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第78話 オークション対策

「さて、エドワードの能力については大まかには分かったから、話を先に進めようか」


 父様の声によって話し合いが再開される。ちなみに僕は現在、母様に抱きしめられている。メグ姉が駄々をこねる母様に僕を譲った形だ。


「大まかな計画はエドワードが目を覚ます前、ここにいるメンバーで話し合っているから教えるね、これからエドワードが関係することをまとめると」


 ・モイライ商会をランクアップさせる。

 ・モイライ商会を建てる。

 ・快気祝いのパーティーを開く。


「この3つが取り急ぎ準備を始めないとダメなんだけど、質問はあるかな?」


「商会のランクアップ以外は分からないんですけど、商会を建てると言うのは?」


「もちろんお店を開くって言う事だよ。カトリーヌ、レギン、マーウォの工房も必要だし作った物を販売する店舗も必要だ。素材の関係で秘匿性も絡んでくるから、3人の工房は城の敷地内に用意する。店舗の方も物件は押さえてある、あとは改装して品物を用意するだけだから心配しなくても大丈夫だよ」


 逆に心配が増えたんですけど!


「快気祝いのパーティーと言うのは?」


「それは他の貴族を招いてエドワードの快気祝いを盛大に開くって事だよ!」


「……」


「エドワードは生まれてからずっと病に臥せっていたことになっているから。主に派閥の貴族になるけど、集めてお披露目パーティーを開かなくちゃね!」


「それは開く必要があるって事なんですね?」


「そうだね、エドワードは今まで貴族として育ってないから嫌かもしれないけれど、これだけはお願いしたいかな。実はもう隠すのも限界に近かったのと、何より僕が他の貴族にお披露目したいのさ!」


「そうなんですか……」


「エドワードには悪いがこれでも大公なんでね。それなりに力を見せないと他がついてこないからね。そこで、エドワードにも凄いパーティーになるような案を出して欲しいんだ」


「凄いパーティーですか?」


「そう、他の貴族が見たこともないようなやつお願いね!」


 何だ今のスマイルはキラーンって歯が光ったように見えたぞ! 雷の魔術か?



「分かりました、何か考えてみます。ただ通常のパーティーを知らないのでそれは教えてもらえるとありがたいです」


「もちろんだよ、原案があるから後でジョセフィーナに聞くといいよ。ジョセフィーナ、頼んだよ」


「畏まりました。お任せください」


「次は、後回しにしたオークションの話だね。父様お願いします」


「うむ、オークションの話は儂がしよう。今から5日後、王都でオークションが行われ、そこにジャイアントスパイダーの糸が出品されるということで各貴族が既に獲得のために動いている。儂も本来は獲得のために参加する予定だったのだ」


「僕が作れるので無理して競り落とす必要が無くなったんですね」


「それも1つあるが、主の理由はブラウ伯爵の手に渡ることを阻止するためだな」



 1つ疑問が生まれたので聞いてみる。


「おじい様、1つお聞きしたいことがあります。伯爵より大公の方が遥かに力を持っていると思うのですが違うのでしょうか?」


「間違っていないな、ブラウ伯爵なんぞにヴァルハーレン家が負ける要素は何1つ無い。しかし簡単に国内の貴族に直接攻撃するわけにはいかんのだ。まず自領以外の内政に関わってはならない不文律が存在する。そこで問題になってくるのが他の国王派の貴族だ、領地経営が不得意な貴族は借金をして実質的に乗っ取られる事態が発生しておるのだ。たとえ王であっても与えた領地に口出しすることは出来ないことになっていてな。もちろん決定的な証拠でも出てくれば別だが、現行犯以外では裁けないのが現状だ」


 なるほど、科学的に証明することは不可能な世界では、証拠は捏造されたと言えばそれまでという事なのか。


「ブラウ伯爵がさらに高い地位を得る前に潰したいということなんですね」


「そうだ、もうすでにベルティーユ侯爵などが実質的にブラウ伯爵の傀儡になり果てておるのだ。やつが侯爵になるのだけは阻止しなくてはならない」


「ブラウ伯爵はオークションで競り落としたジャイアントスパイダーの糸をどのように利用するのでしょうか?」


「そうだな、もちろん自分の所で使う可能性も考えられるが、一番可能性が高いのは王に献上する可能性だな」


「わざわざ競り落としたのに献上するのですか?」


「そうだ、諸侯が一堂に会した場で献上するのは良いアピールになるからな。実際に何回かその手を使っておるから、間違いなくその手を使って来るだろう」


「今回の要塞の件はマイナスポイントになるのですよね?」


「もちろんだ。要塞の件で絶対的に逃れられないポイントは、城や要塞などの軍事施設は王の許可がないと作ることはできん。どんな理由があろうと今回の要塞の件は王に無断で作っておるからその点は逃れられない。あとイグルス帝国に要塞を奪われたことにするはずだから、奪われた事実も逃れられないな。大きな失点があるからこそ、今回のジャイアントスパイダーの糸は絶対に狙って来るだろう」


「それでは、できるだけ金額を釣り上げて競り落とさせるのはどうでしょうか?」


「阻止するのではなく、競り落とさせるのか?」


「はい、1つお聞きしたいのですが、ジャイアントスパイダーの糸は糸の状態で献上するのでしょうか? 布や製品として献上するのでしょうか?」


「布の状態だな」


 やはりそうか。ここでカトリーヌさんに確認しておく。


「カトリーヌさん、以前ジャイアントスパイダーの糸は巻き取るだけでもシルク職人数人で何日もかけてやるって話をしていたと思うのですが、布の状態にするのも大変なんじゃないでしょうか?」


「そうね、シルクでも絹布(けんぷ)にするまでに6ヶ月ぐらいかかるから、ジャイアントスパイダーはその何倍も大変だから、1年以上はかかるんじゃないかしら」


「絹布でも6ヶ月もかかるんですね、知らなかったです。という事でおじい様、ブラウ伯爵にできるだけお金を使わせて、ジャイアントスパイダーの布が出来上がる前に父様がジャイアントスパイダーの布を献上してしまえば、ブラウ伯爵が持っている布の価値が下がるのではないでしょうか?」


「それは良い案ね! エディ君の布はどれも最高級品質だから、仮にその後に献上しても絶対に品質が見劣りして見えるわよ」


「なるほど、確かにそれはおもしろい案だな」


「はい、落札金額の半分は僕の手元に入ってくるので僕も嬉しいですし。出来ればジャイアントスパイダーよりもっとレアなスパイダー系の魔物の魔石を手に入れて。その布を献上するって案もあります」


「1年というのは不確定要素だが、シルクを基準としても、半年あると思えば魔石を手に入れることは可能かもな」


「よし! エドワードの案通り、ブラウ伯爵にできるだけお金を出させる作戦で行くとするか! ハリーもそれで良いな?」


「もちろんです。エドワードはなかなか策士な面もあるんだね、ほっとしたよ」


「どうしてですか?」


「それはもちろん、要塞に正面から突っ込んで行った姿を見ていたからね。特攻タイプなんじゃないかと心配していたんだよ」


「そっ、それはメグ姉があぶないと思ったら体が勝手に……」


「命が幾つあっても足りないから、もう二度とあんな戦い方はしちゃダメだからね」


「分かりました。気を付けます」


 そこで、僕を抱きしめたままの母様が呟く。


「エドワードは私がピンチになっても駆けつけてくれるのかしら……」


「フィアそれについては、僕の方が先に駆けつけるかな」


「ハリーったら……」


 僕を抱きかかえたままイチャイチャしないで欲しい。


「そうだ! おじい様! この中にオークションへ出品できそうな物とかありますか?」


 セラータの町の地下で見つけた財宝があったのを思い出したので、リングから出す。


「なんだこの財宝は!」


 みんな集まって財宝を見ている、母様もようやく離れて宝石類を見ているのだが、宝石に負けたみたいで少しだけ複雑な気分だ。


「ワインと同じ地下で発見した財宝です。オークションに出せそうなら出してしまって、ブラウ伯爵からお金を吐き出させようかなと」


「どれも価値が高そうだ。詳しいことは鑑定してみないと分からないが……」


「父様! これを!」


 いつも冷静な父様が珍しく興奮している。


「むっ! それはアウローラ王国金貨じゃないか!」


「いっぱいあるけど、普通の金貨ではないのですか?」


「うむ、ヴァーヘイレム王国が建国される遥か昔、この地にあったと言われておる王国の金貨だ。非常に価値の高い金貨と言うだけでなく、縁起物としても最上級の価値があっての。それを手にした家は必ず栄えると言われるぐらいのものだ」


「そうだったんですね」


 その金貨をたくさん持っていても、エンシェントトレントに滅ぼされてるんだから効果は微妙だな。


「でしたらそれを1枚オークションに出品するのはどうでしょうか?」


「アウローラ王国金貨をか! ヴァーヘイレム王国でも5枚しかない貴重な金貨なんだぞ」


「5枚しかないんですか! 持っている人は分かっているのですか?」


「うむ、国王と大公家、あと三公爵家だな」


「それなら、確実にブラウ伯爵なら喰いつくのではないでしょうか?」


「それはそうだが、ブラウ伯爵家が栄えられるとな……」


「おじい様、そんなものは迷信ですよ。現にこんなにも持っていてもエンシェントトレントに町ごと滅ぼされているんですから、それよりも有効に利用しましょう!」


「どう利用するのだ?」


「まず、1枚をオークションに出品してブラウ伯爵に落札させます。そういえば、出せば落札してくるんですよね?」


「間違いないだろう。やつはコレクターとしても有名だからな」


「それなら安心なんですが、落札させたあとにパーティーを開いて、来てくれた国王派の人たちにプレゼントしてはどうでしょうか?」


「アウローラ王国金貨を配るのか!?」


「なるほど、数がたくさん出れば、アウローラ王国金貨の価値が下がるってことだね」


「その通りです父様。別に価値が下がっても、お守り的な価値がなくなるわけではないので、どうでしょうか?」


「僕は良い案だと思うけど父様はどうかな?」


「うむ、当家にあるアウローラ王国金貨の価値まで下がるが、これだけの数があればどの道、価値は下がるからいいだろう。当家から出品するわけにはいかないから、モイライ商会から出品させるとして、マーウォ殿! モイライ商会の人間として一緒にオークションまで来てもらえないだろうか?」


「あら、いいわよ。でもなぜ私なのかしら?」


「エドワードはやること山積みだ。モイライ商会の人間かつ腕の立つ人間はマーウォ殿しかおらぬからな」


「確かに妥当な人選ね。私なら材料さえあれば、移動しながら仕事もできるしいいわよ。だけどエディちゃんのアレが欲しいんだけどいいかしら?」


 マーウォさんが言うと別の意味に聞こえそうだ。


「銀の糸ですね。いいですよ! 魔力の消費が大きいのでたくさんは出せませんけど、こんな糸も出せますけど要りますか?」


 金の糸とミスリルの糸を出して見せる。


「これってミスリルじゃない! ぜひお願いするわ!」


「小僧! 儂も欲しいぞ!」


「レギンさんには新しい武器の相談もあって、鉱石でたくさん取ってきたんですけど?」


 そう言って、魔の森の洞窟で採掘してきた鉱石をいくつか出す。


「新しい武器か! 小僧のアイディアはおもしろいから、モイライ商会での初仕事は小僧の武器にしよう。それと小僧の能力で出したものは、鉱石から作るより質が高いのじゃ。他の人に作るものはともかく、小僧の武器ぐらいは能力で出したものが欲しいぞ。いっそ全部取り込めば消費魔力も抑えられるから、ちょうど良いのではないか? どうせミスリルの武器なんぞ小僧の関係者にしか作らんしな」


「ちょっといいかな? 取り込むと消費魔力が抑えられるって言うのは、どういうことかな?」


 父様が質問してきた。


「レギンさんと色々試した結果、同じ素材でも取り込む量を増やすと、出すときの消費魔力が減るみたいなんです。但し僕の能力で出したものを取り込んでもカウントされないですが」


「なるほど、ズルは出来ないってことなんだね。取り込む物に条件はあるのかな?」


「そうですね、加工してあるものは取り込めないようです。服とか剣などは取り込めないですが、布は取り込めます。但し、縫ってあると素材としては取り込めないです」


「今は、製品登録ができるから、単一素材で縫ってあるなら製品登録はできるってことなんだね」


「その通りです。それじゃあこの鉱石は登録してしまいますね」


「それでいいぞ」



 こうしてオークション対策が完了したのだった。

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