第37話 第三次帝国軍遠征?
ついに疑問符が付いた……
さて、当面何かに役立つ感じでもなさそうな元御使い(これはコトンが断言していた。現状で奴は御使いそのものではなくなっているそうだ)の事は置いておいてだ。
セティの騒動が一段落した直後くらいに、モンタン氏の同族が運んできてくれた、モスクモロルからの手紙には、帝国海軍の大船団が航行中、という情報が書かれていた。
そして、その船に乗っている者の見えるかぎり全てが、動く骨だ、と。
「骨、ですか」
神官職であるシシェーリス確認官が渋い顔だ。
そんな表情をしてすら美しいと感じるのは、本当に怖いな、加護って、などと思ってしまう。
いや衝撃の告白のついでにいろいろ話をしたら、シシェーリス確認官とは前世のあれそれな趣味がね、結構気が合うタイプでさ……ちょっと話し込みすぎて夜更かしするくらいに。
彼、本当に今の自分の顔には困ってるらしいんだよね。仕事に支障が出るレベルらしくて。
そういえば、目をのぞき込む、ってルールだもんなあ、スキル確認。
あの美貌が至近距離に来る威力は、俺もされた側なんで、知っていなくもない。
幸い俺は妙な世界の扉は開かずに済んでるが、世間にはそうじゃない人も結構いたという話でね……こわいこわい。
話を戻す。
死者は正しく弔うべき、というのがこの世界での常識だ。少なくとも、レジュメイア大陸では。
討伐された海賊や山賊も、行き倒れも、遺体を放置するなんてことはしない。
うん、やっぱり存在するんだそうだよ、アンデッド。
しかも、実体を持つタイプのスケルトンやゾンビ系にも物理攻撃が効かないっていう、いちばん嫌なタイプだ。
(んじゃー沖ノ島の子らにも警告してくるねー)
モンタン氏の同族、確かに姿のよく似た、でも一回り小柄な沖ノ太夫さんは、そう述べると沖の大島の方に飛んで行った。
「こうなると、神獣様、聖獣様頼りとならざるを得ませんか」
前男爵が渋い顔だ。
実は、人間の使うスキルには、魔法攻撃系はびっくりするくらい少ない。
エランの〈天与の魔砲〉って、数百年に一人出るかどうかクラスの大魔法らしいよ。
その代わり、神官職の人たちの一部が、浄化の護法という呪文を取得している。
これはお仕えしている神様の力を借りる、いわば神聖魔法みたいなカテゴリの奴だな。
但し、使うためには結構な代償があるらしく、シシェーリス確認官も取得はしているものの、使用したことはないという。
「私が護法を使えば、多少は効果がありますでしょうが……船団の規模的に焼け石に水かもしれません」
仕える神との相性問題もあるので、ディクテラ神の加護を得ているのに、スティレジア神の教会に所属しているシシェーリス確認官では、そもそも出力が期待できないのだという。
「俺のスキルも防衛専門だしなあ」
俺ができるのは、足止めだけだ。これはスキルというものの性質上、変更は不可能だ。
そもそも囲ったらダメージになる、とか、原理不明ってレベルじゃないじゃん。意味判らんよね?
学校に行ってた頃に、茨で囲んだ猪の足を傷つけたことはあったが、あれは分類としては物理攻撃だし、〈囲い〉が、足止めの範囲内の事しかできないのはその後の運用でも確定している。
(まあしゃあなし、だな。我らが気合を入れるしかなかろうて)
コルモックの町にも教会はあるけど、浄化持ちはいないらしい。
修行と適性の両方が必要な、浄化の護法を取得している神官さん自体が、かなりレアらしい。
モスクモロル辺りでは、既に船団の一部による攻撃が始まっているという。
砲を一通りぶち込んでから、骨がわざわざ小舟を操って上陸してくるんだそうだ。
なにそのホラー。
但し、モスクモロルでの被害はさほど大きくないそうだ。
魔物の領域側から、ガンガン魔法が飛んできて、船を撃退しているそうで。
どうやら、魔物の皆さんもアンデッドはお嫌らしい。
(そりゃあそうだ。ヒト種が魔物と呼んでいるのは、我らの同類故なあ。
我らと違い、神に仕えることを止めたものを区別して魔物と呼んでいるだけで、本質的には同じものよ)
ああはい、確か寺子屋でもそう習ったね。
だからこそ、魔物の領域は基本人類には不可侵だ、とも。
ヴァンレン帝国は、その縛りをも無視して、帝国内にあった魔物の領域を全て滅ぼしたと言われている。
伝聞ではあるけど、情報元は神獣様や聖獣様がただ。恐らく正確な情報だろう。
(アンデッドが支配する帝国だというのなら、魔物の領域が滅ぼされた事にも納得はいくのう。我らとアンデッド共は、排他的関係といえなくもない)
無論、個体レベルでは我らのほうが強いが、と、コトンは述べる。
恐らくは、数の暴力にしてやられた、ということなのだろう。
建国から暴政の侵略者になり果てる前までの帝国は、結構な人口を抱える国だったそうだし。
その後も幾つかの国を併合したり、フェ・ダとのいざこざで発覚した他国、他大陸からの人攫いだったりで、人口、そしてスキル所持者の数だけは増え続けていたという話だし。
ただ、スキルを持つものは多かったと言いつつ、それらが活用されていた気配はあまりないのだともいう。
そりゃそうだ。俺も主神様の加護を意識するようになってから気が付いたが、この世界のスキルは、基本的に神々の恩寵の一つだからな。
神を認めぬ国にスキル保持者は基本的に現れない。
スキル所持者同士の強制的な掛け合わせで辛うじて生まれるかどうか、といったところだそうだ。
だからこそ、帝国は他国からの拉致という手段を取ったんだろう。
但し、それでも……彼らに屈した瞬間から、スキルは機能不全を起こす。
それは、強力なスキル程、その反動が大きいものであるらしい。
流石にそれが原因で死ぬことはないし、逃げ帰ることができ、信仰に復帰すればある程度は回復するともいうが……
ヴァンレン帝国から逃げ帰れた実例が、一件しかないそうだ。
俺の身内にはスキル持ちが多いから、気を付けないとな……




