第9話 地味じみ学園ライフ。
さて、学校での生活がスタートしたのはいいんだが……
これが思った以上に、地味だ。
高位貴族はこの街の学校にはいないので、貴族の子弟は、居てもコルモラン男爵家のような田舎男爵家の嫡子くらいがせいぜいだし、豪商の子弟というのも、これまたこの街ではなく、王都の学校に行くのがトレンドだそうで、この街にはほぼいない。
なので小説のように、身分違いでぐぬぬったり、偉そうに練り歩くバカなボンボンとかに遭遇する機会は、基本的にない。
そもそもそんな奴自体があんまりいないんじゃないか?という気はしないでもない。
フィクションじゃあるまいし、って奴な。
未成年の学生は基本的に寮生活で、食事と寝床は確定で確保されている。
服装の方は色や形状に関する服装規定というものがあるだけで、制服はない。
まあ学生用の制服なんてものは、ある程度工業が発達していないと量産できないからな。
この世界の繊維は、メインは獣毛だ。毛織物、って奴だな。
原毛の種類はネズミサイズのチンチラ毛からでっかい大山羊毛まで、さまざまだ。
植物系だとリンネルは存在するし、苧麻もあるけど、どうやら木綿がないらしい。
絹?ハンシャン島の特産品で、王族くらいしか着られないってよ。
モンスター素材というのもあるにはあるが、衣類に応用できるのは染料素材くらいらしい。
皮革はいろんなものが出回っているから案外とお手軽に手に入るけどね。
ファンタジーだとお馴染みの蜘蛛絹は存在しません、多分。
魔物の領域にはあるって噂だけが流れている、この世界でもおとぎ話の類だ。
我が国セルバンディアは、亜麻や苧麻の生産が多い国なので、獣毛系統より麻製品のほうが安い。
丈夫な布になるからってのもあるんだろうけど。
獣毛はやっぱり北の国の方が品質が良いから、暖かいこの国では廃れてしまったんだって。
牧場はあっちこっち、それこそクレトス村にもあるけど、基本的にそこで飼っているのは毛の短い山羊と茶色い乳牛だよ!
この世界は全体的にやや冷涼だ。
今いるレジュメイア大陸でも、セルバンディアはほぼ南端にあるけど、気候としては亜熱帯とまでは言えない感じだな。
ただ、最北端にあるオロレダでも、植物が苔や地衣類しか育たないレベルの寒帯ではないらしい。
世界を創った女神様が、そのようにしたのだ、という。
地図を眺めていると、最北端のトゥミナ島やオロレダ界隈、それに最南端のハンシャン島の南端には、なんか地球の北極圏みたいな地形が見えるんだけどもねえ。
いや、フランバル大陸側の同緯度のエリアにそういう地形がないな。
多分、そういうものだ、として創られた、そんな感じだぞこれ?
……今行っているのは、世界地理の授業の復習。
今日は世界地図丸ごと渡されて、覚えろって言われたんだよね。
俺とトーテルは寺子屋で覚えてるから、その時間で無駄な考察をしているってわけ。
(その種の考察を行うのも悪くはないさ。現にお主はちゃんと正解に辿り着いておる)
片手間にスキルの練習で作っていたリボンでできた〈囲い〉の中でちんまりしているコトンが、そう伝えてくれる。
そう、コトンもこの寄宿舎に来ている。
但し、聖獣様なのが速攻でバレたので、現在では俺の部屋くらいにしか現れない。
今年は俺とトーテルで相部屋だからいいけど、来年は他所の地方の子と入れ替えになるんだよなあ、そうなったらどうするのか。
(その頃には近隣の森林公園あたりを出歩く許可は出ておろうよ)
あ、そっか。最初の半年は外出許可が出ないから、ここしかないだけ、か。
そもそもコトンは普段はここで暮らしているわけでもないもんなあ。
村にいた時だって、スキルの練習の時にやってきて、たまにかーさんにミルクを貰ってるくらいだったし。
(そもそも我らに食事は必須ではないのでな。ミルクは嗜好品じゃ)
へー、あんまり減ってないってかーさんが感想述べてたのはそれでか。
この世界の聖獣や神獣は、食事を必要としない。嗜好品として口にすることがある、程度だそうだ。
そして牛乳が大人気。
理由は彼ら自身にもよく判らん、らしいのだけど、子牛に与える分の余りを好意で分けてくれている、その好意の部分が大事なんじゃないかという言説はどこかの本で見た。
そういえば、乳とは血液の代替品であるって理論がどっかにあったな。
いや、そうじゃない、えーと。
乳とは、母が己の血液から作り出し、子に与えるもの。だったか。
実際にはそんなシンプルな工程で作られるものじゃないのが現実だけど。
そういう思想が前世のどこかで存在したことは確かだ。
(怖い話だのう。ミルクを忌避する輩が出かねんから、あまり連想しないでおくれ)
コトンからは想定外、いや考えてみれば割ともっともな要請が来た。
確かに気に入っている飲み物にそれは血と同じようなもの、って言われたら気を悪くするタイプの人もいるよね。気を付けるよ。
……はい、入寮直後に聖獣様騒動があったんで、俺、またもや浮いてます。
もはや慣れっこだし、今回はコトンのことを普通の猫だと思っていたトーテルもミーティス嬢もこっち側だから、ソロ浮きじゃないけどな!
そんなわけで、自然と学園生活は目立たず騒がず、がモットーになってしまった。
手遅れだけど!!
毎日のようにいろんな教会の人が見学に来てるよ!
神獣様や聖獣様を手懐けられる人間、貴重らしいよ?
でも俺はさすがに神官職になるつもりは!!ないんで!!
なお服装規定の方は、きちんと順守したら、ド辺境の田舎の村人から、普通の街の近くの村人に地味にグレードアップした。
ド田舎、ホントに物流の最終到達点なんだな、と思い知りました。
なおグレードアップしても古着ではある。庶民なので。




