタコだ。


「っとに、調子狂うな……」


 頭をぼりぼりとかくアヤ。


「いい加減少しは慣れろよ。もう俺たち、付き合い始めてから半年ぐらいになるだろ」

「そ、そうだったっけ?」

「いやーあっという間でしたねアヤさん。プール行ったし、麗明祭やったし」

「なんかな……付き合いだしたって言っても、やることはほとんど変わってねーし、実感がさ…」

「だから手を繋いだりしようぜって話なんだが」

「外じゃイヤだ」

「中じゃいいの?」

「中って校舎の中ってことか? もっとイヤだなそれ」

「じゃあ家の中は?」

「家の中で手を繋ぐのか? なんで?」

「質問を質問で返さないでください。あと手を繋げるなら割とどこでもいい」

「マジかこいつ、どこまで私のこと好きなんだよ……」


 呆れたように言うアヤである。

 どこまで、と聞かれれば、どこまでも、と答えるしかないわけだが。


「あとさ。恥ずかしいってのは、誰かに見られるかもしれないから、ってことだろ?」

「ん、まー、そんな感じだよな」

「じゃあ誰も見てなかったらいいわけ?」

「……物陰に連れ込んだりするのはNGな」

「チッ」

「舌打ちすんなよ!」


 さて、どうすればアヤと手を繋げるだろうか。

 いや、もう一歩進んで、手を繋いで登校できるか、を考えてみよう。せっかくだし。


 強引に手を掴んでみるか?


 たぶん掴める。そして引き寄せられる。力を入れておけば振り払われることもないだろう。そしてそのまま学校まで歩いていけば、無事におててを繋いで登校できないだろうか?

 アヤを見る。俺の視線に気づいたアヤは、しょうがないものを見るような目…呆れてるような、諦めてるような目…で俺を見返してきた。

 ダメだな。こいつ絶対暴れるわ。子どもが父親の腕にしがみ付くかのように暴れ続けるだろう。それは恋人同士がやるような光景ではないし、情緒もへったくれもない。


 餌で釣ってみるか?


 たぶん釣れる。しょうがねーなー、なんて言いながら手を握ってくる。もちろん、それはアヤの恥ずかしさを帳消しにできるような「餌」を用意できたらの話であるが。


「なあアヤ」

「あ? んだよ?」

「俺のこと好きか?」

「ぶはッ! ぐ、え、な、なんだよいきなり!」

「俺のことが好きですかね?」

「い、いやまあ? 嫌いだったら付き合ってねーし、その」

「好きか、嫌いか?」

「うぐ…………好き……だけど……」

「じゃあ俺のこと好きなら、手を握ってくれ」


 俺は自分の右手をアヤの前に差し出す。

 これぞまさに、自分自身を餌にして釣ってみるゲーム!


「はぁ?! なんで好きだったら手を握らねーといけねえんだよ!」

「好きじゃないの?」

「そんなこと言ってねーじゃねえかよ!」

「嫌いなのか…」


 俺は力なく、アヤの前に差し出していた右手を下ろした。


「ごめん、強引だったな。もう行こう」


 アヤの顔を見ないようにして、俺は歩き出す。

 さて、これでアヤはどう出てくる…?


「まっ……待てよ!」


 はい、待ちます。

 俺は立ち止まると振り返った。そこには湯でタコがいた。ごめん天使がいた。間違えたアヤがいた。

 アヤは俺のことをしばらく睨みつけると、すっ、と自分の手を差し出してくる。


「ん!」


 俺は天を見上げた。

 神なんて基本的には信じちゃいないが、今は。今だけは感謝したい気分だった。


「センキューゴッド」

「な、なんだお前……泣いてるのか?」

「お前がいるということ。それはもう神の奇跡と言ってもいい」

「何言ってんの?」


 呆れ顔だった。

 まあなんだ。とりあえず握ろう。握らねば。握るべきそうすべき。

 俺はアヤの前まで戻ると、差し出されたアヤの小さな手を優しく包み込むようにして……


「朝から何を見せられているんだ……?」


 俺の後ろから声がする。

 知っている声だ。だが今は知らない声だ。邪魔すんな。


「おっ……おうケイ! おはよう!」


 アヤはバッと手を引くと、俺の横をすり抜けて声の主へと走って行く。

 声の主はケイ。俺とアヤ共通の幼馴染みで、同じ学校に通うクラスメイト。

 俺もゆっくりと振り返り、大切な親友へ朝の挨拶をした。


「邪魔者には死を与えねば。おはよう」

「物騒な台詞吐いたあとに挨拶すんな! お前らこそ朝っぱらからイチャついてんじゃねーよ!」

「何言ってんだ高校生のカップルだぞ。イチャつくのは当然だろうが!」

「ねえちょっとこの人怖いです! お前キャラが変わりすぎだって!」


 なんだよアヤといいお前といい、そんなに今の俺は変か?

 ちょっと自分の気持ちに素直になっただけなんだが。


「そこを理性で抑えてるのが現代人の正しい姿だと俺は思うな!」


 うっさい。なら俺は原始人でいい。


「そんなにまでしてイチャイチャしたいのかよこの野郎がぁ!」


 ケイは両手を握りしめながら天を仰ぎ叫ぶ。

 そりゃあもう、ええ、イチャイチャしたいですよケイさん。なんなら今から学校行くのやめて、そのままどこかにアヤと二人で消えていくのもヤブサカではない程度にはね。


「な? こいつちょっとおかしいよな?」

「なあトリ、お前がこいつになにかやったんじゃねーの? 洗脳とか」

「私の所為にすんなよ! こちとら被害者だっつーの!」

「被害者ねぇ……にしてはちょっと嬉しそうだよな。お前」

「そそそそんなことねえし!? 何言いだすんだよテメェは!」


 ケイの言葉を受けて、アヤが目に見えて動揺する。顔を真っ赤にしながらケイに殴りかかるが、ケイはそれを一歩後ろに下がって回避した。


「ぼうりょくはんたーい」

「っせえ! 一発殴らせろ!」

「おお怖ぇ。でもお前もオンナノコなんだから、もちっと自分の言動と行動、省みた方がいいと思うぜ」

「お前を殴ってからカエリミルことにするわ!」


 そんなことを言いながらいつものように殴り合いという名のじゃれ合いを始める二人だが……

 ちょっと待ってケイさん。お前に言いたいことがある。


「ん? なんだサクラ。俺ちょっと今忙しいんだけど」


 アヤの蹴りを防御もせずに受け流しながらケイが振り返る。

 俺はそんなケイを指さしながら、言った。


「ずるい」

「は?」

「俺もアヤとじゃれ合いたい!!!!」

「うおわ!?」


 俺はケイの腕を掴み、力ずくでその場から退かした。代わりに俺がそこに立つ。

 そして前の前には、少し戸惑ったようなアヤの姿。


「さ、サクラ、おめーいったい何を……?」

「親友の失言は俺の失言。俺が代わりに殴られよう!」

「ちょっとケイこいつ何とかしろ! 気持ち悪いこと言い出したんだけどぉ!?」

「あ、ごめん。ケイのこと親友なんて言って、気持ち悪かったよな」

「違うそうじゃねぇ!!」

「って親友じゃなかったの俺たち!? さりげなく爆弾発言じゃないかそれ!?」


 アヤとケイから同時に怒鳴られる。なんだなんだ、そんなに変なこと言ったか?

 まぁいいや。とりあえずほら、早く攻撃を仕掛けてこいアヤ。俺と遊ぼうじゃないか。


「うっわすっげやりずれー……ていうかもういいよ。やる気なくなったよ」


 がっくりを肩を落としてアヤがそう言う。

 えーもう終わりなの? 俺と全然やりあってないじゃないか。

 ほら、一発。一発だけでいいから。拳を打ち込んで来い?


「えぇー……?」


 すんごく嫌そうな顔をするアヤ。なんだよ何が不満なんだよ。

 まあ? お前の非力なパンチなんかじゃ、俺に少しもダメージなんぞ与えられないし?

 やるだけ無駄ってことならしょうがないよな。よしじゃあさっさと学校行くか。


「……待てよ!」


 はい、待ちます。


「それは聞き捨てならねぇなぁ…? 私のパンチが非力だって?」


 いやうん。それはそう。


「じゃあ一発受けてみろやァ!」


 アヤが体を捻り、おそらく全力であろうパンチを俺に向かって打ってくる。

 こんなにも安い挑発に簡単に乗ってくれるアヤは、うん。最高にかわいいな。

 俺はアヤの拳を左手で受け止めた。悲しいぐらいに簡単だった。

 その左手にグッと力を籠め、アヤの右手を捕まえる。


「なっ……ちょ、離せよ!」


 はーい、指を開きましょうねー。


「何やってんだよぉ!?」


 はいアヤの手のひら登場。それに俺の手のひらを重ねて……

 指の間に指を入れて、ぎゅっと繋ぐ。


 これぞ、恋人繋ぎである!


「何やってんだよぉぉぉ!?!?」


 顔を真っ赤にしてアヤが繋がった手を振りほどこうとするが、できるわけがない。

 俺が離すわけがないのだから。


「結局こうなるのかよ」


 呆れた様子のケイがそう呟いた。付き合ってられんといった風に、学校へ向けて歩き出す。


「ま、待ってケイ、何とかしてこれ! 助けろ!」

「爆発しろこのバカップルが」

「バカップルってなんだよ! 私はやりたくてやってるわけじゃ……離せよぉ!」


 繋いだ手をぶんぶんと振りほどこうと必死なアヤ。

 うーん、繋いでみたはいいけど、やはりこれだと情緒もへったくれもないなぁ。


「なぁ、アヤよ」

「なんだよさっさと離せよ!」

「俺と手、繋ぐのイヤ?」

「恥ずかしいって言ってんだろーがぁ!」

「ここで手をぶんぶん振って、大声上げてる方が恥ずかしいと思わないか?」

「んぐっ……」


 アヤ、俺の言葉に動きを止め、周りを見渡す。

 今のところは誰もいない。しかしアヤの声は結構響いており、見えないところでアヤの声を聞いている人がいないとは限らないだろう。


「学校まで。学校の敷地に入るまででいいから。今なら人もそんないないし、隣を自然と歩いてればそんな気づかれないって」

「うっ……うううっー……」

「こんなところで立ち止まってないで、さっさと学校行っちゃえば、手、離せるぞ?」

「お前……おまえぇぇー……」


 恨みがましく俺を見るアヤだったが、ついに観念したのか俺の真横に並んだ。

 手を、ぎゅっと握ったまま。


「顔、真っ赤だぞ、アヤ」

「うっせ……お前だって、顔赤いじゃんかよ」

「そりゃ、お前と手を繋げて、すげー嬉しいし」

「……………うっせ」


 そうして俺たちは、学校への道を歩く。

 




第四話投稿が2012年5月……(絶句)

色々ちょっと古臭さを感じるのは仕様です。

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