第45話 想定外の要請。
よく見ると、後ろの方には妖精族っぽい、小さな、虫のような翅をもつ少年少女も待機しているのが見える。
更に後方にも、見えないけど何かいる気配はある。
もしかして:これ魔物の領域の種族、大集合してない?何故?
「オキヅカイ カンシャシマス」
(その通りです。実は近年、ここの領域は人口が飽和しつつありまして)
代表らしきエルフ族は、モードゥナ達の動きに謝意を示しつつ、早速俺の疑問への回答を始めた。
(そしてその件で、先日、大きな悪霊の動きがあり、それを全て平らげた皆様にお願いがございまして。
我らを、かつての領域の消失した、西の大陸の南部に送り込んで頂きたいのです)
ストレートに語られる彼らの要求は、なかなか壮大だ。
自力で移動はできないんだな?
(はい、我らは乗り物と言えば丸木舟を川に浮かべるのがせいぜいですから、大人数での移動は不可能です。
翅を持つ種族も長距離移動はできませんし、神獣たちの一部のような転移能力を持つものも、行ったことのある場所にしか飛べませんから)
(行ったことのある、または見た事のある場所にしか飛べないのは我らも同じぞ。
我は単に未見の場所がないだけじゃな)
エルフ族の説明に、コトンの説明が加わる。
……コトンは別格だからね、しょうがないね。
そのあとも説明を聞いたが、どうも魔物の領域があちらこちらに点在しているのは、その土地近隣の地味だか地脈だかを整える効果があるから、らしい。
そう、規模の小さな魔物の領域は、結構あっちこっちに散らばって存在しているのだ。
国と呼べるレベルで範囲がでかいのは、この西の森の先と、モスクモロルの西部だけだそうだが。
国内すべてのそれを滅ぼしたヴァンレン帝国は、恐らく相当な不作、凶作を繰り返していた可能性が高い。それとも流石に何らかの回避策は採っていたろうか?
肥料を投入するにも限度はあるから、どうだろうな……
(どうでしょうね、彼の地の同胞が滅びてより後の事は、我らにも伝わっておりませぬ)
そうだろうなあ。俺たちにも全然あの国の内情は聞こえてこなかったし。
(其方らが想像している通りじゃよ。あの地は国全域が、限りなく不毛に近い。
主神様の手から零れ落ちてしまって、今もなおその手が届いておらぬが故な)
コトンからの説明に、ああ、やっぱり。と、悲しい気持ちになる。
それはエルフたちも同様だったようで、全員が悲しげな顔になる。
「判った。少し時間がかかるかもしれないが、船を手配しよう。
俺も付きあえば、こちら側ではあまり大きな危険はないだろうし」
強いて言えばモスクモロルの海賊がちと怪しいが、他にいいルートもないしな。
これは、後方の全員にも聞こえるように、音声で述べる。
「おっ船旅か、久しぶりにいいな」
「喪われた旧帝国の領域を復活させる、と……?素晴らしいご決断です」
モードゥナは呑気な感想を述べ、シシェーリス確認官はその意図を称賛する。
そうだな、俺もあの土地に行くのは悪くない、そんな気がする。
だって、今の俺のスキル〈囲い〉の最終形は、この平和なレジュメイア大陸では使い道を全く思いつかないんだ。
恐らくまともな生物もいないであろう、彼の地の荒野であれば、それなりに使える、そんな気がするんだよな。
(うむ、うむ。我も同道しよう。
我と其方が共に行けば、主神様にもあの地がきちんと見えるようになり、そのお手元に戻せるはずじゃ)
なるほど、主神様の御手に、その手から離れていた土地を、戻す。
そうだな、それを俺が為すのは、前々世の事を思い出してしまった今では、少し不思議な気持ちにもなるが。
「そういうことでしたら、わたくしも同道したいですね……何かのお役に立てるかもしれません」
そして流れるようにシシェーリス確認官が参加を表明する。
確かに天人族のいない現在のフランバル大陸は、逃避先には最適だなぁ。
神官職の人が一人ふたりいると、結構いろいろ便利だというのもあるし。
ド田舎ド辺境のクレトス村にも教会があるのは、そういう利便性の提供でもあるんだ。
初期教育や、初歩の医療、そして心に関する相談事。
この世界では、教会は社会インフラの一つって訳だね。
そんな感じで、魔種族との会合はあっという間に同意を形成して、俺たちは一旦コルモックにお伺いを立てに行くことになった。
魔物の領域側の方たちは、いったん領域側で待機だ。
そこらへんは彼らも野営などには慣れているそうなので、村の方に数日間西の森への立ち入り禁止を通達するだけで済みそうだ。
時期的に西の森にはあまり採るものないし、問題なかろう。
「船、ですか」
ネース兄上は俺の話を聞き終わると、考え込んだ。
コルモラン男爵領にある船は、ほぼ全部近海警備用と漁船だからな、そもそも遠洋航海には向いていない。専守防衛って奴だからね。
「あ、船はモードゥナの実家の商会の伝手を辿るんで、出国許可だけ下さい。
冒険者組合への届け出は自分でしますが、俺も一応男爵家の係累なので、兄上の許可が必要なんですよ」
庶子として正規に戸籍に登録があるので、俺の出国には主家といえるコルモラン男爵の許可が要るのだ。
アル兄も付き合うというので、そちらも今は自分の実家の本家である、ターミガン家へ伺いを立てに行っている。
「あと今回の船旅は旧パーティメンバーが全員付き合ってくれるそうなので」
なんと、ミーティスも絶対に一緒に行く、と言い出して、誰も説き伏せることができなかったのだ……
あっちに定住して帰ってこない気がする、とまで言われたら、俺としてはぐうの音も出ない。
それも悪くないと思ってしまっているからな、今の俺は。
とはいえ、形式上出ていく形にはするけど、最低でも一回は帰ってくる予定だ。
俺たちの想定、そしてコトンが教えてくれた現状だと、最低でも数年は食料を持ち込まないと、生活……食料の確保自体が無理そうだからなあ。
なーんにもないから1回じゃ無理だぞ★




