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61.ステルスモードの良い所と駄目な所

「それで、どう?ここまで事情話したけど、協力してくれる気になった?シマヤさん」

「いや…それは」

「ちっ、なんないのかよ。普通ちょっとひと肌ぬごうとか思わない?コウモリマン」

「コ、コウモリマン!?」


 正直、そんな事情があるのならどうにか力になってやりたいという気持ちはあった。どの道おはぎ用の血液は必要だ。問題なのはその結果、目の前の彼が向こう見ずな行動に走るのが確定している事だ。

 立ち入り禁止の村には、ぜひとも立ち入らないでほしい。


「それなら……血を買い取らせて貰うのは頼もうかな。何日もかからないなら」

「本当!?やった!全然今日にでも渡せるよ」

「ただし、そのマホチェク村に一人で向かうのは諦めること。これが条件だ」

「はあ?」


 ニコラは喜色満面の様子から一転、怒った声を上げた。分かりやすい。


「それがダメなら、血を買い取るのも無しで」

「何だよもー、それじゃ意味ないんだって。ぬか喜びさせやがって!」

「別に行くなとは言わないよ、一人で行くなって事。顔見知りの先輩冒険者くらいいるだろ?血を売ったお金で交渉してみろよ」

「ったく、簡単に言ってくれちゃってさ。いるぜ?おれを囮にして魔物を狩ろうとした悪徳連中なら!」


 うおお…ひどい。パーティを組むのに失敗したと言ってたのは、そういう事か。冒険者として生きていく厳しさの一端を見た気がする。そうビビっている俺をよそに、ニコラは「くそう、ダメかー」と悔しそうに呟いた。


「期待するだけ無駄だったな。まぁ、腹が膨れたしいっか……お代わりしていい?」


 少年の期待に応えられなかった俺は、いちもにも無く了承した。食え食え。せめてたらふく食え。

 白いパンと皿いっぱいのシチューをバクバク平らげると、食べ終わった食器を返却して銀貨を受け取る(持ち逃げ防止のため、代金に前もって含まれている銀貨だ)。


「そいじゃ、ご馳走さん。達者でなコウモリマン・シマヤ!」


 俺からいい返事を貰えないと分かったニコラは、もはやかけらも未練のない様子でサバサバと手を振った。ウ○トラマンみたいに呼ぶんじゃない。


「ニコラも元気でな。無理するなよ」


 少年はそれに返さず笑顔で背を向けて、迷いなく大通りの向こうへ行ってしまった。

 意地でも村へ向かうという姿勢は全く崩れなかった。あのままでは、本当に一人で行ってしまいそうだ。


 なんともスッキリとしない別れだけれど、致し方ない。行きずりの身としては、悲劇のあったこの地を何事もなく通り過ぎるのが最善で、他人の事情に関わる謂れはない…。これで良い筈だ。


 魔物のせいで壊滅した村だなんて。そんなのに首を突っ込んで無事でいられるのは、漫画の第一話もしくはホラゲーの主人公くらいだ。

 …現実的な話、今その村に行っても魔物はいないだろう。冒険者たちが捜査に入ってるという話だ。むしろ、その周辺が危険のように思えた。どこで鉢合わせてもおかしくない。


 いやほんと、危険すぎるよ。どうか思い留まってくれ。


 通りを行く人混みの中へ彼の背中が消えると、俺は切り替えて来た道を戻る。人気の無さそうな路地で車を出して、素早く乗り込んだ。ステルスにして、ふうと一息。

 心配してやらなきゃいけない奴は、他にもいるのだ。


「…お前用の血をどっかで調達しなきゃな」


 眠っているおはぎを乗せたままのカバンを助手席へそっと下ろし、ナビで色々と探る。


 まずはここ、ドローシーの街の薬材屋……冒険者ギルドのめちゃくちゃご近所さんであった。ちょっと近寄りたくない。

 それから、周辺で最も栄えた街を検索。このフリツェラード領を治める領主館を構えた街(長い名前だ)が、東にあった。車で約1時間。


 そして本来の目的地であるキーストリアとの国境は、およそ5時間。予定外であるドローシーの街へ寄った事で遅れは出たが、道のりとしては進んでいる。

 国境寄りの街・ベインザイルには従魔可の宿がある。が、今からではそこへ辿り着くまでにどこかで一泊する必要があった。


「領主の街で一泊して朝一出発か、ここで泊まって朝一出発か…だな」


 因みに、どちらにも従魔可の宿はない。とほほ。こうなっては、車中泊しかあるまい。魔石の出番である。


 おはぎに噛まれた箇所を確認すると、ちょっと大きな虫刺されのようになっているだけだ。その内カサブタになって消えるだろう。

 この調子なら、最悪ベインザイルまでは俺の血で賄ってもいいかもしれない。


 それからは外に出て、ドローシーの街をなんとなくぶらついた。


 目を覚ましたおはぎは相変わらずぐったりとカバンの上に転がっているが、俺が健気にも差し出した腕を「さっき飲んだからイラネ」と断った。話を聞くにどうやら、血を摂取するのは3~5日に一度の頻度らしい。


 とはいえ、これまで一月以上も血を絶ってきたのだ。できる限り多く摂った方がいいのではないかと心配になる。

 本当に飲まんのか、いいから飲めとしつこく確認していると、おはぎは「コ、コワイ…!」と不気味がって俺から数センチ距離を取りだした。どうやら自分の血を勧めてくるメンヘラ野郎と思われてしまったらしい。誠に遺憾である。


 この街でやる事といったら薬材屋を訪ねるくらいで、それもすぐに完了した。生憎、お目当ての血液は置かれていなかった。

 閑古鳥が鳴くその店を出ると、すぐ向こうに見えるのは竜と曲剣のマークでお馴染み冒険者ギルドだ。薬材屋とは対照的に、ギルドとその周りの数件は人の行き来が忙しない。すわ強制依頼の影響かと、急いでその場を立ち去る。


 となると、もはやこの街に留まる理由は無くなってしまった。血を求めるなら(字面が魔物じみているなぁ)、領主の街にでも出発すべきだろう。

 だが、その街へ行って確実に手に入るとも限らない上、無駄足となってはガソリンの消費も気になる。


 そんな考えで、俺はドローシーで一泊する事に決めた。

…雑踏へ消えていった野球少年の後ろ姿が、ちょっとだけ頭の片隅に残っていたのかもしれない。



ーーー



 突然湧いた時間だが、有効に使いたい。という事で俺は洗濯屋に向かった。植木や鉢植えの花が小綺麗に並んだ、ケーキ屋さんといった風体の店構えに驚く。しかし中に入るとしっかり工房だった。

 この時間に頼んで朝一は無理か、と思いきや今日の夕方に受け取れるという。


 代金はクリーンのスクロールより遥かに良コスパだった。衣服の洗濯は今後、断然こちらの方が良いな。

 まぁクリーンのスクロールは体や口の中もクリーンにしてくれるからね。神である事に変わりはない。


 その後は華やかなマーケットをねり歩き、道中の飲み水や食べ物を調達した。パンとチーズにサワークラフトっぽいものだ。俺はまだキャンプ飯を諦めていない。可能ならば、火でチーズを炙ってパンに乗せたいのですよ。

 調達も終えると、疲れたので元の路地裏に戻ってまたもやステルス車に引きこもった。ダッシュボードから魔石の入った巾着袋を取り出し、ハニワへ食べさせる。

 暇つぶしに代行モードの車体リストを眺めてみた。色々と増えているではないか。


「へぇー、馬か。馬になれるって場合によって便利かもな…」


 魔物ではないから、人目についても問題ない車体といえる。頭に入れておこう。

 モストルデンの川辺で遭遇した川蛇くんは「イビルスケーラー」という名前らしい。固有タスクが「討伐後ウロコを3枚入手する」だからきっとそうだ。するとこの「サーベルディアー」が、あのいかついツノの鹿魔物かな。あのツノはおっかなかった。


「あっ、これだけ取得済みになってる!フォレストーカーって、宿屋で会ったサンディちゃんだな」


 リモダの宿屋で会ったサンディちゃんことフォレストーカーは、取得レベルが11でギリギリ到達していた為使えるようになっていた。俺のレベルって12だっけ?もう忘れそうだ…。

 イビルスケーラーやサーベルディアーは、リストに載ってるだけで車体取得はされていない。条件である「相手からの視認」がされていないのと、俺のレベルが足りていないからだ。


 もしイビルスケーラーを代行できれば、水の中を自由に運転できるようになるのだろうか。楽しそうだなと思う反面、それにはあの凶暴な魔物に見つからなければならないという事実に恐れを抱く。安全第一な俺には、やはり代行よりステルスモードの方が高評価だ。身を隠すだけでなく、こうしていざという時は寝床にも休憩スペースにもなってくれる汎用性は素晴らしい。心の平穏だあ。


 リストを眺め思いを馳せていると時間になったので、一旦外に出る。立派な洗濯屋からふわふわ清潔になった上下数着を受け取り、陽が落ちると現れたホットワインの屋台で赤と白を飲み比べたりと、どうにかこうにか時間を潰していった。


「キ~ィ」(くっさ~)

「ダメダメ、これは血じゃないぞ」


 手持ちのマグへ入れてもらった赤ワインを運転席のドリンクホルダーに収める。興味が湧いたらしいおはぎがモゾモゾとホットワインへにじり寄り、酒の匂いに不満を漏らした。血液不足な上にアルコールなんて摂っては大変だと、慌てて遠ざける。


「お前のはこっち。どうだ、具合良くなったか?」


 マスカットを差し出すと、おはぎは時間をかけてひとつぶ食べた。己の不調よりも、ぶどうが臭い液体ワインになっていることの方が気になるらしく、険しい顔で「これだからニンゲンは…」とか呟いている。

 少し元気になってきたのかな?いや、ただ呑気なだけかもしれない。

 

 酒の力は偉大だ。シートを倒して横になると、それなりにぐっすり眠れた。



ーーー



 翌朝。

 空の片隅だけが明るくなっている早朝に目が覚める。


 我ながら車中泊にも手慣れたものだが、毎回どこかしらが辛い。今回は肩がバキバキだ。起き上がって首と肩をほぐしていると、ピコのぬいぐるみの上からおはぎがモゾモゾとやってきた。


「キィ?」(やっと起きた?)

「おはよ……調子はどうだ…」

「キィ、キキーィ」(ヒマだからぶどうシチューのこと考えてた)

「そんなものは無い…」


 昨日立ち食いしてた時はぐっすり寝ていたはずだが、何故シチューを知っている。

 手を差し出すと乗ってきたので、状態を確認がてら軽くブラッシングをする。まだ動作は怠そうだが、ブラッシングが終わるとパサパサッと飛んで定位置へぶら下がった。やはり快方へ向かっているみたいだ。


 ステルスモードにしっぱなしだった為、ガソリンが2メモリしかない。ニカニカ笑うハニワへ今日も魔石を補充した。

 さて、これから長時間ドライブだ。気合いを入れねば。途中で寄れそうな所には寄って休憩すんぞ。


 しんとした早朝の路地をステルスモードで進み、門へと向かう。昨日出たのと同じ門だ。大通りの人気がまばらで少し心配したが、赤茶色の門は開かれている。そこには昨日俺たちの検問をした人がまだ居て、少し驚いた。検兵の勤務体制も中々過酷そうだな…これも村襲撃事件の影響なのだろうか。

 同僚らしき人と話している彼へ、お疲れ様です、と心の中で挨拶しながら門を抜ける。


「…ん?」


 まだ薄暗い丘陵の景色。くねくねと伸びる街道に沿って、見覚えのある小柄な背中が歩いているのが見えた。

 ニコラだ。


「あいつ……マジで行ってんぞ」


 荷物を背負っているの以外は昨日と同じ出立ちで、軽やかに丘を登っている。同行者は見当たらない。諦めない!と宣言した通り、単身で村へ向かっているようだ。

 俺は慌てて車をPに入れて、ナビの地図を辿る。丘陵を走る街道のいく先に「マホチェク村・跡地」を見つけてしまった。


 どうしよう。

 ナビの地図は危険地帯を赤色で示してくれるが、この辺り一帯はピンク色をしている。初めにこの場所を検索した時同様、特に目を引いて危険となっているわけではなさそうだ。

 それでも、この色の時によく魔物を見かけたのは事実だ。川蛇くんやオーク、サーベルディアーを思い出す。


「けど今から話しかけたって聞くわけないしな…」


 あんなに準備を整えて、もう街の外へ出てしまっているのだ。引き返せと言った所で聞き分けやしないだろう。いや、もしかしたら怖気付いてる可能性もあるか?

 『勢い込んで飛び出したは良いものの、冷静になると後悔してきた』となっているかもしれない。そんなタイプっぽいしな。もしそうなら、今説得すれば帰ってくれるやも。…ふむ。そう考えると、あのずんずんと進む揺るぎない歩調も、ただの虚勢に見えてきた。


「ちょっと様子みるか」

「キキ?」(誰だ?)

「昨日の野球少年だよ」


 見つけてしまったからには、気になって仕方ない。日が差し始めた丘原の中を、ブロロロと走行する。あっという間に追いついて横に並べば、そいつは確かに昨日ぶりのニコラだった。ステルスモードなので、こちらに気づいてない。


 朝っぱらから未成年をつけ回す不審者の完成である。改めて思うけど、このスキルってまずいな!?俺がもし生粋の変質者だったらどうしてくれたんだよと、このスキルを与えた新人ちゃんとおっさん上司的な人たちを久しぶりに思い出した。

 少年の身を案ずるただの善良なドライバーである俺は、運転席からニコラの様子を伺った。


 稜線から徐々に登ってくる太陽を振り返り、目を細めている。不安そうな様子はなく、むしろ清々しい表情だ。うん。やはり帰りそうにないっすね。

 揺るぎない足取りで進む彼の後を、ノロノロと徐行して付いていく。


「平気そうだなぁ…」

「キィ」(虫みたい)

「そりゃ相手は徒歩だし」


 ニコラに合わせちっとも速度を出さない車に、おはぎは不思議そうだ。ですよね。


 今更、心配してストーカーと化した所で、どうしてやる事もできないし、付き合ってちゃ日が暮れちまう。どう考えても、互いに良いことなど無いのが明白だ。

 せめてこの先の様子でも見ていこうか。今いる場所は視界が開けてるから良いが、この先の街道はやがて森へ入る筈だ。危険が増すだろう。


 そんな風に、ナビと車の外をキョロキョロと逡巡していた時。ふいに視界の端で何かがチカッと光った。


「なっ……うわぁあっ!」


 殆ど同時に、ほんの数メートル横を歩いていたニコラが悲鳴を上げる。


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