第99話 パーティーの始まり
昨日は巨大フォーントゥナーを釣ってしまったため、大変なことになってしまったが、なんとかロブジョンさんたち料理人と、今日作る料理について打ち合わせすることができた。
そんなこんなで夕方になり、パーティーの時間となる。ここでの僕の役割はニッコリ微笑んで挨拶することだ。
次から次へと貴族がやってくるので、それに対して父様、母様、僕で挨拶する。順番的には男爵から始まり、順に来て最後は公爵だ。
国王派なので本当は国王も入るのだが、他の派閥にも気を使って、特定の貴族のパーティーに参加することはまずないそうだ。ただ、代わりに書状などを持ってくるか、代理の人ぐらいは来るだろうということだ。
真っ先に現れたのは、ヴァルハーレン家で騎士をやっている、アーダム隊長の実家のレヴィン男爵だった。
レヴィン男爵は奥さんと、長女のブレンダさん(16歳)を連れてきていて、レヴィン男爵は見るからに脳筋タイプで強そうだ。娘のブレンダさんがうちで騎士をしたいとアピールしていたのが印象的だった。
次に、リヒト男爵、ヴェローチェ子爵、ライナー男爵の順で来たのだが、ライナー男爵はヴェローチェ子爵より遅く来ただけではなく、男爵としても新興貴族のため、本来一番最初に来るのが礼儀らしく。他の男爵に諫められて、ヴェローチェ子爵に苦しい言い訳をしていたのが印象的だった。また、リヒト男爵は三男のルークス・リヒト(10歳)と長女のエリー・リヒト(5歳)を連れて来ていたが、エリー嬢は人見知りなのか、終始母親の影に隠れていた。
ヴェローチェ子爵が先に来てしまったので、子爵ゾーンはアルジャン子爵だけだ。
アルジャン子爵は次女のクレア・アルジャン(12歳)を連れて来ていた。
伯爵ゾーンに入ると、ジョセフィーナの実家のジェンカー伯爵を皮切りに、ルージュ伯爵、ヴェングラー伯爵、テネーブル伯爵の順で挨拶に来た。本来ジェンカー伯爵はヴェングラー伯爵の後に来なければならなかったらしく、ジョセフィーナに怒られていた。ジェンカー伯爵は16歳のジョセフィーナが一番下の子なので、奥さんだけを連れてきている。ルージュ伯爵家の次男であるラーヴァ・ルージュは、僕と同い年の7歳だ。
テネーブル伯爵はブラウ伯爵を調査している貴族だ。この日のために調査を一旦息子に任せて抜けてきているとの事であった。12歳と10歳の娘を連れてきており、下の娘であるノワール嬢の真っ黒な髪はとても印象的で、テネーブル伯爵家は濃いグレーの髪がほとんどらしく、真っ黒は珍しいそうだ。ただし、黒髪と言っても日本人っぽさは全くなく、瞳の色もアメシスト色の紫で神秘的な感じの女の子だった。
侯爵ぐらいともなると、順番を間違えるミスなど起きないようで、リュミエール侯爵、デーキンソン侯爵、カラーヤ侯爵の順番で訪れた。
付き添いの子供は、リュミエール侯爵家次男、レイ・リュミエールが8歳で僕と一番近かった。
挨拶も残すところ公爵家のみとなり、ヴァッセル公爵がやってくる。
「レーゲン殿、遠いところを、息子のためにありがとう」
「ハリー殿、本日はお招きいただきありがとうございます。帝国も難なく退けたようでなによりですな」
「エドワード、ヴァッセル公爵のレーゲン・ヴァッセル殿だ」
「ヴァルハーレン大公家嫡男、エドワード・ヴァルハーレン、7歳にございます。本日は趣向を凝らした料理などを用意しておりますので、楽しんでいってくださいね」
メグ姉やジョセフィーナ相手に何回も練習した、アイドルグループ並みの微笑みを披露すると、ヴァッセル公爵の隣にいる女の子の頬が赤く染まる。
「……ふむ、無事帰還されて何よりだ。今日はエドワード殿と歳の近い2人を連れて来たよ。フリッツ、ロゼ、挨拶しなさい」
「ヴァ、ヴァッセル公爵家、次男のフリッツ・ヴァッセル、9歳です」
「同じくヴァッセル公爵家、次女のロゼ・ヴァッセルです。エドワード様と同じ7歳になります。お見知りおき下さい」
「さて、色々な話をしたいところではあるが、当家が最後ではないようなのでまた後ほど」
「レーゲン殿、どういう事かな?」
父様がヴァッセル公爵に尋ねると、ローブを被った人がやって来たのだ。その人物を見て父様が尋ねる。
「伯父上?」
「わっはっはっ! ハリー! この間の会議ぶりだな! 帝国のシュトライト城を落とすとはさすがだ!」
突然大声で笑い出す人物をみんなが注目して、膝をつこうとする。
「よい! 此度は非公式だ。過度な礼は無用じゃ」
ローブを取った人物は、おじい様とよく似た雰囲気を持つ人物、父様が伯父上と呼んだってことは……。
「エドワード。ヴァーヘイレム王国、国王のルイス・ヴァーヘイレム陛下だ」
やっぱりそうなのね、来ないって聞いていたのに。
「ヴァルハーレン大公家、嫡男のエドワード・ヴァルハーレンでございます」
「硬いぞエドワード! 我が弟の孫なんだ、儂の孫も同然じゃ!」
それは違うと思います。確か姪孫とか言うんだっけ? それにしても国王っておじい様と似たタイプなのか?
「兄上! なぜローダウェイクに!?」
慌てて、おじい様がやって来た。
「何故だと? そんなもん、招待状が届いたからに決まっているだろ」
「このことはメルヴィンには話しているのですか?」
「内緒に決まっとるわ! あやつは口うるさいからな。しっかり書き置きしてきたから問題ないぞ?」
メルヴィンと言うのは宰相のことなのだが、国王やおじい様の弟でもある。現在はグレイベアード家と言う宰相家があるそうだ。
「問題だらけじゃないか!」
「まあ父様、折角来ていただいたのですから楽しんでいただきましょう」
「わっはっはっ! 息子のハリーは頭が柔らかくて物分かりが良いではないか! 帝国との戦い大儀であった」
「はっ! 大公家として当然の務めでございます」
「まさかシュトライト城を落とすとは思わなんだが、息子が見つかったのではしょうがないな」
「ええ、帝国の見張りのために、父をいつまでもトゥールスに置いておくのはもったいないので」
「そうであったか」
そこへ家令のルーカスさんがやって来て。
「ハリー様、そろそろ始められてはいかがでしょうか?」
「そうだね、それでは陛下よろしいでしょうか?」
「うむ、早く始めるがよい」
父様は一呼吸置くと、話し始める。父様が喋り出すのと同時に会場に静寂が訪れる。
「本日は我が城にお集まりくださり、誠にありがとうございます。息子の情報を掴んでいる方もいると思うが、7年前、我が領内へ賊に扮した兵士が侵入し、エドワードを魔の森に連れ去りました」
会場がざわつくが、父様が続けると静かになる。
「連れ去った者たちは、魔の森に砦を作っていたことから、かなりの財力を持っていることが分かります。砦は魔の森の主、エンシェントウルフによって潰され、生き残ったエドワードを、捨て子と勘違いしコラビの町で心優しき人に託したそうです」
どうやら父様はその辺りを濁すつもりはないようだ。
「コラビの町で7年間、過ごしたエドワードは祝福の儀で家名があることに気がつき、旅を経て再び戻ってきたわけです。今までは捕らわれている可能性もあったので手出し出来ませんでしたが、今後は誘拐を企んだ者を許すつもりはないので、皆様方には大公家の本気を注視していただければ幸いです。イグルス帝国のシュトライト城を陥落させたのもその一環です」
シュトライト城が陥落したことを知らなかった侯爵以下の貴族は驚きを見せる。
「では、ルーカス、準備してくれ」
「畏まりました」
父様の合図で統一されたメイド服を着用したメイドたちが貴族たちに小さな木の箱とワインを配り始める。
「まず最初に配った木の箱は今回参加してくれた人たちへのプレゼントだ。先のオークションでアウローラ王国金貨が、金貨3万枚で落札されたのは記憶に新しいと思われるが、最近偶然にも、エドワードが遺跡のようなところで見つけたので皆にプレゼントすることとなった」
そう言うとみんな一斉に箱を開け中を見て驚く。
「陛下と公爵殿は2枚目なのでいらないかもしれないが、そこは今お配りしているワインでご容赦願いたい」
今度はみんな配っているワインに注目すると、陛下が反応する。
「なっ! これはもしかして『大地の恵み』か!?」
「さすがは陛下、仰る通り『大地の恵み』です。これを乾杯用に開けますので、食事や歓談をお楽しみください」
そう言うとみんな一斉に『大地の恵み』をゆっくりと味わって飲んでいるのを見て、父様が続ける。
「お代わりが欲しい人は、メイドの方に頼めば用意しますよ」
父様がそう言うと『大地の恵み』の樽が会場に運ばれ、それと同時に今日のために準備した料理も運ばれ、大人だけではなく子供も目を輝かせるのであった。




