第91話 魔物狩り(下)
逃げて行った子蜘蛛を見て思わずほっとする。
「おじい様の攻撃が凄かったです!」
「そうか? エドワードも直ぐに、このくらい出来るようになるわい」
「それにしても僕の攻撃では全然止まらなかったですね」
「ふむ、エドワードは1人で旅をしていたせいか、連携が苦手なようだ。遠慮して攻撃していただろ?」
「そうですね、確かに加減がよく分からないです」
「その辺は徐々に慣れていくしかないだろう、ほれ魔石だ」
おじい様は手慣れた手つきで、蜘蛛の魔物から魔石を取り出し僕に渡す。
僕は魔石を取り込むと、糸の種類が増えたのを確認する。
【能力】糸(Lv5)
【登録】麻、綿、毛、絹
【金属】鉄、アルミ、鋼、ステンレス、ピアノ線、マグネシウム、チタン、タングステン、炭化タングステン、銅、銀、金、白金、ミスリル
【特殊】元素、スライム▼、スパイダー▼、蔓、グラウプニル(使用不可)
【付与】毒▼、魔法▼
【媒染剤】鉄、銅、アルミ、ミョウバン
【素材】毛皮▼、ホーンラビットの角(22)、ダウン(5)、フェンリルの毛(10)
【形状】糸、縄、ロープ、網、布▼
【登録製品】頭陀袋、メイド服▼、エプロン▼
【作成可能色】24色▼
【解析中】無
続いてスパイダーの糸の中身を確認する。
【スパイダー】スパイダー▼、ジャイアントスパイダー▼、ワンダリングデススパイダー▼
【ワンダリングデススパイダー】縦糸、横糸、牽引糸、付着盤、毒糸
毒糸ってなんだ? そんな糸初めて聞いたが、付与の毒も増えていたので確認してみる。
【毒】ローグヴァイパー(麻痺毒)、キラータイパン(神経毒)、ワンダリングデススパイダー(神経毒、麻痺毒、酸性毒)
ワンダリングデススパイダーの毒ヤバイな。
「エドワード、糸は増えたか?」
「はい、おじい様。ワンダリングデススパイダーの糸が使えるようになりましたが、毒糸と言うのはご存知でしょうか?」
「それなら、攻撃する時に吐いていた糸ではないか? 細い糸なのだが毒を通す事が出来るそうだ。剣を少し溶かしていたのが証拠だな」
「あの攻撃がそうなんですね」
「エドワードよ、そこにあるワンダリングデススパイダーの糸の繭は回収できるのか?」
「大丈夫です」
そう言ってワンダリングデススパイダーの巣にあった大きな繭を取り込んでみる。
「フォルターグリズリー!」
中にあったのはフォルターグリズリーの死体だった。
「餌用に保存しておいたのだな」
「フォルターグリズリーよりも、強いということなんですね」
「うむ、ワンダリングデススパイダーの毒は強力で刺されれば5分ぐらいで死にいたる毒と聞いたことがあるな」
「そんな怖い毒だったんですね」
会話をしながら繭を全て回収し終わるが、フォルターグリズリー以上の大物は出なかった。
「エドワード様、子蜘蛛の方の魔石を回収してまいりました」
ジョセフィーナが子蜘蛛の方から魔石を取って来てくれた。
「ありがとう。おじい様、この魔石は全て取り込んでも良いのですか?」
「もちろんだ。たくさん取り込めば糸を出すエドワードの魔力消費が抑えられるのだ、全て取り込むがよい」
「分かりました」
そう言ってジョセフィーナが持って来てくれた、子蜘蛛の魔石も取り込む。
「よし、今回の最大の目標であったジャイアントスパイダーの上位種の魔石を、エドワードが取り込めたので帰ることにしよう。途中、食材となりそうな魔物は狩るが、強そうな魔物以外はエドワードとジョセフィーナ、二人で連携を取って倒してみるんだ」
「連携ですか?」
「うむ、そうだな。エドワードは敵を足止めすることを心掛けるがよい。ジョセフィーナは完全な前衛タイプだから、ジョセフィーナの動きを邪魔しないようにするのだ」
「足止めですね、分かりました。ジョセフィーナ、よろしくね」
「お任せ下さい!」
ジョセフィーナのヤル気が半端ないな。ワンダリングデススパイダー戦であまり活躍出来なかったのを、気にしているのかもしれない。ジョセフィーナは僕のそばにいる時は常に気が張っていて、侍女と言うよりは護衛みたいだ。過去の出来事が関係しているのだろうが、もう少し打ち解けて欲しいと思っている。
帰りの移動中に、オークと遭遇した。
「ジョセフィーナ、行くよ!」
「畏まりました!」
ワンダリングデススパイダーの糸でオークの足を結ぶとオークが倒れ、その隙を突いてジョセフィーナがオークの首を落とし止めを刺す。
今のは上手く連携できたような気がするな。
「これ、エドワード。今のではダメだ」
「えっ!? 上手くいったと思ったんですが、ダメでした?」
「倒れたオークの首を刎ねると、ジョセフィーナの動きに無駄ができる。今のように1匹なら問題ないが、複数の敵を相手にすると、無駄な動きは命取りだ。ついでに言うと地面に向かって剣を振らせるのも良くない、剣が地面に刺さったり刃が傷む可能性もあるからな」
「なるほど、おじい様の言う通りです。ごめんねジョセフィーナ」
「いえ、足止めしていただけるだけでも、助かるので全く問題ないです」
「ジョセフィーナもそれではエドワードの成長に繋がらない、どうした方が倒しやすいかしっかり話し合うのだ」
「申し訳ございません。そうですね、リクエストするなら、立ったまま動けなくしてもらった方が倒しやすいでしょうか」
「分かったよ。次は転ばせないように足止めしてみるね」
しばらく歩くと今度はオークが2体襲ってくるので、ワンダリングデススパイダーの糸で手足を地面に固定すると、オークは身動き取れなくなる。
その隙をついてジョセフィーナはジャンプしてオークの首を落とす。上手くいったが、まだ改善の余地はありそうだ。
「今のは先ほどよりも良くなっているな」
おじい様もまだ改善できると思っているようだ。
『エディ、この匂いはフォルターグリズリーだ』
「ジョセフィーナ、フォルターグリズリーが来るって」
オークの血の匂いに釣られて来たのかもしれない。ジョセフィーナも戦闘態勢に入る、おじい様は動かないので、2人で倒せると判断したのだろう。
ジャイアントスパイダーの糸では無理だろうが、フォルターグリズリーを餌にしていた、ワンダリングデススパイダーの糸なら足止め出来るはず。
オークの時と同じように手足を地面に固定、そして背の高いフォルターグリズリーの首に届きやすいように、蔓を使って助走台を作った。
やはりワンダリングデススパイダーの糸は、簡単には千切れないらしく足止めに成功した。その隙をついて、ジョセフィーナが助走台を駆け上がりフォルターグリズリーの肩から袈裟斬りのように、左肩から斜めに振り下ろしたかと思った瞬間。なぜか右肩から斜めに振り上げられいる。フォルターグリズリーの頭部は両肩からVの字に切り取られたのだ。
「……」
なんだ今のは?
「ほう、ジョセフィーナはジェンカー家秘伝の『フルークファオ』を使えるのだな」
なんですかその技は? 僕も使いたいです。
「はい、エドワード様を探しに出る旅へ向かう前に父より習いました。溜めの大きい技ですが、エドワード様から時間と足場を作っていただいたので、使うことができました」
「硬いフォルターグリズリーを、一撃で仕留めるとは思わなかったぞ」
「早くて動きが見えなかったです!」
無表情は相変わらずだが、心なし嬉しそうにも見える。
「今の足場は連携としては上出来だったぞ」
「上手くいって良かったです。オークの時に結構ジャンプしていたので、更に大きいフォルターグリズリーは大変だと思い、首に届きやすいよう作ってみました」
「私も1人で旅をしていた時には、溜めが大きく出せなかった技なので、成功してよかったです」
食材をたくさん集め、ワンダリングデススパイダーの糸を使えるようになって有意義な魔物狩りだったが、一番の収穫は、ジョセフィーナとの距離が少し縮まったことかもしれないなと思うのだった。




