第47話 新天地と昔馴染のその後。
普段は冒険者として各地で活動して金を稼ぎ、年に一度、船をチャーターしては資材を積み、かつてヴァンレン帝国と呼ばれていた場所に出向く。
もうすっかりそれは習慣として染み付いている行動だ。
今もあの土地には魔物の領域の民しかいない。
但し、ここ数年で彼らはだいぶんと、その居場所を分散させた。
初回に海岸に置いた囲いはもう随分前に撤収し、今は内陸寄りに三つの〈囲い〉を設置している。
今回はその一つを、更に内陸に移動させる作業もあちらから依頼されている。
最初にこの身体でフランバル大陸に足を踏み入れてから、既に二十年が経過した。
俺たちと魔種族の共同作業である、旧帝国の版図の踏破率は、まだ三割、というところだ。
北部はグウェンヴェランから出た調査隊が何度か入ったものの、彼ら側ではどうにもならない、と諦めの境地に至っていると聞いている。
ずうっと平和だったモスクモロルやセレバンディア西の魔物の領域と違って、長年の帝国との抗争と最後っ屁の対アンデッド戦で、グウェンヴェランに点在していた魔物の領域も、かなり損耗が激しかったそうで、今は古来の自分たちの土地を守るのが精いっぱいであるらしい。
まあ魔物の領域の民は、どの土地にいる者でも、皆種族ごとに繋がっているそうなので、誰が入っても同じ、でもあるらしいんだが。
そう、最近ではモスクモロルの魔物の領域の民も、そこそこな数がこっちに来ている。
あの島でも、人類共々、人口過剰らしくてね。
俺はといえば、実はとうとう母国に領地を貰った。
魔物の国と呼ばれていた領域が、今回の移民の手伝いの謝礼として、境界を大きく西に引き下げたため、新規に人類が住める土地が出来たのだ。
ただ、天人族は政治には関わらないのがレジュメイア大陸での鉄則なので、アル兄を代官に任命して丸投げし、最終的にはアル兄の子供の誰かに、新規で男爵辺りになってもらう予定だけどね。
モードゥナも、今は主にそっちで働いてもらっている。
奴は運悪く初婚の奥さんが病死したものの、再婚できたので、今なう甘々新婚さんモード真っただ中だ。
結局、俺の隣に今寄り添ってくれているのは、天人族であるフィリスねーさんで、な。
三人できた子供も、全員天人族確定なんだ。
だから、俺は叙爵はされたものの、現状では一代男爵として登録されている。
で、アル兄が結構頑張ってくれているから、その功績で領地をそのまま譲り渡すって筋書きが、既に国の方にも了承されているという訳だ。
「ご主人様、もうすぐ着きますよ!」
流石に近年では海を見るのもだいぶんと飽きたので、船室で三人目の我が子、クインシーとじゃれていたら、どこで型紙を調達してきたのか知らんが、ミニスカメイド姿の妙に似合うセティが呼びに来た。
なんでかこいつも、随分と成長したなあ、と思った辺りで俺の布団に潜り込んできて、最終的に二児の母になっている。
フィリスがよく許したな?と思ったけど、天人族、そういう縛りがどうも緩めらしい。
(それもだが、産めよ増やせよと言うておろう。もうちょっとばら撒いて良いのだぞ)
そのセティの産んだ方の下の子を構ってやりながら、コトンがこちらに苦言を呈する。
「えー、でもやっぱりあんまり無節操にばら撒かれるのは妬けるわぁ」
そして我が愛妻様の言葉に、イカ耳になるコトン。
なお、エルフ族とは交雑可能なので!と迫られて、長の娘との間に、これも二人ほど子がいるけど、そっちは幸いどちらもスキルこそ所持しているけど、それ以外は普通のエルフ族に育ってくれた。
でも、セティの子がなあ。
セティ自身が人類じゃないせいだと思うんだが、こっちの二人も天人族コース一直線っぽい気配がするんだよなあ。
なお、アル兄とミーティスにも、既に五人子供がいる。今もラブラブでお熱い事だ。
エランとサスキア姉さんにも、子が二人。
幸い、ネース兄上とメレニア夫人の間にも、無事スキル持ちの子供が生まれたそうなので、サスキア姉さんの子にも、新たな土地の管理権を確保して貰っている。
そこまで要求してもいいんだろうか?とも思ったんだが、俺がコトンと繋いだ絆、そして俺と仲間たちの絆がなければ世界が滅んでいた可能性もあるのだし、問題ない、で押し切れたそうな。
そこらへんの交渉は全部シシェーリス確認官がやってくれました!
庶子とはいえ、超名家の子爵家出身者、そういう政治事も大得意だったよね。
いやあいつ、前々世からその手の仕事の方が得意なタイプだった。今更だな。
俺が当時も今も、そういうのに向いていないともいうが。
セレバンディア国も既に代替わりして、兄君が王冠を譲られ、海戦当時のエルロス第二王子は臣下に降りて宰相職に就いている。
俺の叙爵問題をうまくやりくりできたのは、エルロス宰相閣下のおかげでもあるわけだ。
モスクモロルの海賊業者は、あの騒動以後、めっきり姿が減ったっきりだ。
帝国の完全滅亡によって、火砲は亡失した技術になってしまったけど、大砲による当時の損害が、彼らの想定以上に酷かったのと、帝国船団を主に迎撃した俺達に対する恩義だか仁義だか、そんな話になったらしくて。
「それにしても、この船の船員さんたちも結構代替わりしたわね」
「遠洋航海だからと、初期には特にベテランを多く配置して貰っていたからな、しょうがない」
それに、俺たちの航海は今回が最後だ。
俺の一家は、正式に旧帝国領土に移住することにしたのでね。
これは、魔物の領域の民が、俺たちとの共存を強く望んだからだ。
幸い、この二十年間で、農作物が穫れる程度には、土地の状態は良くなっているし、俺の加護は既に寵愛にまで進化しているから、俺がそちらの土地に住むだけでも収量は上がるだろうという話なんだよ。
魔物の領域との共存は、一応モスクモロル式だな。
クレトス村やあの島程、きっちり領域を区切るのは今は難しいし、最終的にどういう形にするかなんて、まだ誰も決めていない。決められない。
やがて船は簡単に整備された桟橋に着岸する。
今日から、新しい生活だな。がんばろう。
パーティメンで一番年上だったアル兄はもう冒険者も引退しとるんよ。




