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杖をつく王子と、忠誠の獣たち 〜転生した第六王子は魔力最強ですが、肉体が弱すぎるので裏から国を乗っ取ります〜  作者: guju


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第8話 遅れてきた正義





王都南区は、すでに“街”ではなかった。


露店が並んでいた通りは踏み荒らされ、

石畳には血と瓦礫が散乱している。


悲鳴。

怒号。

泣き叫ぶ子どもの声。


人々は走り、転び、立ち上がり、また逃げる。

だが、どこへ逃げても安全な場所はなかった。


異形の魔物たちは、明確な意思を持って動いていた。


「――囲め!」


騎士団の号令が響く。


南区に展開したのは、第三・第五混成部隊。

数としては不足。

装備も、対魔物用としては最低限だ。


「前列、盾を固めろ!

後列、牽制魔法!」


魔術師が詠唱を開始するが――


「……っ、効きが悪い!」


放たれた魔弾が、魔物の外皮で弾かれる。


「硬すぎる……!」


「普通の魔物じゃないぞ、これ……!」


騎士の一人が、異形の腕に弾き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「くそっ……!」


指揮官が歯噛みする。


(遅い……!)


本来なら、第一部隊がとっくに到着しているはずだった。

だが、王城からの増援はまだ来ない。


理由は、明白だった。


王都各地で、同時に小規模な魔力反応が発生している。

明らかな陽動。


「……やられたな」


誰かが、呟いた。


その頃。


王都の“夜”は、別の速度で動いていた。


屋根の上。

路地裏。

建物と建物を繋ぐ影の隙間。


黒い外套の一団が、音もなく配置についていく。


合図はない。

号令もない。


それぞれが、すでに役割を理解していた。


「……数、増えてるわね」


ミレアが、屋根の端から街を見下ろす。

月明かりが、彼女の横顔を照らした。


「操られてる人間が、混じってる。

しかも、だいぶ無理させてるわ」


「壊れる前提、ってことか」


隣で、レイが舌打ちする。


「胸糞悪ぃな」


「でも、やることは同じよ」


ネイが静かに言う。


「止める。

それだけ」


別の区画。


ロガディンは、瓦礫の陰で様子を見ていた。


義手の指が、きしりと音を立てる。


「……統制が取れすぎてる」


魔物の動きは、明らかに戦術的だった。

騎士団の陣形を避け、民間人を追い込み、混乱を拡大する。


「魔物、じゃないな」


低く呟く。


「“兵”だ」


その瞬間。


一体の魔物が、騎士の背後から飛びかかろうとした。


――だが。


次の瞬間、その魔物の首が、音もなく地面に転がった。


騎士は、何が起きたか理解できない。


ただ、背後に立つ“黒い影”を見て、息を呑んだ。


顔は見えない。

口元を覆う黒いマスク。

外套が、夜に溶けている。


影は、何も言わず、次の獲物へと消えた。


「……今の、見たか?」


「な、なんだ……?」


騎士たちがざわめく。


別の場所でも、同じことが起きていた。


魔物が、突然倒れる。

血が噴き、動きが止まる。


だが、倒した者の姿は、誰にもはっきり見えない。


「……援軍?」


「いや……騎士団じゃない」


混乱は、さらに深まっていく。


地下の別邸。


イオルは、椅子に座ったまま、静かに目を閉じていた。


モルが、肩に絡みつき、魔力の流れを補助している。


「……被害は?」


「最小限に抑えています」


ロウが即答する。


「ですが、操られている人間の割合が……」


「分かっています」


イオルは、ゆっくりと息を吐いた。


「殺しすぎないように。

“止める”ことを優先してください」


「……はい」


イオルは、目を開ける。


エメラルドの瞳に、揺らぎはない。


「騎士団は、正義として遅れてくる」


淡々と告げる。


「その間に、夜が仕事を終える。

それでいい」


王都南区。


ようやく、遠くで角笛の音が響き始める。


第一部隊の到着。


だが、その頃にはすでに――

街の“最悪”は、静かに刈り取られつつあった。


誰にも知られぬまま。

誰にも名を呼ばれぬまま。


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