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57.オリハルコンの国

 車は森の中へと差し掛かり、目的の魔除けスポットに到着する頃にはすっかり夕暮れとなっていた。藪の中に伸びる道をナビに従っていくと、やがて前方に木立ちの切れ目が現れる。


 ステルスモードのままソロソロと徐行して、魔除けスポットの様子を車から眺めた。

 ふむ。かなり広いキャンプ場だ。

 森の中にぽっかりと空いた広場に、ポツポツと簡易テントが点在している。5、6組程だろうか。そんな彼らよりも真っ先に目についたのが、広場の真ん中にドドンと聳え立つオベリスクだ。


 夕暮れのキャンプ場にあるには、かなり場違いなオブジェ。何か意味があるのかと注意して見れば、この場の何処にも魔法陣と魔石のサークルがないのに気がつく。

 ではあれが、魔除け効果の発生装置ってことか。

 隣りのおはぎが忌々し気にオベリスクを睨んでる様子からみるに、恐らくそうだろう。


「プスーッ」(デカい、キモい、ウザい)

「モストルデンで見た魔法陣より効き目ありそうだな…」


 毛玉は聞いたことのない鳴き声でシンプルな悪態をついている。やめたまえ。オベリスクくんが可哀想だろ。


 一旦その場を通り過ぎて、おはぎと明日落ち合う場所を決める。魔除け効果の効かない程離れた場所に放逐されるというのに、おはぎは危機感もなくウキウキだ。

 こちらには便利なスクロールがある。近づいてくる者の有無を知らせてくれる「探知」のスクロールだ。こいつを使ってやろうとカバンから取り出しながら、おはぎに声をかけた。


「俺が言うのも何だけど、気をつけて過ごせよ。車の中にいる時みたいにダラけてたら魔物に食われちまうからな」

「キッキィ~」(逃げるの得意だもん)

「魔繋ぎの紐、使えるな?なんかあったら知らせろよ。迎えにいくから、できるだけここにいてくれよ」

「キィッキィッ!」(いやだ、遊ぶ場所探してくる!)


 ウキウキが絶頂のおはぎはキラーバットと心ゆくまで遊び尽くそうと、森の中の偵察に駆り出すと言い張った。

 俺は大層たまげた。魔物でもデートの下見なんてするんですか!?


「いや、あのな。…そんな事してやばい魔物に見つかったらどうすんだよ、大人しくしてろって。偵察なんて明日明るい内にやればいいから」

「ッキーィ!」(だって暇なんだもん!)


 気を取り直して説得するも、おはぎは頑として聞きやしない。夜目が効いて夜行性のこいつには、「明るくなってから」なんてそもそも無意味らしい。

 そう言い残し、毛玉は宵闇の藪中へさっさと飛び去ってしまった。


 嘘だろあいつ。

 元は野生とはいえ、最近じゃ車や宿でぬくぬく過ごしていたのだ。一晩も無事に居られるか、不安でしかない。

 暗がりの森林に取り残された俺は心配のあまりうだうだとその場に留まっていたが、すぐそばの藪からバサバサッと鳥が飛び立つのにビビり散らし、慌てて車に戻った。

 こうなったらもういいや。支度しよう、支度。


 必要な荷物を車から引っ張り出し、キーをロック。車が消えたのを確認して、早足でキャンプ場……じゃなくて魔除けの休憩場へ向かう。ドルトナで購入した野宿セットが久々に日の目を見る。


 魔除け場はかなり広く、俺1人の寝床くらいは自由に選べるほどだ。ぼっちでいるのは俺くらいで、3人組の冒険者らしき者もいれば、10人以上の騎士っぽい格好の団体もいる。

 その中でも話しかけやすそうな人を探して、あのオベリスクについて尋ねてみよう。使い方や効果を何も知らないままでいる訳にはいかない。


 馬に水を与えている若い男女に声をかけると、2人は訝しそうにしながらも教えてくれた。


「えっ、あんたストーン見た事ないのか」

「あらまぁ~、今までどうしてたの?」

「とりあえず、魔力込めてこいよ。ほら、あのツルッてしてるとこ」


 オベリスクことストーンは、思った通り魔除け魔法陣の上位互換のような代物らしい。使い方はほぼ一緒で、魔力を込めるだけ。

 魔法陣だと効果があるのは周囲のみだが、この巨大な媒介によって生み出される魔除けの力は広範囲にまでもたらされる。おはぎと別れた場所も、結構離れてたもんな。


 若者に促されてストーンの元へ行くと、白い半球の魔石が四方の面にそれぞれ嵌め込まれているのがわかった。魔法陣の中央にあったのとかなり似ている。成る程と合点がいき、手を添えてそのツルッとした石に魔力を込めた。ストーンの表面にみっちりと刻まれた魔法陣の模様が、ポワワンと光って消えた。

 訪れる旅人がこうして込め続ける事により、半永久的に魔除け効果を持続させているのだという。


 凄いな。これの小さいのを作って身につけてれば、魔除けのお守りになるんじゃないか?某RPGの「せいすい」的な、敵とエンカウントしなくなるやつ。


「そういうマジックアイテムもあるけど、貴重なものだから」


 俺の疑問に、女性が苦笑してそう答えた。

 ストーンは心強いが、良いことばかりではない。魔除けで気が立った魔物が他所で凶暴化し、被害が出る事もあるのだ。

 皺寄せが別の場所に行ってしまうのか…。毛を逆立てストーンを睨みつけるおはぎの様子を思い出し、俺は納得した。もしそういうリスクがなにも無ければ、世の中はもっとストーンまみれになってた事だろう。


「俺はモストルデンから来たんだけど、ミスラー皇国だとこれが普通の魔除けなんですか?」

「あらまぁ~、モストルデンから」

「それで知らなかったのか。この国お得意のオリハルコン製ってやつさ、コイツも」

「オリハルコン…?」


 なんか聞いた事ある……。ファンタジーな鉱石じゃなかったっけ?RPGで目にする単語だ。


「この国お得意ってことは、沢山採れるんですか?」

「あらまぁ~、聞いたことない?ミスラーはオリハルコン製錬でとっても有名なのよ」


 思わず聞いてみると、二人はまた困惑したように目を丸くした。

 この様子だと、一般常識だったっぽいな。折角ストーンに対する無知さを納得してもらえてたのに…。


 何でも、この国を興した初代皇王は土の神の加護を持つ人物だったらしい。その威光から、ゆかりの深い土魔法は誇りとして特に研鑽されてきた歴史がある。

 その中でも世紀の発明となったのが、土魔法を駆使した高純度オリハルコンの製錬・加工技術。現在に至ってもミスラー皇国がそれを独占し、無二の技術となっているんだとか。


 そういえば、マップにでかい採掘場があった。そうか。ここは金属製造が盛んな国なのか。オリハルコンがどういった物質なのかイマイチわからないが、この高性能なストーンもオリハルコン技術の賜物というわけだ。


 二人に礼を言って別れ、いい感じに開いたスペースに寝床を決めて荷物を下ろす。ちょうど先人のものらしき焚き火跡があり、草地の地面に燃え広がらないようになっていた。ありがたいので、ここにする。


 すっかり暮れつつある薄闇の中、薪となる太枝をなんとか集めて夕食の準備を始める。以前リヒャルトとイアニスとで野営をした際の記憶が頼りだ。

 苦心して薪を集めた後は、ランプの灯りを頼りに小鍋と葉野菜、干し肉を取り出す。葉野菜は先ほどの集落で購入したもの。干し肉は、はるか以前にモストルデンで買ったやつの残りだ。いくら日持ちするといっても、いい加減やっつけないと。


 枝の山を拵え、火おこしのスクロールで着火。小鍋に水を張っていざ具材を…とそこで、肉を切る包丁がないのに思い立つ。やはりナイフくらい買っとかなきゃダメだ…。

 仕方ないので葉野菜は手でちぎり、干し肉はそのままぶち込んだ。


 熱々に煮えた小鍋へ、最後に生姜湯ならぬクラーテルジンジャー湯を入れておしまい。特製スープの完成だ。見た目はイマイチだが、生姜のいい香りはするぞ。

 火傷に気をつけつつ、スプーンで一口。


「……うっすい」


 これはスープではなく、具の入ったクラーテルジンジャー湯だ。う~ん、オーガニック。温かなものを口に入れるとホッとするね…!このでけぇ肉が邪魔だけどね!誰だこんなもの入れた奴。

 残してもしょうがないので、黙々と食べて飲み干す。肝心の空腹は少しだけマシになったから、まぁいいか。

 

 折角苦労して拵えた焚き火なので、揺らめく火でも眺めてリラックス……と思ったが、周囲の人たちが寝支度を済ませているのに気がついた。火の灯りは魔物を呼ぶ。周囲に倣って寝る事にした。


 焚き火を慣らして火を消し、なるべく柔らかそうな地面に寝袋を敷いた。

 疲れていたが、背中が固くて中々寝付けない。元々生粋のインドア派で、宿屋のベッドがお馴染みの身としてはこうなって当たり前か。


 月明かりにこうこうと照らされるストーンを見上げながら、いつもより長い夜をじっと過ごした。



ーーー



 翌朝。ヒヒーンと鳴く馬のいななきで目が覚める。


「…あー…背中いてー…」


 周囲は馬だけでなく、わいわいと出発支度をする旅人たちで活気付いている。日の明かりから見て早朝だろうが……冒険者たちの朝は早いのだな。

 もぞもぞと起き上がって寝袋を畳む。俺の出発準備はそのくらいだ。あとトイレ(といっても、トイレ施設が整っているわけでは当然無い。大自然を五感で感じながらのお花摘みである)。


 しんと冴え渡った朝の空気の中、俺は早足でおはぎとの合流地点へ急ぐ。どの辺だったかな…と思った矢先、聞き慣れたキィキィ声が森の中に響く。木の枝にぶら下がるおはぎを見つけた。


「キッキィーッ」(おそいっ)

「おはようさん、無事だったな」


 一夜ぶりの毛玉はいつも通りの呑気な様子だ。心底ホッとしながら、道から逸れて車を出した。

 荷物を載せてエンジンをかけ、ガソリンをチェック。よし、満タンだ。


「キィキィー」(はやくはやくー)

「早速かよ。へぇへぇ、分かった」


 おはぎはいつものように乗り込もうとせず、キラーバットの到来を待ち構えている。


 久方ぶりのキラーバットを代行車体に選択すると、朝の森の景色が一気に巨大化した。うおお、この光景も久しぶりだ。

 例によって巨大化したおはぎの先導で、小動物視点の空中散歩が始まった。木々と葉の間をスイーッと滑空するおはぎの後を、逸れないようにハンドルをきってついて行く。おはぎには楽しいデートだが、俺には飛行運転の特訓となった。


「キィッキィ~」(ここまでおいで~)

「ちょ、そんな細い枝に駐車しろって?鬼教官かお前」


「キキキキィ」(この木のみ、おいしいよ)

「食べれないから押し付けるな、うわっ落ちる落ちる!」


「ギィーーッ!」(スライムだ、下がって!おはぎが守る!)

「おい、その後ろ!デカいウサギがこっち来てるぞ!」


 意思疎通がままならず、途中でホーンラビット(一角ウサギ)に狙われるというハプニングもあったが、おはぎはデートを満喫できたようだ。コイツからすれば、正気のないキラーバットが無言でついてくるだけだろうに…どこがそんなに楽しいのやら。


「キィキィッ」(だいすき、また会おうね)


 隣りにやって来てスリスリするクソデカおはぎはここ1番の上機嫌だ。恋するプラムバットの気持ちは分からないが、嬉しそうで何よりです。


 約束を果たし、デートは終了。遊び疲れたおはぎは定位置のサンバイザーにぶら下がると、たちまち眠りの世界へ入っていった。

 爆睡する毛玉を尻目に、マドゴアの街を目指し車を走らせる。森を抜けてからは時々休憩を挟み、身体を伸ばしたり景色を眺めたりしてから再びハンドルを握って移動を続けた。


 途中、空腹に耐えきれず立ち寄った小さな町で飯屋に突撃。丸パンとトマトソースで味付けされたベーコンにありついた。いい香りが脳髄に直撃する。


「んぶぶ、うまっ。うまい」

「うちは弁当もやってるぜ」

「くらふぁい」


 まいどあり、とホクホク顔でテイクアウトを作ってくれた店主に代金を払い店を後にする。同じベーコンと丸パンを使ったBLTサンドが2つだ。マドゴアまで残り1時間程。車内でのんびり食べよう。

 金はあるのにひもじい想いをするなんて、切なすぎる。飯の買い忘れには、今後気をつけんとな。


 小さな町を出ると、緑の丘が広がる長閑な風景が広がる。どうやら町の周囲がぶどう畑になっているようだ。まさに絵になる風景だったが、10分もすると茫漠とした平野に様変わりしてしまった。

 狼魔物の群れの横をブロロロと通り過ぎ、その群れの様子を身を潜めて伺っている冒険者チームの横も通り過ぎて、ナビの通りに走る。街道からは大きく逸れているものの、遮蔽物の殆どない平野なので走行に問題はない。


「まもなく、目的地付近です」


 ナビがそう言い始める頃には、大きな街を覆う街壁が遥か前方に見えていた。


「ふぃーっ、やっと着いた」

「キィ」


 是が非でも今日は宿にあり着きたい。従魔OKの宿が、まさかの満室になっては一大事である。しっかりと宿屋の位置をチェックしよう。


 検問を待つ人の列が伸びている。この光景も久しぶりだ。

 少し離れたぶどう畑の一角で支度をし、車を降りて検問を目指した。収穫後なのか、畑は閑散として誰もいない。ぶどうか…ひょっとしたら、ワインが飲めるかも。


 ムフフと期待しつつ、マドゴアの検問を受けて街壁の下をくぐる。

 入ってすぐに出迎えるのは、整然と並ぶ路地と建物たち。賽の目状に広がる街並みは、元の世界でよく目にした事もあってどこか親近感が沸いた。駅周辺がこんな感じだったな。勿論、立ち並ぶ建物は全てヨーロッパ風情の木造やモルタル製で、外国情緒しかないが。赤や緑、黄色にオレンジといった色とりどりの梁が、目を楽しませてくれる。


 いの一番に目指した宿、「子連れフェンリル亭」はオレンジ屋根にダークレッドの梁をした小綺麗な建物だった。無事に一部屋取れたのでいったん宿を離れ、この街の商会支部へ足を運ぶ。

 今回納品するのは3箱だ。荷下ろしポイントは商会の近くにしなければ。


 リモダの街ほどの広さではないおかげで、迷う事なくザクンダ商会に辿り着いた。こぢんまりとした建物だ。

 そういえば、この商会はミスラーで立ち挙げられたんだったな。確か皇都に商会本部があるらしいが、クラーテルジンジャーの納め先ではないのでスルーだ。

 皇都はいわゆるこの国の首都。…観光してみたい気もするけど、やはりキーストリアへ早く行きたいな。当初の予定通り、長居無用だ。


 ウロウロと夕方近くまで歩き回った甲斐あって、良さげな空き地を見つけた。建築用らしき木材がうず高く積まれた見通しの悪い空き地で、車が隠れるにはちょうど良い。ここからなら商会もそう離れていないので、明日はここで荷下ろしをしよう。


 子連れフェンリル亭へ戻ってきた。

 宿名からして訳あり武人と幼い男の子の二人で経営してるのかと一瞬勘繰ったが当然そんな事は無く、主人とおかみさんの他に従業員たちが切り盛りしていた。ガヤガヤと繁盛している。


 まだちょっとお疲れ気味にジャガイモをかじるおはぎと厩で別れ、俺は夕食と共に赤ワインをひっかける。カリカリもちもちでボリュームのあるガレットにワインはよく合った。

 部屋に上がってその日は就寝。ベッドだベッド!暖かで快適な寝床で眠れる幸せを噛み締めた。


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