第27話 事後処理にも駆り出される。
そんなわけで日を改めて、今度は北のフランコリン領から派遣されてきた大きな船で、戦場跡に赴く。
目印はなくなっているけど、正確な場所は空から沖ノ太夫のモンタン氏が教えてくれる。
なんか俺のことを気に入ったとかで、一度モスクモロルに礼状を運んでいったあと、速攻で戻ってきて、名を教えてくれたんだよね。
神獣様、移動速度もなかなかやべーな。
いや、コトンは短距離とはいえ転移もしてたからな、そんなこともあるのかもしれん。
(聖獣様が手の内を晒しすぎておられるぅ……)
沖ノ太夫氏がなんか呆れてますね……?
(じ、事故じゃ事故!)
昨日寝る前に、散々円に飛び込む祭りをやって満足げだったコトンが慌てているので、どうやらガチめにあの時のコトンはやらかしてしまってた、らしい。
まあ今となっては結構昔の話だからね、気にしない気にしない。
「じゃあ一回出してみますね……〈囲い〉」
スキルを発動させると、ずるりと海底から生える、壁。
今回は厚みは適当で、海水をできるだけ押しのけながら囲うイメージで。
うん、まあそれなりにうまくいったほう、かな?
海面から、この船が接舷できる程度の高さに飛び出した壁、その内側の水は海面の五分の一くらいの高さだ。
今乗っているこの船は、海上作業船だということで、本体こそほぼ木造だけど金属のギアや補強パーツ、更にはフック付きの長い鎖を装備したクレーンなんかが取り付けられていて、このくらいの高低差のある作業も充分可能なはずだ。
「完全排除は無理ですか」
「現状のやり方だとちょっと難しいのと、船の部材とかもある程度排除するなら、海水の浮力はあった方が便利かなと」
この大型作業船の船長である、フランコリン伯爵家の係累である髭のダンディの質問に答える。
この世界は一応物理法則も働いている。
だから、浮力も活用した方が作業は楽ではないか、という素人考えですね。
「ふむ、一理ありますな。
この深さがあれば、本船は無理ですが搭載の小型艇を活用できそうですし。
では総員、作業かかれ!」
「今回は壁の厚みを減らしてるんでまるっと二日くらいは展開しっぱなしにできますが、自分が寝たときにどうなるか確認してないのでそこは注意してください」
うん、流石に徹夜で展開するのは無理があるからね、スキルの生成物って。
まあ、もうちょっとスキルが育ったら、その制限も恐らく消えそうではあるんだが。
だって、俺の今認識してるこのスキルの最終形、常設できないとほぼ意味がないやつだもん。
そういや、クレーンはあるのに、吊り鎖であってワイヤーロープじゃないんだな。
大きな金属製のギアに鎖の輪をひっかけることで動かしているように見える。
「おや、当船の昇降機に興味がおありですか」
「初めて拝見するものですので」
とりあえず疑問点はおいておき、そう答える。
初見のでっかい道具って見てるだけで楽しいからな。
ダンスィ気質ってそんなもんだろ!
「そういや東ハンシャンの船に、あれと似た、でも違う素材の吊り具を使ってるのいたなあ」
思い出したぞ、と、今回も同乗してきたモードゥナが言い出す。
「東ハンシャン?そんなところにツテがあるのかお前」
アル兄がびっくり顔だ。
東ハンシャンというのは、この国の南東の海に浮かぶ島の、東半分の国名だ。
この島、国が東西に分裂しちゃって、両方が、自分の国のほうが正統なハンシャン国だと主張しているので、外部の国からは地理条件を採って、西ハンシャン、東ハンシャン、と呼ばれているのだ。
「取引があるわけじゃないよ!うちの商会、陸送業者だからな!
見聞を広めろって、入学前に東海岸のスパーフォウル男爵領辺りまで連れてってもらったんだけど、その時に運よく入港していてね」
そういやモードゥナって、陸送専門の商会の主の、六番目の庶子、だったっけ。
本家の子と五番目の子までの男子は、全員商会員として働いていると聞いた覚えがある。
モードゥナだけは、どうもこの子は身体を動かす職のほうが向いていそうだ、と、学校に放り込まれて適性を見られたらしい。
結果が俺らのパーティの中核前衛としてBランク、だから、親の慧眼なんだろうね。
実際にはモードゥナは頭もいいし、目の付け所とか勘働きも凄いけどなー。
んで彼の話を聞いた感じだと、どうも東ハンシャンにはワイヤーロープを製造する技術がある気配だ。
門外不出のやつだろうとはモードゥナの言で、船の船長さんも多分そうでしょうねえ、と相槌を打っていた。
クレーンで小型の作業艇と人員を降ろし、でかい木材の破片などはクレーンで直接吊り上げて運び出し、細かい破片や死体の類は、いったん作業艇に積み込んで纏めてから再度クレーンで吊り上げる。
そんな地道な作業は結局まる一週間続いた。
なお、一晩寝たくらいでは囲いは消えなかったので、そろそろ常設可能な熟練度が近づいてきている気配だね。
それでも常設自体はまだ不可能だったので、都合三回、囲いは張りなおした。
というか三回目は一度囲った中に更に海水排除の囲いを作りこんで、ほぼ海底面を露出することに成功しましたね。
「能ある鷹が爪を隠すとはいうが……」
無論、これまで俺のスキルの全容を知らなかった全員に、二度見された。
平然としていたのはパーティメンバーとフィリスねーさん、それとかーさんくらいだね。
引き上げた死体は、破壊された船の残骸共々、最終的に全て火葬にされ、灰は海に撒かれた。
海に撒くのは、せめて灰だけでも、いつかは故郷に近い海に辿り着くように、という願いを込めての事だそうだ。
今まで海賊退治の時にも、毎回こうやっていたんだろうかね、男爵一族も。
うちの村から出た人でも、何度か戦死者が出たけれど、その時には、できるだけ遺体は村まで帰してから葬式をする習いだったけども。




