第86話 新しい武器
メイド服を能力で作っていると。レギンさんがやってきた。
「小僧! 完成したぞ! なんじゃこの大量の服は!?」
「メイドたちの制服だよ。それより、レギンさん! もう完成したの!?」
「もちろんじゃ、早速使ってみてくれ!」
父様やメグ姉たちと剣の訓練をしている訓練場にやってくると、父様や母様、メグ姉など、みんなやってくる。みんな暇なのか? というかいつもどこから情報が伝わるんだろうか?
「なんじゃ、ぞろぞろと?」
「エドワードの新しい武器が完成したって聞いてね。おもしろそうだから見に来たよ」
「まあ、いいじゃろ。小僧の新しい武器はこれじゃ!」
取り出したのは全長70センチの剣で、グリップが20センチあり、残りの剣身の部分10センチごとに継ぎ目がある。
これは、連接剣とか蛇腹剣とか呼ばれるファンタジー定番の武器だ。実際に普通の人が使うとただの使いにくい武器だろうが、伸び縮みする糸を自由に操る事が出来る僕にはピッタリの剣だろう。
「前に買ったシンプルなミスリルの剣より、装飾も凝っていて綺麗ですね?」
「当然じゃ。小僧は大公家の嫡男じゃ、それ相応の作りにしてあるわい。そこから、あそこに設置した丸太を切ってみるがよい」
「分かりました。試してみるのでみんな少し離れてください」
魔石自体は事前に魔力を流して登録してあるので、すぐに使えるようになっているらしい。僕は構えるとまずは魔力を流さずに糸の能力だけで、5メートル先の丸太を狙って切ってみる。
50センチしかないはずの剣身が、5メートルの剣身に伸びたかのように丸太を切断した。切った後、剣を引くと元の形に戻る。
『――!』
みんなビックリしたようだが、僕もビックリした。
「レギンさん。今、剣身の数が増えたように見えたんですが?」
そう、ビックリしたのは5分割だった剣身が、丸太を切ろうと伸ばした途端に増えたのだ。
「そうじゃ。そこが今回一番こだわったところじゃ! 折角伸びても剣身が5つしかないのでは、長く伸ばすとスカスカになるからの。ガードの部分に魔石をいくつかはめ込んで、長さ10センチの剣身を50個格納してあるわい。だから今の距離だと剣身が伸びたように感じるだろ?」
「そういう事だったんですね! じゃあ今度は10メートル先のやつを狙ってみます」
今度は10メートル先の丸太を切ってみると、55個の剣身が均等に伸びて目標の丸太を切断する。剣身を繋いであるミスリルの糸は3本入っているようだ。
「これは、おもしろい剣だね」
父様が興味津々だ。父様が少し考えて僕に聞いてくる。
「ガードからの剣身50センチぐらいは固定して、その先だけを伸ばしたりすることは出来るかい?」
「固定するんですか?」
「例えばだけどエドワードが敵の剣をその剣で受けた場合、受けた部分はそのままで、そこから先を伸ばして攻撃できれば、ただ遠くの敵を切るだけじゃなく近距離でも普通に利用できると思ったのさ」
「なるほど、ちょっと見ただけで、新しい攻撃を思いつくなんて凄いです」
父様の言った使い方を試してみるが、なかなか難しい。
そもそも攻撃してくる相手に注意しながら、操作しなくてはならないので、目の前に集中すると飛ばした剣が落ちてしまい、飛ばす方に集中すると目の前の敵がおろそかになってしまうのだ。
「かなり難しいですね」
「それはそうじゃろ、小僧は基本的に遠距離からの攻撃がメインで、剣術の修行もしてないのであろう、剣術の基礎がなっとらんから剣術に気を取られすぎじゃ」
「剣術はたまに父様やメグ姉に教えてもらうぐらいですからね。僕もしっかりとした剣術を学んだ方が良いですかね?」
「そうだね、エドワードが真剣に学びたいんだったら教えるけど、それじゃあエドワードの個性が死んじゃうからね。いざという時のために基礎だけでもいいんじゃないかな?」
「そうよ、エドワードは遠くから攻撃する手段があるのだから、そっちを伸ばしなさい。敵陣に突っ込むのはハリーとお義父様だけで十分です」
母様が答える。それにしても父様とおじい様、敵陣に突っ込むタイプなのね……。お城の使用人たちも頷いているよ。
『エディよ、少し難しく考えすぎではないのか? エディは現在5本の糸を自由自在に操れるではないか。たかが3本の糸ぐらい自由自在にコントロールできるであろうが?』
ヴァイスが僕にアドバイスをくれる。他のみんなはヴァイスの言葉を理解できないため、何かを言っているのだなぐらいしか分からないだろう。
「エドワード、ヴァイス殿はなんて言ったんだい?」
父様は気になるようだ。
「はい、現在練習したことにより5本の糸を操ることができるのですが、剣になったとはいえ操るのは3本の糸なんだから簡単だろ? とアドバイスしてくれました」
「なるほどね、旅の間ずっとエドワードの成長を見てきた、ヴァイス殿ならではのアドバイスだね」
「ヴァイスは旅の間も色々的確なアドバイスをくれたので助かってます」
僕はもう一度、連接剣を構えると考え方を変えてみる。中央の糸で5つの剣身を固定して残りの2本で剣を飛ばしてみる。
すると、どれだけ剣を振り回しても集中を切らすことなく、飛ばした剣を自由自在に動かすことに成功した。
「やった! ヴァイスのおかげで上手く操ることができたよ」
『我は役に立つと言ったではないか』
「そんなのは分かってるよ。ありがとう」
『そんなに嬉しかったのか? 我は久しぶりにあれが食べたいぞ』
「あれって?」
『ほれ、オークキングのベーコンとやらがまだ残っていたはずだろ? 我はちゃんと覚えておるぞ』
「ああ、あれね!」
僕はオークキングのベーコンをリングから出すとヴァイスにあげる。
『おお! これだ! やはりオークキングは匂いからして違うな、いつ見ても美味そうだ!』
そう言うとバクバク食べだす。
「エドワード? 今、ヴァイスちゃんにあげたのは何かしら?」
母様が聞いてくる。
「セラータで倒したオークキングの肉で作ったベーコンですね」
『オークキング!』
なぜかみんな驚いた。
「小僧それを虹の雫の時に出してくれれば最高じゃったのに……」
確かに最高級の酒の肴にはピッタリですね。
「すいません。すっかり忘れてたんです。折角ですからちょっと食べてみますか?」
そう言うと、まな板代わりに使っている木の板を出して、ベーコンをカットすると瞬く間に無くなる。
「エディこれは美味しすぎるわね」
「メグ姉も気に入ったのなら良かったよ。どうせならオークとオークジェネラルの肉で作ったのもあるから食べ比べしてみる?」
「よし、エドワード。食堂に行こう!」
父様が合図すると、僕はジョセフィーナに抱えられ、ヴァイスはアスィミに抱えられてそのまま食堂に運ばれたのだった。




