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第98話 パーティー前日

 パーティーを明日に控えローダウェイクには、国王派の貴族が集まって来ているらしい。


 らしいと言うのは、今回僕がパーティーの主役のため、城内や町の中を無駄に歩き回らないように言われているのだ。貴族への対応は父様や、おじい様が行っている。


 と言うわけで現在はプレジール湖で釣りをしている。竿はリュング製、針はステンレスの糸をロヴンに加工してもらって作ってある。


 プレジール湖は大公家が使用する、反対側への直線ラインを含む北側での漁や侵入は禁止されているため。北側には大公家の船しかいない。


「全然釣れないわね」


 メグ姉が呟く。


「釣れないね」


「この辺に魚がいないんじゃないのかしら?」


「いや、よくロブジョンと獲りに来る時はちゃんと獲ることができるから、その獲り方の問題では?」


 船長はロブジョンさんとよく獲りに来ているようだ。


「いつもはどうやって獲っているの?」


「この網で獲っています」



 船長が見せてくれたのは所謂、四手網と呼ばれるものだった。四角く張った網を沈め、餌を撒き魚をおびき寄せて引き上げる漁だ。


 この世界の一般的な漁は四手網らしく、底引き網みたいなものは無いらしい。


 釣りは冒険者たちが現地調達で釣る場合、針と糸のみで釣るらしく、邪魔なので竿は無いとのことだ。



 メグ姉が使っている竿の糸は長さが決まっているが、僕の糸はガントレットから出したワンダリングデススパイダーの糸を使っているので、リールのように引っ張ることが出来る。


 結構深く沈めてあったのだが、初めて当りが来た!


「やった! 何か釣れた!」

「本当?」


 しかし、竿はググっとしならない。どうやら小さい魚のようだ。


「釣れたみたいだけど、小さい魚みたいだね」

「そうなの? 残念ね」


 ゆっくり糸をガントレットに収納していくと、いきなり竿が折れて僕が引っ張られる!


「なんだ!?」

「エディ!」


 船から投げ出されそうになる所を、間一髪でメグ姉が捕まえてくれる。


「メグ姉、ありがとう。危なかったよ」

「エディ! 糸に集中しなさい!」


 糸を徐々に収納していくが、気を抜くとこっちが引っ張られそうになる。


「エドワード様! 大丈夫ですか!?」


 異変に気がついたジョセフィーナも僕を支え、船長は魚が船の下に入らないように舵を切る。


「しまったな、ミスリルの糸にしておけば魔力を流せたのに……」


 今度は船が引っ張られて行く。


「エドワード様! このまま引っ張られてはまずいです。あまりに岸壁に近づくようなら糸を切ってください!」



 どうやらあまり時間がないようなので、ワンダリングスパイダーの糸に沿ってスライムの糸を伸ばす。


 やがてスライム糸から何かに当たったような感触が伝わるので、魚が焼け焦げないように雷の魔法を流すと、魚は気絶したのか引っ張るのが簡単になる。


 一気に糸を収納していくと段々と魚影が見えてくる。


「なんだこりゃ!」


 船長が浮かび上がってきた魚をみて、驚きの声を上げる。


 それもそのはず、湖面に浮かび上がってきたのは5メートルぐらいのクロマグロ……じゃないな、イッカクみたいなネジネジした角が生えている、イッカクは角じゃなくて牙なんだけどね。


「こりゃ、フォーントゥナーじゃねぇか! こんな大きさのは見たこともない!」


 ホーンツナ? 考えすぎか、しかしこれって釣って大丈夫なヤツなんだろうか……ヴァイスの方を見てみると目をキラキラさせて見ていた。


『エディ! あれは絶対に美味いヤツだぞ!』


「エドワード! なぜ私には口がないのでしょうか!? 悔しいです!」


 大丈夫なヤツのようだ。あと口が無いのはぬいぐるみだからだね。


 完全に浮かび上がったフォーントゥナー、角だけでも2メートルぐらいあるから全部で7メートルか船の半分近くあるじゃん。



「これどうしようか?」


「沈没するので、絶対に船には引き上げないで下さい」


 船長に待ったをかけられた。


「エディの空間収納庫なら入るんじゃない?」


「その手があったか! 鮮度も落ちないしちょうどいいな」


 糸を使い船の側面を歩いてフォーントゥナーを収納してみると、そのままでは入らず、止めを刺すと収納できた。



「大丈夫だったよ! ところで、船長。フォーントゥナーって美味しいの?」


「どんな料理にしても美味しい極上の味ですが、1つ欠点があるのです」


「欠点?」


「皮が鎧のように硬く、身に到達するまでにかなりの数のナイフがダメになるのです」


「そんなに硬いんだ!」


「たまに水揚げされる1メートルサイズでそれなんで、このサイズになると剣でもきつそうですね」


「そんなに美味しいのなら、明日のパーティーに出せばいいんじゃない?」


「パーティーに? 今現在も慌ただしく料理している、ロブジョンさんに言うのは可哀想じゃないかな?」


「そう? 喜んで料理するんじゃないかしら」


「確かにロブジョンのヤツなら喜んで料理しそうだが、皮だけはどうしようもありませんな」


 船長まで言うのなら、喜んで料理するのかもしれないけど。


「まあ、どっちにしても僕じゃ判断できないから、父様に見てもらおう!」


 ◆


 そんなわけで、城に戻って一息ついた父様を見つけ話をすると、取りあえずフォーントゥナーを見てみるという事になったので、訓練場に向かう。


 訓練場に向かうにつれて、ロブジョンさんはもちろんのことギャラリーが増えて行く。現在忙しさマックス、家令のルーカスさんまでいるじゃん。


 ルーカスさんはこの世界では希少な釣りの愛好家らしく、今度竿を見てみたいと言っていた。


 さて、訓練場についたので、みんなが見守る中フォーントゥナーを出すと。


『おおー!』


 巨大なフォーントゥナーを見てみんな驚く。

 

「これは見事なフォーントゥナーですな!」


「儂もこれほどの大きさは初めて見るぞ」


 ルーカスさんが珍しく興奮しているな。おじい様でも見たことないのなら凄いのかもしれない。


「ところでエドワード。これは例のヤツじゃないのだろうな?」


「管理者のことですか? ヴァイスが美味しそうと言っていたので、大丈夫だと思います」


 そういえばヴァイスに確認するの忘れたな。


「これを釣る瞬間に立ち会えなかったのが残念でなりませぬ。明日のパーティーで出しましょう!」


 ロブジョンさんはかなりやる気なようだ。


「今から調理して間に合うのかい? 僕や父様ならすぐ切れそうだけど……」


「止めてください! せっかくの食材がダメになっちゃいます!」


「だよね」


 父様やおじい様がやると食材がダメになるのか……おじい様の攻撃を見た感じでは納得できる話しだ。


「多分ですけど、僕の糸ならカットできると思いますよ?」


「エドワードの糸でかい? なるほど魔力を纏わせた糸なら綺麗にカットできるかもね」


 さすが父様、みんなへの説明ありがとうございます。


「どうせするなら、パーティー会場ですればいいんじゃない?」


 メグ姉、今なんと?


「マルグリットさん、どう言う事かしら?」


 母様はかなりメグ姉への対抗意識が強い。


「明日はエディをただお披露目するってわけじゃないんでしょ? 大公家の力を見せるだけじゃなくて、エディの力も見せつけないと、この先バカが寄ってくるんじゃないの?」


「なるほど、たまにそういうのがいると聞いたことがありますね。私のエドワードの力を他の貴族に見せつけるのは良いアイディアね。さすがマルグリットさん、分かってるわね!」


「当然よ!」


 母様も乗り気というか、対抗意識が強い割に仲がいいんだよね。


「それで、エドワードは会場で間違いなくカットできるんだね?」


「ちょっと待ってくださいね」


 普段あまり風の魔法を纏わせたカットしないんだよね。魔物の血で素材が汚れて大変なことになるから。


 直径20センチ長さ1メートルの鋼の(いと)を出してみる。


「ちょっとみんな離れてくださいね」


 ガントレットからミスリルの糸を出しウィンドカッターの魔法を濃密に付与して鋼の(いと)を2回切る。


 鋼の棒は十何代目かの五右衛門が切ったかのように、ゴトリとずり落ちた。


「これはレギン殿から借りている剣と同じ材質だね? 金属をここまで綺麗に切れるのなら問題なさそうだね」


「さすがはエドワード様です! ではハリー様、明日の料理とカットのサイズの打ち合わせがございますので、エドワード様を借りていきますね!」


 このままロブジョンさんに連行されてしまったのだった。

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