第33話 帝国の動向と予想外の客人。
「今回カークを呼んだのは、他でもない、ヴァンレン帝国の問題でな」
前男爵はそう述べると、テーブルの上に書状のようなものを広げた。
ひっどい癖字……いや、これ、元世界での日本語の文字が混ざっているぞ?どういうことだ?
「にゃ?」
(これが転生者の元の世界の文字か)
最近ではもうすっかり俺の傍にいるようになったコトンが、テーブルの上に乗って手紙を覗き込む。
うん、聖獣様付き、なのはもう完全にコルモラン領でもパートリッジ領でも知れ渡ってしまっていてねえ……
「おお、聖獣様もご覧いただけますか。解読がなかなか難儀しておりましてな」
「この手紙のようなものは、瓶詰めで漂流し、街の傍の海岸に流れ着いたものでな、一部は解読できるのだが、表意文字に、いくつも判読不能なものが混じっておるのだ」
ネース兄上が詳細説明をしてくれたけど、これ表音文字部分もひらがなとのちゃんぽんだぞ?
「にゃあ」
(我が読み解いたことにして教えてやるがよい。恐らく転生者が認めたものであろうが)
「はいはい……ええっと……」
そして混ざり具合に四苦八苦しながら読み取った内容はこうだ。
『ヴァンレン帝国は、転生者の亡霊に支配された亡者の帝国になりつつあり、間もなく終焉を迎えるだろう。その前に、世界に厄災を齎すべく、大規模な、無謀な大侵攻を行うことになる故、何としてでも、他大陸にまで類が及ばぬよう阻止するべし』
「うわあ、亡者とか眉唾ぁ」
まず最初に身もフタもない感想を述べたのは、リアリストなモードゥナだ。
「転生者、はさておき亡霊?」
読み取った俺もそこは懐疑的だ。
いや、魂の存在については自分も転生者である以上、そんなこともあるかもね、くらいには思ってるけどさ。
「そもそもこの書状そのものがハッタリの可能性は?」
「どうだろう。転生者しか書けない手紙には違いないっていうけど」
アル兄の質問には、いったんコトンからの伝聞として回答する。
俺の認識では、帝国そのものに転生者が噛んでいるのは火薬の件で明白なんだから、他所に転生者がいないかどうかを確認するためのブラフって可能性はあるかなって。
「父上、カーク、転生者というのは初めて聞く言葉だが、それは?」
そしてネース兄上からは、考えてみればもっともな質問が出された。
成程、転生者、という言葉自体が一般的じゃないんだな、この世界。気を付けよう。
「ワシも知らんなあ。神官殿ならご存じだろうか」
そして前男爵の回答はこうだ。神官?確かに知っている可能性はありそうだけど……
そして、気を利かせた従僕の人が連れてきたのは、見た覚えのある銀の髪。
あれえ?なんでシシェーリス確認官がこんなとこに?!
「おや、君は確かカークライド君でしたか。スキルをずいぶんと立派に育てられたようで、何よりです」
そして、しょっぱなから俺を見分けてそう述べるシシェーリス確認官も、確かに子供の頃に見た時の麗人、そのままだ。
俺もいずれ、年取らないなーとか言われだして、放浪せざるを得なくなるんだろうか。
そして転生者というものの話になったんだけど。
「そうですね、天人族はご存じですか?彼らは数が少ないですが、その多くが転生者だそうですよ」
のっけから、シシェーリス確認官が自分を棚に上げての爆弾発言だよ!
「へえ?」
とりあえず首だけ傾げておく。
俺自身はともかく、かーさんやフィリスねーさんの母に、そういうイメージがないからな。
フィリスねーさんの方は、正直ちょっと怪しいな、とは思っている。勘だけど。
(神授スキルを得るような魂だと、天人族に偏る傾向は否定できぬなあ。
そして転生者にそれが多いのも、事実とはいえよう)
そして、コトンの回答も、これはこれで歯切れが悪い。
「聖獣様の御意見は」
「だいたいあってる。くらいのニュアンスかなあ。
偏る、って表現をされたから、傾向がある、くらいの話だと思うよ」
シシェーリス確認官に尋ねられたので、大雑把に答える。
「ああ、そうですね。居酒屋の奥さんは違いましたからね」
そして、シシェーリス確認官はさらりとそう述べる。
それってつまり、かーさんとフィリスねーさんは?
「え、あのおかみさん、天人族?だったの?」
「そういえば去年あたりにカークの母ぎみと一緒に旅に出て、帰っていませんね?」
トーテルがびっくり声をあげ、ネース兄上が追認するような言葉を続ける。
「……もしかして、フィリスねーさんがいつまでたっても若いのって」
「あーうん、多分そうじゃないかな……流石にあれは他に説明がつかないし……」
続けてのトーテルの疑問には、あいまいながらも肯定しておく。
実際フィリスねーさんは天人族なのが、俺の知識内では確定している。
同族、判っちゃうんだよね……
なので、シシェーリス確認官が天人族なのも、今ははっきり知覚できる。
彼から見た俺も、そう知覚できているんだろう。
「天人族ってものすっごいレア種族だった気がするけど、クレトスみたいな、正直言っちゃえば田舎の村に、そんなに何人もいるものなん?」
モードゥナの疑問ももっともではある。
「あの村、なんか全体に老化が遅いっていうか、普通の村人も歳取りにくいっぽいんだよ。
寿命自体は普通の範囲なのに」
これは学校時代に統計を確認した結果の結論なので、間違ってない、と思う。
「そうだねえ、見た目が割と変わりにくいうえに、みんな似たような顔立ちだから、変化の少ない人が数人混ざってても、誰も気にしないんだよなあ」
そして生粋の村人であるトーテルもそれを肯定する。
なにその素晴らしい環境、という顔をしたシシェーリス確認官、結構苦労してきたんだろうなあ。
シシェーリス確認官、意図的に話を逸らしてます。




