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同志よ、祖国を守りたまえ  作者: 瀕死の重病患者
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果てなき戦場

見て頂き誠に感謝します

1943年夏、クルスク付近

第三次ハリコフ攻防戦の敗北から数か月後、赤軍は新たな戦いに向けて再編成を進めていた。次なる戦場はクルスク。この地での大規模な戦車戦は、戦争の転機となると予測されていた。

エカテリーナもまた、この新たな戦場に向けて準備をしていた。彼女の隣にはソフィアの姿があった。幸いにもソフィアの負傷は軽く、数週間の療養を経て復帰していた。

「また戦車か……泥と炎の地獄に戻るのね。」

ソフィアが重い口調で呟いた。

「でも、今回は私たちの方が準備できているはずよ。あのスターリングラードの勝利を思い出して。」

エカテリーナは彼女を励ますように微笑んだが、自分の心の中にも不安が広がっているのを感じていた。ドイツ軍の戦車部隊は依然として強力で、クルスクの戦いが楽なものになるはずがないことはわかっていた。


クルスクに到着した部隊は、即座に塹壕を掘り、地雷を埋め、防衛陣地を構築する作業に取り掛かった。

「もっと深く掘れ! 敵の砲弾を防ぐにはこれじゃ足りない!」

指揮官の怒声が飛び交う中、エカテリーナはシャベルを握りしめて泥を掘り返していた。炎天下の作業は過酷だったが、彼女たちには休む暇もなかった。

「これだけ準備すれば、少しは持ちこたえられるかしらね。」

ソフィアが汗を拭いながら呟いた。エカテリーナは頷きながらも、心の中で「これで十分なのか」と自問せずにはいられなかった。


ついに、クルスクの戦いが始まった。ドイツ軍の戦車隊が一斉に突撃してきたその日、地平線の向こうから聞こえるエンジン音と地響きが恐怖を引き起こした。

「全員持ち場を守れ! 後退は許されない!」

指揮官の命令が響き渡る中、エカテリーナは機関銃を構え、迫りくる敵を待った。

「来るわよ……!」

ソフィアが小声で言った瞬間、目の前にドイツ軍の戦車が姿を現した。その後ろには無数の歩兵が続いていた。

エカテリーナは震える手で引き金を引き、弾を浴びせかけた。弾薬が切れるたびに補給し、敵の進軍を遅らせるために必死に応戦した。

「左側に敵兵が潜んでいるぞ!」

味方の叫び声を受けて振り向くと、塹壕の側面からドイツ兵が突入してきていた。エカテリーナは反射的に手榴弾を投げ込み、敵を撃退したが、その瞬間、爆発の衝撃で地面に叩きつけられた。


戦闘は数日間にわたり続いた。赤軍は必死に陣地を守り抜いたものの、疲労と損害が積み重なり、兵士たちの士気は限界に達しつつあった。

エカテリーナは泥と血にまみれながら、なんとか持ち場を守り続けていた。隣で戦っていたソフィアも、泥まみれの顔をして疲弊していたが、その目にはまだ生き延びる意思が宿っていた。

「まだ終わらないの? どこまで続くのよ、この戦争は……」

ソフィアが疲れ切った声で呟いた。

「私たちが止めなきゃいけないのよ。誰かが、どこかで……」

エカテリーナもまた、言葉に力を込めることができなかった。彼女たちはただ生き延びるために戦い続けていた。


戦いが終わったのは、赤軍の反撃によってドイツ軍が撤退を余儀なくされた後のことだった。エカテリーナは、静寂が訪れた戦場を見渡しながら、膝をついて地面に手をついた。

「私たちは勝ったの……?」

ソフィアが震える声で尋ねた。エカテリーナは頷いたが、その表情には喜びはなかった。目の前には破壊された戦車や塹壕、そして倒れた仲間たちの遺体が散乱していた。

「これが勝利なら、もうこんなものは欲しくないわ。」

エカテリーナの呟きにソフィアは何も答えなかった。ただ、二人は立ち上がり、黙って後方へと戻っていった。


その夜、エカテリーナは小さな焚き火の傍でノートを開き、また家族への手紙を書き始めた。

「親愛なる家族へ。今日、私たちはまた一つの戦いを終えました。勝利だと言われていますが、それがどんな意味を持つのか、私はもう分からなくなっています。それでも、私はまだ生きています。皆さんのことを思い出しながら、明日も戦い続けるつもりです。どうか私の無事を祈っていてください。」

書き終えた手紙を胸に抱え、エカテリーナは静かに目を閉じた。その瞼の裏には、いつか平和な日々が戻ることを信じる自分がまだ残っていた。

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