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44.結成、「サンカヨウ」

レダート家の訳あり次男坊が溺愛する義兄上は、まぁ寮生活が主らしいから来ないだろう。

そうたかを括っていた数時間後、「イアニス、久しぶり!元気にしてた?」とそのご子息がまさかのご登場を果たすのだった。


イアニスが王都へ来ると聞いて、兄弟の顔を見にわざわざ学院から帰ってきたらしい。イアニスからの人目を憚らない抱擁を恥入りながらも笑顔で受ける少年は、己の父親より年上の弟(もう意味不明だな)を慕っている様だ。


「え、俺らもう追い出されるん?」

「知らん。そうなったら起こせ、私は休む」

「ぼっちゃまはイアニス様と共にダンジョンに入られる貴方がたにも興味をお持ちです。宜しければどうぞご一緒に夕餉をお召し上がりください」


ダムザさんがそう言うので、どうやら今回は放り出されずに済むようだ。良かった。


「レダート家長子、クレイグ・レダートだ。今日はよく来てくれた。気兼ねなく身体を休めて、明日からに備えてくれ。……イアニスを宜しくね」


俺たちにもそう挨拶をしてくれる。貴族服をピシッと着こなし、穏やかそうな雰囲気だけがどことなくイアニスと似ていた。目を引くオレンジ色の髪に、コバルトブルーの瞳が嬉しそうに輝いている。


聞けば学院でも授業の一環でダンジョンに潜る事があるらしい。俺の思っている「学校」とは随分違う所なんだな…。

魚やサラダ、スープにパンと彩り鮮やかな料理がテーブルに用意され、ご馳走になった。テーブルマナーとか知らない俺は内心焦ったが、バターのきいた魚の美味さにどうでも良くなった。醤油、求む!


ダンジョンに潜る目的を聞かされ、義兄上くんは「温泉…ですか。確かキーストリア国に湯治で有名な街があるけど、あんなものが本当に我が領で…?」と首を傾げた。半信半疑みたいだ。


そんなこんな、明日からまた学院へ戻るという彼との晩餐は更けていった。


「リヒャルトのお祖母様の次は、イアニスの孫に会った気分だ」

「フン。奴らは血が繋がってないだろう。そもそも種族が違う」


俺とリヒャルトはあてがって貰えた自分の部屋へと向かいながら、そう雑談をかわす。イアニスは置いてきた。部外者二人は夕飯を食べ終えると退出し、今ダイニングには兄弟水入らずの時間が流れているはずだ。


「あのクレイグって子からしたら、イアニスは祖父が連れてきた子で、叔父さんみたいなポジションなんだよな。でも父親が養子として迎えたから兄弟で、長男だと跡取りになっちゃうから次男に据えられて…弟になった?」


そこまで複雑だというのに、見た目だけは歳の近い兄弟そのものだ。カオスにも程がある。


「人間どもの考えることは理解できん。家族とは血族。貴族なら尚更だ」

「ふーん。そう言う割には大人しくしてたけど、気を利かせてたのか?」


晩餐での様子を思い出して、俺はそう指摘する。リヒャルトは義兄上くんの質問にもただそっけなく返し、黙々と食事を口に運ぶのみ。意外だった。彼なりに先ほどの暴言を反省しているのだろうか。


「馬鹿が。くだらん話題に入りたくなかっただけだ。客人をもてなす会話ひとつ出てこんとは、貴族のたかが知れているな」


謎の上から目線で嫌味をぶちまけつつ、リヒャルトはさっさと部屋へ入って行った。

まぁ確かにレダート兄弟はお互いの近況に花を咲かせていたが、自分家なんだからそんなものだろう。飯もデザートも美味しかった。


予め客人が来ることを知らされていたのだろう。部屋は清潔そうに整えられていた。使用人さんに預けた荷物が部屋の隅に置かれ、窓枠にはおはぎがぶら下がっている。


「キィ〜」


何食ったのさ?とちょっと恨めしげに聞いてくるおはぎは、許可を得て部屋に入れて貰った。イアニスのおかげだ。使用人さんは顔が引きつっていたが、何も言わずに荷物と一緒におはぎをここへ連れていってくれた。ありがとうございました。


「拗ねてんのか?またフルーツ買ってやるから」

「キーッ?」(血はー?)

「ち、血はまた今度な…」



ーーー



翌日。

閑静な貴族街から一変、王都の冒険者ギルドは人また人で賑わっていた。


「お待たせしました。リヒャルト・グウィストン様、イアニス・レダート様、シマヤケント様。以上3名を冒険者チーム『サンカヨウ』として登録致しました。

規定に則り現在はEランクとします。それでは、ご武運を」


そう俺たちに告げギルドカードを返した受付さんは、小柄な女の子。しかもフワフワの小さな耳にくるんと丸まった尻尾持ちの、まごう事なきケモミミ美少女だった。

俺はこの時を待っていた…異世界に、乾杯。


動物の特徴を持った人間は「獣人」と呼ばれるらしく、人となんら変わりなく暮らしている。ドルトナのような辺境では一人しか会わなかった(俺の車をキモいと宣ったあの失礼なやつだ)が、王都では割と頻繁に見かけられた。

間違いなく彼女はこのギルドの看板娘だろう。にこっととびきりの笑顔を見せて「次の方~」と仕事に精を出している。


「はいはい。さっさと行きますよ~」


リス獣人の受付ちゃんに気を取られすぎている俺をイアニスが引っ張ってゆく。

王都のギルドは受付カウンターが幾つもあり、依頼用や相談用、登録手続き用などに分かれていた。それでも尚、列を為す人が絶えない。待合のベンチがそこかしこに並び、食堂らしきものまで併設されている。

2階、3階もあって職員や立派な身なりの冒険者が行き交っていた。あっちはいわゆるVIPルームらしい。VIPと言っても身分の高さではなく、ランクの高さによるものだ。


冒険者チームの登録(結局、チーム名は旅館の名をとってサンカヨウとなった)を終えると、慌ただしくギルドを後にする。もうちょっと中を見ていたかったが、イアニスもリヒャルトも準備に余念がないようだ。大人しく従おう。


ギルドの付近にはいかにも冒険者御用達といったお店があちこち立ち並んでおり、そこで二人はテキパキと目当てのものを仕入れて行った。

傷を癒すためのポーションに解毒薬。いくつもの松明と油。それらを買い求めながら、イアニスは俺に目的地である塔のダンジョンについての詳細をレクチャーしてくれる。


王都からほんの数キロの位置にある、名もなき巨塔。人々からは「王都のダンジョン」「モストルデンのダンジョン」と呼ばれている。

出現するのはゴブリンやゴーレムといった人型魔物たちで、上階へ登るごとに半人半魔の厄介な魔物が現れるらしい。


どの階も迷路のように入り組んでおり、人喰いの宝箱や落とし穴を始めとしたトラップが存在する。1~4階は上へと続く大階段があって、そこが魔物の出現しない「セーフティエリア」になっているそうだ。それ以降は6、10、17、20階にいるエリアボスを倒さないとセーフティエリアにはありつけない。

俺たちの目標は10階にいるエリアボス「アラクネ」が落とす魔石と糸を集めることだ。


「アラクネの糸は魔力が宿っていて、武器と防具両方の良い素材になるんだ」

「それが高値で売れるのか。人喰いじゃない普通の宝箱とかは無いの?」

「下層は取り尽くされているよ。あるとしたら20階より上だろう。あそこは入るたびに中の構造が変化するらしい」

「そ、そうか。俺たちは行かないよな?」

「安心して。無茶はしないと約束したろ」


最上階は25階で、待ち構えるラスボスのヴィーブルを倒しダンジョンを制したのは、これまでたった2組しかいない。88年前に一度と、およそ500年前に一度。最初の踏破者たちは、先代勇者イナーフィアと肩を並べたという強者集団だったらしい。


「シマヤさん。サンカヨウで見つけた手記に『テオドラ』という人物がよく上がっていたのを覚えてる?…彼女こそ、初めてあのダンジョンを踏破したチームのリーダーなんだよ」


…そういえば、あったなぁ。ダンジョン産の魔剣に付与(エンチャント)を施す依頼が来て、その依頼主がテオドラさんだった、と書かれていたっけ。


「なんか聞いた覚えあるなと思ったけど、テオドラって御伽話の女騎士じゃなかった?」

「あれ。よく知ってるじゃないか」

「ドルトナに同じ名前の装備屋があってさ。そこのおばちゃんが教えてくれたんだよ」


風の女神の加護を受けた英雄だ、とか何とか…。どうもその御伽話の騎士と手記に出てくるテオドラさんは同一人物らしい。

咲良さんはえらい偉人と知り合いだったようだ。


当時ヴィーブルからドロップされた巨大なダイアモンドと魔剣「オルディバラ」は、現在王家が国宝として所持しているらしい。


「ドロップアイテムって武器も出るんだ」

「2度目の踏破時には流石に出なかったようだよ、魔剣は。レアドロップといって、同じ敵でも稀に珍しいアイテムを落とすことがあるんだ」


ふーん…ジズの羽根もそうだったのかな?あれはラスタさんが数回倒して、一度しか出なかった。


ダンジョンの周囲にはギルド職員や王都の兵士が駐屯しており、そこで受付を済ませてから入れようになる。チーム名と攻略期間を控えおくのだ。しかし、その通りに戻らなかったからといって誰かが救出に来てくれる訳ではない。挑んだからには、全て自己責任なのだった…。


俺は基本的なことを知らなかったことにふと気づいて、二人に尋ねた。


「なあ。二人はいわゆる、魔法使いってやつなのか?剣士とか斥候とかではなく」

「フン、当然だ。剣などどこにもぶら下げていないだろう」


何をわかりきったことを、とリヒャルトにすげなく返される。リヒャルトは氷属性と闇属性の魔法使い。イアニスは風属性を持っているが、専ら従魔の力を借りる戦い方をするらしい。

俺の内なるRPG脳がわっくわっくと活性化しだした。ジョブは「魔法使い」と「テイマー」か。……前衛がいない。もちろん、俺には無理だ。俺は車で頑張るのだ。


「ほうほう、そうだったのか…。じゃあ、これから魔法の杖とかの店に行ったりする?」

「ん、杖?…リヒーはもう持ってなかった?」

「ある。余計な物を新調する気はない」

「買い物はこの位かな。後は情報集めだけど……どうかした?残念そうな顔して」


イアニスは肩を落とす俺に首を傾げるが、何でもないと首を振る。

ファンタジーの武器や防具を見てみたい、とは言い出せなかった。またリヒャルトにどやされそうだ。


ギルドや二人の馴染みの店で話を仕入れた結果、アラクネの糸が値下がりしているという情報は無かった。どうやらゴーレムコア(ゴーレムのドロップアイテムだ)が良いお値段になっていた時期はもう過ぎてしまったらしく、今ではいつも通りの相場となっているらしい。

ギルドの依頼を張り出す掲示板には、確かに「ダンジョンでの素材採取、コア×20」や「魔石・小×30」といった依頼内容がわんさとあった。どれもドルトナのギルドでは無かったものだ。


街での用を終えると、寄り道もせず早々に帰って仕入れたものを確認し、配分していく。当日は俺も貰った「麻痺」のスクロールなどを持っておかねば。ポーションとかもあったから、それも確認しないと。

……え、今やれ?見せてって?ここイアニスの部屋だけど、こんなとこに車出していいんすか?「誰も見てないから大丈夫」て、そうじゃなくて……ここ室内ぞ?!


というわけで、俺が魔境で譲り受けたスクロールや上級ポーション、解毒薬等が彼らに委託(使ったらあとで代金を払い、使わなかったらそのまま返してもらう)される事となり、ダンジョンに挑む準備は整った。

明日は街の開門と共に、1回目のアタック開始だ。


「貴様は……こんな物を一体どうやって手に入れたのだ…」


透明な青い薬液の入った小瓶を摘み上げて、リヒャルトが顔を顰めている。その上級ポーションは、二人に2本ずつ渡っている。

実はそれ以外にも一本だけ「エリクサー」なる物も持っているのだが、これは内緒だ。本当にヤバい時に出そう。


「別に犯罪とかじゃないからな、言っとくけど。俺のスキルで頼み事を引き受けて……その報酬として受け取ったの!」

「これらを報酬にポンと出せるとしたら、高位貴族かA級冒険者って所だけど……」


イアニスが探るように言うが、俺は頑として明かす気はなかった。魔境で暮らしている事が世間に知れれば、ラスタさんの穏やかなリタイア生活を脅かしかねない。

そも彼らに告げる必要のないことだしね。知り合いならいざ知らず。


「うぅむ。シマヤさんは我が家の伝手で仕事先を紹介、なんて言うけど……既に中々の伝手をお持ちなのでは?」


イアニスが苦笑して発する台詞に、俺は曖昧に返事をする。

魔境のラスボスと元勇者が伝手か…。ホワンホワンホワ~ン、と彼らとの記憶を辿る。



『小麦粉も頼む。あ、できれば小麦の苗も欲しい。育つか試したいんだ。塩・胡椒と砂糖もぜひ』


『服を忘れるでないぞ、油も、くれーぷもだぞ!』



…そうだった。あの時は、割と必死でお駄賃代わりの財宝を断ったのだ。ひょっとして、いいお得意先なのか?あの人たち。




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