第39話 大魔法ならぬ大スキル、発動。
世界の仕様としては魔法でも合ってる。<サブタイ
そうと決まったら善は急げ、だ。
だってもうモスクモロルやフェ・ダは交戦中だというし。
なら、さっさとこっちに来る分だけでも片づけてしまわないと、だ。
向こうの大陸は……ごめん、俺にはどうにもならない。
流石に、行ったこともない場所までスキルは届かない。
うん、第二回の襲撃の後、実は俺は、なんかあった時のために、とモンタン氏に勧められて、モスクモロル近海から、フェ・ダを眺め、コローニス島をも見てから、帰ってくるという謎の船旅ツアーをパーティの皆と実行している。
今思うと、モンタン氏の上司的存在である海神様が、この侵攻の予測を立てていたんだな。
(うむー。あの手紙見たの、結構前だからね、カレ様。
打てる手は全部打ちたいっていうからー)
実は海神様の眷属でも結構な重鎮だというモンタン氏はそう回顧する。
というか俺が気に入った、という名目でコルモラン男爵領に来てくれたのも、もとはと言えばその一環らしい。
今の住環境はすごく気に入っているそうで、事が終わってからも住むつもりだそうだけど。
「しかし、フランバル大陸の方はどうなっておるのやら」
「境界神フェントス様が一時的に境界の強度を上げているため、小競り合い程度で済んでいるそうですが……ただ、フェントス様は死者の神でもあられますので……」
適性のあるタイプの人間にしか聞こえない系の神獣様の言葉を確認してくれていたシシェーリス確認官が説明してくれる。
境界神フェントス様は、死者の神としても知られている。
まあ元世界的に言うと、冥界の門、黄泉平坂を管理している、と言えばいいか。
そのため、死人が絡むと、境界の判定機能が緩むという弱点があるんだって。
だもんでか、防戦側で死者が出てしまうと、その場でアンデッドになってしまう、らしい。
幸い、病死者や寿命で死んだ人ではそういう怖い状態は発生しないそうなのだけど、それも時間の問題じゃないかという説もある。
ヴァンレン帝国はその抱えていた国民も、奴隷も、何もかもをアンデッド化した。
つまり、全て、殺した。
その結果は、冥界の飽和だ。
容量自体には余裕があるんだそうだが、地上の生命との量的バランスが取れなくなりだしている、らしい。
対策は産めよ増やせよ、しかないそうだ。
でないと前世の俺やシシェーリス確認官のように、他所の世界に弾き出される魂が大量発生する。
(うむ。事が終わったら、ハニトラもなんもかんも気にせんと増産に勤しめ)
コトンの言いざまがあまりにも酷くてげっそりしたけど。
俺だって相手は選びたいよ!
……そこで真っ先にフィリスねーさんの顔が浮かんだのは、多分幼少時からいちばん身近な大人の女性だったから、だろうか。
俺、年上趣味は前世ではなかったはずだがなあ?
(天人族の年齢など聞く意味もなかろう)
そりゃそうだけど!
でも、確かにその理屈でいけば、コニーかーさんの実年齢は怖くて聞けないけど、フィリスねーさんの年齢はガチで俺が把握できてる通りだから全然普通だな?
そんな感じでどうも余計な情報で心が乱れる、修行の足りない俺です。
コルモラン城に三つあるごっつい物見塔の、いちばん高いそれのてっぺんに上る。
元パーティメンと男爵親子、何故かまたいる第二王子殿下、それにフィリスねーさんとセティが一緒だ。護衛役って奴?誰が誰のかよく判らんが。
(そいじゃー視界貸すよー)
モンタン氏は天の上、遥か彼方を飛び、俺がスキルを発動しやすいよう、その目に映るものを見せてくれる。
ああ、前世で国内線の飛行機に一回だけ乗ったことがあるけど、あれより、高いのか。
国際線だとこのくらい飛びそう?
遥けく広がる大海原に、無数の船がいる。
乗っているのは、ほぼすべてが骨だ。
骨のくせして、船の運航に必要な作業はできるらしく、あれこれ立ち働いている骨が多い。
突っ立っているのは突撃要員といったところか。
フェ・ダの島から黒煙が上っているのが見える。
微かにコローニス島の中央にある山の頂は見えるけど、それ以外は判らない。
その方向にも、船は拡がっていく。
そう、拡がっていく、だ。
船は面として、海面を埋め、その行く先を拡大していく。船自体が増殖してねえか、これ?
うん、船団自体が、全くマトモなものじゃない、そんな感じだ。
「だいたい把握した。では全力で行きます。――〈囲い〉!」
【内なる力】は、天人族になってから、更に増えた。
そして今も日々、増えている。
その全てを絞り出し、全力の囲いを海底からせり出すように、造る。
途中から、セティの力が混ざったのは、あいつなりに手伝ってるつもりなんだろう。
全ての力を放出して、少しふらついたのを、セティとフィリスねーさんが支えてくれる。
出来上がったものは、モンタン氏の視界の通りなら、船団全てを囲い込む、巨大な、でも薄い石の壁だ。
(うむ、うむ!よくやった!では我の仕事であるな!)
ずっと俺の足元で事態を見守っていたコトンがそう述べると、ふわりと宙に浮きあがる。
そのまま、長毛猫はずーっと上空まで、ずんずんと浮き上がりながら、その姿を大きく変えていく。
「な、なんと……」
「おお…セティさんがネフェ、と呼んでおられたからまさかとは思いましたが、オルデローザ様の一の従者、ネフェルテム様であったのですね……」
わあ、コトン、思ってた以上に有名で偉い聖獣様だった!?
男爵親子は茫然としているし、第二王子殿下もびっくり顔だし、シシェーリス確認官は説明台詞を垂れ流しているし!
今、俺たちの頭上を埋め尽くしてなお余る程に大きくなったコトン、いやネフェルテム様の姿は、超巨大な、もっふもふの、銀色の毛並みと四対の鳥のような翼を持つ、でもやっぱり猫っぽい顔の、長い長い龍、だ。
[海の、やるぞ。よいな?]
その声と共に、その口から吐き出されたのは、眩しい白い光の奔流。
ドラゴンブレスって奴だろうか。
拡散する光は、瞬く間にアンデッドの船団を全て飲み込んでいく。
そう、全てだ。
多分モスクモロルやフェ・ダの方にもちょこっと漏れてるんじゃねこれ?
光が消えた後には、船の残骸すらなかった。
……やっぱり船自体も幽霊船、だったのかな。
シシェーリス確認官が再登場して種明かししたら一気にオタク気質を見せ始めた件について。




