クズみたいなこんな世界でも美しいものがまだあったなんて
最近は、アニメや漫画に溢れてる異世界モノ。転生したり転移したり、忙しそうだけど、総じて今の世界に嫌気がさした人々ばかり異世界で幸せを勝ち取っている。それは今の世界に魅力が足りないのだろうと示唆しているみたいで。
自分が子どもの頃に別の世界で冒険をしたい、そう思ったこともあっただろうが、アレはこの世界に戻ることが前提のものばかりだった。むしろ、この世界に帰るために戦うことを厭わない、そんな前向きなものばかり。今はどうだ?まるで逃げても良いと言うかの如く、苦痛に塗れた大人たちが、この世界から抜け出すために異世界の扉を叩いている。そんなことばかり起きているのではないか、この世界がクズみたいなものだから、希望も夢も、何もかも見えない世界だから、逃げ道を物語に夢想しているのだろう。
では、何故私がこんなことを考えているのか?また、目の前の同僚が、辞めるのだそうだ。この仕事を辞めて新たな人生を歩むという。めでたいことであるし、祝いたいという思いもある。けれど自分は変われぬがまま、この場に留まることが決まった存在だから。どうしようもなく、苦痛が伴ってしまう。私は何度、目の前にする同僚を見送ったか。今はもう覚えてられない。
それでも、私が未だこの場から動けないのはひ弱だからである。何も決められない、現状に満足を出来ているとは言えない中であるが、辞める勇気すら浮かんでこない。この環境が変わることに、恐怖すら抱いている。どうしてか、これを聞かれても‘わからない’と宣うしかないのであるが、一つだけ、変われない思いがある。彼女だ。
「先輩、また4月からは人が減りますね、、、新しい人、配属されるかな…??」「わからないわ。時期を見ないと人事は私たちに通達してこないもの。折角、動き出したところだったのに、また、初めからになるなんて。。。」「うぅ、、、。なーんで私たち、こんな環境なのに辞めないでここに居続けてるんですかね??私たちも、そろそろ、この場を退場しますか…?」そんな死んだような暗い目をした彼女が、私にも退職を勧めてくるけど、私はまだ、動けないから、辞められない。「そこで何で、複数形になるのよ、、、私を入れて計算する意味ある?」そう愚痴のような返しをして、この子の冗談に付き合う。
「そんな、、、!!先輩と私は一連托生じゃないですか…?!最後まで、へばりついてでも、着いて行きますからね!!」そう、語気を強めて睨んでくる彼女。もう、好きにしてくれ、そんな思いで「わかったから、私が辞める時も貴女が辞める時も、一緒だから、今はこのタスクを終わらせましょ。」そう、今日も確定する残業を今から終わらせるべく、黙々と進め出した。
私は、彼女の天真爛漫なところに魅力を感じていた。この子がそばに来るだけで、周りが華やいで、人も活気付く。そんな彼女と共にいたくて、このままを辞められないで進んでいる。けれど、いつしか彼女は、いつも薄暗い目をしているようになった。
理解のない上司。終わりのないタスク。終わっても終わっても、次が来るこの仕事。我々がいなくても回るのに、まるで居ないと回らないような物言いをする同僚たち。そんなことはない。皆んな同じことをしているだけでないか。だけど、それを見ている人たちは自分らに火の粉が被らないよう、我々に求めてくる。次はこの続きをしてくれ、、、これが、一年繰り返されるのだ。やっと、異動の季節になっても、周りが抜ける穴埋めに、また我々は固定されたまま。こんな、理不尽があっていいのか。これは、搾取である。そう、思い数年経った今、彼女の明るく穏やかだった横顔が、険しく薄暗いものになってしまって。ジョークだって、暗いものばかり。全てを恨むような言い草に。
まるで、私の生き写しのような話し方。
この子の笑顔を奪ったのは、私ではないか、なんて思えてしまう。
この世界がクズだから、いっそのこと、私たちを異世界に飛ばして欲しい。このクズみたいな、環境から終わりを迎えたい、そう願ってやまない。
「先輩、、、」「なぁに?」「私、どうしてまだこんなに仕事を辞めないか、知ってますか??」「…知らないわ。貴女の理由、聞いたことないもの。」
「ふふ。そうですよね。私も、先輩に言ったことないですもん。」それなら、早く答えを教えて欲しい。この問答自体がロスになるのだから。そう、心の狭くなっていた私は思ってしまったけれど。「それはね、どんな時でも、辛くても、悔しくても、先輩が、私を庇って前に立って働いてくれるから、私、まだ一緒にこの場に留まりたくて、耐えてるんです。だから、先輩が居ないと、私、とっくにこの場にいません。」そう、告白まがいの自白をしてきた貴女。いや、それを今この場でいう?まだ就業時間なんだから。ああ、なんだ精神が参ってしまって戯言を垂れてしまっているのか??そう、思っていたけれど。「先輩、信じてませんね?まして、気が狂ったなんてこともないんですから。私、本気ですよ。先輩が、支えてくれたから、まだここにいたいんです。貴女が居ないと、私、今がないんですからね。」プリプリと頰を膨らませ、可愛いことを言ってくる彼女。「そ、そんなこと言っても、私貴女に返せるものなんて、ないもの。むしろ、私の方こそ、ここまで助けてくれる貴女に感謝してるし、ずっと心配してる。だから、貴女が困った時は、いつでも助けたいと思ってる。貴女を守りたいと思ってるわ。」なんて、まるで、告白みたいなこと、返してしまった、、、!!!
「ホントですか?!先輩!!私も、先輩をずっと守りたいって、大好きって、思ってます!ずっと一緒にいたいんです!!」そう、先程までの死んだ目が打って変わって、昔みたいなキラキラの明るい瞳を私に映してきて。
「え、え、あ、、、わ、私も、ずっと、貴女と一緒がいいわ。貴女と、共に生きていきたい……!!」「やった!それなら私たち、両思いですね!!それなら、私たち、これからも2人で頑張って生きましょう?!」
なんだか、‘行きたい’ではなく、‘生きたい’と言われた気がした。ていうか、公衆の面前で、あ、愛の、告白まがいなことをしてしまったのでは、、、?!
そう、頭を抱えていると、先程まで挨拶をしていた、辞める予定の同僚が、、、
「ふ、2人とも、おめでとう?これからの人生を2人仲良く、過ごしてね??あ、あと、最後に仕事、まとめて置くから、ちょっと休憩してもいいんじゃないかな??」そう、キョトキョトしながらも、何故か祝福と共に時間をし作ってくれていた。祝福される側が、いつの間にか、祝福する側に早変わりしているなんて、どうかと思うけれど、とても、今それどころじゃ、ない…!!私、なんてことを?!
そう、思ったけれど、後の祭り。もう時間は戻らない。こなクズみたいな世界だったはずなのに、彼女と過ごせるとわかったら、とても世界が、美しいもののような気がしてきたなんて、私も現金なものだ。
「先輩、これから2人で幸せを見つけましょうね。」ニコニコと微笑む君に、私は、その美しい笑顔にまた恋焦がれ、小さな幸せを噛み締めた。
ああ、私は異世界になんて、逃げる必要もない幸せ者だったのだ。それに気づけたことが、幸せで、これからを前向きに変わることを夢にみれる。そう、気づけたのだ。ありがとう、大好き。
その後、2人してこの仕事を辞める決意をして、とうとう、辞めることに成功した。同時期に、2人の新居まで探して同棲をしながら転職先を探したら、とてもホワイトで、2人してクズみたいな世界から抜け出せた。彼女の笑顔は、あの頃のように、眩しく愛らしく。
世界は、思ったより美しかった。
「先輩、私は貴女がいれば、どこでも美しく幸せな世界ですよ。」本当に、彼女にはずっと敵わない。




