第25話 捕虜とか別に要らないけど。
主にヴァンレン帝国の設定開示回。
結局、俺の〈囲い〉に勢いよく激突した船団は、およそ三分の一が航行不能になり、残りの動ける船は撤退していった。
そして、撤退先の経路で待ち構えていた海賊のリベンジ略奪を受けて更に半壊状態になって逃げて行ったそうだ。
というか、前回今回海賊だと思ってたの、半壊情報を教えてくれた沖ノ太夫氏によれば、ガチのモスクモロルの海軍だったらしい。
おんなじ型の船使ってるから俺を含め、全員間違えてた。
状況に合わせて海賊やったり海軍やったり、ってことなのかもしれないが、な。
囲いを解除したら、推定数隻、完全にバラバラになってしまった船があってびっくりしたよね。
どうやら囲いの壁と、後続の船に挟まれてしまった結果らしい。
「撃沈数、カークが断トツでは?」
「かもしれんのう……褒章は弾まねば」
男爵親子が大雑把にカウントを取る従者たちに確認しているけど。
「いやそれより残りの船の鹵獲と捕虜を確保したほうがいいんじゃ」
「船はさておき、捕虜はできれば取りたくないのだよ、正式に交戦状態ではない故な」
そして提案にはよもやの回答。
って、そういえばそうだ、宣戦布告、受けてない。
文書もなければ、伝声魔法もなし、完全無言襲撃だったんだよ。
「王都の方に行っている可能性は?」
「フェ・ダでもその種の布告はこれまで一切なされてないそうだから、今回もないんじゃないか?」
まさかなあ、と思いつつ聞いたら、これはアル兄からの回答。
「どういうこと?」
「要するに、ヴァンレン帝国は、自国以外の国をそもそも国家として認めていないのだよ。
故に、この世界のどこに喧嘩を売るのも、蛮族討伐であって戦争ではない、という屁理屈だね」
首を傾げたミーティスの質問に丁寧に答えてくれたのは、見慣れない淡い金髪の、でも絶対高位貴族だと判る服装の男性だった。
「おお、エルロス殿下、お出迎えもできませんで」
そう述べる前男爵だけど、特に礼を取る気配もない。
これはこの国だと作戦行動中には臣下の礼などの省略が許されているからだね。
「構わぬよ、どうやら終盤状況とはいえ、まだ作戦は終わっておらぬようだし」
そう鷹揚に答えているのは、前男爵の言葉にあったように、このセレバンディア国の王族、第二王子のエルロス・グロウス様だ。
うん、流石に王族のヒトと顔を合わせるのは初めてだね。
で、更に説明を受けたけど、そもそもヴァンレン帝国、どの国とも国交自体がないというんだな。
そりゃそうか、自国以外は国として認めない、なら交渉の余地は最初からない。
貢納がせいぜいだろうけど、そういったことをした連中はとっくに版図に組み込まれて奴隷扱いだそうだ。
割とガチめのクソ国家ですが、それでも神様に見捨てられたりはしないのか。
(そもヴァンレンに神の手は及んでおらぬ。あれは、もとはと言えば神に裁かれ、追放された者どもの地であったのだ)
そしてコトンからはそんな情報が。
そういえば、古い歴史書に付属していた方の古地図には、ヴァンレン帝国はなかった覚えはある。
当時その版図にあったのは、うちの国くらいの大きさの五つの国と、南端の、名もなき荒野と書かれた場所。
その名もなき荒野から興ったのが、ヴァンレン帝国だ。
最初はただのヴァンレン国、だったそうだけど。
そのヴァンレン国が、帝国と名を改めたのは、五つの国の二つ目を武力併合した時の事だという。
一つ目の国だけは、婚姻政策によって穏当に併合された、となっている。
これは、ヴァンレンの民をまとめ上げた初代の王とそのあとを継いだ養嗣子の王が、その最初の国から追放された王族だったからでもある。
まあ実態は、被併合側の王族貴族は皆殺しだったそうだけど。
相当恨んでたんだろうね。
(追放が冤罪であったからのう。その時は神々も、これは致し方なし、としたそうじゃ)
成程、滅びた方が派手にやらかしてた、か。
その次の二国に関しても、国を認めずヴァンレン国に攻め入ったものが返り討ち、だそうなので、ここまでは本当にヴァンレン国側には瑕疵はない、という話であったらしい。
様相が変わったのは、そのあとだ。
国号を帝国とした後の、第五代帝の時代。
この帝が、突然『この世界の国家は我がヴァンレン帝国のみ、国家を騙る有象無象の蛮族共に鉄槌を与えん』、と宣言し、帝国優位といえど交易関係のあった、比較的小さい三国を次々に武力併合してしまったのだ。
ただ、この五代帝は、皇子時代の段階で、かなり悪い噂の多い人物で、三つの国しか間に挟まっていない、という状態になった時点で、今ではグウェンヴェランと呼ばれている国は連合国家を形成した。
それまでは、そこも四つの国が存在するエリアだったらしい。
テルメルエンケルは当時から今の版図を維持していて、増えも減りもしていないのだそうだけど。
なおヴァンレン帝国の名は、初代王と次代王の名から採られているという。
この二人なくして、建国はあり得なかったんだそうで。
そして、現代では七代目の帝王が、主にグウェンヴェランと、そしてフェ・ダと争っている。
まあモスクモロルはな、海賊の根城を抱えているうえに、国の半分は魔物の領域だからな、うまみがないのは判る。
テルメルエンケルとウチの国の北側にあるバルトロメアの間の海峡にあるコローニス島はテルメルエンケルががっちり守ってるしな。
フェ・ダがモスクモロルにカモられ、ヴァンレン帝国の手出しを受けまくっているのは、部族制社会がそのまま緩く連合しているだけ、というこの島の政治事情が、攻め込みやすいスキと思われたせいであるらしい。
実際には地の利や緩くてもちゃんと横の繋がりを維持し続けているフェ・ダの民は、六代帝が始めた侵攻から、自国もその権益も、きっちり守り切っているんだけどね。
ただ、最近になってヴァンレン帝国の投入した新兵器で、結構な被害が出るようになってきた、らしい。
……我々、新武器の試し撃ちの的にされた可能性、微レ存?
帝国のというより向こう大陸側の、だな。
そしてこっち側平穏すぎて解説する機会がない(




