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第97話 ウルスの性能

 モイライ商会の売上は順調で、護衛としてアキラさんにも手伝ってもらっている。


 それと、ジョセフィーナが言っていた通り父様から登録用に大量の糸や布、鉱石をもらったので消費魔力がかなり抑えられるようになった。麻や綿の製品だと魔力消費を感じないぐらいになってしまったので、現在在庫は潤っている状態だ。


 今日は久しぶりにのんびりとした時間が取れて、今部屋にいるのはヴァイスとウルスのみだ。


 あれから1つだけ分かったのが、ウルスはヴァイスの言葉が聞き取れるということだけだ。従魔同士なら分かるのかと思ったのだが、ヴァイスが言うにはそうではないらしい。


 従魔になったからと言って神の声が聞こえるほど甘くはないらしい。つまりウルスはもしかすると、神に近い存在なのかもしれない。


「さあ、ウルス。君にできる事を確認していくよ」


「おお! やっとかまってくれるんだね?」


「なかなか僕たちだけになれないから、確認できなかったんだよ」


「そんなん、心の中で会話したらええんとちゃいますの?」


「心の中?」


 と言うかなぜに大阪弁? ヴァイスの方を向くと、あからさまに何か知っている感じがする。


『こんな感じで会話できるよ』


 頭の中に直接聞こえてくる感じだ。


『こんな感じ?』

『ザッツライト!』


 なぜに英語?


『これってヴァイスも聞こえるの?』


『うむ、(ワレ)も聞こえているぞ』


「……ヴァイス! 念話は出来ないって言ってなかった?」


『これは念話ではないからな』


「念話との違いが分からないんだけど?」


『念話は誰とでも意思疎通が出来るが、我の言葉は誰にでも聞こえるわけではないからな』


「今度から他に人がいるときは、心の中で話すようにするよ」


「それがいいよ」


「それでウルスって何者なの?」


「最初に言ったように、ただの高性能クマ型ゴーレムです」


「そのネタ知ってる時点で地球の事知ってるよね?」


「地球って何のこと?」


『茶番はそのくらいで良いだろう、ミネルヴァに作られし者よ』


「ヴァイスはん、それ言うたらあかんがな」


「ミネルヴァ様に作られたの?」


「ソレハ、コタエラレマセン」


 急にロボット調に!

 答えられない? 制限みたいなもんなのかな。


「ヴァイスはどうして分かったの? やっぱり同じ神として何か感じる的なヤツ?」


『いや、ソイツの裏側の脚の付け根についているタグに書いてあるではないか』


「本当に?」


 ウルスを持ち上げて裏返してみると、お尻と脚の付け根付近に小さなタグがついているのを確認する。タグにはアルファベットで【Minerva】と書いてあった。


 この世界にはアルファベットがないから、転生者とかじゃないと分からない仕組みなんだろうか?


「なんだこれ、全然隠すつもりがないじゃないか。どういう事なの?」


「ソレハ、コタエラレマセン」


 またロボット調になった。


「話せないのなら仕方がないね」


「いいの? そうしてもらえると助かります」


「言えない理由があるんでしょ? それよりもウルスに何ができるかだよ! 今のところ僕が痛い人に見られる原因でしかないからね。このままだと部屋から出すわけにはいかないよ?」


「マジで?」


「これ以上の痛い人認定はいらないから。高性能を証明してもらわないと元の箱行だね」


「あ、あなたの作りたいをサポートします」


「……」


 ヴァイスに合図を送ると、ヴァイスは頷き口を開ける。


「じょ、冗談です! 冗談でもないんだけど! だから言いたくなかったんだ!」


「で? 何ができるの?」


「エドワード、目が怖いよ! 最初にアングリーゴートの事教えたでしょ? あんな感じでサポートできます」


 なるほど、作るための素材が分かるという事か……。


「じゃあ、タオル生地の作り方は分かる?」


「タオルですか? 色々な織り方があるけど、パイル生地がいいんじゃないですか?」


「へー、あれってパイル生地っていうんだね。素材はどうすればいいの?」


「素材は綿で大丈夫だよ」


「綿でって、もしかして機械がないと作れないパターン?」


「普通はそうですが、高性能サポートロ……サポートゴーレムは一味違うのです!」


 今、ロボットって言おうとしたよね?

 

「私を持ち上げて見てください」


「持ち上げるの?」


 ウルスを持ち上げる。あれっ、前にこのパターン……。


 ポンッ! ウルスが僕の頭を叩く。


「これ、ヴァイスが加護くれた時のパターンじゃん……」


「もう既に経験済みとは! キックするパターンの方にすればよかったか……」


 僕で遊ぶんじゃない。取りあえず確認してみると。


【能力】糸(Lv6)

【登録】麻、綿、毛、絹

【金属】鉄、アルミ、鋼、ステンレス、ピアノ線、マグネシウム、チタン、タングステン、炭化タングステン、銅、銀、金、白金、ミスリル

【特殊】元素、スライム▼、スパイダー▼、蔓、グラウプニル(使用不可)

【付与】毒▼、魔法▼

【素材】毛皮▼、ホーンラビットの角(21)、ダウン(5)、フェンリルの毛(23)

【形状】糸、縄、ロープ、網、布(New)

【登録製品】11

【作成可能色】CMYK

【解析中】無


 布の中身を確認してみる。


【布】平織り、綾織り、繻子織り、刺し子織、パイ(New)、ベロ(New)、ベルベッ(New)、ベッチ(New)、コーデュロ(New)


「あれっ、5つも増えているんだけど?」


「似たような作り方だから一緒にインストールしておいたよ」


「頭叩くのはインストールなの?」


「パイル生地は表面にループ状の糸が出ている生地のことを言うんだけど、違いとしては他の生地はそのループをカットしてるんだ」


 ・パイル生地:表面がループしており吸水性に優れている。

 ・ベロア:ベルベットとよく似ているがパイル生地の編み物なのでストレッチ性がある。

 ・ベルベット:ベロアとよく似ているが織物、(たて)パイル織り、シルクで作られることが多い。

 ・ベッチン:(よこ)パイル織り、綿素材で作られることが多い。

 ・コーデュロイ:(よこ)パイル織りで畝のあるもの。


「なるほど、インストールの件は流されたけど生地の説明は分かったよ。それでサポートゴーレムと言うのは分かったけど、作り方を教えてくれる他には何かできるの?」


「えっ? サポートゴーレムだけでは不服だと?」


「だって、作り方を教えてもらうだけなら部屋で十分じゃん」


「なっ! 確かに言われてみれば……」


 ガックリ膝をつくクマのぬいぐるみ、どこが膝か分からないんだけどね。


「では、とっておきを見せましょう!」


 ウルスはそう言うと手から糸を出して天井まで登る。


「『――!』」


「ドーデス、スゴイデショウ!」


 凄いんだけど、なんかムカツクな。



「自分を縫ってある糸を使ってるってわけじゃないみたいね」


「ご名答! って言うか自分の糸を使ったらバラバラになっちゃうじゃん! この糸はワンダリングデススパイダーの糸だよ」


「もしかして僕の能力を使えるってこと?」


「ザッツライト! 全てではないけど魔物の糸までは使うことができるよ」


「レベル3相当ってことかな。魔力を付与したりはできないってことなんだね?」


「その通りと言うか、私は魔力で動いているので、魔力を無駄に使うのは死活問題です」


「心の中で会話できて自由に動けるぬいぐるみか……いざと言う時の保険にはなりそうだけど」


『まあ、眷属が増えたのだ。楽しくなって良いではないか?』


「そうだね。ウルス、改めてよろしく」


「よろしくな!」


 この後、カトリーヌさんの所に、タオルとバスタオルを作ってもらいにいったのだが、新しい生地の存在を嗅ぎ取った姉妹にばれてしまい、新しい生地をたくさん作ることになってしまったのでした。


 タオルとバスタオルは大公家で正式採用となり。全て買い取ってもらえることになり、パーティーの終了後モイライ商会でも販売することが決まったのだった。


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