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エッセイ

境界線 交わる

作者: 中原 誓

最近は捨てられペットから野生化したアライグマもいるらしい。




 犬の散歩に出たならば、鹿がいる――そんな住宅地に住んでいる。


 鹿と言うと、日本人のほとんどが奈良公園の鹿を思い浮かべる事だろう。しかし、ここ北海道でいう鹿とはエゾシカである。


 『恒温動物においては、同じ種でも寒冷な地域に生息するものほど体重が大きく、近縁な種間では大型の種ほど寒冷な地域に生息する』というベルクマンの法則にのっとり、奴らはデカい。


 先日3メートルほどの近さで出くわした子連れの雌鹿は、目の高さが私とほぼ一緒だった。

 体重は雌で70から100kgと言われている。

 要するにデカい。


 画面越しではなく、檻越しでさえない大型の野生に直面した時、人の語彙力ははるか彼方に飛んでいく。

 残る言葉は『ヤバい』だ。


 私の『ヤバい』は『まずい。危険だ』の意味だった。突進されたらこちらに勝ち目はないからだ。

 こちらの足もすくんだが、あちらさんも逃げる気配もなくこちらをじっと見ている。西部劇でガンマンが睨み合う、まさにその状態である。

 幸いにも犬が吠えなかったので、静かに後ろに下ってその場を離れた。


 人によっては、『ヤバい』は『凄い!』という感嘆の意味になる。

 より近づいて画像を撮ろうとしたり、餌づけをするタイプの人がこれにあたる。

 観光客に多い。


 餌づけは、本当にやめてほしい。ゴミのポイ捨ても餌づけと同様に、人間と野生動物の境界線を壊す行為だと知ってほしい。


 人間は食べ物を持っている――そう学習した動物は境界線を越えて来る。境界線を越えないことが、お互いのためなのに。


 人住む所に現れる狐や鹿は自動車にひかれる。(鹿の場合はこちらも無傷ではいられないが)

 熊ならば人につきまとい、時に人を襲う。そして結局は、駆除しない訳にはいかなくなる。


 エゾシカやヒグマを駆除する度に、自治体にかかってくる『抗議』と言う名の迷惑電話については、あちらこちらで言及されているので、敢えて書くまい。



 ただ――



 何年も前の事だが、札幌郊外でヒグマが目撃されて(その頃はまだ都市部にヒグマが出没する事が珍しかったので)、全国版のワイドショーで取材に来た事があった。

 レポーターが小学生の子供を持つお母さんにインタビューした後、低学年とおぼしき女の子に声をかけた。


「早く外で遊びたくないですか?」


 すると、女の子は『この人何言ってるの?』と言わんばかりの顔で答えた。


「あのね、死ぬからね? ほっんとーに! 死ぬからね?」




 この認識の温度差よ……と、思うばかりである。





今朝、通勤途中にパトカーが。

すぐ側に動かない鹿が横たわっていたけど、交通事故かな……


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