第9話 麻糸
孤児院で夕食を食べた後、僕は大部屋しかない孤児院の方ではなく、メグ姉の部屋に行く。
どうやらメグ姉はまだ教会の方から帰ってきてないみたいだ。
まずステータスを出してみる。
【名前】エドワード・ヴァルハーレン
【種族】人間【性別】男【年齢】7歳
【LV】1
【HP】10
【MP】300
【ATK】10
【DEF】10
【INT】300
【AGL】10
【能力】糸(Lv1)▼
【加護】モイライの加護、ミネルヴァの加護
糸にレベルが追加されたのだ!
僕はニヤニヤしながら、今度は【能力】の糸の部分に注意を向けた。
【能力】糸(Lv1)
【登録】麻
【解析中】無
日が暮れるまで頑張ってカラムシを100本集めたことにより、解析が終了し、麻が登録されたのだ。
「麻糸よ出ろ」
指から糸が出るようにイメージしてみると、指の少し離れたところからスルスルと麻糸が出た。
「やった! ついに糸が出せたぞ」
調子に乗って麻糸を出しまくっていると、ガチャリと扉が開いてメグ姉が入ってくる。
「ちょっと、エディ! 何やってるの? 部屋中糸だらけじゃない!」
「メグ姉! ついに糸が出たんだよ!」
そう言って、指先から糸を出して見せる。
「エディ。凄いのは分かったのだけど、ちょっとはしゃぎ過ぎよ……可愛いからいいけど」
「ごめんね。ところで、最後の方がよく聞き取れなかったんだけど?」
「気にしなくていいわよ。それより片付けましょう」
部屋中を糸だらけにしてしまったので、二人で糸を巻き取ると結構な量になった。
メグ姉に今日あった出来事を説明すると。
「登録すると、出せるようになるのね。ところで、こんなに出して魔力は大丈夫なの?」
「えっ、能力って魔力消費しちゃうの? ちょっと見てみるよ」
ステータスのMPを、確認してみる。
【MP】217/300
「まだ200以上あるから大丈夫」
「普通の人ならとっくに無くなってるじゃない! もし魔力が無くなると気絶しちゃうのよ。外で無くなると危ないから十分に気をつけなさい」
「魔力って0になると気絶しちゃうの? 全然知らなかったよ、次から気を付けるね」
巻き取った麻糸を手に持って見ているメグ姉が、何かに気がついたようだ。
「これってかなり質の高い麻糸だから高く売れそうね。それとも、麻縄とか麻布にした方がもっと高く売れるのかしら?」
メグ姉の疑問に閃きが走った。
「メグ姉! 麻縄と麻布ってない?」
「裁縫用に少しあるわよ、持って来たほうがいいかしら?」
「お願いします」
メグ姉が麻縄の束と麻布の切れ端を持って来てくれた。
「はい、持ってきたけどどうするの?」
「ちょっと借りるね」
そう言って、まず麻縄を手に持って集中してみると。
『麻製品、麻縄を確認。解析しますか?』
予想通り頭の中に直接響き渡り、目の前に透明な画面がまた現れた。
【製品解析】原料:麻糸、製品:麻縄
解析しますか? ・はい ・いいえ
すぐに<はい>を選択する。
すると、手に持っていた麻縄のほとんどが消え去ってしまったのだ。
「何したの? 消えちゃったじゃない」
「解析したら麻縄を出せるようになるんじゃないかなと思って、試してみたんだ」
「先に言いなさいよ。びっくりしたじゃない。次は麻布を登録? するのね」
「うん、やってみるね」
そう言って、今度は麻布を持って集中してみると。
『麻製品、麻布を確認。解析しますか?』
頭の中に直接響き渡り、目の前に透明な画面が現れた。
【製品解析】原料:麻糸、製品:麻布
解析しますか? ・はい ・いいえ
すぐに<はい>を選択する。
すると、手に持っていた麻布が全て消え去る。
「今度は全部消えちゃった。不思議な感じね」
今度は能力『糸』に集中してみる。
【能力】糸(Lv1)
【登録】麻(糸、縄)
【解析中】麻布
【登録数】2/10メートル
【解析予測時間】5時間(登録数によって変わります)
「麻布は登録完了には足りなかったみたいだけど、明日になったら解析が終わって出せるようになるかも」
そう言って僕は能力を使ってみる。
「麻縄よ出ろ」
指先から麻縄がシュルシュルと出てくるので、登録で消え去った長さぐらいで止めてみる。
出した麻縄の長さは50メートルぐらいだったのだが、感覚的に分かるようだ。
「植物の素材なら100本で縄状なら50メートル、布状なら10メートルぐらいで登録完了できるって感じかな。足りない分は時間をかければ解析できるみたいだけど……」
僕が考え込んで呟くと。
「ねぇ、この麻縄、登録するために取り込んだ前の麻縄より質が良いわね」
「えっ! ホントに?」
「ほら。こっちが残ってた麻縄で、こっちはエディが出した麻縄よ」
メグ姉が持っている麻縄を見比べてみる。
「能力で出しているから均一なのかな?」
「多分そんな感じよね、この品質なら間違いなく売れると思うわ」
「ある程度貯まったら売ってみたいけど、メグ姉ついて来てもらってもいい? たぶん僕だけじゃ怪しまれそうだし」
「もちろん、いいわよ。いつも服や糸を買ってるカティのお店に行ってみましょう」
「ありがとう。それともう1つ、メグ姉にお願いがあるんだけど」
「何? お姉ちゃんに任せておきなさい!」
「今から魔力がなくなるまで麻縄を出すから、気絶したらそのまま寝かせて欲しいんだけど」
「えっ、気絶するまでなんて危険よ! そんなのダメに決まってるわ」
「でも気絶するだけなんだよね? 一度気絶を経験して感覚をつかんでおきたいんだ」
「……それもそうね。分かったわ。気絶したら寝かせておいてあげる」
「ありがとう。それじゃあやってみるね」
そう言って僕は麻縄を出し始めると、どんどん出てきて直ぐに大量の麻縄が出来上がる。そしてしばらくすると、意識を失ったのだった。