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17.不審者と化したけど、ドルトナを堪能する

空腹がピークだったので、食事所を探した。メニューが外に書いてある店を見つけて入る。好きな席へどうぞのスタイルだった。

さすが異世界…どれも中々に変わり種。一番馴染みのありそうなのを見つけて注文した。シチューとパンのメニューだ。


「うめぇ、美味いっ!」


むせび泣きそうなほど美味かった。シチューはトロトロ、パンはふかふか…とはお世辞にも言えない固さだが、シチューにひたすと絶品だ。何より塩気とハーブの香り。調味料万歳である。


にこにこと笑顔の店主に見送られ、飯屋を出る。だいぶ恥ずかしかったな。足りなかったので、バリードバードのステーキなるものを追加して食ったのだ。食い放題以外の外食でおかわりなんてしたの、生まれて初めてだ。


さて、飯も食ったし、次は換金だ。魔境産の金ピカたちを路銀にして、野宿の準備を整えたい。

しかしどこを探せど貴金属買取店のような店は見つけられなかった。やっとの事で目に入ったアクセサリー屋でお願いしてみると、「そういうのは冒険者ギルドで買取してもらってくれ」と迷惑そうに教わった。


「これらはねぇ…うちで扱うにはちと高いし、インゴットなんぞ買い取る金はないよ」


まさかのギルドに逆戻りである。貴金属だからジュエリー屋ってのは、安直だったみたいだ。

せっかくだからこのくらいは、といくつか小さな指輪と耳飾りを買い取って貰った後、来た道をすごすご戻る。


ギルドに着いて中を見回すと、受付とは別に買取カウンター口があった。今日作ったばかりのギルドカードが早速出番だ。カードを提示してから、金ピカたちを持って行く。

カウンターの女の子は剥き出しのインゴットや宝飾品に一瞬顔を引き攣らせたが、全て預かって貰えた。


「インゴットにつきましては本日中に換金できますが、他の宝石類などはこれから査定が要ります。こちらは明日の昼以降となりますがよろしいですか?」

「はい、よろしくお願いします」


良かった。持ち合わせの硬貨がすでに乏しかったので、安心した。

こんな冒険者風でもない一般人が、金塊やらをドサドサ持ってきたら怪しいよな。ラスタさんから貰った物のうちの少量しか渡してないが、それでも普通の金額じゃない。尋問とか受けたらどうしよう。

色んな場所で少しずつ替えていくのが良いだろうな。


しばらくベンチで待った後、無事に換金を受け取れた。インゴット2つが白金貨4枚、大金貨2枚、金貨6枚、銀貨と銅貨もちょろちょろっとになった。

見た事ないキラキラリンな硬貨がある…いくらだ?俺は少女ボスのコンビニで取った硬貨のメモ書きを取り出し、確認する。



青銅貨 1

小銅貨 5

 銅貨 10

大銅貨 100

小銀貨 500

 銀貨 1000

大銀貨 3000

 金貨 10000

大金貨 50000

白金貨 500000

大白金貨 3000000



という事はしめて…216万と少し…


「ヒッ」

「全てお渡しでよろしいですか?それとも一部にして、あとはギルドでお預かりする事もできます」


あまりの額に悲鳴を上げた俺に、受付の女の子は説明してくれる。

ギルドで換金した金銭に関しては、ギルドが銀行のように預かってくれるそうだ。カードを提示して本人と確認がとれれば、どの支部のギルドからでも金を引き出せる。


「その引き出しは、即日できるんですか?」

「基本的には。ただ額にもよりますし、本人確認が困難な場合は即日とはいきません」


ここのような田舎のギルドには正直キツいです、と女の子は笑う。おう、本音漏れとるな。

主要都市などにある規模の大きなギルドは資金が潤沢なので、そういう手続き系が迅速にできるという。ギルド側もこう言ってるし、俺もこんなクソデカ額な金貨は嬉しいけど地味に困る。一枚で50万なんて、買い物できないよ。


銅貨と銀貨を主に40万ほど手元に貰って、あとはギルド預かりにしてもらった。これで俺もにっこり、職員さんもにっこりである。

野宿の備品、足りるか?持ち歩いたことのない現ナマに戦々恐々だが、物価が分からんからこれでも足りないかもな。


「ああー、疲れたなぁ…」


やる事はまだ残ってる。しかし換金所を探して知らない街をウロウロしたせいでくたびれてしまった。今日は店に見当をつけて、調達はまた明日にしよう。


もう車中泊はこりごりなので、外で野宿できるようしっかり備えないと。この世界、寝袋ってあるのかな。寒かったから毛布もいるな。

夕焼け空になりつつある街の中、それっぽいものが置いてある店を2・3軒見かけたので場所を覚えとく。


帰り着いた宿屋でも尋ねてみると、店主さんと奥さんが近くの店舗を教えてくれた。


「すぐ近くに『テオドラ』て装備屋があってな、俺の妹がやってんだ。色々揃えられるはずだぜ」

「装備屋か…」


あれか、武器屋・防具屋みたいなお店か。でも、剣も鎧も正直俺には要らない。

だが店主は呆れたように首を振って言った。


「まさかとは思うが、そんなナリで街を出る気かよ?防具くらい見ていけって。ていうか、野宿の用意より先ずそこだろう」

「食料も要るでしょ?通りの向こうに携帯食が揃った店があるから、そこも見ておいで」


花売りコカトリス夫婦に装備屋と食料の手に入るアイテム屋を教わった。折角なので、見にいくことにする。

うちは料理も自慢だよ!と笑う奥さんにつられて、朝食もお願いした。ついでにもう一泊追加するので、その分の料金も払って部屋に上がる。


明日は色々揃えるぞ。



ーーー



翌日、降りて朝食を取る。パンにスープ、肉と芋の入ったオムレツの朝食だ。サラダも付いてて彩豊か。意外にも日本の軽食屋のモーニングみたいで、すごくほっこりした。美味い。


腹を満たしてしばらく店主と話した後(言ってはなんだか、あまり忙しくはなさそうだ。そもそもこの街によそから来て泊まる人が少ないのだそう)、教わった店へ向かう。店主の息子が道案内として付いてきてくれた。


「テオドラ」と看板の下がった店に到着すると、息子くんが店内に声をかける。


「おばちゃーん、こんちわ」

「はぁい。あら、アンタどうしたの?」

「お客さん連れてきたぞ。ほら、噂の変な格好のやつだよ、もう着替えちゃったけど」

「え?」

「え!?」


やって来たふくよかなおばさんと、俺の声がかぶる。

噂?噂って何だ。そんなの立ってるの、全然知らなかった。怖ぇよ!

「アンタ、お客さんの前で丸聞こえだよ!」と頭を叩かれた息子くんは「うえー、いってぇー」と呑気に騒いで帰っていった。


「はぁ。すみませんね。いらっしゃい」

「あの、噂って…」

「狭い街だからねぇ。すぐ広まるよ」


来た当初に、あのジャケットチノパン姿でウロウロしていたのが相当目立っていたらしい。怪しまれているだけで、厭われているわけでないみたいだ。ひとまずホッとした。

いいだろう。いっそここで、めちゃくちゃ怪しまれようじゃないか。どうせ旅立ったら、それっきりの場所だ。この先の人里で目立たず振舞えるような準備を、今の内にしてしまおう。


すっかり開き直った俺は、「何を探してるんだい?」と尋ねてくれるおばさんに相談した。


「ほら、マントはどうだい。これがあれば、夜には毛布がわりになる。こっちは防水性の高いラムトシープの皮でできてるから、雨にもバッチリだ」


そう紹介されたのは、フード付きのマントだ。レインコートみたいになってる。

本当だ、これ良いな。着てれば持ち歩かずに済むし、しっかり毛布にもなりそうだ。


寝袋のような寝具は残念ながら置いてないらしく、別の店を紹介してくれた。運転中の尻を労るクッションも欲しかったが、それも多分その店にあるという。


話しをしていく内に俺が旅慣れてないのに気付いたのか、おばさんは「コレは持ってる?」「コレも無いのかい?」と次々に聞き出しては勧めてくる。商魂たくましいぞ。

確かに必要そうだと感じる物も多かったので、言われるまま揃えた。ランプ、火おこしのスクロール、飲み口のついた水袋、皮のベスト…は胸部を守る軽めの防具で、最低限身につけておけと強く言われた。

街の外で見かけた冒険者装束の人たちや、門兵さんの格好を思い出すとそれも頷ける。


武器も勧められたが、それは断った。ナイフくらい持ってても良いのかもしれないけど、とりあえず保留だ。決してレベル上げに懲りたわけではないぞ。ありませんとも。


テオドラを出て(テオドラはおばさんの名前ではなく、風の女神の加護を受けた女騎士の名前らしい。おばさんの好きなおとぎ話だとか)、紹介された店で寝袋と超重要アイテム・クッションを購入。


さらに別の店で、携帯食を仕入れた。真っ黒な干し肉だ、ウエ。お湯に溶かして飲む、プロテインじみた飲み物もあって少し面白かった。プロテインに挑戦する勇気はなかったが、ハーブティーや生姜湯に似た飲み物があったのでそちらを購入した。不思議な名前の生姜が、この辺りの名産品らしい。

これで夜にあったかい物が飲める。湯沸かしと木造りのコップも買った。ふふふ、金ピカゴブレットが今や懐かしい。


それから昨日見つけたスクロールの店に入ってみる。目くらまし(ブラインド)のスクロールというのが、使い勝手が良さそうで幾つか購入した。

そして、気になったのがもう一つ。


「このクリーンって、どんな効果があるんですか?」

「おや、知らないかい。名前の通り、汚れ落としだ。魔物の返り血から食器の汚れまで、色んな物に使えるぞ」

「ああ、それでクリーン…散らかった部屋とかも片付くんですか?」

「それは自分で片付けな…」


気になったので店員さんに尋ねると、成程かなり便利なスクロールだ。にしても返り血て、そんな物騒な。


「込める魔力にもよるが、机や床の埃くらいならきれいになるだろな。自分にかけりゃ、身体を拭くのにも使えるぞ」


何っ、身体の汚れも落とせるのか?すげえいいじゃん。

車内の掃除によさそうと思ってたけど、俺の風呂がわりにもできるって事だよな。買おう買おう。

異世界って不便だと思っていたが、案外そうでも無いのかもしれない。少なくとも、これを発明した人は天才に違いない!


店員さんの生温かい目に見守られながら他にも店内を見て回ると、魔境で貰い受けた「麻痺」だとか「物理攻撃軽減」のスクロールがかなり高額品なのが分かった。

こんな値段するのか…

ラスタさんの持ってた無限に水がわく水筒といい、このスクロールといい、冒険者というのがいかに夢のある職業なのかが分かった気がする。現代でいえば、メジャーリーガーとかオリンピック選手みたいなもんか。


荷物が嵩張ってきた。折角だから、車に詰め込みたいな。

そう欲をかいた俺は、人目につかなそうな場所を求めて足を運ぶ。まるっきり不審者であるが、できる限り知らん顔を心がけよう。


「ここならいいかな…」


やっとこさ人通りの少ない路地を見つけだし、人が居なくなるタイミングを待つ。ほんの少しの時間があればいい。見張られてでもいなければ、誰にもわからないはずだ。

人が捌けるのを見計らうと、俺はキーを出してロックを開けた。


スーッと音もなく現れた車に急いで乗り込み、エンジンを入れる。いつ人がひょこっと歩いてきてもおかしくないので、気が気じゃない。

ナビが起動したので、すかさずステルスモードで雲隠れだ。暫く様子を見たが、辺りはしんと静かなままで誰もいない。よし、大丈夫そうかな。


「さて…これからどうしようか…」


ナビの地図を眺めて、これからのことを考える。


ひとまず、ラスタさんに勧められた「キーストリア王国」を目指そう。今いるのはモストルデン王国で、この街は概ね好印象だが王様への印象は良くない。それにラスタさんに頼まれた「翳りの湖」は、キーストリアの東にある。


せっかく何のしがらみもない根無し草なんだ。平和で豊かな、住みやすい国を見つけよう。


キーストリア王国は、ここからさらに南方に位置する。ただ気になるのが、キーストリアとモストルデンの間にある「ミスラー皇国」だ。


ラスタさんによると、モストルデンなどよりよっぽど厄介な国で、住むのはよした方がいいとキッパリ言われた曰くつきの国だ。「特にシマヤのような特殊スキルがあるやつは、攫われて何をされるかわからない」だとか。いや怖すぎるだろ。

しかしここを通らなければ、キーストリアへは入国できない。


「ジズって飛び越えちまえば問題ないか…?うーん、でもなぁ…」


入国料を踏み倒すみたいで気が引けるが…雲の上を通過すれば実際入国しないわけだし、良いかな?

いやでもそうなると、キーストリアに密入国する事になるのか。やはりダメだ。


うんうんと考えた結果、まずミスラー皇国の国境近くまでジズで移動して入国、それからキーストリア王国の国境近くまで再びジズで飛ばしキーストリア入りをする、という方針を打ち立てた。これなら法に触れることもなかろう。法律知らんけど。


道中は街にも寄りたい。補給がいるだろうし、ギルドカードの失効回避の為受けられる依頼は受けないと。

ナビの目的地選択で「キーストリア王国」「国境」「街」と入力すると、幾つかの街や検問所の目星がつけられた。やはりナビの案内でも、ミスラー皇国は経由地としてルートに入っている。しゃーない。


目安として入れてみると目的地のキーストリア王国国境までは、ジズでぶっ通すと4時間弱、陸路だと脅威の38時間だった。


「一週間は見た方がいいな…ギルドカードのタイムリミット的には、余裕ありそうだけど」


それでも、ギリになって受けれる依頼がなかったら大事だ。道ゆく先のギルドには行ってみないと。換金もあるし。

あ、そうだ。宝飾品を売った金を受け取りに行くんだった。ナビの時計を見ると、昼の2時をまわってる。もう査定が終わってるはずだ。


荷物を車に置いて身軽になりたかったが、よくよく考えればこれだけ買い物しといて手ぶらでいるのもどうなんだ。あいつ荷物どうしたんだって不審がられてしまう。

わざわざ車に戻った意味なかった…。

仕方ないのでコップやスクロールなど小さい物を幾つか車に残し、革鎧や寝袋といった嵩張る荷物は抱えて歩く事にした。


ちらほらと現れる通行人をやり過ごすことしばし、ステルスのまま徐行し曲がり角などの死角を確認する。よしよしクリア。人は来ないな。

車から降りてロックをすると、荷物を両手にその場を後にした。


途中で見つけた屋台の飯を腹におさめ(ベリーと肉が交互に刺さった串焼きだ。ねぎまのベリーバージョンとは珍しい)、ギルドへ足を運ぶ。

カウンターで用件を伝えると、昨日の女の子ではなく年配のおじいちゃんがやって来た。この人が査定した本人らしく、ニコニコと対応してくれる。


「実に素晴らしい品々でした。あのルビーとカラーサファイアの造花といったら!ため息が出てしまうほどで」


一体どこであのような?と尋ねられ、困ってしまう。変に答えないのはやばいかと思い、「途中出会った行き倒れを助けた時に譲ってもらいました」と即席の嘘をつく。

おじいちゃんは気にした様子もなく上機嫌だが、後方の受付カウンターから先日のお兄ちゃん職員とおっとり美人さん職員がじっと聞き耳を立てているのに気がついた。その後ろ側で、昨日の女の子も覗いている。ひええ。


腕輪にネックレス、裸の宝石数個と、おじいちゃんベタ褒めの造花(見た目は一輪の花だが茎や葉は白金、花びらは全て宝石でできていた。セットの一輪挿しも付いている)が、締めて187万也。

査定の詳細を聞いてると、昨日のアクセサリー屋にはだいぶ足元を見られていたというのが判明した。ここで売れてれば、もっと高かっただろうに。

…まぁ、情報料という事で。知らずに場違いな店へ入った俺も悪い。


30万だけ受け取って、買ったばかりの財布に詰め込む。後は貯金にまわした。

後ろからの視線が痛い。さっさと出よう。そうしよう。


準備はこれで良いかな。

ギルドや街の人に余計な詮索をされる前に、離れた方が良さそうだ。

…別に後ろ暗い事なんて、何もしてないんだがなぁ。


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