第82話 メイド服※
昨日出したアイデアを元に、カトリーヌさんが一晩でメイド服のサンプルを作成してくれたので急遽、父様たちにプレゼンすることとなった。
プレゼンする相手は父様に母様、おじい様とおばあ様、あと家令のルーカスさんにメイド長のハンナさんも加わる。
ちなみに、おじい様は明日オークションのため、王都に向けて出発するらしい。
「それでエドワードはメイドたちの服装について、提案があるんだったね?」
「はい、騎士たちが統一された鎧をつけるように、メイドたちにも決められた服、メイド服という制服を着させることにより、大公家がより格式高く見えるのではないかと思いました」
「なるほど、確かに統一された服を着させるのは良いアイディアだね」
ここでメイド長のハンナさんからの援護が入った。
「とても素晴らしいと思います。能力があっても経済的理由からメイドを辞める子もいますので、支給していただけると、そういった子たちも長く勤めることが出来るようになりますわ」
服の問題は予想以上に深刻だったらしい。
「それは初耳だね」
「先輩メイドにお下がりをいただくこともございますが、それにも限りがございます。そう言った話は貴族にお仕えするメイドではよくある話ですので」
「それでエドワードはどのような服にするつもりかしら?」
母様が質問し、おばあ様が頷く。
「はい、昨日カトリーヌさんに相談したところ、一晩でおおよその形を作ってくれたので、今からお見せいたします」
部屋の外で待機していたカトリーヌさんを呼びに行く。
「カトリーヌさん、お願いします」
「分かったわよ。今連れてくるわ」
別室に待機しているジョセフィーナたちを呼びに行き、カトリーヌさんが部屋に入ってきた。
「それでは大公家メイド専用の服をお見せしますね。入ってきて!」
カトリーヌさんが合図するとメイド服を着た3人が入ってくる。……あれ? 3人?
ジョセフィーナとアスィミと……メグ姉じゃん! なんでメグ姉までメイド服着てるのさ! 凄く似合ってるけど!
3人が入ってくるとみんな目を見開く。
「ほう、これは」
「あら、素敵な服ね」
みんなの評価はなかなか良さそうだ。
「なるほど、3人同じ服を着てるだけでも格式高く見えるね。ところでかなり高級そうな布だけど何の布かな?」
さすが父様、細かい所に目が行くね!
「はい、スパイダーの糸で作った布です」
『スパイダーシルク!』
みんな驚いた。特に家令のルーカスさんの驚く姿は貴重だ。
「スパイダーの糸で作った布なら大公家のメイドとして恥ずかしくない素材ですし、普通の布と違って丈夫で汚れも付きにくいのでピッタリなうえ、僕が生地を用意すれば比較的安価に抑えられるかと」
「上手く考えたね。モイライ商会の初仕事としては大仕事となるけど大丈夫かい?」
「モイライ商会で? それでは!?」
「うん、エドワードの案は素晴らしい案だよ! 何よりメイドたちの悩みを解消できると言うのが一番良いね! きっとパーティーの後は注文が殺到するかもしれないから、普通に販売する時の値段も決めておいた方がよいかもね」
「普通に売る時ですか?」
「うん、最低でも王家からの注文は入るだろうからね、ただ世間の相場に見合った価格で設定するんだよ」
「分かりました!」
プレゼンが終わりカトリーヌさんたちと、今後の話をする。
「上手くいって良かったけど、まさかメグ姉までメイド服を着てるとは思わなかったよ」
「あら、私もエディの護衛として、着なきゃならないかもしれないじゃない? ダメだったかしら?」
「凄く似合ってるからいいんだけどね。あとはこれからどうするかだね」
「そうね、取りあえず全体数の把握からかしら? メイドが何人ぐらいいるのかによって、作り方も考えなきゃならないからね」
「全使用人が300人くらいで、そのうちメイドは200人ぐらいになります」
突然声のした方を向くと、入口にメイド長のハンナさんが立っていた。
ハンナさんは45歳でおじい様の代から仕えているメイドさんだ。ハンナさんの娘さんもヴァルハーレン家に仕えているらしい。
「ハンナ、何かありましたか?」
ハンナさんは『さん』付けで呼ぶと凄く怖いのだ。
「ハリー様からエドワード様の計画を、お手伝いをするように申し付けられましたので」
「それは助かるわ。スムーズに事を運ぶには、メイド長の協力は必要よ」
なるほど、確かにそうだな。僕じゃ城のメイドのことは分からないからな。
「それにしても200人はかなりの人数ね、さすが大公家だわ。普通に作っていたらパーティーに間に合わないわよ?」
「それについてだけど、メイド服の全てをスパイダーの糸で作れば、僕の能力で量産できると思うんだけど、どうかな?」
「全てスパイダーシルクで? さすがにボタンとかは無理よ」
「能力に登録できる基準で分かっているのは、単一素材で作られていること、完成していることの2つなんですけど、後でボタンに付け替えできるように完成させれば、登録できると思うんですけど無理ですかね?」
「なるほど、仮に完成させた形にするだけでも手間は減るわね。残りの問題は服のサイズね」
「服のサイズですか?」
「ええ、昨日はジョセフィーナさんたちを採寸してから作ってたでしょ? 確認するけど、エディ君の能力ではサイズを調整できるのかしら?」
「無理ですね。素材と色は変えることが出来ても、大きさの調整は出来ないです」
「そうなると、結局全員分作らなきゃダメなのよね」
なるほど確かに一人ずつ採寸して、その人に合わせて作っていたら意味ないな。
「例えばですけど、大きめ、普通、小さめの3サイズ、もしくは4サイズにして、近いサイズのものを着るのではダメですか?」
「さすがはエドワード様。私も昔そうしていました。元々メイドたちは自分で古着を手直ししたり、お下がりを手直ししたりしていますので、ある程度体格に合っていれば問題なく着ることができます」
「そうなのね、それは助かるわ。それではメイド長のハンナさんには、メイドたちのサイズの調査をお願いしてもいいですか?」
「畏まりました。3サイズに分ける形で纏めればよろしいでしょうか?」
「基本それで構わないです。別の服になりますが、3サイズお貸ししますので自分に合うサイズを選ぶようにお願いします。どうしても合わない人がいる場合には検討しますので、その人のサイズも記入するようにお願いします」
「畏まりました」
サイズの件は問題なさそうだ。
「カトリーヌさん、もう1つあるんだけど」
「なにかしら?」
「メイド服のデザインを変えるのは大変だと思うのですが、例えば上から着るエプロンのデザインを何種類か作るのは大変ですか?」
「そうね、メイド服よりは楽だけど、何にするの?」
「メイド長のハンナのように、纏め役のメイドのエプロンは普通のより少し豪華な感じにしたら良いと思うんだけどどうかな?」
「なるほど、一目で長が分かるのは良いと思うのだけど、そこのところハンナさんはどうかしら?」
少し思案した後、メイド長のハンナさんが答える。
「そうですね、自分から豪華なのがいいとは言いづらいところはありますが、確かに見た目で判断できるのはありがたいですね」
「やっぱり、そうなのね。役職みたいなのって結構多いのかしら?」
「一応、私がメイドたちを纏めていることになりますが、あとは主任クラスと、一般メイドとは別枠、ジョセフィーナのような専属メイドでしょうか」
想像していたより役職は少ないみたいだ。
「そうなると、メイド長用、専属メイド用、主任メイド用、一般メイド用の4種類ってことね! それくらいなら問題ないわよ。ハンナさんもそれで良いかしら?」
「お手数おかけして、申し訳ございません」
「ゆくゆくはエディ君のためになるんだから問題ないわ!」
「カトリーヌさん、ありがとうございます」
「あら? 量産するのはエディ君の仕事なんだから、私はまだ楽なもんよ」
「そうだった。登録するのが大変なの忘れてた。少なくともメイド服3種類とエプロン12種類は、登録しなきゃならないってことだね」
「エドワード様、メイド長は私のみでございますので、3サイズは必要ないかと」
「そうか、じゃあエプロンは10種類ってことだね、頑張れば3日でいけるかな?」
「メイド服とエプロン、そんな一遍にできないから大丈夫よ。まずは私が作らないとね!」
「カトリーヌさん、お願いしますね」
こうしてメイド服の製作が始まることになった。
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メイド服を着たジョセフィーナのイメージ画像です。




