第28話 日常と非日常の狭間で。
そこから一年ほどは、どの国でもこれと言って騒動のない、近年では珍しい期間であったらしい。
悪名高きヴァンレン帝国ですら、対外行動を行うことなく、静かにしていたというのだから、妙な話だ。
それだけ二度目の海戦のダメージが大きかったのかもしれないが。
なにせあれ、どうもあの国の海軍の総勢力に近い陣容だったらしいので。
俺たちも褒賞を受け取ったあとはポデントスに戻って、冒険者組合の依頼をこなす日々に戻った。
春にミーティスとアル兄が無事結婚式を挙げたけど、子供ができるまでは、現状通りの仕事を続けることで合意している。
というか、俺たちがAランクになるまでは子供は回避、だそうだ。
実際、後釜に座れそうな人材がフィリスねーさんしかいない感はあるからなあ。
というか、ぶっちゃけたことを言うと、フィリスねーさんを入れるのも現状の俺たちにはちょっとリスキーではあるんだよな。
ソロでも普通に戦えるねーさんを入れるってのは、俺らの今までの戦術を根本的に見直すことになるからだ。
火力上がりすぎ問題ともいう。
現状では斥候を振っていたアル兄を前衛にして、フィリスねーさんを遊撃にする案が一番無難かな、という感じ。
もう一つ問題があるとすれば、獲物。
ポデントス界隈で、Aランク以上が出動するような獲物って、あんまいないからさ。
ポデントスに、ねーさん以外にAランク越えの人間がいないのは、実はそういう理由だ。
その種の面倒くさかったり、物理的にキツい獲物がいるのは、この国の陸上だと北東部に集中しているんだよね。
魔物の領域が近いここいらは一見危険そうに見えるけど、実際には他所のどの地域よりも、陸は平穏なのだ。
フェ・ダやモスクモロルから海賊が出張ってくるんで、海はちょいちょい大騒動やるけどな。
そう、実はモスクモロルだけではなく、フェ・ダにも海賊がいる。
こっちはフェ・ダの北の入り組んだ島々を拠点にする武装商人氏族が、時々海賊行為を働く、って奴なんだが。
どうもフェ・ダがここ数年ずーっと、ヴァンレン帝国と揉めていたのは、そもそもこいつらがヴァンレン帝国のはぐれ軍船を拿捕したから、らしいんだな。
話を聞いたときには、あれぇあの国も被害者?となったけど。
拿捕した軍船の乗組員というか船奴隷に、コローニス島や、レジュメイア大陸にある複数の国家から拉致されたスキル持ちなんかが混在していたので、大騒動になり、完全対決に至った、というのが最初の揉め事の全体の流れらしくて、最終的には、やっぱ帝国が悪いわ、というのが各国の認識になっている。
セレバンディア人は居なかったらしいけどね。
港湾に侵入するの自体が困難だからだろうという話だった。
我らがコルモラン男爵領の港はもとより、フランコリン伯爵領の港も、難攻不落だそうですよ。
レジュメイア七国の中で、いちばん海に強いのがセレバンディアなんだってよ。
モスクモロルの海賊で海戦慣れしちゃってっからなあ、コルモラン男爵領。
フランコリン伯爵領の方も、頻度は低いけど事情自体は似たようなものらしい。
それでも俺たちが相変わらずポデントスを拠点としているのには、一応理由がある。
俺が叙爵秒読みなんすよね、例の海戦の戦果のせいで、すっかり第二王子殿下の憶えがめでたくて。
俺自身は前世の平等教育の記憶を引き摺ってる事もあって、別に貴族の地位にはあまり興味がないんだけども、周囲の皆が割と乗り気でさあ。
モードゥナもアル兄も、貴族として一家を立ててくれるなら、冒険者を引退しても家宰や従士としての就職口ができるから嬉しいんだよなぁ、と公言しているし。
ただ、現状だとセレバンディアには叙爵者に与える領地がない。
俺が生まれた頃には、素行不良の貴族の粛清騒ぎがあったんで、それなりに空きはあったらしいけど、それらは既にその案件で活躍したとされた貴族の係累に分配済みだ。
王領という直轄地もあるけど、それを割くほどの戦果とまでは言えないよね、というのは俺自身の認識でもあるからな。
法衣でいいんじゃねえの、と俺なんかは思うんだが、武威の家が創建時に法衣、は基本あり得ないんだそうだ。
何故かというと、封地で部下たる兵を養い育てないといけないから、だな。
それこそ、コルモラン男爵領で行われているその通りに。
例外は王の直属たる親衛隊を構成する兵員で、これは王領、つまり直轄地の兵力と、主に法衣貴族の子弟から優秀なものを選んで編成しているんだそうな。
これに選ばれるには、一定年数を経た家柄、という条件があるので、創建初代が選ばれることは基本的にないってわけだ。
で、俺は現状で既に、モードゥナとアル兄という運営関連で絶対力になってくれる人材を持ってるって認識らしいんだよな、国の上の方では。
っつか本来、うちのパーティのリーダー、最年長で貴族の嫡子でもあるアル兄なんだが?
なんでいつの間にか俺が実質リーダーになってんの?
「だってカー君がリーダーじゃないとフィリスさん来てくれない気がする」
そして、思わず飲みの席でそうぼやいたら、モードゥナからそういう回答が来た。
だめだ、否定できん。
「俺は人の上に立って差配するってのが、どうも性に合わなくてなあ」
そしてアル兄はさっくりと自分が向いてないせいだと分析する。
「俺だって向いてる訳じゃないよ」
反論はしたものの、え?そうだっけ、という顔をされたので、どうも俺が実質リーダー状態なのは今後も続くらしい。
で、それがなんで田舎住まい継続って話に繋がるかというとだな。
要するに、あんまり派手な戦果をしばらく挙げたくないんだ。
勿論、多分そう簡単にいかないよな、とも思ってるんだけどもね……




