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第41話 帝国の亡霊の残滓。

残滓っていうか元凶っていうか。

 その夜、それも深夜も通り過ぎ、夜明けの方が近くなった頃合いだ。


 ごおおおおお、と、嵐めいた音が鳴り響く。


 だけどこれは、現実の嵐の音ではない、と、頭のどこかが冷静に判断を下す。

 少し寒いんで一緒に寝ていたコトンが、きっ、と顔を上げた動きで、冷たい空気が首元に入ってきたので、俺も起きる。


(亡霊、じゃな)

 短く告げると、ふうっ、とその身の毛を逆立てるコトン。

 寝る前にブラッシングしたから、その毛はふわっふわだ。


 夜着の上に防寒用のマントを羽織り、廊下に出たら、シシェーリス確認官が似たような恰好で出てきたところだった。


 俺たち二人が真っ先に反応するってことは、やっぱこれ、アイツだよなあ。



 シシェーリス確認官との夜の長話には、俺たちだけの秘密が含まれていた。

 というか、話しているうちに、ゆらりぼやりと俺の脳裏に浮かび上がって来たモノがあったんだ。


 それは、前世の、そのもうひとつ前があったという記憶。

 この世界で最後に生きていた時の、その記憶、その残滓。


 シシェーリス確認官は、神主の息子時代から、そのもう一つ前の前世をも、明確に覚えていたという。


 俺はあちらではそういうのは全然だったんだが、彼と話しているうちに、唐突に、気が付いた。

 俺が、あっちで浮いていた、その根本原因が、それだ、と。


 簡単に言えば、俺がこっちですら、強すぎる魂といえる存在だったから。

 まあよくもそんな強烈なものを、ここまで、きれいさっぱり忘れていられたものだ。


 俺の前々世の名は、ヴァンクリフ・ロンドライン。

 ヴァンレン国の初代王、といっても当時、王位に就いた覚えはないんだがな。


 シシェーリス確認官の方は、その養嗣子で、第二代王、サームレン・アラカリ・ロンドライン。

 つまり、前々世における、義理の親子、という奴だな。


(……思い出してしまいおったか。負荷が強すぎる故、封じてあったのだが)

 そして、コトンがイカ耳でそんなことを言う。


「負荷、なあ?特に感じないんだが。あんまり詳細まで思い出していないせいかな?」

「それはもう、そこまできっちり育ってしまえば、過去の残滓なぞ、なんてことはないでしょうねえ」

 首を傾げたら、シシェーリス確認官が苦笑している。


(そうじゃなあ。【内なる力】の多さは、心の強さに繋がる故なあ)

 ふたりの言葉を聞き、シシェーリス確認官を思わず見つめる。

 ……ちっ、気の散る美貌だなあもう!


「私は……幸い前世のうちに折り合いを付けることができましたので」

 体験談で同人誌出したりしたんですよ、売れませんでしたけど、と、微笑むシシェーリス確認官。


 二代王としての記憶をいわゆるなろう小説、いや同人誌だから一次創作って奴だな?それで書いて出したんだという。


 ……ウェブ小説だったらうっかりあちらで目にする機会もあったのかもしれんので、紙の薄い本だったのには感謝しておくべきだろうか。


「……健全本ですよ?」

 何故かうっすら笑みを浮かべてそう述べるシシェーリス確認官。


 ……なんか本性はだいぶ残念オタクだよね、このヒト。

 それを全て隠蔽する天空の女神様の加護、恐ろしい。



 で、現在では既に完全に別人である俺たちの事は置いておいてだ。

 襲撃してきたと思われる亡霊は、このヴァンレンの初代・二代の二人掛かりで討伐した、最初の合併国、彼らのもと祖国でもあるロンドライナー王国の元王族たち……を手にかけた輩、だ。


 歴史上、冤罪で追放された相手への報復で初代王と次代がやらかした、ということになっている彼らの元・祖国の王族殲滅だが、これはこの大陸の歴史書の内容とは、実態が異なる。


 自らそいつらに手を掛けたなら、彼らと同じ姓を名乗り続ける訳がないだろ、流石に。

 乗り込んだ時には、俺たちを追放する決定をした大貴族率いる反乱勢の使う呪術の触媒として、その血を一滴残らず奪いつくされ、皆殺しにされていた、のだ。


 乗り込んだ理由であり、救い出すつもりでいた、既に別の貴族に降嫁していた一番下の妹たちと、生まれて間もないその子等まで、全員。


 あ、ちょっと古い感情が逆流してきた。落ち着け、俺。


 この反乱を起こし国を滅ぼした大貴族というのは、初代から数代は、真っ当な家系だったものが、どうもいつの間にか、亡者に関わる何かに乗っ取られた、と推測できるものだった。


 この世界、呪術とか死霊術って、元々存在すらしてなかったそうだし。

 いや、好き好んでそういう物を設定する創世神様ってそうそう居ないだろうけど。


 幸い、シシェーリス確認官の観測範囲では、似た事例はこちらの大陸にはないというが。


 そして、ヴァンレン帝国の版図全ての民を殺戮し、亡者の先兵に変えたのも、恐らくそいつだ。


 今この城砦に亡霊として襲撃しに来ている、ロンドライナーの元侯爵、エーデルホフ・シュライク。

 まあ、討伐当時に相対した時点で、中身は完全に、追放前の、当時の俺らの知っていたシュライク侯爵ではなかったが、な。


「なあ、魂ですらシュライクのガワを被ってるようだが、アレはなんなんだ?」

 答えを知っているものがいるかどうか判らないが、一応質問してみる。


 どう考えても、どう見ても。

 ……今の俺には、人間の魂にゃ見えねえんだもん、アレ。


「多分異界の何かかな、とは思うのですが」

 シシェーリス確認官は、前世での考察による仮説ですが、と前置きしてそんな風に言う。


(恐らくはそうだな。だが、この世界で虐げ殺した者共の怨嗟や恐怖を吸い上げ取り込んだ結果、原形を留めておらんようにも見える)

 そしてコトンからは、かなり納得のいく解説が飛んできたが……つまり現状では正体不明、なのか。


 亡霊は、薄暗いとも薄明るいともいえる空気の中、城の周囲をグルグル回っている。

 聖獣と神獣がいる場所には、この手のものは基本入りこめないからな。


 彼ら自身の存在が、バリアだとか結界みたいなもんらしい。

 神々が自らの力を込めて創る存在だそうだからね、邪悪な物は自動で弾くんだとさ。


 とはいえ、のんびり眺めているわけにもいかない。

 完全に日が昇る頃までにはなんとかしないと、多分隠れるか、近隣の何か、誰かを乗っ取りに行くだろうからな……


 ……俺のスキル、こういうモンも囲えるんですかね?

亡霊船団やっつけたとばっちりで弱体化されてるので入れない、が正解ではある。

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