罪と人
村の外れに佇む古びた家があった。
誰もが足を止めそっと目を伏せるその家は長い間忌み嫌われてきた。
そこに住むのは一つの大罪を犯した男の家族だという。
では何を犯したのか。
それは彼が自らの命を絶ったことであった。
「忌まわしき死」と村人たちは囁いた。
彼の行動一つが村人全てを不幸にしたのだ。
彼は人々の心に深い影を落とす禁忌の罪を犯したのだ。
男の妻は日ごとに細くなり瞳はいつしか虚ろになっていた。見るに耐えず、誰もがその家を避けた。
男の妻は孤立し続けた。
ある日のこと旅人が村を訪れた。
彼はその家に興味を抱き扉を叩いた。
妻は震える声で言った。
「彼は……逃げたかっただけです……自分自身にしかわからない苦しみから……」
旅人は無言で彼女の言葉を聞き続けるだけだった。
そしてその行為こそが彼女が求めるものだと旅人は知っていたのだ。
やがて旅人は村を去る。
見送る村人たちに彼はこう告げた。
「あの家の者が犯した過ちは理解した。だが果たしてその過ちは罪であるのか。もし罪ではないのであれば何故皆は罰を与えるのか」
理解が出来そうでとらえどころのない言葉。
しかし、その言葉に皆が救われた。
村人たちは少しずつその家族を見直し始めた。
大罪の烙印は消えぬともそこにあるのはただの「人」であると。
男の妻はある日、墓を建てた。
毎日のように花を添えた。
人々もそれに倣った。
死した男がもしそれを見たらどう思うか。
私はきっとその思いこそが彼の罪なのだと思う。