第73話 Side ハリー・ヴァルハーレン(下)
マルグリットさんの施術? には解らないことだらけだが、今はまだ戦争中なのでのんびりはしてられない。
「フィア、エドワードやマルグリットさんたちを連れてローダウェイクに戻るんだ。まだ戦争の途中だから、僕はトゥールスに戻らなくてはならない」
「分かったわ、あまり無茶をしないでね」
「ちょっと僕も今回の件は色々頭にきているから、もう帝国と穏便に済ませるつもりはないかな。エドワードも帰ってきた事だし、父も連れて帰ってこれるようにしてくるよ」
「ハリー、気をつけてね」
「それじゃあ、アーダムは最後まで護衛頼んだよ」
「畏まりました。お任せください」
そしてトゥールスに戻ると父に報告する。
「ただ今戻りました」
「おお! ハリー! ソフィアからエドワードが見つかったとの報せが届いたぞ!」
「はい、僕もこの目で確認しました」
「ほう、どういうことだ?」
「実は……」
敵部隊を追走してからの出来事を説明する。
「ふむ……おそらくハーフエルフの娘が使ったのは、かつてエルフの間に伝わっていた秘術だろうな」
「エルフに伝わる秘術ですか?」
「そうだ、今より遥か昔はエルフも人族との結婚をそこまでは、毛嫌いしてなかったそうだ」
「そんな時代があったのですね」
「では人族との結婚で一番の問題は何だ?」
「寿命の問題ですね」
「そうだ、エルフと人族では寿命の長さが違いすぎる。そこで生まれたのがエルフの秘術だ」
「まさか、エルフが自身の寿命を分け与えるのが秘術!?」
「夫婦になれば少しでも長く一緒にいたいと思うのが自然な流れ。精霊魔法に長けたエルフならではの秘術だ。ハーフエルフということは親のどちらかが使っているのを見たのであろう。現在では失われた秘術とされているから広げるでないぞ」
「失われたとは?」
「うむ、人族とエルフの仲が悪くなったのもその秘術のせいだからだ」
「まさか! 長生きをしたい人族がエルフを不当に捕らえた?」
「そうだ、長生きを目論む愚かな人族がエルフを捕らえ奴隷にして、生きながらえようと企む者が出てきたのだ」
「愚かな……」
「それと、もう1つエルフにとってハーフエルフを忌避する出来事があるのだ」
「確かにエルフはハーフエルフの存在を嫌っていますが、他の血が混ざってる以外の理由があるのですか?」
「人族とエルフの種族最大値の違いは分かっていると思うが」
「もちろんです人族が」
【種族】人間
【LV】99
【HP】777
【MP】777
【ATK】777
【DEF】777
【INT】777
【AGL】777
「エルフが」
【種族】エルフ
【LV】99
【HP】555
【MP】999
【ATK】555
【DEF】666
【INT】999
【AGL】888
「ですね。まあ全てが最大値の人物がいたわけではないらしいので、そう言われているといったレベルの話だったと思うのですが」
「そうだ、ステータスの話を闇に葬らなければならないほどの事実がハーフエルフには眠っとる。ハーフエルフ自体少ないので仮説らしいのだが、ハーフエルフのステータスは」
【種族】ハーフエルフ
【LV】99
【HP】777
【MP】999
【ATK】777
【DEF】777
【INT】999
【AGL】888
「という事らしい」
「バカな! 人族とエルフのいいとこ取りじゃないですか!」
「そうだ、このステータスがエルフにとって脅威になったと言うのも、人族との関係が悪化した原因となっている」
「しかし、ハーフエルフがエルフ側に付くのならプラスでは?」
「残念ながらそうなるケースが少ないのだ。人族から見ればエルフの女はとても美しいが、エルフからみると人族の女は魅力的には映らないらしい。大概は結婚すると男側の国で暮らすのが普通だから、エルフからしてみれば、ただでさえ少ない人口を削られた上、自らの脅威を生み出すことなんてあってはならないから、関係が悪化するのに時間はかからなかったそうだ」
「そうなってくるとエルフや他種族を捕らえて無理やりハーフ種族を作り出すこともあったのでは?」
「うむ、実際そう言った研究も行われていたという情報も残っているらしいが、研究が続かなかった原因として、ハーフ種族は一世代限りしか生まれないらしい。例えばハーフエルフと人族が結ばれれば人族しか生まれない。結ばれた結果より血の多い種族が生まれる結果となるそうだ。そもそも他種族と結ばれても子が生まれること自体、稀なケースらしいから研究など思うように進まなかったらしいな」
「なるほど、マルグリットさんの存在自体が稀なケースということなんですね。今回はマルグリットさんの存在のおかげでエドワードは助かった訳ですが」
「そうだな……そういえば愚かな話には続きがあっての、捕らえて奴隷にしただけじゃ秘術は使えないそうだ。なんでも心から相手を愛していないと使えないそうでな。エルフとの関係が悪化した今では使えるものはいなくなったと聞いているが……」
「しかし、エドワードがお世話になったカトリーヌという女性の話では、マルグリットさんは食べるものが無かった赤子のエドワードに既に使っていたという話なんですが、拾ったばかりの赤子にそこまでの愛情を注げるものなんでしょうか?」
「それはわからぬな、1つ訂正だけするが親子の愛情では秘術は使えんそうだ。それでイグルス帝国の件はどうするのだ?」
「それなんですが、エドワードのボロボロになった姿を見せつけられては、もう穏便に済ませる気はなくなりましたね。明日からは、打って出ます。シュトライト城を陥落させるつもりです。数年はこちらにちょっかいをかける余裕がないぐらい徹底的にね。父さんもイグルス帝国より孫の傍にいたいでしょ?」
「そうなんだ! クロエのやつにエドワードが見つかった話をしたら。儂を置いていくと言い出して困っておったのだ!」
「お母様に?」
「そうだ、しかし徹底的にってのはいい案だな。儂も孫の元に行けるし素晴らしい作戦だ!」
そして次の日から出陣し、イグルス帝国軍を完膚なきまで殲滅し。シュトライト城を陥落させた。もちろん殲滅したのは軍だけで、町の部分や一般市民には手を出してはいない。
これでイグルス帝国は攻めてきた総大将を含めた5将軍と防衛拠点の要、シュトライト城とそれを守っていた将軍を失ったことになる。
エドワードが大きくなるまでの10年ぐらいは大人しくしてほしいところだ。その間に国内の膿も出し切らなくてはならないが。




