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第72話 Side ハリー・ヴァルハーレン(上)

 要塞と対峙して1時間ぐらい経ったが、人質の様子が分からないため、攻めあぐねていた。


「ハリー様、困りましたな」


「せめて何か要求してくれると、動きやすくなって助かるんだけどね」


 しばらくすると、ドミニク・キンディノスが要塞の上に現れて叫ぶ。

 

「ヴァルハーレン! この人質を殺されたくなかったら武器を捨てて降伏しろ!」


 要塞の上に吊るされた2人の女性が掲げられる。血まみれの女性2人、1人は息子の専属侍女ジョセフィーナ。


「卑怯な!」


 兵士が叫んだ。


 あの位置なら隙を突いて一気に駆け上がれば、救出できそうだな。問題はどうやって隙を突くかだけど。


 考えていると黒い外套を着た少年が、1人で要塞に走って行くのが見えた。


 7歳ぐらいの男の子、チラリと見えたあの髪色はもしかして……。


「エドワード?」

「ハリー様! 今何と⁉」


 少年は矢で傷つきながらも、何かを使って一気に要塞に登った!?


 ここからでは見えないが、恐らくエドワードのステータスにあった能力、糸を使って上がったのだろう。


「あれはエドワードだ」


「エドワード様ですと! やはり生きておられたのですな、加勢に行きましょう!」

 

 エドワードが何かで鎖を切ると、人質の2人を、突然現れた植物の蔓のような物でキャッチする。植物を操る能力なんて聞いたことがないな。


 そして、2人を抱えて要塞から降りてくるので、僕もその場所へ駆けつけると。


「この2人をお願いします。助けてあげて下さい」


「分かった! しかしエドワード、お前も怪我をしている今すぐ治療を受けるんだ!」


「僕は大丈夫です。まだやることがありますから……」


 エドワードはそう言って、また要塞の近くへ飛んで行ってしまった。


 エドワードの元へ加勢に向かいたい気持ちをぐっと我慢して、まずは託された2人をなんとかしなければ、このままでは2人とも危ない。


 駆けつけてきた兵士とともに、取りあえず安全な場所に運ぶ。


 2人の状態はかなり酷く一刻を争う。ポーションをかけて回復を試みたが、効果は薄く大きな傷などはポーションでは治せなかった。


「回復魔術を使えるものを呼ばなければ助からないか……」


「トゥールスまで戻らねばなりませぬぞ」


 エドワードの所へ加勢しに行かなければならないのに、どうする? 託された2人を死なせては、エドワードに合わせる顔がないじゃないか!


「よし、私を含めた数名でトゥールスまで2人を運ぶぞ。ポーションは定期的にかけて、傷口がこれ以上開かないようにするんだ!」


「ハリー様大変です! エドワード様が!」


 兵士に言われエドワードの方を見ると、頭の上に光り輝く何かが、たくさん浮いていた。


「なんだあれは!?」


 兵士が叫ぶが、僕にも分からない。糸ではないようだが、何かの魔術なのだろうか!?


 エドワードが光を要塞に向かって放つ、光が当たった所は吹き飛び炎をあげて燃え始めたのだ。


 要塞の壁の石が溶けて燃えている? そんなバカなっ!


 後退しつつ見ていると、エドワードは炎に何かを撃ち込んだ。すると、炎はさらに大きくなり、要塞の兵士たちが慌ただしく動き、水の魔術で炎を消し始める。


 ところが、消火しようとした瞬間。辺りが真っ白に光った後、爆発したのだ。エドワードは無事なのか?


「ハリー様……あれはいったい……」


「私にも分からないな……エドワードの魔術なんだろうか? 今は考えても分からないが、エドワードで要塞は叩けそうだ。とにかく2人を助けるのを最優先にする!」


「はっ!」


 ◆


 焦る気持ちを抑えながらも、少数部隊でトゥールスに向かっていると、前方に軍隊を発見した。


「ハリー様! 前方から兵士が!」


 あれは! 今一番この場にいて欲しい人物だ。これで2人を助けられる!


「あれはフィアに預けた部隊で間違いない、攻撃態勢を止めるんだ!」


 先頭にいるアーダムの姿を確認できた。


「アーダム! フィアは?」

「奥方様は部隊中ほどの馬車に!」

「よし! 助かった。ちょっと呼んでくるよ」


 フィアの元に急いで駆け寄ると。


「フィア!」


 僕が呼びかけるとフィアが顔を出した。


「ハリー! どうしてこんな所に?」


「事情は後だ! ジョセフィーナとハーフエルフの女の子が危険な状況なんだ。力を貸してもらえる?」


「もちろんよ!」

「ハーフエルフ!?」

「おやそちらの女性は?」


「カトリーヌさんよ。エディがお世話になった人の1人よ」


「いや、話は後だった。フィア早くこっちに来て」


 僕はフィアを抱きかかえて、ジョセフィーナたちの元へ行く。


「フィーナ!」

「メグ!」


 2人が駆け寄るが、意識はなく反応もなかった。


「まずは2人の傷を塞ぐわ」


 フィアが魔術を使うと、傷口が見るみるうちに塞がっていった。これで助けられるはずだ。


「取りあえず応急処置はしたけど、今から本格的に行くわ! メリッサ、コレットお願い」


「「畏まりました」」


 フィアの侍女である2人が、倒れている2人を馬車に運ぶ。


「服を脱がせるから、男性は遠慮してもらうわ。それともハリーは見たいのかしら?」


「いや、フィアに任せたよ。エドワードが無茶してるから心配なんだ! アーダム隊長、周囲の警戒の方は頼んだよ」


「お任せください!」



 怪我人をフィアに任せることができたので、急いでエドワードの方に向かう。


 しかし、そこで目にしたものは、すでに破壊しつくされ、炎をあげ燃え上がる要塞とその前に立つエドワードだった。


 エドワードの足元には子狼がいて、エドワードは子狼に向かって何かを話しかけているようだ。


 しかし、エドワードが手を上げた瞬間、空から無数の何かが降ってきて既にボロボロの要塞を轟音と共にさらに破壊する。


 破壊の際に起きた衝撃でエドワードが飛ばされてしまった! まずい、体の自由がきいていないように見える!


 僕はエドワードをキャッチするため全速力で駆け出し、なんとかエドワードが地面へ落下する前に抱きかかえる事ができた!


「無茶しすぎだよ。エドワード」

「父様……」


「まったく。せっかく帰ってきたんだから、少しは頼って欲しかったかな」


「ごめんなさい……」


「謝るのはもっと早く見つけてあげられなかった僕の方だよ。後は父親の僕に任せておきなさい」


 エドワードはそのまま意識を失ってしまった。兵士たちが駆け寄ってくる。


「よし取りあえずフィアの所まで行こう」


 フィアの所へ行くとなんとか動けるようになった、ジョセフィーナとハーフエルフの女の子がいた。


「ジョセフィーナ、動けるようになったんだね、良かった!」


「旦那様、ご心配おかけして申し訳ございません」


「いや、無事ならいいんだよ。フィアはいるかな?」


 馬車の中からは疲れ切った表情のフィアが出てくる。


「ハリー、お帰りなさい。エドワードの様子は? エドワード!」


 僕の腕の中にいるエドワードを見てフィアが叫ぶ。


「疲れているところ悪いけど、エドワードの傷もいいかな?」


「もちろんよ! ここに寝かせて!」


 フィアがエドワードの傷を癒そうとするが、どういうわけかエドワードの傷は一向に治らない。


 フィアに焦りが見え始めた時、真っ青な顔をしたハーフエルフの女の子がフラフラながらも近寄ってきた。


「エディ、どうしてこんなことに! 命を魔力に変えたのね!」


「「「――!」」」


 その一言に僕とフィア、カトリーヌさんが驚く。


 命を魔力に変えるだって! そんなことが可能なのか?


「マルグリットさん、それはいったいどういう事なの?」


 フィアがハーフエルフの女の子、マルグリットさんに尋ねます。


「自身の魔力が尽きた後、命を魔力に変換したんだわきっと……生命力が低下しすぎて回復魔術を体が受け付けないんだと思います」


「そんなことが⁉」


 マルグリットさんはエドワードを抱きかかえると口づけをした。


「マルグリットさん! あなたいったい何を!」


 フィアが怒っているが、マルグリットさんに変化が起きる。


 マルグリットさんから虹色の光が出てきて、エドワードの中に入って行ったのだ。


 真っ白になっていたエドワードの顔に少しだけ赤みがさした。


「エディの……お母さん……今のうちに回復を……」


「メグ! あなたまた!」


 マルグリットさんはそのまま意識を失ってしまう。フィアは突然の出来事に言葉を失い立ち尽くしている。


「フィア! 早くエドワードの回復を!」


「えっ⁉ 分かったわ! ごめんなさい」


 フィアが回復の魔術をかけると今度はエドワードの傷口が塞がって行った、これでエドワードは大丈夫なはずだ。


「カトリーヌさん、少し質問いいかな? あなたは『また』と言いましたけど以前にもこの光景を?」


「はい、実は……」





 僕とフィアは衝撃を受ける。はたして自らの命を人に分け与えることなど可能なのだろうか……。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 滞在してた数日で父親にステータス情報と合流した報せが行ってたのかな? パパが急に糸の事言ったりしたのがちょっと違和感で見落としたかと思って読み返しました。
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