第89話 勉強※
毎日勉強の時間が設けられているのだが、当面はパーティーに向けての、最低限必要な作法や情報を、詰め込む形で行われているのだ。
今日は、おじい様からこの国の貴族について学んでいる。
「それでどうだ、今回招待した国王派の貴族の名前はもう覚えたか?」
「はい、おじい様。国王派の貴族はヴァッセル公爵・カラーヤ侯爵・デーキンソン侯爵・リュミエール侯爵・ヴェングラー伯爵・ジェンカー伯爵・ルージュ伯爵・テネーブル伯爵・アルジャン子爵・ヴェローチェ子爵・ライナー男爵・レヴィン男爵・リヒト男爵ですね」
「その通りだ。もちろん国王とヴァルハーレン大公家も国王派に属するわけだが。中立派の貴族はどうだ?」
国王派以外も聞いてきた。
「中立派は、ハットフィールド公爵・モトリーク辺境伯・ハルフォード侯爵・エリオッツ侯爵・ローズ伯爵・ヴァーグ子爵・クライバー男爵・サボ男爵・スタップ男爵だったと思います」
「正解だ。では貴族派は?」
結局全部聞くのね。
「貴族派はバーンシュタイン公爵・ベルティーユ侯爵・シュタイン伯爵・ブラウ伯爵・バルモア子爵・ブラン男爵です」
「うむ、よく覚えたな。正解だ」
「ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「いいぞ」
「国王派の貴族で言うと、テネーブル伯爵とリヒト男爵なんですが、何度地図を確認しても領地が見当たらないのですけど、どうしてでしょうか?」
「ふむ、よく気がついたな。その2つの貴族は少し特殊でな。今から言うことは絶対に言いふらすでないぞ?」
どうやら大事な話のようだ。
「分かりました」
「その2つの貴族は国王派とは言っているが、厳密に言えば派閥以上の結びつきがあるのだ」
「派閥以上ですか? 具体的な違いがあるのですね?」
「ヴァルハーレン家を含めた大体の貴族は、領地を運営するのが主な仕事になるが、その2つの貴族は領地を持たない代わりに、国王から直接仕事をもらって動いている貴族だ」
「国王様から直接ですか? 言いふらさない方がいい話となると、諜報活動とか暗殺ですかね?」
「うむ、エドワードは賢いの。大体合っている。テネーブル伯爵は諜報や査察などといった仕事をしている。そしてリヒト男爵は執行官の役割をしていてな、不正を行った者たちを断罪するのが役割だ」
「それではブラウ伯爵はリヒト男爵に、断罪されてしまうのでしょうか?」
「そうだな、儂の読みでは断罪までは行かないだろうと思うのだ」
「どうしてですか!?」
さすがにこれは納得がいかない。
「そうだな、オークションの時にも説明した基本的な話になるが、各貴族の領地の運営に関しては、国王と言えども口出しできないのだ。これは王国法に定められている。極端な話、領民を虐殺しても口出しすることはできない」
「そんな!」
「まあ、今のは極端な話だが、領地を与えられた貴族に課されるのは領地を治めて税を納めることだ。税が納められなければテネーブル伯爵が調べ、場合によってはリヒト男爵が動くという事だ」
「それでは今回のブラウ伯爵はどうなるのでしょうか?」
「テネーブル伯爵が現在動いているが、やはり決定的な証拠はでないだろう」
「僕が盗賊の砦で見つけた書状はどうですか?」
「その前にエドワードは決定的な証拠とはなんだと思う?」
決定的な証拠?……砦で見つけた書状は決定的な証拠にはならない……つまり。
「なるほど、現行犯じゃないとダメなんですね!」
「うむ、やはりエドワードは賢いな。その通りだ、書状なんぞ偽造されたとか、捏造されたと言ってしまえばおしまいだからな。但し今回ブラウ伯爵は要塞を建設しているからそれは罪になる。国王の許可なく城や要塞などの、軍事施設を作ることは禁止されているからな」
「要塞をイグルス帝国に提供した件はどうなりますか?」
「それについても、奪われたと言ってしまえばそれまでだ。もちろん、奪われたこと自体は失態とはなるが、ブラウ伯爵は国境に面しているわけじゃないからな。今回断罪される可能性が高いのは、ベルティーユ侯爵であろうな」
「どうしてですか?」
「何の抵抗もすることなく、帝国軍の進軍を許しているからだ」
「それも抵抗したけど通られたと言ったら、終わりのような気がするんですが?」
「敵の進軍を受けたら報告する義務があるからな。今回は報告していないから、どう言い訳をしようが罪となる」
「ベルティーユ侯爵も悪い人物なんでしょうか?」
「悪いやつではない。現当主のガウル・ベルティーユという男は武闘派の貴族で、残念ながら領地運営が下手なのだ。ブラウ伯爵にかなりの借金をしていて、すでに傀儡になっていると情報が入っている」
「結果、帝国軍を手引きしているなら、十分悪いと思うのですが?」
「確かにエドワードの言う通りだな。昔は悪いやつではなかったと訂正しておこう」
ブラウ伯爵の代わりに断罪されるのは、可哀想な気もするが自業自得だからな。
「結局、今回の件でブラウ伯爵はどういった罰を受けることになるのでしょうか?」
「そうだな、調査の結果しだいだが、考えられるところで爵位を子爵か男爵に降格、領地の一部没収、罰金といったところか」
「犯人が分かっているのに、何もできないのはもどかしいですね」
「うむ、貴族も世代が変わると考え方も変わる。嘆かわしいことだが、かつては十分だった王国法も今では悪用するブラウ伯爵のような者まで出てくる始末だ」
「やはり直接攻撃は出来ないんですよね?」
「もちろんだ。直接攻撃しようものなら、他の貴族派の連中が黙っていないからな。最悪国が割れることになる」
「他の貴族派もブラウ伯爵を後押しするんですね?」
「まあ、貴族派の連中はブラウ伯爵から援助を受けているものが多いからな。ブラウ伯爵は元々商人の出で先々代、先代の力で伯爵まで上り詰めた凄腕の商人だ」
「凄腕の商人だったんですか? それで財力があるんですね」
「まあ凄腕の正しき商人だったのは先々代だけであったが……」
「先代のブラウ伯爵も酷かったんですか?」
「先代のブラウ伯爵で子爵から伯爵になってな、権力欲が強く狡猾な男だった。しかし子爵から伯爵になったことで分かるように、良くも悪くも出来る男ではあった。次男に殺されるのは、予想できなかったようだが」
そう言えば前にそんなことを言っていたな。
「まあ、話がかなり逸れたが、今は国王派の貴族のことだ。何か気になる貴族はあったか?」
「貴族の家名を覚えるので精一杯です。そう言えばジョセフィーナもそうですが国王派の貴族の血縁者がかなりうちで働いていますよね?」
「貴族の子供となると働き場所が少なくてな、王家や大公家は人気の就職先になっているのだ」
「そうなんですね。ジョセフィーナを見ていると、なんだか申し訳なくて」
「それはジョセフィーナに対する侮辱だぞ。まあジョセフィーナが少し変わっているのは確かだが……じつは望まぬ結婚を嫌がった令嬢が、うちで働くという図式が出来上がっていてな。コレットが原因なんだ」
「母様の専属侍女のコレットさんですか?」
「そうだ、彼女はリュミエール侯爵家の長女だ」
「そうだったんですね。頭の回転が速くて動きも洗練されてますし納得です」
「コレットは小さな頃から才女として有名でな。縁談の話もかなり来ていたのだが即答で断ったそうで、最終的に冒険者になると言い出したことで、リュミエール侯爵、自らが娘を大公家で雇って欲しいとお願いに来て実現したのだ」
「冒険者ですか!? 全然そんな風には見えないですね」
意外とお転婆なのかな?
「まあ、縁談を断るための口実だとは思うがな、しかし侯爵家の長女を雇ってしまったことで、それ以下の爵位を持つ貴族の令嬢たちに、希望を与えてしまったわけだ」
「その結果がジョセフィーナなんですか?」
「うむ、彼女は小さな頃から武に秀でた少女として有名でな、後の流れはコレットと似たような感じなんだが。違うのは、エドワードの専属侍女を募集していたのを、聞きつけて家に内緒で応募してきて合格したのだ」
「そうだったんですか!?」
「まあ結果的にジェンカー伯爵はジョセフィーナの行動力を褒めていたが、そこまでしてエドワードの専属侍女になったのだから、貴族の令嬢だからとか小さな括りで見るのではないぞ」
「分かりました。気を付けます」
かなり話は脱線したが有意義な話が聞けたと思う。
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特に内容には影響しませんが多数の貴族名が出ましたので国内マップをアップしました。




