第81話 パーティーに向けて※
今日は朝から厨房に立たされていた。そう立たされているのである。大事なことは二度言わないとダメだと聞いたことがあります。
事の発端は朝食の時まで遡る。
朝食を食べているとき父様が僕に尋ねた。
「どうだいエドワード、パーティーの良い案は何か思いついたかい?」
すいません父様。すっかり忘れていました。と本当のことなど言えるはずもなく、思わず。
「そうですね。来てくれた人たちが見たこともないような、料理やデザートで、もてなすのはいかがでしょうか?」
そう、古より封印されし、禁断の4文字を発してしまった僕が悪いのです。
『デザート?』
速攻で封印されし、禁断の4文字に反応する女性陣。
アイコンタクトで誰が僕に質問するか相談しているだろうか? 非常に怖い。そして、一瞬で気配を消す父様と、おじい様。見事です!
相談? の結果やはりメグ姉が質問してきます。
「ねえ、エディ? その見たこともないデザートって言うのは、どんなものなのかしら?」
デザートか! 何なら作れそうだ? 比較的簡単に作れそうなデザート……プリンか! プリンなら作れるかも! しかし、いきなりプリンなんて禁断の3文字を口にするのは怪しすぎるぞ! なんで知っていたの? ってなるに決まっているじゃん。どうするエディ? 考えるんだポク・ポク・チーンって都合よく出てくるわけ無いし。
隣で朝食を食べているヴァイスを見て閃く。
「旅の途中でちょっとだけ実験して、できたのがあるので作ってみましょうか? 原型があればロブジョンさんが、もっと美味しくアレンジできますよね?」
と言うことがあり、現在厨房に立たされております。
さてと、材料は用意してもらった。無いパターンを期待するのは危険なので封印してある。
本来ならバニラエッセンスなど色々あった方がいいのだが、さすがにそんなものはないので卵、牛乳、砂糖のみでチャレンジすることにした。
まず、牛乳を温めるのだが、電子レンジなんてもちろん無いので湯煎して温める。そして別の器に卵を入れて、泡立て器でかき混ぜる。
泡立て器はステンレスの糸を加工して作った。終わったらロブジョンさんにも作ることが決定しております。
そして、温まった牛乳と砂糖を加え、さらに混ぜ合わせる。
よく混ざったら、茶こしの代わりに作った、ステンレスの網でこしながら陶器の器に入れた。
陶器の器にアルミホイルで蓋をするのだが、このアルミホイルは、直径80センチ、長さ12マイクロメートルのアルミの糸だ。
フライパンに布巾を敷き、その上に陶器の器をのせて周りにお湯を注ぎ、フライパンに蓋をして弱火で15分ぐらい加熱して、火を消した後に蒸らす。
うまく完成することを願いながらカラメルを作る。
砂糖を弱火で加熱してカラメル色になったら、下ろし、水を入れて混ぜたら、プリンにかけて完成となる。
見た目はプリンだ、初めてにしては上手くいったのではないだろうか。
「エドワード? これで完成なのかしら?」
「はい、母様完成しましたので、みんなで食べてみて下さい」
女性陣とヴァイス、ロブジョンさんがプリンを食べる。
『美味しい!』
みんなスプーンが止まらなくなったようだ。僕も食べてみよう。
程よい甘さで滑らかな口当たり。初めて作ったにしては良いのではないのだろうか。生クリームなどを混ぜるとさらに美味しくなるはずなのだが、生クリームってどうやって作るのだろうか?
ピウスフリーシアンという角の生えた牛の魔物をテイムして育てると、牛乳を取ることができるということだ。このピウスフリーシアンという牛の魔物は、オスとメスをテイムしている状態で子供が生まれると、子供もテイムされた状態で生まれるらしく。オスメステイムできると、テイマーは安定した収入を得ることができるので、人気の職業らしい。
プリンを作った牛乳を見てみると、表面に白い層が出来ている。そういえば、生乳100パーセント牛乳で生クリーム層が出来るという広告を見たことがあるな。つまり、この白い層が生クリームってことなのかな?
僕が生クリーム層を見ていることに気が付いたロブジョンさんが教えてくれる。
「エドワード様、牛乳をしばらく放置しておくと、そのような膜が出来上がるのです。一般的には、これは不純物として取り除かれ、使われることはありません」
「なるほど、不純物扱いなのか……」
生クリーム層をすくってボウルに入れる。それに砂糖と水を少し入れて、泡立て器でかき混ぜる。
しばらくかき混ぜるとホイップクリームが出来上がり、それをプリンにのせて食べてみた。
「美味い……」
その一言でみんなものせようとするが、既にプリンはない。みんなが恨めしそうな顔で僕を睨みつける。えっ!? 僕が悪いの?
『エディよズルいぞ! 我もそのフワフワを食べたいぞ』
ヴァイスまで文句言ってきた。しょうがないな。
「ロブジョンさん、何か果物をカットしてもらえませんか? これは果物にも合うと思います」
ロブジョンさんが持ってきた果物は桃だった。この世界ではピーシェと言うらしい。英語でピーチ、フランス語でペッシェと言うが、その間だな。
みんなはピーシェにホイップクリームをのせて食べると幸せそうな顔をしている。
「まさか捨てていた部分でこんなものが作れるとは、エドワード様その泡立て器いくつかお願いしたいのですが?」
「金属の部分だけ出しますので、色々アレンジして加工してみてください」
「ありがとうございます。最初に作ったデザートとフワフワなやつはなんて名前にしましょうか?」
「プリンとホイップクリームなんてどうかな?」
「畏まりました。以後その名前で周知いたします。奥様! エドワード様をパーティーまでの間、何回かお借りしたいと思うのですがいかがでしょうか?」
「よろしいでしょう。ただし、新作ができたら必ず私たちを呼ぶように」
「もちろんでございます」
僕のレンタル契約が本人の意思と関係なく決まってしまった瞬間だった。まあ、美味しいものが食べられるのなら、協力は惜しまないつもりだったけどね。
◆
そして厨房から解放された僕は現在、ジョセフィーナからパーティーの計画案の説明を受けているのだが。
「うーん、何回聞いても、その案に料理と金貨のプレゼントが加われば十分じゃないのかな?」
「私もそう思います……いえ、エドワード様の復活祭にしては平凡かと」
復活祭って何だ?
「ジョセフィーナ、復活祭って何だよ! ただの快気祝いでしょ?」
「旦那様と奥様はこの7年間、肩身の狭い思いをされていたと思います。イグルス帝国も退けた今のタイミングで大公家の力を示すのは必要なことだと思われます」
「大公家の力ね。大公家に力があるって思わせればいいんだよね!」
「その通りでございます」
「それじゃあ、カトリーヌさんを呼んできてもらえるかな?」
「カトリーヌ様をですか畏まりました。アスィミ! カトリーヌ様を呼んでくるからエドワード様をお任せしたぞ」
ヴァイスに何かを食べさせていたアスィミが答える。
「お任せください」
◆
しばらくすると、ジョセフィーナがカトリーヌさんを連れてくる。メグ姉も一緒に来たようだ。
「エディ君、何か相談があるんだって?」
「はい、服について相談したかったんです。メイドやギルドの職員など、みんな服装がバラバラだと思うのですが、これって一般的なことなんですか?」
「そうね、服は新品になると、とても高価だから、貴族勤めのメイドさんは先輩からお下がりをもらったりすると聞いたことがあるわ」
「ジョセフィーナとアスィミはどうなの?」
「私は買いにいってますね」
「私は先輩から貰った物を手直しして使っています。大公家に見合った服装は、新品で買えるはずありませんので」
「エドワード様、大公家に勤める大抵の者は、下級貴族や騎士家の者がほとんどです。アスィミの場合は少し特殊なケースですので、参考にならないかと」
「うーん、でも買うのが大変な人もいるってことだよね?」
「そうでありますが、それとカトリーヌ様を連れて来たことに、何の関係があるのでしょうか?」
「なるほど! エディ君はみんな一緒の服を用意したらどうかってことを言いたいのね?」
「みんな一緒の服でございますか?」
「そうなんだ! さすがカトリーヌさん。アスィミが言っていた大公家に見合った服装を支給してあげれば、大公家の格が上がり、新しい服を買えない人たちも助かるし良いと思わないですか?」
「そうでしょうか?」
ジョセフィーナさんはピンとこないようだ。
「ではジョセフィーナ、想像してみてください。戦争に行く騎士たちの鎧、みんな統一され一緒なのと、バラバラなのではどちらが強そうですか?」
「それはもちろん、一緒の方が強いに決まってます! あっ、そういう事ですか」
「そういう事、大公家のメイドたちが同じ服装でいることは、戦闘服を着ているようなもんなんだよ」
「問題はどんな感じの物にするかね」
「こういう感じなのはどうでしょうか?」
僕はヴィクトリアン風のメイド服をカトリーヌさんに提案する。
「エディ君、凄いわ! これは良い物がつくれそうよ!」
「父様に見せるため、ジョセフィーナとアスィミに合うのを作ってみようか?」
「そうね、ところで生地は何が良いかしら?」
「スパイダーの糸はどうですか? 実は作れるようになったんですよ」
「それはいいアイデアよ! シルクより高級品で、汚れもつきにくいから十分過ぎる素材よ」
その後、カトリーヌさんに、リクエストされたスパイダーの布を出した後は、なぜかそのまま僕の部屋で採寸が行われた。
まあ、みんなとは毎日一緒に風呂へ入っているから、今更なんだけどね。
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ソフィアのイメージ画像になります。
ただし、現在のソフィアはこの画像と違ってまだ完全には回復していないですw




