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【閑話】どこにもない世界にて

1話後の新人ちゃん視点の閑話です!


しばらくしたら61話の後ろへ移動します〜。


 こんにちは。わたしは名もなき案内人です。

 どこにもない世界で、日々やって来る魂と多様な世界との橋渡しを担っております。


 このどこにもない世界には、あちらこちらの世界からはじき出された魂たちがひっきりなしに訪れます。そんな方々へなるべく穏便に、スピーディーに新たなる世界へ旅立って貰えるよう対応するのが、わたしの役目です。

 そう、穏便に。

 ここへ訪れる者の多くは、突発的な原因によってその世界での生を終えた方々。なんの心の準備もできずに命を落とした彼ら・彼女らは、冷静でいられないことがほとんどなのです。


 ええ、はい。なかなかハードな現場として有名な業界です。配属されて日の浅い未熟者のわたしには、驚きと緊張の連続であります。


 先ほどもなんと、乗っていた車ごとこの世界へやって来るというイレギュラーな男性の対応を終えたばかりでした。

 わたし一人では何をどうすることもできず、上司に助けを求めて事なきを得ました。情けないです。


 トボトボと休憩室へ向かっていると、同じく休憩を取るのか同僚がやって来るのが見えました。


「お疲れ様です。お昼ですか」

「お疲れ様です。はい、今から休憩です。ひょっとして、貴方のお相手も地球の方でした?」


 わたしの質問に、濃紺の背広姿の同僚はこくりと頷きます。案内人はその世界の者に受け入れられる様な姿形をするのが鉄則ですので、我々も直立歩行ヒト型でスーツを着用しているのです。

 お互いに一目でわかりますね。


 そのまま二人で休憩室に入り、温かいお茶を淹れました。

 休憩室には思い思いの出立ちをした先輩や同僚が午後への英気を養っております。モフモフと愛くるしい姿の者もいれば、ぐちょぐちょと糸を引いて蠢く姿の者、神々しく光り輝く玉状の者もいます。


「地球の一部地域では異世界転移や転生の物語が流行っているとかで、皆さんかなり理解が早いのだと聞いたことがあります」

「え、そうだったんですか?す、凄い偶然があるのですね…」

「僕も今回で成る程と思いました。山で遭難した女性だったんですが、『これって異世界転移ってやつですか!?』『このままじゃ失踪扱いになって家族に迷惑が』とおっしゃられていました」


 それは驚きです。……冷静なのかそうで無いのか判断しかねる発言ですが…。

 お茶を口に運びながら、先ほどの男性の様子を思い浮かべます。車を目の当たりにしたわたしへ、『相談できる人はいないのか』と促してくださいました。確かに、冷静で気丈なお方でした。


「その方は、何事もなく異世界へ渡られましたか?」

「ええ。ご希望の転移特典(スキル)もほとんど悩まず決められたので、スムーズと言っていい程でした」

「羨ま……喜ばしい限りです」

「おや、そちらは何かありましたか?」


 僅かに首を傾げる同僚へ、わたしは先ほどあった事を話しました。


「それはなんと……興味深いですね」

「驚きました、本当に。よほど車が好きな方だったようで」

「好きだからと持って来れるような物ではないと思いますが…。それで、どう対応されたのですか?」

「特殊スキルとして、共に転移して頂く形となりました。車とはいえこちらへ来てしまった以上、戻す術が無い為」

「確かにそうですね」

「…偉そうに言えないのですけどね。対応してくれたのは上の方で、わたしは狼狽えるばかりでしたよ」

「むにょーん」


 わたしたちのテーブルへ、別の言語と容姿を伴った上司が加わりました。短い四肢に三角の耳、まんまるな虹色の瞳。それらが全てモコモコの毛に覆われています。

 わたしは思わず「あっ」と声をあげました。姿は全く違いますが、先ほどお世話になったあの上司だったのです。感謝を込めて頭を下げます。


「お疲れ様です!先の件ではお手数おかけして申し訳ありませんでした」

「むにょー」

「ありがとうございます…」


 いいよそんなの、と寛容な返事をした上司は四つ脚でトテトテと同僚の足元へ来ると、その膝上に飛び乗りました。テーブルの上からちょこんと顔だけを覗かせてこちらを見上げます。


「むにーんっ」


 あの特殊スキルはとても独創的なものとなった、実に楽しかった、とフワモコの上司はおっしゃいました。

 何と頼もしい事でしょう。あの状況ーー人と共に車両まで付いてくるというーーに困惑するどころか、楽しいという感想をもたれるなんて…。確かにあの時、車に乗り込んでカーナビやボーナスアイテムを用意していた上司はうきうきとしてました。


「どのようなスキルとなったのです?」

「むにょー、むにゃにゃ」

「ほう、それは…」

「むんむん!むーにょっ」

「まぁ。そんな事もできるんですね」


 どうやらああいうケースに対処する為のマニュアル(規定)があったわけではなく、上司の独断即決により生み出されたスキルのようでした。流石です!


 はた、と思い至りましたが…あの男性は取り入れたスキルが特異なあまり、規定として受け取れる物を得ていなかったように記憶しています。

 本来ならば、「鑑定」「ステータス割増」「アイテムボックス」などの生活力向上に関するスキルがもたらされるのです。それプラス、本人の希望に沿った能力を「転生又は転移特典」として受け取れる…車がくっ付いてこなければ、あの方もそうなっていた事でしょう。


 つまり、規定のスキルを得る余地のない程、あの異世界自動車という力が容量をくっているという了見なのでしょうか…?


「見つけたーっ!休憩なんぞしおって」


 突然に上がる大声で思考が中断されます。声の方を振り向けば、その主もこちらに向かって真っ直ぐやってくる所でした。

 わたし共と同様、直立歩行のヒト型。服装だけは違っていて、地球とは異なる世界の物であるのがわかります。彼女は恨みのこもった眼差しで、同僚の膝の上にいる上司を射抜きます。


「むにょ?」

「何だじゃないが!?こっちのセリフだわ。何だよあのヘンテコスキルは!」

「むむむん…」


 アレもできる、コレも実はできるようになる、と楽しげに自作スキルの説明をしていた上司は、目前に現れた者の剣幕にたじろぎを見せます。


「特殊スキルなのは良い。でも先方に報告するこっちの身にもなれ!仕様が細かすぎ、紛らわしすぎ!」

「む、む…」

「しかも何あれ、『車検』?あんなんグレーでしょ!好き勝手できてそりゃあんたは楽しかったろうがね、自由が過ぎるよ!」

「むにー?」


 えー、そんなに?と上司は不思議そうに首を傾げます。そんな態度を目の当たりにし、彼女ーー初めてお目にかかりますが、恐らくわたし共の上司に当たる方でしょうーーは憤怒の表情をさらに深めてしまいました。

 怒れる他部所の上司は、あの男性の向かわれた世界から問い合わせを受けたようです。我々の業界は無論、あらゆる世界の均衡を脅かさない為の配慮を必要とします。異世界自動車とそれを行使する為の能力は、彼女曰く「あんなんグレー」と呼ばれる程の物であったのかもしれません…。


「先方も『今のところ無害なので様子見』って言ってくれてるけど…なんかあったら、覚悟しとけよ。取り敢えず始末書。2日後要提出」

「むゅーんっ、きゅーん…っ」

「媚び売っても無駄だオラッ!」


 オラついた上司にひょいっと首根っこを掴まれ、小さな上司は悲壮感たっぷりの面持ちでぶら下がります。もふもふキュートな存在を膝から取り上げられた同僚は、僅かに残念そうな表情を見せましたが、止める様子は一切ありませんでした。


「邪魔したね」とわたし共には笑顔を見せて、お二方は休憩室を去って行かれました。


「だ、大丈夫でしょうか…」


 頭に浮かんだ不安をそのまま口にすると、同僚は温くなったであろうお茶を手にして言いました。


「大丈夫でなかったとしても、我々としては始末書を作成して終わりです。それ以上の事は、出来ません」

「そうですが…」


 昔は「転生・転移特典」で得た力により、その世界を崩壊させる事態となる例が幾つか起こったそうです。授けた能力はほんの些細なものでも、使う者によってはあまりに強大な力へと変貌するというのです。

 それでも、同僚の言葉通り、一度異世界へ渡った魂にわたし達が干渉する術はありません。


「こうなれば、そのドライバーの方が心穏やかに過ごされる事を願うしかありません」


 この世界にやってくる魂たちは、向かった先の世界で悲喜交々な営みを送ります。中には世界と折り合いがつけられずに、己の運命を呪う者だっているでしょう。「転生・転移特典」という特別な力を持って。

 わたし達は責任重大なのです。


「あのぅ、前から思っていた事があるのですけど…」


 わたしは上司のいなくなった出口を見てから、目の前の同僚へ視線を移します。


「何ですか?」

「一人じゃなくて、二人体制でのご案内ってできないのでしょうか。今回の件に限らず、対応する人が多い方がより慎重に皆さんを送り出す事ができると思うのです」

「…同意します。現状では、皆様の人生は我々のうち一人の采配に委ねられている訳ですからね。それが増えれば業務の質は上がりやすくなります」

「そうですよね!」

「ですが……うち、人手不足ですよね」


 沈黙。

 わたし達はテーブルの上にあるお茶へ向かって深いため息を吐きました。どちらからともなく、ぼんやりと天井を仰ぎます。


「頑張らないとなぁ…」

「そうですね。少しでも最善を選びましょう」


 異世界の片隅を大好きな車で走っているであろう男性の運命に、わたしは幸運を願いました。

 これからお会いする魂、してきた魂にも。



ーーー



 一方、異世界の片隅で車に乗っている男は、


「俺は悪人だ…すみません…ラスタさん」

「キィ?」

「うわぁ、めっちゃ切れる」


 勇者の剣をナイフがわりに、夕食用の干し肉とラディッシュをスライスしていた…。



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