第94話 従魔登録
さて、自称高性能クマ型ゴーレム、見た目ただの喋るクマのぬいぐるみが従魔となったわけだが。
「それでウルスは何が出来るの?」
「高性能なので何でも出来ますよ」
「ふーん、何でもねー」
ウルスを持ち上げてみると非常に肌触りの良い生地だ……そう、生地なのだ……。
羊毛にも見えるが全然肌触りが違うな……。
「例えばだけど、体の一部の生地を切り取ったら再生とかしない?」
「なっ! 何を考えとんねん!?」
なぜ急に大阪弁?
「ぬいぐるみの生地を少し欲しいなーなんて」
「やっ、止めるんや! 無くなった生地が再生するわけあらへんがな!」
「高性能って言うから期待したのに……ん?」
変な視線に気がついて周りを見ると。
メグ姉たちの視線が何かおかしいし、何かコソコソ喋っている。
「ぬいぐるみと戯れるエディ。尊いわ……」
母様もいつもとは違う視線だな。
「我が子ながら、絵になっているわ! これがマルグリットさんの言っていたヤツなのね……」
アスィミまで変な目をしているじゃん。
「いつものヴァイス様と戯れるエドワードさまも良いけど、ぬいぐるみと戯れるエドワードさまもアリね……」
この目は僕がヴァイスと会話していた時に見られていたアレだ!
「ちょっと確認だけど、みんなはウルスの言うことは聞こえているの?」
『もちろんよ(だ)』
うーん、だったらどうしてみんなヴァイスの時のような目を? まあいいか。
「結構その生地、良さそうなんだけどな、凄く残念だ」
「私の毛膚は渡せないが、素材は分かりますよ」
毛膚ってなんなんだ? 肌が皮じゃなくて毛だから毛膚か、ぬいぐるみの割に考えているな。ん? 今何か言っていたな……。
「えっ? 素材分かるの? それなら解体しなくて済みそうだね」
「しっかり教えるから解体とか物騒なことは止めて!」
「それで、なんて素材のなの?」
「アングリーゴートや」
「アングリーゴート?」
「高地に生息する魔物だね」
父様が知っているようだ。
「高地ですか? 近くで獲ることが出来そうなところはありますか?」
「うーん、近くにはないかな。一番近い所だとニルヴァ王国かな?」
「母様の母国ですか、すぐに獲ることは難しそうですね」
「そうね、今は連れて行くのはまずいから、もう少し大きくなってからね」
母様が答えるが、まずいとはどう言う事だろうか。尋ねようとすると。
「でもエドワード。わざわざ獲りに行かなくても商人から買えばいいんだよ」
父様からナイスアイディアと言うか、そっちの方が普通の考えかも。
「なるほど、その手がありましたか。ちなみにアングリーラビットとかいう魔物もいたりしますか?」
「よく知ってるね。アングリーゴート同様、高地に生息するラビット系の魔物だよ。見た目に反して凄く狂暴なんだよ」
「狂暴なんですね」
購入できれば、アンゴラ素材……じゃなくてアングリー素材を登録できるはず。
「結局ウルスは何ができるのか分からないままだな。父様ウルスはどうしますか?」
「うーん、従魔として認められちゃったのなら、しょうがないのかな?」
「うむ、喋るぬいぐるみ……いや、ゴーレムなど聞いたことがないが、しょうがないだろう」
「えっ! おじい様、つまり従魔登録しないとダメなんですか?」
「そうだな。箱自体は謎のままだが、中身が確認できたので、エドワードは商人ギルドに行って登録してきなさい」
アルケオさんは中身そっちのけで箱を調べているな。することが無くなったから商人ギルドに行くか。
「それじゃあ、ウルス従魔登録しに行こうか」
「分かったで、ほな行こか」
喋り方がまた変わった、故障しているとかあるのかな?
僕はウルスを連れて商人ギルドに向かった。メンバーはヴァイスとメグ姉、アスィミの2人だ。
「エディ、変なのを従魔にしちゃったけど大丈夫?」
「私のどこが変なんですか!」
ウルスがそう言った瞬間、メグ姉がウルスの頭を鷲掴みにして馬車の隅に連れていって小声で何か話している。
「痛い! 何すんねん!」
「黙りなさい! 虫の餌にするわよ?」
「虫の餌?」
「そうよ、衣類大好きな虫に心当たりがあるのよ」
何かウルスが急にガタガタと震えだしたぞ。
「それだけは、かんにんしてや」
「それは、あんたの行動しだいよ」
「行動ですか?」
「まだ、あんたがエディの味方と決まったわけじゃないからね! ちょっとでも変な行動をとるなら虫の餌にするわよ?」
「本当に、エドワードの味方ですよ。信じてください!」
「なんか胡散臭いのよね……」
「そないなこと言われても」
「まぁ、いいわ。しばらく様子見だけど、取りあえず信じてあげるわ。でも分かってるわね?」
「分かってます!」
何かウルスが敬礼しているな。と思ったらメグ姉がウルスを持ってきた。
「メグ姉、ウルスに何か問題でもあったかな?」
「気になることは聞いたから大丈夫よ」
「そうなんだね」
その後、商人ギルドにつくまで、ウルスは借りてきた猫のように大人しかった……クマなんだけどね。
商人ギルドで大公家専用入り口から入り、アリアナさんの所に行くと立ち上がって声をかけてくる。
「エドワード様、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「従魔登録をお願いします」
「従魔登録でございますか?」
アリアナさんはキョロキョロと見回す、ぬいぐるみが従魔とは思わないのだろう。
「これです」
アリアナさんにウルスを持ち上げて見せるが、固まったまま何かブツブツ言っている。
「これはエドワード様ジョークなのかしら? とても可愛らしいけど……正解の受け答えが分からないわ!」
「ほら、ウルス。挨拶して」
「よろしゅう頼んます」
「ぬいぐるみが喋ったわ!」
「アリアナさん、ウルスはぬいぐるみ型のゴーレムみたいなんです。いやぬいぐるみ風のゴーレム? どっちでもいいや」
「ぬいぐるみ型のゴーレム!?」
うーん、これから出会う人たちに、このやり取りをしなくてはならないと思うと、気が重いというより面倒だ。
「失礼しました。初めて聞くタイプのゴーレムだったのでビックリしました。それでは従魔登録の準備を致しますのでおかけください」
アリアナさんは石板を準備すると。
「それでは登録致しますので、ギルドカードをお願いいたします」
「はいどうぞ」
「お預かりいたします」
石板にかざして操作する。
「登録が完了いたしました。本来は目印が必要なのですが……」
「そうですね、見た目ぬいぐるみなので、つけても分からないですが、念のため首にスカーフを巻いておきますね」
「そうしていただけると助かります。ギルドカードをお返しいたしますが、入金がありましたので、そちらのご確認もお願いいたします」
「ありがとうございます」
ギルドカードを見みると。
【商会名】モイライ商会
【会頭】エディ
【ランク】A
【従魔】ヴァイス、ウルス
【残高】金貨3万349枚、大銀貨40枚、銀貨112枚
ウルスの名前が記入された。そして金貨が3万枚超えた! オークションのお金とメイド服のお金が入ってきたんだな。大銀貨と銀貨も増えているな……そうだ! ジャイアントスパイダーに殺された人たちの遺品を売ったお金の8割が入ってくるって言ってたけど、内訳が分からないな。
「すみません、これって入金の内訳って分かりますか?」
「分かりますよ、【残高】のところを押すと表示されます」
「そうなんですね、やってみます」
【入金】コラビ商人ギルド:金貨1500枚
【入金】コラビ商人ギルド:金貨1枚、大銀貨15枚、銀貨110枚
【入金】ローダウェイク商人ギルド:金貨2万6396枚
【入金】ヴァルハーレン大公家:金貨3000枚
なるほど亡くなった冒険者たちは、随分と安い装備を使ってたようだ。全員で金貨2枚もいかないとは、逆に考えると良い装備を買っておいたから、メグ姉が来るまで、持ち堪えることが出来たのかもしれないな。
「確認できました、ありがとうございます」
「いえ、お礼を言うのはこちらの方なので、今回のオークションで臨時ボーナスが出まして、これもエドワード様のおかげなので感謝しております」
「それは良かったですね! ところで聞きたいことがあるのですが?」
「はい、なんでございましょうか?」
「アングリーゴートとアングリーラビットの毛って手に入ったりしますか?」
「毛ですか? 毛だけでというのは無いですが、皮ごとでよろしければたまに入ってきますね」
「そうなんですね」
気性の荒い魔物と言っていたから、毛だけというのは難しいのかもしれないな。
そう言えばアンゴラウサギの毛はカットして採る方法と、毟って採る方法があって毟り取る方法は、意外と手荒で残酷らしい。大手ブランドでは動物愛護の観点からアンゴラを使用しない流れになっているとか。
「入って来たら購入したいのでお願い出来ますか?」
「畏まりました。念のため購入できそうなものがあるのか調べてみますね」
「お願いします」
従魔登録も無事完了して、アングリーゴートとアングリーラビットの皮も頼んだので、商人ギルドを後にしたのだった。




