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第77話 糸の能力

 昨晩はみんなに帰還を祝ってもらえて、幸せな一日となったわけだが、今日は人払いをして関係者だけで朝から今後について話し合うようだ。


 父様が話し始める。


「それじゃあ、昨晩エドワードのモイライ商会に纏める話が決まったので、今後について話し合いたいと思う。まずはエドワードの扱う素材について、エドワードの口から聞きたいかな」


「はい、父様は知っているみたいですが、僕の能力は糸です。カトリーヌさんの案で、表向きは糸を操ることが出来る能力という事にしてあります」


「表向きはってことは隠さなければならないことがあるんだね」


「最初は分からなかったけど、今ではカトリーヌさんの言う通りにしておいて良かったと思っています」


「それで操る以外に何ができるのだ?」


 おじい様が聞いてきた。


「簡単に言うと糸を作り出す事ができます。こんな感じで」


 麻の糸を1メートルほど出してみる。


「ほう、糸を作り出せるのか」


「はい、取り込んだ糸は魔力の続く限りどれだけでも作り出せます。また、糸の素材を能力に登録することで新たな糸も作り出す事ができます」


 次に、絹の糸を出して見せる。


「これは、シルクじゃない!」


 おばあ様が反応した。


「それで最初は糸だけかと思ったのですが、糸で作った布も登録すれば作れるようになり、能力もどんどん進化していきました」


「進化する能力っていうのは聞いたことないね」


 父様が感想を言う。


「はい、能力にはレベルがあって、今のところレベル1で植物素材の登録、レベル2で鉱物素材の登録、レベル3で魔物素材の登録、レベル4で素材の合成、レベル5で単一素材の製品登録ができます」


「すごいわ、旅に出る前はレベル3までだったから頑張ってレベル5まで上げたのね」


 メグ姉が優しく褒めてくれた。そこへ父様の質問が入る。


「質問いいかい? レベル3の魔物素材の登録っていうのは、具体的にはどんな感じなのかな?」


「能力自体が手探りなので全て解明したわけではありませんが、スパイダー系など糸に関係する魔物の糸や魔石などを登録して作り出す事ができます」


「なるほどね、マルグリットさんの着ている服はスパイダーの糸で作ってあるのね。回復魔術をかける時、服は傷1つなかったから不思議だったのよね」


 さすが母様、細かいところまで見ている。


「エディ君が旅立つ前にメグと私の安全を心配して用意してくれたのです」


「エディのおかげで命拾いしたわよ」


「役にたったのなら良かったです。ちなみにスパイダーじゃなくてジャイアントスパイダーの糸なんですけどね」


『ジャイアントスパイダーだって!?』


 みんな驚いたようだ。


「ジャイアントスパイダーの糸なのに、色が付いているのはどういうことかしら?」


 おばあ様が気がついたようだ。


「能力で色を付けることが出来るのですが、能力ならジャイアントスパイダーの糸であっても好きな色で作ることが出来るのです」


『――!』


「なるほど、もうすぐ王都で開催し、オークションに出てくるジャイアントスパイダーの糸はエドワードが絡んでいるのか」


 おじい様はオークションの話を知っているようだ。


「はい、そのジャイアントスパイダーの糸は僕が倒したジャイアントスパイダーの巣にあった糸です。僕はジャイアントスパイダーを倒すのがギリギリで気絶してしまったんですけど、メグ姉が残りの子蜘蛛を始末して魔石以外を商人ギルドに卸してくれたんです。冒険者ギルドでも対応できてなかった案件らしく、それを解決した功績でEランクになれたのです」


「それでEランクだったわけだ。オークションにも関わっているとなると、それについても後で相談する必要があるわけだ。エドワードはジャイアントスパイダーの糸や魔石を取り込んだことにより自由に糸や布を出せるって事でいいのかな?」


 さすが父様。上手くまとめた。


「それで、あってます」


「聞きたいことが減るどころか増えてくるけど、まずはレベルの件を片付けよう。レベル4の素材の合成と言うのはどんな能力かな?」


「それがまだ全然解明しきれてないのですが、基本的には登録した素材同士を合成して新たな素材を生み出す能力ってことだけは分かっています。レギンさん、これを見てもらえますか?」


 炭化タングステンを直径1センチ、長さ10センチで出して見せる。


「なんじゃこの金属は! 小僧に出してもらった鋼より遥かに硬い上に重いぞ」


「炭化タングステンって言う名前みたいです。ダイヤモンド並みに硬く、金に近い重さの金属だそうです」


「そのような金属が! しかし、これでは重すぎて武器にはならんな」


「なるほどね、エドワードが最後に要塞の上空から降らせて、要塞を粉々に破壊したのはその金属だね」


 僕の父様、ハイスペックすぎないか?


「これを上空から降らせたのか! 考えただけでも恐ろしいな」


 レギンさんは想像してしまったようだ。


「ついでで聞くけど要塞を溶かしていた、光った金属はなんて言うんだい?」


『要塞を溶かした!』


 みんな驚いてしまった。


「あれはタングステンと言って、今出した炭化タングステンの元となる金属です。雷を流すと白く光って石を溶かすぐらい高温になるようです」


「ちょっと待って、エドワードに魔術の適性は無かったと記憶しているが」


「はい、母様たちには説明しましたが、僕をヴァルハーレン領からコラビ近くまで運んだエンシェントウルフから魔法を習いました」


「なるほど、エンシェントウルフの話は聞いているけど魔法の話は聞いてないな」


「ハリーごめんなさい。魔法の話は昨日エドワードから聞いたの。ハリーが『今日はいつもより肌が綺麗だね』って言うから報告するのを忘れてたわ」


 報告を忘れたのは父様のせいらしい。


「魔法の話は後でフィアに聞いておくとして、合成は新たな金属を作り出せる能力なのかな?」


「金属だけではないみたいです。この糸を見てください。何の素材で出来た糸か分かります?」


 スライムの糸を出して、みんなに見せる。


「なんだこの糸は! 凄く伸びるぞ」


「見たことない素材ね」


 レギンさんとカトリーヌさんは新しい糸や素材にはすぐに飛びつくようだ。


「これはスライムかな?」


 さすがはハイスペック父様! 一発正解です。


「父様、正解です。スライムの魔石を取り込んだら使えるようになりました」


「ちょっと待つんだ、スライムには核はあっても魔石は無いはずだが?」


「はい、しかし僕の能力ではその核を魔石と判定して取り込むことができました」


『――!』



 みんなビックリしたようだ。

 


「とりあえずスライムの話も後だね。スライムの糸と合成はどうやって繋がるのかな?」


 見事に軌道修正した! 僕なら話がそれて忘れてしまうのに。


 今度はアイススライムの糸直径10センチ、長さ10センチ出してみる。


「これを触ってもらえますか?」


 新素材に敏感なカトリーヌさんが、真っ先に手を伸ばす。


「冷たっ! 何これ? 凄く冷たいわ」


 みんな触りだす。


「これはスライムの糸に似ているけど、少し違うみたいだね」


 さすがのハイスペ父様でも、アイススライムは分からないようだ。


「それはスライムと氷魔法を合成したら作れたアイススライムの糸です」


『アイススライム!?︎』

「そんなスライム聞いたことないわね」


 メグ姉が答える。えっ!?︎ アイススライムいないの?


「僕も聞いたことないな。父様は聞いたことありますか?」

「儂も聞いたことないな」

「儂は知っとるぞ」


 なんと、レギンさんが知っているようだ。


「と言っても実物を見たわけではないがな。一説によると属性魔力に長きにわたって触れることにより変化すると言われておる。儂でも見たことがないが、大昔にマグマスライムと言う属性スライムで、鉄などを溶かしていたことがあるそうじゃ」


「そうなんですね。ファイアースライムは作れなかったんですけど、マグマスライムってのがいるんですね」


「素材合成の能力はまだまだ謎が多いってことだね。それじゃあレベル5の単一素材の製品登録って言うのはどういった能力かな?」


「はい、文字通り1つの素材で作られた糸を使って作られた製品を登録して、登録した製品を魔力を使って作り出す事ができます」


『――!』


「試しに登録したのが、これなんですけど」


 麻で出来た頭陀袋をリングから出す。


「麻で出来た頭陀袋ね」


 カトリーヌさんが答える。


「はい、カトリーヌさんからもらった頭陀袋を登録して、能力で作ったものです」


「ちょっとなにこれ! 作り放題じゃない」


「魔力さえあればなんですけどね」


 そう言って、絹で作られた頭陀袋と鉄で作られた頭陀袋を見せる。


「登録さえしてしまえば、素材を変えて作ることも可能です」


 みんな絹の頭陀袋や鉄の頭陀袋を触って確かめている。


「レベル5の能力だけあってとんでもない能力だけど、能力を使う上でリスクはあるのかな?」


「魔力だけですね。素材合成には魔力500使います。これは合成に失敗しても500使うので乱用はできません。製品登録も登録するのに魔力300使います。作り出す製品は素材の希少度によって消費魔力は異なりますね。麻の頭陀袋なら魔力10、それが絹になると40消費します」


「500だと! ドワーフではどうやっても出来ないはずじゃ……」


「レギンさん……」


「今の話を整理すると、エドワードは魔力500以上あるってことなのかな?」


「はい、要塞で戦う前は魔力1260あったのですが、昨日見てみたら魔力1505になってました」


『魔力1505!』


「なんだその馬鹿げた魔力は、種族値を超える魔力なんて聞いたことないぞ」


 父様は少し思案すると答える。


「それは、エドワードのステータスにある加護のおかげなのかな?」


『加護?』


 加護のことを知っている、メグ姉とカトリーヌさん以外は分からないようだ。


「父様はどうして加護の事を?」


「それについては後で2人だけで話そう」


「分かりました。僕のステータスにはもともと加護と言う欄があって、『モイライ』と『ミネルヴァ』と言う2つの加護がありました」


 そこまで話すとみんな驚いている。


「最初の頃、効果は分からなかったのですが、ヴァイスと出会って効果が分かったのです」


 みんな欠伸をしているヴァイスを見ている。


「ヴァイスの本当の名はフェンリルと言って、三神の女神より先に、この世界にいた神獣なんです」


『――!』


「信じられないかもしれませんが、そのフェンリルに加護をもらいまして、今僕のステータスにはフェンリルの加護が増えているのです。それでそのフェンリルの加護をもらった途端、ステータスが増えたことにより、加護がステータスに影響を与えていることが解ったのです」


「だからエディのステータスは最初から多かったのね」


「メグ姉、そうなんだ。レベルアップしたときの増加量も、他の人よりも大きいみたいなんだよね」


「エディは今、レベルいくつになったの?」


「要塞の前はレベル18だったんだけど、今はレベル24になったよ」


『――!』


 メグ姉が突然、僕を抱きしめて。


「エディったらヴァルハーレン領に来るまでとても苦労したのね……だって旅立つ前はレベル8だったじゃない!」


「心配かけてごめんね」


「ゴホンッ!」


 母様がわざとらしく咳をする。


「ちょっとマルグリットさん! そこで抱きしめてあげるのは母親の仕事よ! マルグリットさんばっかりズルいわ!」


 母親として譲れない戦いが、ここにはあるようだった。

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