第20話 故郷の手前まで帰る。
「お久しぶりです男爵様」
「おお、すっかり大人になって。なんでも冒険者として、既に結構な地位にあるようだが」
随分と久しぶりに会ったコルモラン男爵、一応俺の父――は、ずいぶんと老けたなあ、という印象だ。
「済まんカーク、実はこの春に俺が後を正式に継いだんだ」
連絡しそこねてた、と酷い事を言うのが、俺の腹違いの兄にあたるネースライド・コルモラン新男爵。
実際には連絡し損ねていた、というより、連絡の要を認めなかった、だと思うが。
俺は所詮庶子なんで、継承そのものに最初っから関わりがないからね、世間的にもそんな程度の扱いで問題ない。
「ああ、そうだったんですね。継承おめでとうございます!」
とはいえ、後で祝いの一つは贈るべきだろうなあ。
現在の俺は職業冒険者だけど、本籍がある以上、コルモラン男爵の臣下の一人でもあるわけだから。
まずはコルモックの城砦を訪れた俺たちは、思いのほか派手に歓待を受けた。
ポデントスでの活躍が、噂となってこの地にも届いているんだという。
まあそうだよな、ポデントスとコルモック、馬車で半日ちょっとの距離だもんな。
ここからクレトス村には、更に馬車で半日ちょっと、だから、基本は泊りがけになる。
今回は召集なんでそっちには当面立ち寄らないけど。
あの村の辺りになるとまた断崖絶壁が復活して、上陸される可能性はほぼないからねえ。
なお子供の頃に鍛錬のために通っていた、演習場のある下屋敷は、こことクレトス村の中間より、二時間分くらいクレトス村に寄った場所だ。
……思えばよくあの距離を子供の足で通ってたな、当時の俺ら。
成程、モードゥナがコルモランの子は特別とか言う訳だよ。
件の船団、推定ヴァンレン帝国の海軍と思しき一団は、沖の大島の反対側に留まっているらしい。
(というかだな、阿呆共、大島の神獣達に大砲だかいうものをぶち込んでキレさせおってな)
コトンから怖い解説が飛んできた。
神獣様がたを?キレさせた?なんで?
っつかこの世界、大砲あるんだ?
(ヴァンレン帝国にしかない技術じゃな。火薬というモノを使うというが)
火薬の製法を伝えたのは、おそらく転生者の類だろう、という。
スキル経由でとはいえ、魔法が身近に存在するこの世界には、本来必要がないはずの技術だもんな。
かくいう俺も火薬の基本の製法くらいは、何故か知っている。
前世の実家の近所に花火師の家があってさ、興味本位で歴史的経緯の方を調べたことがあるんだよね。
だから、この世界で作ること自体は、俺にも多分できる。
恐らく無意味だろうと思ったから、やらなかっただけだ。
何より、付与された経緯はさておき、未知の存在だったスキルってものを鍛える方が楽しかったし。
「現状では推定ヴァンレン帝国海軍は、沖の大島の向こう側で、グルグル回っている。
どうも新兵器の試し撃ちを、よりにもよってあの大島に向かってやらかしたようでな、怒った神獣様方に海流を操作されてどこにも行けなくなっているようだ」
仮想敵の状況を報告してくれるのは、〈鳥使い〉というレアスキルを持つ、新コルモラン男爵当人だ。
「自らの兵器を過信しすぎたのか、島の特性を知らなかったのか……愚かなことです」
隣で溜息を吐いてみせるのは、推定、新男爵夫人。
そういやこの二人の結婚式にも呼ばれてないどころか、夫人の名前すら聞いてないな、どうでもいいけど。
祝いだけ後で贈ろう、そうしよう。
そういやサスキア姉さんもいないっぽいから、どっか嫁に行ったかな?
……冷淡と言わば言え。
俺にとっての『家族』は、コニーかーさんだけなんだよ。
男爵家の面々は、今となってはパーティメンバーたちよりも遠い世界のヒトたちでしかないんだ。
「カークが戻ったそうだな!」
そこに、サスキア姉さんが登場。あれ、まだ家にいるの?
男爵とはいえ貴族家の剣技スキル持ちなんて、引く手あまただろうに。
「軍議中だ、静かになさい、サスキア」
新男爵に窘められて、首をすくめるサスキア姉さんは、昔とあまり変わっていない。
背と胸はいい感じに育ってるけど……いやいや。
「軍議とは申しますが、多分あのまま撤退に追い込まれるのではないですか、あれ」
「……確かにその可能性は高いがなあ」
どうやらサスキア姉さんも、沖合の軍船の状況は確認できているらしい。
「カークはどう思うね?」
そこに前男爵からの質問だ。
いきなりそれを俺に振る?俺、到着したばっかっすよ?
「沖の大島の神獣様方は大いにお怒りだそうですけど……本当に無策で砲を撃ったとは、流石に思えないですね。何らかの策はあると思った方がよろしいかと」
とりあえず思いつくままに言葉を捻りだす。
(策かどうかは判らんが、後方から別の船団が迫っておるようじゃよ)
へえ、ヴァンレン帝国の追加戦力だとしたら、思いのほか本気なんだな。
確か、フェ・ダを攻めあぐねてるって話だったのに。
……フェ・ダか。
まさか、フェ・ダ嫌いのモスクモロルがヴァンレン帝国と組んだ?
「何か引っかかることでも?」
新男爵がこちらにやや強い視線を向けてくる。
「いや、モスクモロルのフェ・ダ嫌いが高じて、ヴァンレン帝国と組んでたら嫌だなあ、と。
ただの発想の飛躍なので気にしないでください」
「それはないわねえ、モスクモロルにとってフェ・ダは好き嫌いというよりいいカモだから、逆に滅びられたら困るらしいし」
俺の言葉を即否定したのは、よもやのフィリスねーさんだ。
「あ、そっちなんすかあれ」
そして、何やらモードゥナがその言葉に乗っかる。
そういやモードゥナも商家の生まれだっけ。その種の情報の伝手があるのかな。
ともかく、相手は使者などを送ってくる様子もないし、沖の大島を回り込んでこちらに来る気配もまだないというので、本日は城内で待機ということになった。
まだまだ、知らん事ばっかだなあ、この世界。
サス姉、実は結婚はしてる。現役退いてないだけ。




