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同志よ、祖国を守りたまえ  作者: 瀕死の重病患者
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瓦礫の街、スターリングラード

見て頂き誠に感謝します

1942年10月、スターリングラード郊外

冷たい秋の風が、乾いた大地を駆け抜けていた。エカテリーナは部隊のトラックに揺られながら、窓から見える風景に目を奪われていた。遠くには瓦礫と化した街並みが広がり、崩れた建物の間を煙が漂っている。スターリングラードに向かう兵士たちは皆、無言だった。その顔に浮かぶのは不安と疲労の色。

「ここがスターリングラード……?」

隣に座るソフィアが、震える声で呟いた。

「これが戦争の最前線ってわけね。」

エカテリーナは息を呑みながら答えた。彼女の言葉には、恐怖を押し隠そうとする意志が感じられた。


部隊が街に到着すると、すぐに指揮官から任務が告げられた。彼女たち女性兵士は、後方支援だけでなく、最前線での補給物資の運搬や負傷者の救助にも駆り出されることとなった。

「負傷者を運べ!早く!」

エカテリーナは叫び声を背に、血にまみれた担架を握りしめた。瓦礫の中を掻き分けながら、爆撃で破壊された建物の陰から負傷兵を運び出していく。血と汗、そして戦場の臭いが彼女の全身に染みついていくようだった。

「これが……これが戦争なのね……」

彼女は呻くように言ったが、答える者はいなかった。


スターリングラードの街は、ほとんどが瓦礫と化していたが、それでもソ連軍はその中で必死に抵抗を続けていた。敵のドイツ軍は巧みに街中を進軍し、建物の中に潜む兵士たちを次々に追い詰めていた。

エカテリーナたちの部隊も、敵の猛攻撃に直面していた。狭い塹壕に身を隠しながら、彼女は自分の手が小刻みに震えているのを感じていた。

「敵が近いぞ!用意しろ!」

指揮官の声が響く。エカテリーナは必死に銃を握りしめた。ソフィアが隣で呟く。

「こんな状況で、本当に戦えるの?」

エカテリーナは答えられなかった。目の前に迫るのは、圧倒的な物量と訓練を受けたドイツ軍だった。


その夜、ドイツ軍が彼女たちの陣地を攻撃してきた。機関銃の音が夜空を切り裂き、手榴弾の爆発が塹壕を揺るがす。

「撃て!撃て!」

指揮官の怒声に従い、エカテリーナは震える手で引き金を引いた。目の前の暗闇に向けて無数の弾を放つ中、敵兵の影が次々と崩れ落ちていく。

しかし、それと同時に仲間たちの叫び声も響き渡った。ソフィアが隣で倒れる兵士を支えようとしている。

「エカテリーナ、助けて!」

彼女は必死に声を上げた。エカテリーナは咄嗟に駆け寄り、ソフィアを手助けしたが、その瞬間、爆発が近くで起こり、二人とも地面に叩きつけられた。


朝になり、戦闘は一時的に収束した。エカテリーナは瓦礫の中で身を起こし、辺りを見回した。煙が立ち込める中、倒れた仲間たちの遺体が目に入る。

「こんなの、地獄よ……」

ソフィアが泣きながら呟いた。彼女の顔にはすすがつき、涙の跡が滲んでいた。エカテリーナは自分の感情を抑えながら、彼女の肩に手を置いた。

「泣いてる場合じゃないわ。私たちは生き延びなきゃ。」

その言葉は、エカテリーナ自身を励ますためのものでもあった。


その夜、エカテリーナは防衛陣地で一人、ノートに書き込みを始めた。

「今日は、初めて人を撃った。手が震え、心が痛んだ。それでも私は撃たなければならなかった。戦場では誰もが敵で、誰もが犠牲者なのだと感じた。ソフィアや仲間たちのために、私は生き抜きたい。けれど、この戦争が終わる日は来るのだろうか……?」

彼女は筆を止め、冷たい夜風を感じながら空を見上げた。スターリングラードの空には星ひとつ見えなかったが、遠くから続く砲撃の音が、夜の静寂を切り裂いていた。

「私は、ここで死ぬつもりはない。」

彼女は心の中でそう呟き、再び拳を握りしめたのだった。


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