第44話 想定外の客人。
今回の褒賞は、俺らの召集などの必要経費以外特になし、ということになった。
というのも、亡霊海軍本体は殆ど全部、コトンことネフェルテム様がやっつけてしまったからだ。
俺もそれなりに評価は上がったんだが、決定打ではないよね、という話だね。
なんでそんな低評価に留まったのかといえば、実は領地問題だ。
そう、やっぱりこの国の領地はもういっぱいいっぱいで、どこにも褒賞として出せるような空きがないんだよね。
ここ十年ほどはやらかす貴族もいないらしくて、転封騒ぎすら起きていないし。
そこはさっくり割り切って、必要経費分くらいの評価でいいよ、という話で手打ちにした。
この後、気候の良い季節を選んでエランとサスキア姉さんの結婚式なんかもあるからな、男爵領の出費は抑えたい。
「……しかし、あの二人の結婚式に出るとなると、俺は新郎側、新婦側、どっちで出ればいいんだ?」
「貴方方は新規Aランク冒険者として既に名が売れ始めていましたから、新郎側で良いのではないですかね」
いつの間にか、元パーティメンバーとの呑み会にもしれっと混ざるようになったシシェーリス確認官が、俺のボヤキに真面目な回答を寄越す。
「まあしかし、綺麗なのにどこかなんか愉快なとこのあるニィさんだね」
モードゥナも、まだ略称呼びこそしないものの、割と打ち解けた様子で首を傾げている。
「そう言っていただけると、少し嬉しいですね」
優美な超絶美形、という、加護による雛型にうんざりしているシシェーリス確認官は、そんな言葉で優雅に微笑んでいるけど、多分内心ではよっしゃこの調子だ!くらい思っていそうだ。
ちなみに本日いるここは、クレトス村の居酒屋だ。
いい加減店名付けたら?という話もあったが、この村に居酒屋はここしかないので、わざわざ名前をつけるまでもないだろう、と流されている様子。
今日はフィリスねーさんもいるけど、ウェイトレスではなく同席中だ。
というのも、俺たち、まとめて呼び出しを受けたんだよ、村長に。
時間までここで待ってろ、と言われたので、時間つぶしに茶をしばいているという次第。
そう、今日のこれは吞み会ではなく、茶会だ。
まだ真昼間だからな、いかな居酒屋でも酒は出して貰えない時間だよ!
「済まないね皆。準備ができたんでちょっと来てもらえるかい?西の森だ」
そこに村長がやってきて、俺たちにそう告げたので、ぞろぞろと席を立つ。
今日のお勘定は村長持ちらしいので、そのまま出て行って問題ないしな。
シシェーリス確認官は呼ばれていないのだが、ちゃっかりついてきた。
ただ、村長も、業務だけでも二度ほどこの村を訪れているシシェーリス確認官の事は旧知な為か、特に来るなとは言わなかった。
西の森を、そこそこの速度で歩いていく村長は、まっすぐ境界の壊れた柵を目指しているようだ。
「境界?」
「ほう、この国の最西端ってこんななんだ」
首を傾げるモードゥナ、好奇心をそそられた様子のアル兄。
「ここが西の境界なのですね」
シシェーリス確認官も、この森に入るのは初めてだそうで、興味深げに壊れた部分のある境界の柵を眺めている。
俺には見慣れた故郷の森がこっちだからなあ。
ここの柵も、こんなものか、くらいにしか思わない。
……いや待て、補修した形跡もないけど、俺が子供の頃と、微塵も変わってないな、この柵?
白く塗られて、粗く間隔を開けて建てられた杭、横板はところどころ欠けているけど、それは確か意図的に開けたもので。
そして、その柵の壊れた部分の向こう側に、何かがいるのに、気が付いた。
「……なんと、エルフ族……?!」
シシェーリス確認官が、真っ先に呟く声が、少しだけ掠れて感じるのは、相当興奮しているんじゃなかろうか。加護で抑え込まれてるのが、はっきり認知できるぞ?
そう、柵の向こう側にいるのは、十数人の、耳が長いヒト型魔種族、エルフ族だ。
後ろの方には直立二足歩行の服を着た様々な姿の獣、つまりこの世界の獣人族も、これまた十数名いるな。
この世界のエルフ族は初めて見るが、人類より長い耳は上に向かって伸びている。
肌は白く髪は淡い金髪。瞳は淡いグリーンだな。
顔立ちは全体的にあっさりめだが皆綺麗で、でも似たような顔ばかりだ。
獣人の方は猫っぽい、豹っぽい、狼っぽい、獅子っぽい、馬っぽい、など、さまざまだ。一人として同じ種類がいない気がする。
「ソンチョ、オテスウ、オカケスル」
そして彼らが話す言葉は片言めいている。
多分普段は違う言語なのか、そもそも言語コミュニケーションを取らない種族なのか。
(後者でございます。普段はそちらで言うところの神獣式なのですが、人類は読心を好まぬと聞いておりまして)
そういわれてみればコトンやモンタン氏は、俺の考えてることを読み取って返事をくれる。
あれ、読心術の類になるのか。
言語化したことしか読みに来ないから、そこまで深刻に考えたことなかったな。
(其方くらい【内なる力】が強いと、隠されたら判らぬが……其方、そもそも隠さぬよな)
コトンからツッコミが入る。
そりゃまあ神獣様聖獣様は信用してるんで?
エルフ族に関しても、現状では特に不審を抱く要素はないし。
というか、子供の頃からコトンが一緒だから、そういうの気にしてないな、俺。
「いえいえ、異境の方々にお会いできただけでも末代までの語り草となりましょう。
それではわたくしは下がっておりますので、しばし御歓談を」
村長はにこやかにそう述べると、すすすっと後方の、俺たちが見えるギリギリくらいの場所まで下がっていった。
(この村の方は裏表のない人が多いので、我々も安心できます)
エルフ族の誰かが、村長をそのように評する。
「俺多分聞こえないタイプだから、話は適当に進めて」
モードゥナがおもむろにそう述べると二歩ほど下がり、トーテルも頷いて同様に続く。
確かにこの二人は、神獣様がたが全員に聞こえるように伝えないと聞こえないタイプだ。
「声を出さずにコミュニケーションを取るのは割と難しい印象だなあ、俺も。
聞こえないわけではないが。神官殿とカークに任せる」
そしてアル兄も感動顔のミーティスを促して、共に二歩下がる。
モードゥナもアル兄も、人間相手の交渉だと真っ先に出てくるタイプなんだけどね。
通常モード会話だと聞けないんだからどうしようもないんですよね。
モンタン氏のように拡声モード持ってないんです、一般魔種族。




