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杖をつく王子と、忠誠の獣たち 〜転生した第六王子は魔力最強ですが、肉体が弱すぎるので裏から国を乗っ取ります〜  作者: guju


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第3話 地下円卓と忘れられた通路



 建国三百年記念日の喧騒が、王城に満ちていた頃。

 その城の地下深くでは、誰にも気づかれぬまま、別の“集まり”が始まろうとしていた。


 王城西翼。

 今では倉庫としてしか使われていない、古びた石造りの小部屋。


 壁には装飾もなく、床には細かなひびが走っている。

 ここが、かつて王族と一部の貴族しか知らなかった「通路の入口」だと覚えている者は、もはやいない。


「……相変わらず、湿っぽい」


 イオルは杖を突きながら、低く呟いた。


 彼の肩口には、一匹の黒猫が静かに乗っている。

 艶のある毛並み、鋭い金色の瞳――擬態したスライム、モルだ。


 モルはイオルの魔力の流れを感じ取るように、ぴたりと身体を寄せている。


「文句を言える立場ではございませんよ」


 背後からロウ・フェルツの声がする。


「王城から直接ここへ来られるだけでも、十分に贅沢です」


「まぁね。正面玄関から出てたら、今ごろ噂の種だ」


 イオルは苦笑し、視線を前へ向けた。


 壁の一部に刻まれた、ほとんど消えかけの紋章。

 ロウがそこに手を触れると、低い音を立てて石壁が動き出す。


 隠し通路。


 王城と、かつての元貴族の別邸――今はオルフェの商会が所有する地下施設を繋ぐ、忘れられた道だ。


「誰も、ここが生きてるとは思ってない」


「だからこそ、使える」


 イオルはそう言って、通路へと足を踏み入れた。


 石の階段は長く、薄暗い。

 灯りは最低限。

 足音が反響し、時間の感覚が曖昧になる。


 モルが、わずかに身体を伸ばし、イオルの肩に絡みつく。

 魔力の補助。

 表情には出さないが、長い移動はやはり負担がある。


「……ありがと」


 小声で礼を言うと、猫は小さく喉を鳴らした。


 やがて通路の先に、重厚な鉄扉が現れる。


 扉の向こうは、地下の円卓会議室。

 元貴族の別邸だった頃の名残を残す、異様に広い空間だ。


 ロウが扉を押し開く。


 瞬間、複数の視線が一斉に集まった。


「お、来たか」


 真っ先に声を上げたのは、ふくよかな体躯の男――オルフェ。

 高級そうな服を着崩し、椅子に深く腰掛けている。


「王子様のご帰還ですな。

 いやぁ、建国三百年とは、めでたい」


「皮肉にしか聞こえないよ」


「褒め言葉ですよ。

 私が信じるのは、私と金だけですから」


 いつもの口癖に、イオルは軽く肩をすくめる。


 円卓の反対側、壁際に立つ大男が、腕を組んだまま口を開いた。


「……王城はどうだった」


 ロガディン。

 かつて騎士団長として王城に仕えた男。


「想像通りだよ」


 イオルは椅子に腰を下ろしながら答える。


「祝われる王子と、忘れられる王子。

 はっきりしてた」


「だろうな」


 ロガディンは短く頷く。


「国は、人を駒としてしか見ない」


 その言葉に、双子が反応する。


「だから嫌いなんだよ、そういう連中」


 レイが吐き捨てるように言う。


「レイ……」


 ネイが小さく咎めるが、彼も否定はしない。


「王城ってさ、腹立つほど綺麗だよな。

 裏で何が腐ってるか、見えないくらい」


「見えないから、安心する人もいる」


 イオルは静かに言った。


「……それが、一番危ない」


 ミレアが、腕を組んだまま口を開く。


「三百年、か。

 血の匂いを忘れるには、ちょうどいい年月だね」


 その冷たい声音に、空気が張り詰める。


「アンタ、王城に戻るたびに、よく平気な顔できるよ」


「慣れただけだよ」


 イオルは視線を逸らさずに答える。


「平気じゃない。

 でも、見なきゃいけない」


 ミレアは鼻で笑ったが、それ以上は何も言わなかった。


 部屋の隅では、ラヴァンが静かに佇んでいる。

 その足元で、半透明の影がわずかに揺れた。


「……全員、揃っているようだね」


 イオルは円卓を見渡す。


 ロウとロガディン。

 双子の剣士、ネイとレイ。

 粛清の血を引く女、ミレア。

 商会長オルフェ。

 禁忌の錬金術師ラヴァン。

 そして――肩にいるモル。


「今日、王城で確認できたことがある」


 イオルは、丁寧な口調で続ける。


「この国は、完成したと思い込んでいる。

 だから、歪みを無視する」


 誰も口を挟まない。


「僕は、王として評価されることはない」


 その言葉を、淡々と告げる。


「でも、それでいい。

 表で評価されないなら、裏で動けばいい」


 ロウが一歩、前に出た。


「……御意」


 ロガディンが低く笑う。


「剣が必要なら、俺がやる」


「血が要るなら、私が出る」


 ミレアの声は、静かだが重い。


 双子が同時に頷く。


「俺たちは、イオルの剣だ」

「イオルの背中は、私たちが守る」


 オルフェは指を組み、楽しそうに笑った。


「王国の裏側をひっくり返すお仕事ですか。

 ……儲かりそうですな」


 最後に、イオルはモルの頭を軽く撫でる。


「……皆、ありがとう」


 エメラルドの瞳が、静かに光る。


「この国は、まだ気づいていない。

 王城と繋がるこの通路の向こうで、

 何が動き始めているのかを」


 建国三百年の夜。

 祝祭の光の真下で、

 王国の“裏”は、確かに牙を研いでいた。

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